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実践する企業としない企業の差が広がる

「女性活躍推進の先にあるもの」

  • 公開日:2006/11/01
  • 更新日:2024/04/11
「女性活躍推進の先にあるもの」

昨今、多くの企業が、女性が活躍できる環境創りに真剣に取り組んでいます。
国も、次世代法の制定や育児休業中の賃金補償など、働く女性のワーク・ライフ・バランス実現に向けて取り組んでいます。
当然ながら、企業の取り組み状況には多少の差があります。先頭集団は、いくつかの施策や企画に着手し、働く女性の環境が改善されてきているようです。他方で、これから着手する予定の企業も少なくないようです。

今回は、それぞれのステージにいる企業に参考になるよう、可能な範囲で具体的にまとめています。
前半は、取り組みの考え方やポイントを中心にまとめ、後半は、女性活躍推進の先にあるものをダイバシティの観点でまとめています。

女性活躍推進に取り組む理由
進め方のポイント(1)
進め方のポイント(2)
成功の条件(ムードの醸成)
女性活躍支援の先にあるもの

女性活躍推進に取り組む理由

環境変化が企業を動かす
企業が女性活躍推進に取り組んでいる共通した理由に、下図の3つの要因があります。

女性活躍推進に取り組む理由

1.女性の働く意識の変化
まず、女性の働く意識の変化です。個人の価値基準や、考え方が尊重されるようになって、仕事を通じて自己実現をしたいと考える女性が増えてきています。ちなみにお隣の韓国でも、働く女性が増えてきたのは、急速な女性の教育水準の向上が理由の一つだといわれています。

2.消費者の多様化
次に、消費者の多様化(女性購買決定者の増加)があります。商品やサービスに関する情報が容易に入手できるようになり、消費者の商品を選別する目は厳しくなっています。さらに、高額商品の購買決定権が女性にも移ってきたため、開発や販売場面で、女性の存在が欠かせなくなってきています。

3.少子高齢化
最後に、少子高齢化による労働力不足への危機感です。これを解決する企業の選択肢として、職に就かない若者、女性、高齢者、外国人の活用が考えられますが、次世代法の制定等に後押しされた「働く女性」が、特に注目されています。

進め方のポイント(1)

【1.全体】

何から始めて、どこを通って、どこにたどり着くかを決める
問題となる現象がいくつもあり、その問題を一撃で解決できる決定的な施策もなく、「合わせ技」でようやく一本をとるような課題について議論すると、議論が堂々巡りとなり、着地場所がわからなくなることが、ときどきあります。「またその話に戻ってきたね」「以前も同じような議論をしなかったっけ?」とならないように、事前に議論の地図を描いておきましょう。

各職場のメンバー参加型のワークショップを開催して検討を進めるような場合は、特に重要です。ここでは、一つの例を紹介します。(図表1)

1.現状と、目指す状態を共有する
現状と、目指す状態を関係者で共有します。現場感覚で語られている方が望ましいため、職場から選ばれたメンバーが、ワークショップ形式で検討する方法も有効です。現状については、事前にアンケート等をとっておくと、視界が広がります。

2.課題を設定する
現状と目指す状態とのギャップに基づいて、課題設定(患部の特定)します。進め方は、「今、何がないから(足りないから)目指す状態になっていないのか」という観点で考えるとよいでしょう。

3.個別施策を設計する
課題を解決するための施策を設計します。一つの施策だけでは課題を解決できない場合もあります。そのときは、ひとつの課題に対して複数の施策を検討することになります。

!注意
現場の声を拾わなかったり、課題設定をせずに、いきなり施策を考え出すのは、タブーです。
従業員に、場当たり的な施策設計と映ってしまう危険性があります。

図表1/図表2

【2.目指す状態~課題設定】

事業特性や仕事特性から、目指す状態を考えてみる
例えば、事業を支えている業務の一つに、膨大な事務処理業務があるとします。そして、その事務処理業務が複雑かつ応用が必要とされる場合、仕事をうまく進める要因に「経験」があります。その事務業務の多くを女性が担当しているのであれば、その企業にとって、出産を機に女性社員が次々と退職するより、定着し、長期戦略化しているほうがよいはずです。それが、「目指す状態」となります。

定着・長期戦略化が実現すると、働く女性にとって目指す先輩が増えます(ロールモデル)。目指す先輩が増えると、将来目標ができますから、本人のモラールが上がり、そのようにいきいき働いている先輩女性社員を見て、成長欲求の高い人材が応募してきます。これは、一つの例ですが、このように目指す姿を作っていきます(図表2右)。

インタビューやアンケートの結果に、「目指す先輩や相談できる先輩がいない」、あるいは「将来、自分がどのような働き方をするかがわからず不安」というような声があれば、このギャップを埋めるための課題を設定します。
課題設定では、組織のどこにメスを入れるのか(患部はどこか)を明らかにします。「上司の女性理解力(促進)」というようにメスを入れる場所を決めます。

進め方のポイント(2)

【3.施策設計】

1.制度(施策)特性に応じた確認ポイント
制度を新しく設計する場合は、制度特性に応じた導入効果を確認するための議論を深めておくとよいでしょう。図表3は、制度の特性による確認ポイントを示しています。

