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特集

個人と向き合うタレントマネジメント

一人ひとりを主役に

  • 公開日:2010/04/12
  • 更新日:2024/04/11
一人ひとりを主役に

人材マネジメントの新しい潮流として、“タレントマネジメント”が注目されています。人材育成に関する世界最大のコンベンションであるASTD(American Society for Training & Development=米国人材開発機構)国際会議において、2005年からセッションカテゴリーの一つとして登場し、毎年、そのセッション数を大きく伸ばし、活発な議論が行われています。ASTD2008の基調講演では、ASTDのCEOであるTony Bingham氏が、『タレントマネジメントは、昨今最もホットなトピックであり、組織的なアプローチが必要』であると提言しています。

日本でもHRD JAPAN2010において、ASTDジャパンから日本におけるタレントマネジメントの現状がレポートされるとともに、複数企業からタレントマネジメントの取り組み事例が発表され、多くの聴衆を集めました。

一方で、「漠然としていて何を指しているのか判らない」「従来の人材マネジメントと何が異なるのか」という感想をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか?

今回は、“タレントマネジメント”とはどのような概念なのかを簡単に振り返るとともに、従来の人材マネジメントとの違い、タレントマネジメントを実践する上でのポイントを整理したいと思います。

目次
タレントマネジメントとは
なぜタレントマネジメントなのか?
日本におけるタレントマネジメントの意義
タレントマネジメント最前線
タレントマネジメントの実現に向けて

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは一体、どのような概念なのでしょうか?前述したASTD2008では、下記のように定義がされています。

「タレントマネジメントとは、現在、および将来の組織の目標を満たすタレントの種類を規定し、人の資質、才能を育成、維持すること」(ASTDタレントマネジメントサーティフィケート)

タレントマネジメントの概念を説明するには、2つの質問に答えなければなりません。

「タレント」とは誰か?そして「マネジメント」とはどこまでの領域を指すのか?

様々な定義づけがされていますが、上記についての最大公約数的な回答はこのようになるかと思います。

■「タレント」とは、「会社に貢献できる特性を持つ社員」、言い換えれば、一部の例外を除き「全ての社員」がタレントである。
■「マネジメントの領域」は、タレントの獲得およびリテンション、特性把握と適材適所、パフォーマンスマネジメントと報酬管理、能力開発とキャリアプランニング、サクセッションプランニングなど、包括的なもので、タレントマネジメントは企業の持続的な成長を支える人材戦略として、全社的な取り組みが欠かせないものである。

もちろん現実には、全ての企業が全社員を対象にしているわけではありません(図表1)。タレントマネジメントを実践しようとする企業が、「タレント」とは誰か、という問いに対する自らの答えを導き出し、経営者やマネジャーおよび社員のコンセンサスとコミットメントを得なければなりません。

【図表1 タレントマネジメントの主たる対象は?】

【図表1 タレントマネジメントの主たる対象は?】

なぜタレントマネジメントなのか?

タレントという言葉が人材マネジメントの領域で注目されたのは、今から10年以上前にさかのぼります。1997年にマッキンゼー&カンパニー社が「The War for Talent」を提唱。リーダー候補人材を始めとしたトップタレントをいかに獲得し、育成できるかが企業の成長を左右する最大の要因になると警鐘を鳴らしました。同じタレントという言葉を使いながらも、今日の「全社員をタレントと見なす」という考え方とはかなり異なったものといえるでしょう。

もともとアメリカは日本と比較にならないくらい外部労働市場が発達しており、必要な人材をコストと時間をかけて育成するより、必要なタイミングで必要なだけ調達した方が効率的であるという、ジャストインタイムでの人材調達戦略が主流でした。

しかしながら、これから20年間で4600万人がリタイアするといわれている労働人口の減少をはじめとした外部環境変化の中で、一部のトップタレントはもちろん、業務の最前線を支える社員の採用やリテンションすらままならない状況に追い込まれていきます(図表2)。

【図表2 タレントマネジメントが生まれた背景】

【図表2 タレントマネジメントが生まれた背景】

タレントマネジメントは、従来の人材戦略が行き詰る中、その処方箋として生まれてきた新しい人材マネジメントの概念で、その特徴は下記のようにまとめることができます。

■社員一人ひとりの特徴に着目したマネジメントにより
■キャリア開発と適材配置を進めることで、社員のエンゲージメントを高め
■戦略推進と持続的成長につなげる全社的かつ統合的な取り組み

欧米では、タレントマネジメントの効果として、離職率の低下や一人当たり生産性の改善、目標やプロジェクトの完遂率の向上などが報告されています。

日本におけるタレントマネジメントの意義

では、タレントマネジメントは、日本においても有効な人材戦略となりうるのでしょうか?
従来から中長期的視点に立った人材育成が行われてきた日本において、あらためて『タレントマネジメント』に目を向ける意義を考えてみました。

