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現地法人のパフォーマンスを高める

海外進出を成功に導く5つの観点

  • 公開日:2013/06/11
  • 更新日:2024/04/11
海外進出を成功に導く5つの観点

日本企業のグローバル化が近年急速に進んでいます。一方で、「現地法人の組織パフォーマンスを高めていくためには、どのような人材マネジメント施策が重要なのか」「現地で行うべきこと、そして、それを促進するために本社人事が関与すべきこととは何か」などの問いに多くの企業が悩んでいる実態があります。今回の特集では、そうした問いについて、弊社・組織行動研究所が実施した日・米・欧系企業の中国現地法人調査の結果にも触れつつ、考察を提示します。

なぜ、海外進出か?
グローバル化の「過去」と「現在」
海外現地法人のパフォーマンスを左右するものとは?
高業績企業群の人事施策とは?
現地法人の人事機能をいかに高めるか

なぜ、海外進出か?

「なぜ企業はわざわざ海外市場に進出するのだろうか?」

誤解を恐れずに単純化して定義すれば、海外進出の目的とは、「本国で培った自社の資源(技術やノウハウ)」を生かして、「進出先国に存在する資源や市場(天然資源、コストの安い労働力、高度な教育を受けた人材、本国と異なる規制、拡大する中間層など)」にアクセスすることで、企業の競争力や提供価値、業績を高めることにあります。

ここで重要になるのが、「所変われば品変わる」のことわざが示すとおり、現地のビジネス慣行や顧客のニーズ、従業員の価値観、政府の規制などは国によって異なるということです。企業は、自社の強みである知見やノウハウを現地法人に持ち込むと同時に、それを現地の資源や情報、制約に合わせて革新していかなければなりません。

それは、イケアが日本の狭い住環境を想定した展示を日本の店舗では行っていること、コカ・コーラの味が世界中で微妙に異なっていることなどの例からも見て取ることができます。

日本企業がグローバルに活躍するということ自体は新しい現象ではありません。日本企業は高度成長期から、グローバル経済の中で大きな役割を果たしてきました。

一方で、現在海外進出を推し進める日本企業は、グローバルでの組織・人事に関してさまざまな問題に直面しています。そうした問題の背景には、「グローバル化」という言葉の意味合いがこれまでとは異なっていることがあります。

次ページ以降では、まず、過去と現在のグローバル化の相違点を押さえたうえで、現地におけるパフォーマンスを高めるための人材マネジメントのポイントについて、考察していきます。

グローバル化の「過去」と「現在」

現在進む「グローバル化」には、次の3つの「変化」が起こっています。(図表.1参照)

まず1点目は、産業・企業規模の変化です。
かつての日本企業の国際進出といえば、電機・機械・自動車・素材などの製造業が中心でした。しかし、金融や飲食や化粧品など、非製造業を含む多様な業界が本格的な国際展開に取り組んでいます。また、大企業だけでなく中堅・中小企業もさまざまな地域に拠点を展開することが多くなっています。

2点目は、海外進出の形態の変化です。
具体的には、輸出やライセンスという間接的な形態ではなく、生産や開発、販売を現地で自ら行う直接投資型の進出が増えています。日本で考えた製品が現地のニーズには応えきれない、あるいはコスト的に折り合わない。そうした理由からバリューチェーンの多くの機能を海外に置き、現地で「創って、造って、売る」を行う、あるいは世界中の拠点で連携してグローバルにバリューチェーンを運営するといった動きが加速しています。
日本企業において伝統的だった本社中心の中央集権的な事業運営から離れ、各地が自律して分散的な運営を行う方向への変化がおきているといえるでしょう。

そして、3点目が、人材の変化です。
現地の人材を現地法人の幹部ポジションに登用する、あるいは将来の海外派遣を見据えて外国人を本社で採用するといったように、日本人が中核ポジションを占め、互いに日本語でコミュニケーションを取ることでグローバル組織を運営するという、伝統的な形態から脱却しようとする志向が広まっています。
このことは、上述の現地の状況を踏まえた自律的な経営が重要になっていることを受けた動きだと考えられます。

