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目標を自分ごとと捉えて取り組むポイント

目標によるマネジメントの実践

  • 公開日:2009/02/25
  • 更新日:2024/03/26
目標によるマネジメントの実践

仕事や目標に夢中になって取り組み、成長していくメンバーの姿を見ることができるのはマネジャーという仕事の醍醐味の一つでしょう。 「これは、自分として、何としてでも取り組むんだ!」と本気になって仕事に向かい合っている時ほど人は力を発揮し、結果として成果も上がる確率が高く、取り組んだことを通じて本人も成長します。 つまり、マネジャーから見ると、業績達成と人材育成とを両立できる状態に近づくといえます。

とはいえ、全員が全員、また常に、このように仕事や目標に向かい合える状態になるかというと、現実は必ずしもそうではありません。 今月のレポートでは、「目標によるマネジメントの実践——メンバーが『目標』を自分ごとと捉えて取り組み、前に進んでいくことを支援するマネジメントのポイント」についてご紹介します。

「目標によるマネジメント」の現状
メンバーが「目標」を自分ごとと捉えて取り組み、 前に進んでいくことを支援するマネジメントのポイント
マネジャーの「目標」の捉え方
(1)適切な目標を設定し意味づける
(2)取り組むこと自体に動機づける
(3)チームをつくり、チームの力で動機づける

「目標によるマネジメント」の現状

目標管理制度の導入率が80%を超えた昨今(※1)、企業で働く人にとって「目標」とは、「上位組織からブレイクダウンされてくるもの」「達成度に応じて評価が変動し、賃金などの報酬を左右するもの」「会社・上司との契約・約束であり、必ず達成すべきもの(ノルマ)」といった捉え方が主となる傾向にあります。

その中でマネジャーも、高い業績圧力のもと「目標を達成したかどうか・するかどうか」だけを中心に据えてメンバーとかかわり、育成的観点でのかかわりが希薄になりがちです。 たとえば目標設定や評価面談の場面で「前期は目標達成ご苦労さま。今期の目標だが組織の目標は前期実績の110%だ。 君も実績の110%の目標でお願いしたい。見込みはどうだ?よろしく!」など“目標の達成”に終始する会話が交わされることが多いのではないでしょうか。

もちろん企業である以上、目標は達成しなければならないものの、上記のような面談で動機づけられるメンバーは果たしてどれだけいるでしょうか。 中には自分の意思や力だけで目標に強くコミットできるメンバーもいるでしょう。 しかしむしろ現実は、マネジャーがメンバーに対してどのような視点から「目標」を意味づけ、動機づけようとしているのか、その意図に基づいてメンバーにどのような会話をするのかということが、メンバーが「これは、何としてでも取り組みたい」と本気になって仕事に向かい合うことに大きな影響を与えます。

組織目標との連鎖の中で設定される「目標」が、すべて自然と夢中になれるものであれば、これほど幸せなことはありません。 しかし、容易にはそうならない中、「メンバーが『目標』を自分ごとと捉えて取り組み、前に進んでいくことを支援するマネジメント」のポイントとは何でしょうか。

メンバーが「目標」を自分ごとと捉えて取り組み、 前に進んでいくことを支援するマネジメントのポイント

人はどんな時に仕事を自分ごと、つまり「自分の目標」と思いながら前に進むのでしょうか。

弊社では、
(1)その目標に意味を感じる
(2)(目標には意味を感じないが)取り組むこと自体に動機づく
(3)チームの力で動機づく
の3つのパターンがあると考えています。

このパターンを知って、メンバー一人ひとりに合わせて駆使していくことが、目標によるマネジメントの実践のポイントです。

(1)~(3)をマネジャーの側から見ると、
(1)適切な目標を設定し意味づける
(2)取り組むこと自体に動機づける
(3)チームをつくり、チームの力で動機づける
となります。

以下、この(1)~(3)と、その前提となる「マネジャーの『目標』の捉え方」について紹介します。

メンバーが「目標」を自分ごとと捉えて取り組み、 前に進んでいくことを支援するマネジメントのポイント

マネジャーの「目標」の捉え方

組織目標との連鎖で設定される目標はマネジャーの力であったとしても変えられないことが多いですが、次のAマネジャーとBマネジャーの違いは何でしょう。 場面は、今期1000万円の個人売上目標をもってもらいたい、営業のYさんとの目標面談の場面です。

