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新人教育で外すことができないポイント

効果的な新人導入教育を実践するためのヒントとは?

  • 公開日:2006/02/01
  • 更新日:2024/03/30

ここ数年で新卒の求人倍率は上昇し、2007年度入社の採用にいたってはバブル期並みの約70万人という求人総数に達しています。それに従い、新卒の採用数を増やした企業や、久しぶりに新卒採用を復活した企業から「新入社員の導入教育をどのように実施したらよいか?」「新人研修のヒントが欲しい」というお問い合わせが弊社に多数寄せられるようになりました。

今回は、弊社が新入社員のトレーニングをさまざまな企業に長年実施してきた中で、基本的な実践のポイントとして守り続けてきたことをご紹介いたします。どれも基本的なことであり、内容的に難しいものではありませんが、新人教育を行う中では外すことができないことばかりです。新入社員教育シーズン直前の今、自社の新入社員教育のやり方について最終チェックをしておきましょう。

なぜうまくいかない? 新入社員教育
ビジネス社会に入るオリエンテーション教育
「ビジネス」の雰囲気を作り、習慣を学ばせる
そうはいっても、厳しすぎないように
正解はなるべく与えない、行動させ考えてもらう ~その1~
正解はなるべく与えない、行動させ考えてもらう ~その2~
興味・関心を拡げる
担当者が一番成長に意欲を持つ

なぜうまくいかない? 新入社員教育

最近いただく新入社員研修についてのご相談の中で、担当者の方が一番気になさっているのは、「研修の受講態度が悪い、受身である」という点のようです。
いったい、何が要因として考えられるのでしょうか?

要因1 新入社員の学校教育期間の長期化・変化

幼稚園への進学率の向上&3年化、大学進学率の増加によって、大卒新入社員でいえば、幼稚園から大学まで合計19年間の「学校教育」を受けてきています。その期間はかつてよりも延びています。
また、ちょうど少子化が徐々に進み、クラスの人員も減少、体罰が社会問題になり、厳しい躾教育が無くなってきた世代でもあります。ゆとり教育真っ只中を生きてきた今の新入社員は、教育の場とはのびのびと個性や自己主張ができる場と思っている可能性があります。あるいは、塾への進学率が上がった影響で、非常に効率の良い形で「正解」に辿り着く手法を教わるものだと思っている新入社員もいるようです。

要因2 組織集団体験の相対的減少

また、少子化の影響で、中学や高校の部活が次々と廃部に追い込まれているのもまた現実です。高校生の部活への参加率は、国立教育研究所のデータ(2004年)によると、50%を切る直前まで減っています。このことがそのまま大学に横移動し、今では大学でも部活・サークル・課外活動への参加率が45%程度にまで下がってきています(私立大学連合会の2002年データより)。集団の中で当たり前のように協力しあう、報告や連絡、相談しあうという規範を学ぶ機会そのものが減ってきているのです。

こういった時代の中で、どんなことを学ばせることが必要になるのでしょうか?
どういったポイントを押さえて、導入教育を進めることが有効なのでしょうか?

一つ一つ考えていきましょう。

ビジネス社会に入るオリエンテーション教育

新入社員の導入研修には、次のような役割があります。

役割1 ビジネス社会へのオリエンテーション

普通の社員教育には無い、新入社員教育だけに見られる一番の特徴は、なんといっても「社員とはいっても、中身はまだ学生である」「社員やビジネスパーソンにとっては当たり前のことも、新入社員にとっては当たり前のことではない」ということです。
つまり、単に知識やスキルを伝達するだけでなく、「ビジネス社会に入るオリエンテーションを行う」という重要な役割がある、ということを、再度原点に戻って確認しておきましょう。

役割2 ビジネス・パラダイムの学習

もう少し詳しくいうと、このビジネス社会という異世界に入るオリエンテーション教育とは、学生の世界からビジネスの世界にきちんと橋渡しをし、こちらの世界に慣れさせる支援をすることに他なりません。
これを実際の教育カリキュラムに落としていくと、「ビジネスとは何か」「学生と社会人の違いは何か」「仕事の基本構造はどうなっているのか」・・・など、いわば最低限の「ビジネスのパラダイム(世界観)」を学ばせることにあたります。例えば以下のようなことを学んでもらう必要があるのです。