・縦軸は制度特性であり、上にいくほどFair施策(男女に関わらず機会が均等に付与される制度)で、下にいくほどCare施策(女性特有の事情に配慮する制度)です。横軸は、制度対象者の範囲です。
・制度特性によって確認ポイントが異なります。例えば、左下に向かうほど、制度対象者(利用者)が限定的で、Care特性をもった制度となります。社内託児所や病時保育施設の設置などがこれに該当します。このような施策は、費用対効果に関する社内説明が求められるでしょう。
・左上に向かうと、制度対象者が限定的で、Fair特性をもった制度となります。女性管理職候補向けリーダー研修等がこれに該当します。このような施策は、対象者をそこに絞り込んだ根拠をしっかり議論すべきです。

図表3/図表4

2.ライフイベント支援施策は、全体を俯瞰する
女性のライフイベント施策の設計では、既存制度と整合性をとることが重要です。制度として何が十分であり、何が足りないかを、図表4のようなフレームで整理すると便利です。

例えば、産後・育児期の休業・勤務時間変更に関する制度は充実していますが、それ以外は制度が充実していない等、現状が俯瞰できます。
その上で、妊娠期の休業制度及び勤務時間変更(短時間勤務制度等)や、出産・育児休業中のフォローは、ニーズも高いため施策として追加するというような考え方ができます。

成功の条件(ムードの醸成)

ムードを醸成し、持続させることが重要

女性活躍推進の取り組みは、従業員の意識変化も成功要因の一つとなるために直ちに効果が見えないという特性があります。一般的には、長期継続取り組みの成功には周囲のムード(この取り組みが必要であるという雰囲気)が欠かせません。

上図は、ムードがまったく盛り上がっていない状態です。ほんの数年前は、多くの企業がこの状態だったのではないでしょうか。働く女性だけが現状を認識し、憂えている状態です。この状態のまま施策を実行すると、“絵に描いた餅”になってしまう危険性があります。
下図は、ムードが盛り上がりつつある状態で、この状態を維持できるとよいでしょう。ポイントは、上司や同僚男性が現状を正しく理解していること、自社だけの取り組みではなく世の中の多くの企業でも盛り上がっていること(これは一社だけの取り組みでどうなるものではないですが)、そして、何より働く女性が変化を感じていることが重要なポイントです。

成功の条件(ムードの醸成)

女性活躍支援の先にあるもの

“見た目”のダイバシティ※と、“実”のダイバシティ
ダイバシティ・マネジメントにおける女性活躍推進は、表層的要因の一部に取り組んでいるに過ぎません。
表層的要因とは、外見からある程度判断できるもので、深層的要因とは、それを知る(気づく)までには多少時間がかかるものです。

下図のように、女性活躍支援の取り組みは、表層的要因の一部分の取り組みですが、「少子化」と「働く女性の増加」という我が国の状況を考えれば、この取り組みを優先した判断は当然のことといえるでしょう。

企業業績が向上し続けるためには、ダイバシティを“性別”の問題だけと捉えていては不十分という意見が一致した見方であり、赤矢印のように、深層的要因に基づいたダイバシティをどのように推進するかが、次のテーマになると思われます。

※・・・多様な個人が最大の価値を発揮することで、組織に変革を促し、事業のパフォーマンスや競合優位性を高める

女性活躍支援の先にあるもの

ダイバシティ、今後の展開

ダイバシティの推進は、Value※の再認識につながる
ダイバシティに関する議論で、「我が社にはダイバシティがない(足りない)」という意見はよく出ますが、「自社にとって、業績向上に繋がる多様化とは何か」という議論は、なぜかあまり起こりません。具体的に言うと、「いろいろな人がいてよいはずだ」という話は出ますが、「いろいろな人とは、どういう人達か」という議論は意外とありません。ダイバシティが、企業業績向上の手段である以上、容認される多様性の限界というものがあるはずですが、「今までなかったから必要」と反射的に反応してしまうことが多いようです。
しかしながら、深層要因に基づくダイバシティを推進するフェーズに入れば、「自社における多様化の範囲」について、論じる必要が出てきます。そのときに拠り所となるのは、“ビジネスモデル”と“Value”です。
自社の“ビジネスモデル”からは、どのような人材が必要なのかが見えるはずですし、“Value”からは、人材に期待する価値基準や行動基準が見えるはずです。その上で、企業は“多様化の範囲”について論じることになるでしょう。

※・・・企業が経営活動をしていく上で拠り所とする原則または、行動様式

最後に
ダイバシティを更に推進するということは、言い換えれば、自社が必要としている人材タイプを明らかにし、それを適切にマネジメントする体制を整えるということです。それは、今まで多くの企業が問題視していた「人と仕事のアンマッチ(若年層の早期離職)」や「成果主義の下における理想マネジメント・スタイル」といった課題に、今一度、真剣に向き合うということです。

このように、少子化問題から端を発した我が国のダイバシティへの取り組みは、入り口こそ女性活躍推進というわかりやすいテーマでしたが、奥へ進むにつれて、従来からあった人材マネジメント上の課題に直面していきます。複雑に絡み合った、それらの課題を一つ一つ解決していく企業と、そうではない企業との差がつくのは、5年後でしょうか、それとも10年後でしょうか。

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