特集
「人材マネジメント実態調査2010」からの考察
「人事の役割」とは
- 公開日:2010/10/04
- 更新日:2024/04/11
人材採用、人材開発、人材配置、人事考課、賃金管理、組織開発など、人事部門の仕事には実にさまざまな「機能」に関わるものがあります。皆様ご自身、「あなたの仕事は何ですか?」と質問されれば、「採用に携わっています」と回答される方も多いかもしれません。
それでは、「あなたの仕事の役割は何ですか?」と質問された場合、皆様どのように回答されるでしょうか?
「定められた経営戦略・事業戦略を推進することのできる人材配置を行うこと」
「企業理念の理解を深めるための浸透施策を行うこと」
「従業員の意欲を高めるための教育研修を企画・実行すること」
「人的リスクが起きないように制度と仕組みを構築すること」
など、それぞれの機能の目的を明確にして回答される方もいらっしゃるかもしれませんし、もしかしたら回答に窮される方もいらっしゃるかもしれません。
今月の特集では、本年5~6月に実施した「人材マネジメント実態調査2010」の結果の一部をご紹介し、あらためて皆様にこれから求められる「人事の役割」について考えるきっかけを得ていただければと思います。
人事の4つの役割
「人事の役割」を定義したフレームの代表的なものの一つが、『MBAの人材戦略』で著名なミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した以下4つの分類です。
1. 戦略パートナー(Strategic Partner)
2. 管理のエキスパート(Administrative Expert)
3. 従業員のチャンピオン(Employee Champion)
4. 変革のエージェント(Change Agent)
このフレームは、人事が経営や従業員に提供する価値をもとに構築されたものであり、提唱されて10年以上経過していますが、人事の役割を考える上では有効なフレームと考えられます。それを参考に、今回は以下4つの役割を定義しました。
【人事の4つの役割】
Human Resource Champions: The Next Agenda for Adding Value and Delivering Results, 1997, David Ulrichを参考に作成
今回の調査では、240社に及ぶ人事の方々に「4つの役割」それぞれに優先順位をつけていただきました。次にその結果をご紹介します。
人事は経営の戦略パートナー?
今回の調査で、人事の「4つの役割」について、現時点と5年後の優先順位について回答をいただきました。結果は以下の表になります。
現在・5年後ともに、「戦略実現パートナー」の第1位選択率は5割を超えており、また第1位選択率と第2位選択率の合計は9割におよんでいました。人事の仕事に携わる方、特に今回の調査の回答者であった管理職以上の上席者の方はほとんど、「人事は経営の戦略パートナー」だという認識を持っていらっしゃるようです。
続いて第1位の選択率が高いのは、「理念-バリュー実現パートナー」となりますが、こちらは第1位の選択率が現在は約2割、5年後は約3割と、増加傾向にあります。
この結果は、海外展開・グローバル化を進める企業にあって、今後避けることができない人材の多様化に対応すべく、企業理念やバリューの浸透を進めていこうという皆様の意欲が反映されているのかもしれません。
では人事部門では、このような人事の役割に対する達成状況をどのような指標で捉えようとしているのでしょうか。人事における成果指標の導入状況と今後の利用検討について回答いただいた結果から考察してみたいと思います。
今後利用意向が高まる、戦略パートナーとしての成果指標
本調査では人材マネジメントの成果指標について、現在の導入指標と、今後導入検討している指標をたずねています。
人事の役割としては必ずしも優先順位が高くなかった「従業員のチャンピオン」でしたが、成果指標に目を向けると、現在・今後に関わらず従業員満足度の利用率は高い傾向が見られました。また、現在の利用率に目を向けると、総額人件費や社員の年齢構成など、どちらかといえば「実務推進パートナー」を連想させる成果指標の利用率が高い傾向が見られました。
【現在と今後の人材マネジメントの成果を捉える指標】
それと比較し、経営戦略・事業戦略と人事戦略の合致度や戦略的配置の実現度という、「戦略実現パートナー」を連想させる成果指標については、現在導入はまだないものの今後の利用意向が高くなっていることが確認できます。これらの指標は、定量的把握が難しい指標であるにも関わらず、今後に向けては利用を検討していることからも、人事の仕事に携われている皆様が経営の真の戦略実現パートナーになるべく、試行錯誤をしていることが見て取れます。
高業績企業群は従業員の実態により注目
それでは最後に、業績が相対的に高い企業群と低い企業群との間で、今後用いる予定の成果指標がどのように異なっているのかを以下の図でご紹介します。
【現在と今後のマネジメントの成果を捉える指標(高業績企業群と低業績企業群の比較)】
※営業利益成長率と売上成長率の双方について、「業界平均と比べて高い/どちらかといえば業界平均と比べて「高い」と選択した企業を「高業績企業群」、「業界平均と比べて低い/どちらかといえば業界平均と比べて低い」と選択した企業を「低業績企業群」としてとしてデータを集計しています。
「戦略実現パートナー」の成果指標と考えられる経営戦略・事業戦略と人事戦略の合致度や戦略的配置の実現度の利用意向については、両者の間に大きな差は見られませんでした。
むしろ、高業績企業群において顕著に高くなっていた成果指標は、従業員満足度となっていました。高業績企業群は、経営の戦略推進を支援するだけではなく、戦略推進の主体者である現場の従業員にも十分目を向けていこうという意志がここには表れているのかもしれません。
なお、「企業理念・バリュー・行動規範と人事戦略の合致度」という「理念-バリュー実現パートナー」の成果指標については、高低業績企業群の方が用いる予定が低くなっていました。このことについては、まだ十分な解釈ができておりませんが、皆様はどのような意味があるとお考えでしょうか?
人事の役割は人と戦略をつなぐ「かけ橋」
今回の特集では、人事の役割に関する調査結果をご紹介させていただきました。戦略的人的資源管理(SHRM; Strategic Human Resource Management)という言葉に代表されるような、戦略実現のサポーターとしての役割が、人事の第一の役割だと認識されていることが、調査結果からも明らかになりました。その一方で、特に業績が高い企業群に目を向けると、人事は従業員個々人を大切にすることも同時に自らの役割であることを認識されているのではないかということが垣間見えました。
ありきたりの表現かもしれませんが、過度に戦略推進に目を向けるのではなく、人と戦略とのかけ橋になることこそが人事の役割であるということを、今回の調査結果は物語っているのではないでしょうか?
あらためて、「あなたの仕事の役割は何ですか? 」と質問された場合、皆様はどのように回答されますか?
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