  • 企業は顧客に価値を提供することで、対価を受け取る
  • そこには常に競合が存在し、競争をしている
  • 仕事は指示・命令に始まり、報告に終わる(報告、連絡、相談は「義務」)
  • ビジネスに正解は無い

教えるべき知識・スキルが毎年増えていく悩みをお持ちの担当者の方は多いと思いますが、それに目を奪われてしまう余りに、この導入教育の役割をうっかり見失いかけているケースも見られます。 この原点は常に忘れずに確認しておきましょう。

「ビジネス」の雰囲気を作り、習慣を学ばせる

ある程度ビジネスの考え方が理解できたら、次は行動レベルでも「ビジネス社会」に慣れるように支援することがポイントになります。ビジネスの現場で求められる、社会人としての生活習慣について、学生時代とどこが違うのか、何のためにどのように行動することが求められるのかを考えさせ、練習させ、新たな習慣として身につけさせることが必要です。
トレーニングを進める中では、以下のような工夫をしながら進めることで、効果的な意識、態度の変化を期待できます。

「ビジネス」の雰囲気を作り、習慣を学ばせる

弊社のトレーナーが研修を実施する場合にも、上記のように、実際の仕事現場に近い雰囲気になるように配慮をし進めます。新入社員によって差はありますが、研修2日目の終わりごろからは、全員がトレーナーに言われなくてもいろいろなことが自然とできるようになってきます。

そうはいっても、厳しすぎないように

このように文字で書くと、ずいぶんと厳しい雰囲気のようですが、実際にはトレーナーは体育教師のようにびしびし指導するわけではありません。
指示・命令はたいてい1度しかしませんし、報告のないチームを「だめじゃないか」と頭ごなしに叱るわけでもありません。セッション毎のあいさつも、2度目ぐらいまでは指摘しますが、それ以降は新入社員に任せていきます。
なぜかというと、厳しいち密な指導をすると、それもまたビジネスの現場・実際とかけ離れて「学校教育」に近づいていってしまうからです。丁寧すぎる指導は受身の姿勢を作り、自分で考えることを妨げ、却って「指示待ち」の新人を作ることになります。

新入社員同士に相互評価させよ

厳しくする代わりに、節目での評価は基準を明らかにして、○×をはっきりさせていきます。チェックシートを使って相互評価をさせるのが有効です。
そして、なぜそうなったのか、自分たちで振り返り考えさせる時間を取ります。それがビジネスの現場・実際に近いからです。上司は常に自分たちを見ていてくれるわけでもないですし、必ずしも正解が無いのがビジネスの世界だからです。その中でも自分で考えて行動していける「習慣」を少しでも身につけさせることが大事になってきます。

公開コースを利用するのも一つの手段

話はわかるが、新入社員が少人数でなかなかそういう雰囲気にしづらい、というご相談もいただきます。
そういう場合にはいろいろな教育団体が実施している公開コースを利用する手段があります。
さまざまな会社の新入社員が集まり、自分は否応無く「自社の代表」としてそこに出席しなければならないのですから、緊張感を持って受講することができるようです。
弊社でも実施していますが、実際に「自分だけうまくできないと、会社そのものがだめな会社と思われそうなので緊張します」という声が受講生から聞かれました。

また、多くの新入社員がスーツを着用し、一堂に会して研修を受講する雰囲気の中で意識が変わる効用もあるようです。実際に昨年の公開コースを受講した新入社員の方から次のような声が寄せられました。

  • 「自分はいよいよ社会人になったのだ、という気持ちになりました」
  • 「同期が3人で少なくてさびしかったけれど、他の会社の人と一緒に研修を受けることができて、たくさん同じような立場の人がいると思うと安心できました」

「はじめてのおつかい」というわけではありませんが、会社の指示で見知らぬ会場まで行き、きちんと研修を受講し、報告をするという「初仕事」を通じて社会人としての自覚を高めるという手段も検討してみてはいかがでしょうか?

