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動かない部下を動かす技術

マネジャーの理想と現実 〜現実を動かすヒント〜

  • 公開日:2013/03/04
  • 更新日:2024/04/11
マネジャーの理想と現実 ~現実を動かすヒント~

「マネジャーが部下の力を引き出せるか」が問われる難しい場面が増えています。この現実を動かすキーワードである「マネジャーの限界」「信頼」「一貫性」について、書籍「動かない部下を動かす技術」の著者で、リクルートコミュニケーションエンジニアリング代表取締役社長の桐岡 隆澄がご説明します。

目次
マネジャーの理想と現実
マネジャーの限界とは?
信頼の対象を定める
3つの一貫性
結果の一貫性と精神の一貫性

マネジャーの理想と現実

「組織が受け身だ」
事業・業態・規模・置かれている状況によらず、経営者や事業・人事トップが最近よく口にする言葉です。そして話を詳しくうかがうと、多くの場合、マネジャーの問題に行き着きます。

そこには、多くのマネジャーが、チームづくりや部下育成に苦労している現実があります。中には、マネジャーという仕事にやりがいや意味を見つけられずに、自信ややる気をなくしている人たちさえいるのです。

一方で、新たにマネジャーという役割を任された方のほとんどは、程度の差こそあれ、「メンバーに成長してもらいたい」「やりがいを感じて仕事をしてもらいたい」「強いチームをつくりたい」という思いを持って組織運営に臨みます。新任のマネジャーでなくとも、現場の組織を率いるほとんどのマネジャーは同じような思いや考えを持っています。
そして、これらの背景には一人ひとりの経験に基づいた強い思いや動機が隠れていることが多いのも事実です。

高い理想を掲げていたはずのマネジャーの周りで、いったい何が起こっているのでしょうか?
現実の職場でマネジャーには何が求められるのかを、「マネジャーの限界」「信頼」「一貫性」という3つの切り口から考えてみましょう。

マネジャーの限界とは?

まず、企業における本来のマネジャーの役割は、オーケストラにたとえれば指揮者に当たります。
オーケストラで楽器を奏でるのは、ピアノやバイオリン、フルートなど、それぞれのパートの演奏家です。指揮者は自ら楽器を演奏せずに、個々の演奏を文字通り指揮します。
全体としてより良い交響曲を奏でられるように、指揮者はオーケストラのリーダーであり、コーチであり、ときにトレーナーであることが求められるのです。

このことは、企業においてマネジャーに求められることと同様です。
なぜなら、環境変化に機動的に対応して付加価値を生み出しているのは、部下でありチームであるからです。マネジャーに求められることは、部下とチームに影響力を発揮して、その力を最大限に引き出し、活かすことを通じて目標を達成することにほかなりません。

しかしながら、マネジャーの能力には限界があります。

第1に、「認識」の限界があります。マネジャーはすべての業務に目が届くわけではありません。
第2に、「能力」の限界もあります。マネジャーはすべての業務に指示・命令ができるわけではありません。
そして、第3に、「時間」の限界も考慮する必要があります。マネジャーはすべての業務に時間をとれるわけではありません。

図表.1は、すべての業務の中で、マネジャーの目が届き、指示・命令でき、しかもそのための時間をとれる領域を示したものです。

図表.1 マネジメントの限界

図表.1 マネジメントの限界

「マネジャーの指示命令~率先垂範が及ぶ領域」は、個人の特性や状況によって変わります。したがって、マネジャー自身の努力によって、その領域を広げていくことは大切なことです。しかし、どれだけ努力をしても、限界を超えることはできません。
つまり、マネジャーはこの限界の存在を前提として考えなければならないのです。

当たり前のことかもしれませんが、現実はそうではありません。
現実には、「限界」をマネジメントの問題の原因や悩みの理由として挙げたり、やみくもに「限界」に逆らおうとしたりするマネジャーが多いのです。取り組む対象が「限界=変えられないこと」であるが故に、部下のために、職場のために一生懸命取り組んでいるのにも関わらず、良い成果につながりにくい実態があります。
そのため、マネジャーは、図表.1で示した「マネジメントの限界」を前提として、しっかり意識した上で、自分のマネジメントの課題を考える必要があります。

実際のビジネスにおいて、マネジャーが直面しているのは、絶えず企業を取り巻く環境が変化し、技術革新が起き、業務の専門分化が激しくなり、仕事がプロジェクト化していく現実です。このような変化は、マネジャーにとって「部下に任せるしかない領域」が今後拡大していくことを意味しています。

したがって、ここから先は「どのように部下に任せるか」、とりわけ「どのように部下との信頼関係をつくるか」に焦点を当てていきます。

信頼の対象を定める

上司からの無理難題、高い要望・期待に対して、全力を出して前向きに取り組み、予想以上の成果を得られた経験は、多くの人が持っています。逆に、上司からの指示に対して表面的に取り組み、たとえ成果が出ても喜べなかった経験も、同じように多くの人が持っています。

上司からの要望や期待は同じでも、部下の受け止め方は大きく変わります。前者にあって、後者に欠けている最大の要因が、人としての「信頼」です。

このことは、あまりに当たり前のことなので、ついつい見過ごされたり、軽視されたりしがちです。しかしながら、人は自分を理解してくれようとしない人の話を積極的に聞こうと思いません。ましてや、その人のために力を尽くそうとは思いません。

マネジメントをめぐる問題をつきつめていくと、「信頼」というキーワードに必ずと言っていいほどたどり着きます。なぜなら「マネジメントの鍵は影響力であり、影響力の核心は信頼であり、信頼のないところには影響力は発生しない」という関係があるからです。

