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効果的な経営人材育成につながるヒント

経営人材育成を支える論理と感情とは?

  • 公開日:2012/10/24
  • 更新日:2024/04/11
経営人材育成を支える論理と感情とは?

弊社で行った、「RMS Research経営人材育成実態調査2012」の結果をご紹介しながら、効果的な経営人材育成につながるヒントをご提供します。

経営人材育成の実態と課題を探る
なぜ経営人材育成は難しいのか
育成施策に満足している企業は約2割
なぜあの人が選抜されたのか
経営人材を生むための人事の使命とは

経営人材育成の実態と課題を探る

「5年後に、安心してバトンを渡せるCEOを育てたい」
「グローバルで勝ち抜ける経営ボードをつくりたい」
「事業部制導入にともない、各事業のトップとなる経営人材を選出したい」
「M&A先の企業を統制する経営人材を確保したい」

このような声を、いたるところで耳にします。背景や目的、時間的な制約は各社で異なるものの、経営人材の育成を課題視する企業が多い現状がうかがえます。事実、弊社で本年実施した「RMS Research経営人材育成実態調査2012」によれば、「経営人材育成の方法が確立していない」と回答した企業が8割を超える一方で、「経営人材育成に満足している」と回答した企業は2割未満という結果が出ています。

そこで今月の特集では、「RMS Research経営人材育成実態調査2012」の結果をご紹介しながら、効果的な経営人材育成につながるヒントをご提供します。

●経営人材育成の実態と課題を探るための調査概要

はじめに、調査の概要をご紹介します。

図表01 「調査概要」

図表01 「調査概要」

有効回答の内訳は、業種(製造業:製造業以外=1:1)、売上・営業利益成長率(平均より高い:平均程度:平均より低い=1:3:1)、海外売上比率(0%:0%より大きく20%以下:20%より大きい=1:1:1)です。大きな偏りのないデータといえるでしょう。この調査をもとに経営人材育成にまつわる課題や問題、さらには経営人材育成のポイントについて考察していきます。

なぜ経営人材育成は難しいのか

●求められる「質」と「スピード」の変化が、育成をより困難に

まず着目したいのは、経営人材育成の重要性は現在に始まったことではないという点です。これまでにも多くの企業が注力してきた課題でありながら、いまだに模索を続けている現状は、どのような要因から生じているのでしょう。まずは、図表02 「経営人材育成を難しくする要因」の結果(画面下)をご覧ください。

「経営人材育成に求められるスピードが速まっている」、「経営人材に求められる能力の質が変化している」という項目に対し、「あてはまる」「ややあてはまる」が選択された率は合計で約9割という結果が出ています。非常に高い数値であり、この2点が経営人材育成の難易度を高める要因といえるでしょう。

いうなれば、グローバル化や技術革新など、企業経営は「これまでにない環境」に直面しています。その中で成果を挙げるためには、経営人材育成においても変化は不可欠であり、そのスピードが容赦のない速さであることは、私たちが身を置く環境をふり返ってみれば明らかなことです。また、こうした「未経験の課題へのチャレンジへの不安」が、「経営人材の不足感」にもつながっているといえるのではないでしょうか。

●多くの企業が「将来の」経営人材の欠乏を不安視

次に、「経営人材の不足感」に着目してみました。浮かび上がってきたのは「先の見えない不安」です。「これまでにない能力を持った経営者」を「これまでにないスピードで育成すること」に対して多くの企業が不安を感じているのです。図表03 「経営人材の不足感の具体的内容」の結果(画面下)をご覧ください。

図表 03 の通り、現在の経営人材、経営人材育成に対し、「経営ボードが十分に機能していない」、「経営人材の絶対数が不足している」、「質の高い経営人材が育っていない」について、「あてはまる」「ややあてはまる」の選択率は合計で6割程度でした。

一方で、これからの経営人材育成や経営人材の輩出への期待に関わる、「経営人材としてのロールモデルが不足している」と「経営人材『候補』が不足している」の「あてはまる」「ややあてはまる」の選択率は合計で7割を超えています。

「経営人材としてのロールモデルが不足している」という回答には、「将来の経営人材は、現在の経営人材の延長線上にはいない」という意識、「経営人材『候補』が不足している」という回答には「現在の経営人材の延長線上にいない人材」たり得る「質」を備えた候補者の「量」的な不足感が表れている。そうと考えると、将来の経営人材の欠乏に対する不安が強く表れているといえるのではないでしょうか。

それでは、このような不安感の中で行われている経営人材育成で成果を挙げるためのヒントはどこにあるのでしょう。
以降では、経営人材育成に対する不安感が相対的に低いと考えられる「経営人材育成に満足している企業」と、「経営人材育成に満足していない企業」との差異に着目して、経営人材育成に関わる教育、選抜、異動・配置のヒントを考えていきます。

なぜ経営人材育成は難しいのか

育成施策に満足している企業は約2割

●教育プログラムの正否を分かつ、「何を学ぶか」の明確化

ビジョン設定、戦略構築、リーダーシップ、管理能力…未来という未知の領域に向けて舵を取る経営人材。求められる能力は高次であると同時に、多岐にわたります。これに対し、経営人材候補へ知識付与の研修やアクション・ラーニングなど、さまざまな働きかけを行っている企業は少なくありません。しかし一方で、施策に満足している企業は2割程度という実態が明らかになりました。

では、「満足している企業」と、「していない企業」とでは、問題の認識にどのような差があるのでしょう。

図表04 「経営人材育成に対する満足度別の、教育プログラムに関する問題認識」

図表04 「経営人材育成に対する満足度別の、教育プログラムに関する問題認識」

経営人材育成に満足している企業と、満足していない企業で大きな差が見られたのは「身につけるべき能力が明確になっていない」でした。満足している企業が2割程度にとどまったのに対し、満足していない企業では5割弱の選択率となりました。また、選択率こそ高くはありませんが「目的が明確になっていない」についても大きな差が見られました。