図表1.グローバル化の過去と現在

図表1.グローバル化の過去と現在

では、こうした取り組みは順調に進んでいるのでしょうか。
そして、ビジネス上の成果に上手くつながっているのでしょうか。

弊社・組織行動研究所で行った、アジア各国での日系企業幹部へのインタビュー調査からは、必ずしもそうではない実態が明らかになりました。離職率が高い、優秀な人材をひきつけられない、仕事を任せて登用しようにも適切な人材が育っていない、組織内のコミュニケーション不全が起こっている、といったさまざまな組織・人事上の問題が多くの企業で見られました。

では、これらの問題を解決し、パフォーマンスを高めるためには何が必要なのでしょうか?

海外現地法人のパフォーマンスを左右するものとは?

図表2. に示したのは、海外現地法人においてパフォーマンスを左右すると考える人事・組織マネジメントの枠組みです。

図表2.現地法人のパフォーマンスを左右する5つの観点

図表2.現地法人のパフォーマンスを左右する5つの観点

この枠組みは、国際人事管理に関する先行研究や内外の多国籍企業の事例、グローバル人事部門や現地法人の責任者といった方々へのインタビューを集約したもので、以下の5つの観点により構成されています。

(1) タレントマネジメント
現地法人の中核を担う人材とその候補の採用、育成、リテンション、登用に関わるものです。
昨今、日本企業でも広まりつつある後継者計画(サクセッションプランニング)の導入や幹部候補に対する特別な教育の実施、経営層によるメンタリングなどが、具体的な施策として挙げられます。

(2) パフォーマンスマネジメント
管理職や一般の従業員の動機付け、能力開発に関わるものです。
評価や登用の基準を明確に示し、パフォーマンスを評価し、給与や昇進に反映していくこと、あるいは、組織運営や業務に関わるトレーニングを行うことなどが、この観点に当てはまる施策といえます。

(3) ナレッジトランスファー
前述のとおり、海外展開の目的は、企業がもつ独自の資源(技術やノウハウ)を現地の市場で生かすことです。これは現地法人に特有の観点です。
そのためには、本社や先行する他の拠点で生み出された知的資源を現地の人材に移管していくことが欠かせません。ここには、自社の標準的な業務のやり方を現地の人材に教育していくことや、行動・判断の基準である経営理念や価値観を共有していくこと、赴任者が現地の人材に対してスキル移管を行うこと、などが当てはまります。

(4) 組織開発
現地の人材、本国からの赴任者を含め、組織内のタテヨコのコミュニケーションを活性化し、現地の人々のアイデアが経営に生かされるような組織を作っていくことが、現地での適応には不可欠といえるでしょう。移管したノウハウや技術を現地の状況に合わせて活用するためにも必要となります。

(5) 長期的関係構築
長期的な組織能力の蓄積を重視する日本企業の経営スタイルを海外で実践していく上では欠かせない観点といえるでしょう。労働市場の流動性が高い国において特に重要と考えられます。
ここには、退職金や充実した福利厚生、年功的な処遇、そもそも長期雇用を重視することをメッセージする、といった施策が対応します。

これら5つの観点での施策が、実際に企業のパフォーマンスにどのような影響があるのかを確認するために、私たちは中国において、日本、米国、欧州に母体をもつ多国籍企業の現地法人を対象に調査を実施しました。

日系・米系・欧系から、それぞれ約100社の回答を分析したところ、非常に興味深い結果が明らかになりました。

まず、当たり前のことですが、日系・米系・欧系のいずれにおいても、高業績企業と低業績企業に分かれること。次に、それらの企業群の間には人事施策の実施状況に「差」が見られること。そして、「営業利益の成長」「離職率の抑制」「従業員満足度の向上」に関連がみられる人事施策は、それぞれ異なることです。

次ページでは、具体的な人事施策について、ご紹介していきます。

高業績企業群の人事施策とは?

