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特集

ビジョン浸透は「発信型」から「着信型」へ

~リクルート流!従業員を動かすビジョンの共有・行動化~

  • 公開日:2011/12/12
  • 更新日:2024/03/25

「社内にビジョン(※)を浸透させたい」、「価値観や行動基準を浸透させたい」といった声が増えています。ミッビジョン、バリュー、ウェイ、経営理念、クレド、スピリットなどさまざまな表現・定義がされていますが、いずれも自社の目指す将来の姿や、その実現のために組織として共有すべき価値観や行動基準を指しています。

激しい環境変化の中、トップも将来の姿を示しづらくなっており、これまで以上に現場の一人ひとりの自律的な判断・行動が求められています。 また、M&Aやグローバル化により人材の多様化が進み暗黙の前提が成立しにくくなってもいます。このような中で、企業内で拠り所となるもの、基準となるものが求められるのは自然な流れといえるかもしれません。
(※文中での「ビジョン」とは、ミッション・バリュー、経営理念など類似の概念を含む総称として表記します。)

しかし、各社における取り組みはというと、言葉を作ったもののカードを配りポスターを貼っただけの“お飾りビジョン”になっていたり、なんとか浸透させようと上から下ろそうとするも“笛吹けど踊らず”の状況であったりと、なかなかうまくいっていないことが多いようです。
一方で、従業員をうまく巻き込み、メンバーが自ら動きだすためにさまざまな工夫を凝らしている例も出てきています。

この違いはどこにあるのか、実際の活動のご支援を通じて見えてきたものがあります。それは、ビジョン浸透を従来の「発信型」から「着信型」のアプローチに転換することによって、メンバーは活気づき、生き生きと動き始める、ということです。

本特集ではその考え方や具体策について、事例と共にご紹介していきます。

目次
「発信型」ビジョン浸透で陥りがちな状況
Willを引き出す「着信型」アプローチ
取り組み事例① 現場発の将来像設計→行動化
取り組み事例② 現場での兆しを引き出す仕組みづくり
今後のビジョン浸透の意味づけ

「発信型」ビジョン浸透で陥りがちな状況

本特集では、発信側目線の「伝えたいこと」中心で企画された浸透アプローチのことを、「発信型」と呼んでいます。ビジョンの浸透プロセスは、理解~成果までのプロセス(下図)に整理することができますが、「発信型」の場合、特に以下のような状況に陥りがちであることが分かっています。

①ビジョンの背景・思いが伝わらず、従業員が共感できない
②ビジョンが日々の仕事とつながらず、何をしたらよいか分からない
③行動しても評価されず、やる気にならない

いずれも、従業員にとってのメリットやその必然性といった、「着信」視点の不足がその要因となっています。

ここからは、それぞれのパターンの内容を説明していきます。

①ビジョンの背景・思いが伝わらず、共感できない

ビジョンが策定された背景やプロセス、経営や策定メンバーの思いもあわせて共有されていなければ、従業員は「なぜこのビジョンなのか?」「何が言いたいのか分からない」といった状態に留まってしまいます。結果として、ビジョンと自分との接点を見出すことはできず、共感することができません。

②ビジョンが日々の仕事とつながらず、何をしたらよいか分からない

ビジョンが理解されていたとしても、それが自分の日々の仕事とつながるイメージが持てなければ、「ビジョンは分かるけど、今の仕事が特に変わるわけではないから…」という状態になってしまいます。このような状態が続くと、ビジョンは形式的なものであり、知ってはいても直接仕事には関係のないものとして徐々に忘れられていきます。

③行動しても評価されず、やる気にならない

ビジョン実現に向けた動きや変化が起こり始めたとしても、望ましい行動や成果がオフィシャルに評価されていないと、「やった方がいいのは分かるけど、そこまで余裕がないし…」「ビジョンとの合致より確実な仕事をミスなくやっていた方が評価されるから」という認識が広がってしまいます。たとえ問題意識の高い人や組織であっても、評価されなければ、その行動がビジョンを体現していることに気づかなかったり、長続きしない結果となってしまいます。