●日本企業における人材マネジメントの現状

1990年代半ば以降、日本企業の多くは人事体系を見直し、職務・役割ベースの等級運用や成果主義的な報酬制度の徹底など欧米型の人事制度を取り入れました。この制度が機能し、社員にもメリットあるものとするためには、適性や能力にマッチしたポジションや仕事をアサインし、その力を最大限に引き出す機会をどれだけ多く、かつ公正に与えられるかがポイントになります。しかし、大半の企業においては年次管理が根強く残り、柔軟な等級運用や異動を十分に行うことができませんでした。人材育成においても階層別、年次別での一律的、画一的な運用が多く、一人ひとりの指向や能力、将来のキャリア観にマッチしたものにはなりませんでした。

●タレントマネジメントへのシフト

日本でも、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。性別や雇用形態、社内でのキァリア意識など社員の多様化が進み、企業側の一律的な人事管理と社員の意識やニーズとの乖離が大きくなっています。またリーマンショック以降、日本経済は低迷し、人件費の削減がシビアに要求され、昇進・昇格の門戸も狭まりました。年次管理的な昇進・昇格や画一的な人材育成により社員のモチベーションを高め、維持していく伝統的な手法は、もはや通用しなくなっています。

伝統的な手法に代わって、これからの日本企業に求められているのは、「社員一人ひとりと向き合い、志向や価値観を尊重しながら、能力を最大限に生かせる機会を提供すること」と、それを通じて「企業の業績や成長に貢献しているという実感を持たせることでエンゲージメントを高めること」ではないでしょうか。

それはまさに「タレントマネジメント」そのものであり、激しい環境変化に直面する昨今の日本企業が取り組むべき人材戦略であるといえるでしょう(図表3)。

【図表3 日本の人材マネジメントとタレントマネジメントの比較】

【図表3 日本の人材マネジメントとタレントマネジメントの比較】

タレントマネジメント最前線

では、日本でいち早くタレントマネジメントの先進企業は、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
代表的な取り組み事例を下記にまとめてみました。

また自社のタレントマネジメントの取り組み度合いを確認するためのチェックリスト(図表4)を作成しました。それぞれのポイントは、決して同じ難易度ではありませんが、目安として活用していただければ幸いです。

【取り組み事例】

●タレントマネジメントの推進体制を強化する

タレントマネジメントを全社的に推進するための専任組織を編成。CEOもしくは経営ボード直下に推進役の役員をアサイン。タレントマネジメントデパートメントのスタッフは、コンサルタント兼コーチとして、各事業部トップおよび事業部人事スタッフを強力にサポートしている。

●パイプラインの強化を図る

後継者の発掘、育成を、経営陣以下、シニアマネジャーの最重要ミッションとして位置づけ。自社のバリューの実践を厳しく問いながら候補人材の選抜を行うとともに、各事業部での育成状況を可視化し、社内のパイプラインの拡充を図っている。

●全社のキャリアパスを明示し、社内労働市場を整備する

社内にどのような役割があるのかを全従業員に公開。それぞれの役割に求められる成果責任やコンピテンシー、知識を明示するとともに、現在その役割を担っている社員のプロファイルをロールモデルとして公開した上で、社内公募やFA制度を整備し、キャリアアップの機会を提供している。

●情報・システムインフラを整える

タレントマネジメントシステムを導入し、人事プロセスを効率化するとともに、全体の整合性を高めた。加えて、従業員一人ひとりの人事データをストック。経営やマネジャー、本人に人事上の意思決定をサポートする情報を提供している。

●人事戦略を事業戦略および業績指標とリンクさせる

伝統的な財務指標と同様に、定量的および定性的なタレントマネジメントに関する指標を設定し、その動向が一目でわかるダッシュボードを提供。経営陣がタレントマネジメントの推進状況を正確に把握できるようにしている。

【図表4 タレントマネジメントの取り組み度チェックリスト】

【図表4 タレントマネジメントの取り組み度チェックリスト】

タレントマネジメントの実現に向けて

前述した通り、階層一律での人材育成、あるいは同一職務系統の上方向を前提としたキャリア開発から脱却すること、社員一人ひとりの志向や特性に着目した主体的なキャリア開発を行いながら、全社レベルで最適配置を進めていくことが急務となっています。

上記を進めるためには、マネジャーの部下への関り方が極めて重要です。部下育成への意識を高めることはもちろんですが、一人ひとりの志向や特性を様々な機会・手法で把握し、人事部門とマネジャーで共有できる仕組みが不可欠でしょう。

そして、人材戦略と事業戦略をつなぎ、人材領域の業績指標を経営層にリアルタイムでレポート(図表5)するためには、事業サイドとの連携強化はもちろん、人事部門の位置づけと権限の見直しも必要になると思われます。

タレントマネジメントを全社的に推進し、実現するためには、人事部門やマネジャーの役割そのものを問い直すプロセスを避けて通ることはできないのかも知れません。

この特集が、環境変化に適した人材マネジメントを検討される皆さんへの一助となれば幸いです。

【図表5 組織や全社の状況をフィードバックするダッシュボード機能】

【図表5 組織や全社の状況をフィードバックするダッシュボード機能】
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