「信頼」という言葉は、丁寧に扱う必要があります。なぜなら、「信頼は大事だ」「信頼を創造しよう」と思うことのみで、「信頼」という難しいテーマに取り組んだ“つもり”になってしまうことが多いためです。

もし、マネジャーが部下に信頼されたいと思うなら、「自分の何を信頼されたいのか?」、つまりは「信頼される対象」を決めることがスタート地点になります。もちろん「信頼される対象」に良い・悪い、正解・不正解はありません。

しかしながら、強いチーム、人が育つ組織をつくっている優れた経営者・マネジャーには、共通する「信頼される対象」があります。

共通する「信頼される対象」とは、上司対部下という仕事上の関係の前に、「人間対人間として一緒にやっていきたい」「部下の前向きな思いやエネルギーに信頼を寄せ、期待している」というその人の姿勢そのものです。
部下は、上司の部下に対する姿勢をとてもよく見ており、優れた経営者・マネジャーはその姿勢に対して部下から信頼を得ているのです。

強いチーム・組織、人が育つチーム・組織をつくろうとするのであれば、このような姿勢を部下に感じてもらうことが、最初のステップであり、部下に大きな安心感を与えることができます。
この安心感は、不確実性の高い環境だからこそ、これからのマネジャーの意思決定やコミュニケーション、日々の行動など全ての場面において前向きなメッセージを伝達する土壌になります。逆に、マネジャーの姿勢に対する不安・不信はすべての後ろ向きなメッセージを伝達する土壌になることも意味します。

ここで重要になる考え方は、自分の姿勢を信頼されたいならメンバーの姿勢を信頼することです。「自分のことを信頼してくれない人のことを信頼できない」「信頼してくれたから、こちらも信頼しよう」というのは人の心の法則です。

「信頼される対象」が決まったら、次に必要となるのは「一貫性」です。

3つの一貫性

部下からの信頼を得るための具体的な取り組みの基本原則は、マネジャー自身の「一貫性」です。ここでは、私たちが特に重要だと考える3つの一貫性の原則をご紹介します。

第1の原則は、「日常場面での一貫性」です。
この原則を言い換えると、日常で部下への興味や関心を一貫して持ち続けることです。例えば「部下の健康状態を気にして声をかける」「部下が何を思って仕事をしているのかを気にする」などが挙げられます。
この際に、部下の仕事、仕事の進め方、仕事の感じ方、職場での人間関係などについて、興味を持って率直にコミュニケーションを繰り返すことが重要になります。なぜなら、日常のコミュニケーションの繰り返しによって、マネジャーが大切にしている考えが部下に伝わるだけでなく、マネジャーへの「親しみ」が生まれるからです。そして、この「親しみ」は信頼を培う第一歩になります。

第2の原則は、「重要場面での一貫性」です。
この重要場面とは、例えば「評価フィードバック」「目標設定」「メンバーの仕事の成功あるいは失敗」など、仕事上において部下の関心や意識が集中するような場面を指します。これらの場面におけるマネジャーの発言・判断・行動は、部下の記憶に強く刻み込まれます。重要場面においても、マネジャーが一貫した判断をしたり、行動をとったりすることが、部下からの信頼につながります。

第3の原則は、「まさかの場面での一貫性」です。
この原則は、“その局面だったら、判断基準を曲げても仕方がない”と誰もが思うところで曲げないことの重要性をあらわしています。

3つの一貫性

以前に、私たちがある企業のお手伝いをしている中で出会った若手社員が、次のようなエピソードを話してくれました。

「私たちの部署では、お客様と長期的な信頼関係をつくり継続的なお取引を頂くことを重視しています。あるとき、お客様に対して、私は取り返しのつかないミスをしてしまい、大変な迷惑をかけてしまいました。下手をしたら取引停止にもなりかねない状況でした。お客様からは部長宛に担当を替えてほしいと、お叱りがあったそうです。その後、直属の上司であるAさんと一緒に先方に謝罪にうかがいました。私はことの重大さと申し訳なさでとても動揺していましたが、Aさんは謝罪と説明を踏まえて、“もう一度こいつにチャンスをください”と言ってくれたのです。正直、驚きました。」

まさかの場面での一貫性は、「驚き・奇跡」を生みます。そして「驚き・奇跡」は一瞬で信頼を確立します。このことから言えば、信頼づくりは時間がかかるとは限りません。

結果の一貫性と精神の一貫性

最後に、一貫性をめぐる大切なことを一つ。

それは「結果の一貫性と精神の一貫性」です。

マネジメントをしていると、時として一貫しない判断・行動~結果をとらざるを得ないことがあるのが現実です。それは部下も分かっていて、どのような場面でも大事にしていることを貫き通すこと、すなわち「結果の一貫性」まで部下は要求しないものです。そのときに部下が見ているのが、「精神の一貫性」です。

結果が一貫していなくとも、「ぎりぎりまで一貫しようとあがいた姿」「一貫できなかった結果に本気で悔しがる姿」「次の機会には一貫しようと努力する姿」をマネジャーから感じられれば、部下はそのマネジャーの精神の一貫性を信頼します。結果として、マネジャーへの信頼は失われることはありません。

ここまで考えてきたように、信頼はマネジャーにとってだけでなく、すべてのビジネスマンにとって永遠のテーマです。

信頼が創造されるプロセスでは、「マネジャーの姿勢や志」が原点となり、「メンバーの喜びや悔しさ」によって信頼が高まっていきます。
その軌跡は、まるで「らせん階段」のような軌跡を描きます。すなわち、必ずしも目に見える前進ばかりではなく、時には後退しているように感じる場面であっても、信頼を高めていくことができるのです。
部下からの信頼を得るためには焦らず、へこたれず、着実にらせん階段を上ることが必要になるのです。

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