「発信型」ビジョン浸透で陥りがちな状況

Willを引き出す「着信型」アプローチ

受け手を動かす「着信型」のアプローチとは、浸透させたい側の意図やねらいを、“受け手にとってのメリットに翻訳する”ことといえます。別の言い方をすると“伝える”と“伝わる”の違いです。
人材開発やキャリアの世界ではおなじみの「Will・Can・Must(※)」の考え方に当てはめると、ビジョンはいわば会社のWillであり、従業員にとっては(始めは)Mustの状態といえます。このMustをいかに従業員にとってのWillに転換していくかが、理解~成果までのプロセスを進める上での鍵となるのです。
(※本特集では、Willとはその人の“~したい”という内発的な思いや動機、Canは実際にできるかどうかという経験や能力の側面、Mustは“~ねばならない”という外発的で義務感の強いもの、と定義します。)

それでは、「着信型」の代表的な施策を見てみましょう。
1つ目は、「ビジョンの背景・意図の共有」です。
従業員の納得感を生むのは、「なぜ、それに決めたのか」、などの決断の背景の共有です。大事にしたこと、あえて捨てたことなどの判断基準を、あらためて示すことが重要です。そして、その判断基準は、自分の未来にどう関係するのか、それを具体的にイメージさせることで、はじめてビジョンを推進する上での会社と従業員のWillがつながってくるのです。具体策としては、経営層が現場を回るタウンミーティングや、そうした背景の共有・共感に重きを置いた浸透研修などが挙げられます。

2つ目は、「ビジョンと仕事をつなぐ」施策です。
ビジョンにつながる現状のよい動きや変化の小さな兆しを、“今の仕事の中から”抽出し、称賛していくことが、重要な変化の一歩です。事例収集・共有を現場を巻き込みながら行うことで、従業員自身が自らの仕事とビジョンの接点を発見し、具体的な行動をイメージすることを促します。このことを定期的に行い続けることで、「よい仕事」のイメージを変え、褒められる行動のイメージを変えることが重要です。具体策としては、仕事表彰の仕組みづくり、事例共有広報(イントラや社内報など)などが挙げられます。

3つ目は、「人事施策による評価と育成」です。
前述の2つを支えるインフラともいえます。望ましい動きや成果に対してはそれにふさわしい評価が必要です。また、従業員が実際に行動に移せるような具体的な評価項目を用意したり、さらにより効果的に行うための育成施策も重要になってきます。具体策としては、評価制度や目標設定への反映や、人材要件や育成体系への反映などが挙げられます。自社のビジョン実現に照らした際に、人事諸施策とビジョンとの整合が取れているか、という視点で点検しておくことは非常に有用です。

Willを引き出す「着信型」アプローチ

取り組み事例① 現場発の将来像設計→行動化

ビジョンをただ浸透させるだけでなく、現場発の変革を生み出す取り組みを続けている企業の事例をご紹介します。(「施策① ビジョンの背景・意図の共有」を中心とした事例)
NTTデータシステム技術株式会社(以下、NSTと表記)は、難易度の高い金融システムの構築・運用で有名なSIerです。グローバル時代に対応した進化が求められる中、「NST WAY →2020」※を策定し、10年後に向けた変革方針を明確化にしています。社員の行動化に向けたさまざまな施策を展開しています。
(※WAYは、ミッション・ビジョン・バリューを総称するものとして策定された)

【施策展開図】

まず策定後に経営陣を集めた3日間の合宿を実施しました。WAYの推進には、短期的な利益と相反する事態も起こり得るため、経営が意志を持ってこれらを実行・継続するための意識合わせに時間をかけました。その上で、各役員が自身の部署での車座会を実施し、策定の意図や背景を説明し、期初の社員総会でのイベント発表に終わらず、対面での対話の場を重要視しました。こうして内容・背景への納得感を全体に醸成した上で、管理職向けの研修を行い、各職場では、課長がメンバーとともに10年後をイメージするセッションを展開しました。さらに、WAYに基づく目標設定のための教育を全員に実施することで、現場につなぐ体制を整えました。