正解はなるべく与えない、行動させ考えてもらう ~その1~

知識/スキルの伝達の仕方も、ただ教えるよりも「行動してみる」→「考える」→「気づく」というサイクルの「体験学習」が今の新入社員には受け入れやすく、学習効果が高いようです。
ここで、「考える」際の具体的なポイント・手法を幾つか紹介しましょう。

考えるための材料をまず与える

考えるためには、考える材料が必要です。弊社のトレーニングにおいても「まずやらせてから、振り返り考えてもらう」「チームで思いつくままたくさんの情報を出させてから、整理し考えてもらい、発表してもらう」「これまでの体験を材料に書かせて、そこから考えてもらう」などの手法を取ります。

観点・立場を指定する

また、観点や立場を指定して考えてもらうことも有効です。「相手の立場に立ったら」「顧客の立場なら」「上司の立場なら」「競合の観点からすると」「能率からすると」「成果からすると」「チームの協力、という観点からすると」など、観点を明確にして考えさせることによって、見えてなかったことを気づかせることができます。

弊社の新入社員トレーニングでは、「相手の立場」「顧客の立場」を重視し学んでもらうように進めています。特に最近正解を求める傾向が受講者に強いことから、質問があってもすぐには答えを提供せずに「相手の立場だったらどうしてほしいですか?」ということを何度も考えさせ、その癖をつけるようにしています。

対比させる

上記に似ていますが、対比させながら考えてもらうことも有効です。「良い例/悪い例は・・・」「AチームとBチームの違いは何でしょう」「自社と競合の違いは何でしょう」などの問いをセッションに組み込むことにより、新入社員の考え方を深めることができます。

弊社のトレーニングでも、VTRで良い事例と悪い事例をあらかじめ見てもらい、その差を話し合うことでどのような行動を取ることが良いのか、どのようにしたら相手に悪い印象を与えるのか、そのことを考えさせ気づかせてからロールプレイをする手法を一部の研修に取り入れて効果を上げています。

正解はなるべく与えない、行動させ考えてもらう ~その2~

想定させる

新入社員がこれまで考えてこなかったような考え方でイメージさせてみることも有効です。「5年後、10年後どうなっているでしょうか?」「こういう行動により、最悪どんな事態が発生するでしょうか?」「どんな影響があるでしょうか?」「このようにしたら、顧客はどういう行動に出るでしょうか?」などのイメージングをさせることによって、なぜそうするのか、なぜそうしてはいけないのかが明確に意識できるようになります。

実際の職場や仕事とつなげて考えさせる

また、配属後のことを想定させ、つなげて考えさせることも有効です。ただし、仕事経験が無い新入社員にとっては、考えるための材料が少ないことも多いので、職場のことがわかる資料(VTRや写真など、ビジュアル的に場面が理解できるものが有効)の提供や、先輩社員へのインタビューなどを実施させることで材料を与え考えさせることがポイントとなります。その上で、「実際の場面ではどうなる?」と考えさせることによって気づきを生むことができます。

特に最近では、個人情報保護法などの影響でオフィスの入館制限が厳しくなり、就職活動中のOB・OG訪問/内定中の仕事の現場見学などの機会が減り、実際の現場の雰囲気がさらにつかみにくくなっているようです。

弊社のトレーニングでも、一部のトレーニングで各セッションの前に、配属された後にどんな場面が想定されるのか、オリエンテーションVTRを流すようにしています。こういう場面がすぐにでもやってくるからこそ、こういうことは身につけておきましょう、という研修の動機付け、という観点からも効果が高いようです。

以上述べてきたように、「考えさせる」ことは、深い気づきが得られる、自分で気づいたことは教えられたことよりも大事にする、現場で応用が利くなどのメリットがあります。反面、時間がかかり効率が悪いというデメリットがあることも注意しておきましょう。限られた新入社員研修の時間の制約の中で、「これは」という内容に絞って「考えさせる」というバランスを取って有効に活用してみてください。