図表3.は、「営業利益の成長」「離職率の抑制」「従業員満足度の向上」において、高業績企業群と低業績企業群を比較し、実施状況に差異がみられた人事施策を成果指標ごとにまとめたものです。

図表3.成果指標ごとに特に有効な人事施策

「営業利益の成長」に関連がみられたのは、業務プロセスや方法論に関するグローバルスタンダードの展開や、本社や他拠点で開発された技術・ノウハウの移転といった「ナレッジトランスファー」に関する施策群および、経営層と現場の直接対話や参加型の活動など、「組織開発」に関する施策群です。

これらの施策は、前節でご紹介したとおり、現地法人の組織の能力を高め、現地にあわせて展開していく上で不可欠ですから、営業利益の成長と関連性がみられるのは非常に納得できる結果です。ただし、残念なことに日系企業では他と比べ、組織開発施策の実施度が低いことも明らかになりました。

「離職率の抑制」に関しては、まず退職金や住宅補助の提供、年功の処遇への反映といった「長期的関係構築」に関する施策群に、想定どおり差が見られました。また、上位ポジションへの登用機会が誰にでも開かれていることの明示、現地の人材への赴任者からの教育の実施、そして、現地の人材のアイデアの経営への活用や課外活動といった点に差が見られました。

現地の人材を本社からの赴任者と分け隔てなく扱って昇進や学ぶ機会を提供し、公式・非公式に協働の機会を作ることが、組織内の信頼関係や一体感を高め、離職の抑制につながるのだと思われます。

「従業員満足度の向上」に関しては、営業利益率や離職率と関係の見られた施策に加え、拠点の戦略を従業員に説明する機会を定期的に設けること、そして、報酬水準の競争力を定期的にレビューすることとの関係が読み取れました。これらは市場環境の変化が激しく、賃金水準が年率数%で上がり続けている中国ならではの結果と言えるかもしれません。

こうした結果は、海外拠点の運営における組織・人事施策の重要性を物語るものですが、加えて、打つべき施策は目的や状況によって異なるということも示唆しています。

例えば、ナレッジトランスファーが営業利益の成長にプラスに働くからといって、離職率が高い状況では、いくら技術やノウハウの移管を行ってもなかなか成果につながりにくいと思われます。ですから、まずは離職を押さえる施策を行った上で、技術やノウハウを現地に移管し、定着させていくといった、優先順位をつけた中長期的なシナリオが必要だと言えるでしょう。

では、このように組織の状況を把握した上で、シナリオを描き推進するのは誰の役割なのでしょうか?

最後に、施策を推進する主体である、現地人事の体制について考察します。

現地法人の人事機能をいかに高めるか

私たちの調査では、ここまでにご紹介した、人事施策や成果指標に加えて「現地人事の戦略性」「本社人事との連携」「現地の労働市場からの情報収集」など、現地の人事部門の活動状況についても調査を行いました。

そこから明らかになったのは、現地の人事が戦略性を持つことがさまざまなパフォーマンス指標に関連があることです。具体的には、人事が現地法人の事業戦略とそれに一貫するような施策を設計したり、事業の推進や組織の変革に事業部門のパートナーとして取り組んだりしている企業は、業績が高い傾向が見られたのです。

冒頭で申し上げた、国による労働市場や文化の違いを踏まえれば、5つの観点の施策を効果的に実施するためには、国ごとの特徴を踏まえた施策設計、展開が重要になると考えられます。また、前ページで申し上げたとおり、それらの施策が組織の状態を踏まえたものでなければ、成果にはつながりにくいでしょう。

現地法人の立ち上げにおいては、まずは給与を遅滞無く支払い、勤怠などの労務管理を行うなど、いわゆる実務的な人事機能をきちんと整備することが重要です。しかし、そこに留まっているだけではなく、自律的に戦略的な能力を高めていかなければなりません。

ここに、本社人事の重要な役割があるのではないでしょうか。

現地で優秀な人事のプロを採用する、あるいは本社から送り込む。また、体制の整わない現地法人に対しては、本社から積極的な関与を行って現地にあった仕組みの構築を支援する。そうした姿勢が、本社人事には求められていると考えられるのです。

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