しかし、体制は整っても、各職場での将来議論を表面的なものにしないことが、重要かつ難易度の高い点です。そこで各事業部の課長キーパーソンを集めた「WAYタスクフォース」を組織しました。職場でのミーティングの実施を支援しながら、横軸で推進の課題点を拾い上げて改善し、成功事例は即時共有するハブとして機能させ、事業部長がそれを支援しました。約半年、粘り強く実施した結果、ほとんどの部署が10年後に向けたステップを明文化することができました。変化の方向が明確になったことで、現場発の改善プロジェクトが複数結成され、業務で大きな成果をあげる現象も起こり始めています。

取り組み事例② 現場での兆しを引き出す仕組みづくり

将来を見据えたビジョンと、現状の仕事をどう接続するかで躓く企業は少なくありません。
従業員にとってのビジョンが机上の空論にしか感じられなければ、行動の変化は期待できません。
そこで、今の現場からビジョンにつながる事例を発掘し、意味付けし、取り組む人が称賛される、そんな仕掛けを作り上げることが重要なのです。
リクルートグループでは、そうした流れを仕組み化し、「求める仕事の質」のイメージを早期に共有し、社員のやる気を駆り立てることに成功しています。
(「施策② ビジョンと仕事をつなぐ」に関する事例)

【リクルート型アワードと従来型の比較】

 

従来型の「社長賞」

リクルート型アワード

参加者

上司や主管部署で選抜

全員が自主的にエントリー

エントリー基準

主として業績

ビジョンに沿っているか

選考プロセス

密着型

公開型・全員参加

選考段階

特になし

課 → 部 → 事業 → 会社

フィードバック

入賞者のみ(インセンティブのみ)

全員に全員から

共有の場

表彰のみ

全員にプレゼンテーション

ナレッジ化

特になし

プロセスや行動を冊子化・WEB化

リクルートグループでは、多くの部署でアワードと呼ばれる仕事表彰の仕組みが整えられています。これらは、一般的によく見られるトップダウン型の社長賞などとは、似て非なる構造を持っているところが特徴です。各従業員がビジョンにあった事例を、自分の視点で抽出し、各職場の中で発表する機会を設けます。まず、参加者は原則として全員。エントリーする案件の選択も本人に任されます。また、選考プロセスも参加型であることが多く、各職場で全員での審査を行い、多数決で代表作品を選出します(管理職は多く票数を持つ場合が多い)。審査を通じて参加者全員にフィードバックとアドバイスが与えられることで、参加の満足感も非常に高いものとなるのです。

また、そうしたプロセスを課→部→事業部で共有・議論を繰り返す中で、メンバーも管理職も、今どんな提案・行動が重要か、どんな成果を目指すべきかを言語化することになり、ビジョンに対する共通理解が急速に進むことになります。また、発表・審査の場を業績表彰の賞賛と同様の晴れの場として演出することで、部門を超えた一斉共有の場、「自分もこう褒められたい!」というモチベーションを創出する場として機能させています。新人や転職者でも、早くから「仕事の質」を意識し語るリクルートの文化は、このアワードから生まれている部分が大きいのです。

今後のビジョン浸透の意味づけ

冒頭でも触れましたが、これまで以上に激しい環境変化、短期業績のプレッシャーの中だからこそ、中長期を見据えた次の成長のための組織マネジメントが、同時に求められています。今後、ビジョン浸透を以下のように意味づけ、取り組むことの重要性が、よりいっそう高まってくるのではないでしょうか。

・企業の存在意義・目指す姿から、日常の判断や意思決定基準が明確化される
・社員が自律的に考え、行動することにより、マネジメントコストが軽減する
・ブランド毀損の防止、ブランド価値の向上につながる

皆様の会社ではいかがでしょうか。もっとじっくり考えてみたい、他社の同様の問題意識を持った人とも話しあってみたい、とお感じになりましたら、ぜひ弊社主催のセミナーへご参加ください。

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