未知の領域であり、高次の能力を求められる経営人材育成において、見通しを立てることは容易なことではありません。しかし、そのような状況においても「何のために」「何を学ぶのか」を明確にできるかどうかが、教育プログラムの成否を分かつポイントになっているようです。

同時に、今後解決すべき点といえるのが、「実施後の経過観察やフォローが行われていない」、「費用対効果が明確ではない」という点です。経営人材育成に満足している企業、満足していない企業ともに、選択率が5割程度となりました。この点を解決していくためにも、まずは学習目的、目標を明確にし、そのうえでフォローに向けてPDCAを明確にすることが重要と考えます。

なぜあの人が選抜されたのか

●成長に不可欠な経験値を高めるために、適切な選抜を

次期経営人材育成、次世代リーダー育成において、「早期選抜」や「選抜型教育」というトピックが一緒に取り上げられることも少なくありません。実際、今回の調査では経営人材育成を目的とした選抜を行っている企業は約7割にのぼりました。

それでは、選抜を行っている企業のうち、経営人材育成に満足している企業としていない企業とで、問題の認識にどのような差があるのかを見てみましょう。

図表05 「経営人材育成に対する満足度別の、選抜プログラムに関する問題認識」

図表05 「経営人材育成に対する満足度別の、選抜プログラムに関する問題認識

図表05の通り、経営人材育成に満足していない企業の選択率が高いのは「選抜の基準があいまいである」と「選抜のための適切な方法がない」でした。「基準があいまいである」については、経営人材育成に満足している企業でも約4割が問題意識を感じているようです。経営人材育成を目的とした教育プログラムの成否を分かつポイントとして「何を」「どのような目的で」学ぶかの「明確化」が浮かび上がってきたのと同様に、選抜においても「どのような基準で選抜するか」の「明確化」がポイントとして浮かび上がってきました。

また、近年では「70-20-10の法則」、「一皮むけた経験」など、育成における「経験」の重要性がクローズアップされています。しかし実際は、経営人材育成につながる経験がどの起業にも豊富にあるとは限りません。よって、適切な人材に効果的な経験を蓄積させるためにも、適切な人材の選抜が重要だと考えられます。

※「70-20-10の法則」(Lombardo and Eichinger, 2002)とは、経営人材のリーダーシップ開発のために有効だった経験の内訳が「仕事上の経験:薫陶:offJT=70:20:10」であったという、Lominger社の調査結果をもとにした知見。

また、経営人材候補の選抜に対し、「なぜあの人が選ばれたのか?」「なぜ自分が選ばれないのか?」という感情が少なからず生じるのは自然なことと感じます。しかし、度が過ぎれば不信感につながり、選ばれた人、選ばれなかった人ともに成長意欲をなくす可能性があります。そのためにも、適切な人材を選抜することが重要といえるのではないでしょうか。

経営人材を生むための人事の使命とは

●計画性のある異動・配置が、経営人材の効果的な育成につながる

経営人材候補の育成にあたっては、教育プログラム、選抜のほか、異動・配置が行われることも珍しくありません。本調査でも経営人材候補の育成を目的とした異動・配置を行っている企業は、約6割という結果になりました。

それでは、異動・配置について、経営人材育成に満足している企業としていない企業とで、認識している問題に差は表れているのでしょうか。

図表06 「経営人材育成に対する満足度別の、異動・配置プログラムに関する問題認識」

図表06 「経営人材育成に対する満足度別の、異動・配置プログラムに関する問題認識」

選択率に大きな差が見られたのは、「異動・配置が計画的ではなく、場当たり的になっている」でした。経営人材育成への満足が高い企業で約2割、低い企業で約6割という結果になっています。また、「現場が人を手放さない」についても差が大きく、満足が高い企業は約4割、低い企業での選択率は約6割でした。

経営人材候補は職場で活躍しているエースであることも多く、職場としてはなかなか「手放せない」というのが実態かもしれません。事実、エースを手放した現場には、一時的な混乱や業務の滞りなど痛みが伴います。同時に、新しい仕事や職場に適応する本人も痛みを伴う可能性があります。

「現場が異動・配置に否定的である」の選択率が低いことから、異動・配置の重要性は現場でも一定の理解はされているとはいえそうです。それゆえ、痛みが伴う異動が計画性なく行われた場合、現場にとっても本人にとってもマイナスの影響が大きくなり、異動・配置に否定的な風土が醸成される危険性があります。

経営人材候補育成効果を高めると同時に、異動・配置に伴う「痛み」を「あの時、異動して良かった」と感じられる状態につなげるためにも、「計画的な」異動・配置が重要といえます。

●さいごに

「これまでにない能力を持った経営者」を「これまでにないスピード」で育成することは、厳しいチャレンジといえます。難しい局面で成功を収めるためには、これまでに述べたように、納得感のある教育、選抜、異動・配置を通じ、対象者から論理的な納得感を引き出すだけでなく、感情的なコミットメントを引き出す必要があります。

そのための重要な要素の一つは、現役の経営人材自身が経営人材育成に高いコミットメントを持ち、対象者に積極的な働きかけをすることといえます。経営人材からの薫陶を受けると同時に、将来の経営人材としての「使命感」を対象者が抱くようになるからです。

つまり、将来の経営人材と現在の経営人材をつなぎ、現場を巻き込んだ全社で経営人材を生み出す仕組みと風土をつくっていくことが、経営人材育成に携わる人事にとって重要な使命といえるのではないでしょうか。

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