正解はなるべく与えない、行動させ考えてもらう ~その2~

興味・関心を拡げる

また、「教える-学ぶ」ことだけでなく、興味・関心を持ってもらう」というところまでの設計もしておきましょう。

将来のモチベーションシナリオを描く

教えることが多く、現場からのプレッシャーが多い余りに、きちんとしなければと担当者の方々が考えることは無理の無いことです。また、新入社員も現場で怒られないよう、正解を覚えよう、ミスが無いようにしようと思うことも当然です。

ただし、この2つのベクトルが重なって、小さな一挙一動のことばかりに目が行き、肝心な「仕事への興味・関心/商品、サービスへの興味・関心」→「自社の理解が深まる」→「自分の会社だと思えるようになる」という、将来のモチベーションにつながるシナリオをさえぎってしまいます。

新人時代だからこそ興味・関心を拡げる体験をさせる

インターネットで簡単に就職活動ができる時代だからこそ、自分の目や耳、肌でその会社を感じて「この会社だ」と決めることも少なくなってきています。残念ながら多くの学生は「内定が欲しいから」その企業の情報を一生懸命「いったん覚え」、1日に2社も3社も面接を受ける中でどんどん忘れてしまっているというのが現実のようです。入社前後にもう一度自社について、今度は「自分が入る会社として」研修の中で企業研究をしてもらう企業も増えてきていますし、その重要性は増してきているように思います。

反面、知識スキル研修が増加している/研修コストを削減する傾向の中で、現場実習や工場見学を減らしている企業が増えているのもまた現実です。こういった機会をなるべく減らしてほしくはないものです。

自社の中核となる強みや価値が生産されている現場や、そこで働く人を見て、感じて、体験しておくことは、どんなポジションに就くことになったとしても重要です。そういった中で興味や関心が得られれば、自然とその周辺のことを知りたくなるものです。そこで得られたものがやがて本人の目標になり、成長を促進することもあるでしょう。
新人のときだからこそ、こういう体験をさせてあげたいものです。

担当者が一番成長に意欲を持つ

最後に、提供側のスタンスについてチェックしていきましょう。

今だからこそ、担当者の教える姿勢が問われる

最近の学生や新入社員と話していると、かつて以上に冷静に相手のことを見定めているように感じます。バブル崩壊や政治家・企業不祥事のニュースの中で育ってきた今の新入社員の世代の特徴なのかもしれません。

うそ臭い話や、うますぎる話、ごまかすことについては冷ややかに「引いていく」今の世代の意識をつなぎとめ、物事を教えていくのはかつてよりも難しくなっていると感じます。
だからこそかつて以上に「担当者の教える姿勢」も問われる時代になってきました。
担当者の方々も学生時代、自分の担任の先生がやる気があるかないか、自分たちのことに関心があるかどうかはすぐに感じたことでしょう。やる気が無い、関心が無い先生から熱心に学ぶ気にはならなかったはずです。受ける側からすると一目で見抜かれてしまうものです。ごまかしはききません。

元々人を教え、学びを支援する仕事ですから、簡単な仕事ではありません。
以下のようなことを、普段以上に心がけておかないと、相手に見抜かれてしまいます。

  • 口だけでなく、まず自分が実践しようとしているか
  • 自分が成長しようとしているか、具体的に自分を高めようと努力できているか
  • 相手のことに関心を持ち、よく理解しようとしているか
  • 物事を押し付けず、常に現場や現実から発想しようとしているか
  • 「なぜそうなのか」の理由を考えているか
  • 相手の可能性を信じているか
  • 自社に誇りをもっているか
  • プライドを感じて仕事をしているか

新入社員教育を自分の成長の機会に

逆に、こういったことを意識して努力している担当者の方に、1年経ってお会いすると、ずいぶんたくましくなっていた、人間としての幅が広がっていた、ということが多くあります。そういう方にお聞きすると、「やっているときはきついけれども、後になって配属後に新入社員が活躍している、ということをたまに耳にするととても嬉しい」「新入社員に久しぶりにあうとすっかり頼もしくなっていた」「メールでお礼をもらった」という喜びがあり、また頑張ろうと思うそうです。

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