Aマネジャーは、
「今期の目標だが、課の目標は前期実績の110%だ。君にも同比率の実績の110%、1000万円の目標をお願いしたい」
「達成すればきっとさらに成長できるよ。見込みはどう?」
「なるほど、それだけあればきっと大丈夫だ。頼りにしているよ、よろしく!」
と前述のようなやりとりをしています。

一方のBマネジャーは、
「Yさんには今期1000万円の目標をお願いしたいのだが、この目標にはYさんにとってどういう意味があるかな?」
「先日のX社からの『Yさんは、わが社のことを社員以上にわかってくれているから発注した』という言葉、あれはどうだった?嬉しかったよね。あのように言ってもらえるお客様を1社でも増やせたらどう?」
「3年で“『Yさんは、お客様のことをお客様以上にわかる営業だね』と言われるようになる”という未来はどうだろう。そこに近づくために、今期は1000万円という目標を追いかけることを通して“お客様とつきあう力をつける最初の半期”にするというのはどう?」
といったやりとりをしています。

Bマネジャーは何をしているのでしょうか。1000万円という目標は同じですが、会社・事業側の意味だけで話すのではなく、1000万円という目標にYさんの成長という視点から意味を込め、さらにはこの目標をやりきった先にある“お客様のことをお客様以上にわかる営業と言われるようになる”というYさんの3年後の像も明確にし、中期の成長視点から今期の1000万円という目標を意味づけています。

Yさんが自分の成長につながると思い、“自分の目標”と思って取り組む確率が高いのはやはりBマネジャーのほうでしょう。 評価の場面でも、Aマネジャーは「1000万円に到達したかどうか」が会話の中心となるでしょうし、一方のBマネジャーは目標の達成・未達成に加えて「Yさんにとっての意味に照らしてどうだったのか」という会話が可能になります。

「目標=達成すべきノルマ」とだけ捉えるのと「目標=育成・成長視点を込めうるもの」と捉えるのとでは、メンバーと会話する内容やメンバーへのかかわり方が全く違ってきます。
目標によるマネジメントの実践とは、「目標」を「組織目標の実現につながるものであると同時に、メンバーにとっての成長・育成視点を込めうるもの」と捉え、メンバーとこのような会話やかかわりができることをいいます。

では、前提となる「マネジャーの『目標』の捉え方」を確認したところで、マネジメントのポイント(1)~(3)をご紹介します。

(1)適切な目標を設定し意味づける

メンバーが「目標」を自分ごとと捉えて取り組み、前に進んでいくことを支援するマネジメントのポイントの1つめは「意味づけ」です。「会社・事業にとっての意義」の視点からの意味づけで目標を自分ごととして動けるメンバーもいますが、ここでは、目標を意味づける(メンバーから見ると「目標」に意味を感じる)2つのアプローチをご紹介します。

■「メンバーの成長ステージ」に合わせて、目標を設定し意味づける

「メンバーの成長ステージ」とは、新入社員から管理職層直前までの間にたどる幾段階かの状態をいいます。

入社して間もないころはどんな状態でしょう。 業務に必要な知識や技術はほとんどなく、何をどうしていいのかわからず戸惑うことも多い……、これが最初の段階です。 この段階を突破し、幾つかのステージを経ると、「仕事もわかってきて意欲的に取り組むのはいいのだが、いろいろ手を出しすぎて中途半端で終わっている」状態に陥ることがあります。 さらに幾段階か進むと「そこそこ仕事もできるようになってきたため任される仕事の量や質が一気に高まり、仕事に追われて疲れている」状態になるなど、成長の過程には幾つかのステージがあります。
メンバーがどのステージにいるかをしっかり見て、そのステージに応じて、メンバーの成長につながる(メンバーが意味を感じるであろう)適切な目標を設定するという考え方です。

一例をあげると、前述の「意欲的に取り組むのはいいが、いろいろ手を出しすぎて中途半端で終わっている」ステージにいるメンバーには“集中することを絞り、やりきる体験ができる目標”、「任される仕事の量や質が一気に高まり、仕事に追われて疲れている」ステージにいるメンバーには“仕事がいろいろ降ってくる中で、これだけは自分の意志で取り組んでいると思える(主体感を得られる)目標”といったものが考えられます。

一人ひとりのメンバーを「成長ステージ」という視点から見て、メンバーにとっての意味を込めた目標を設定してかかわる、これが目標の意味づけの1つめの考え方です。

■「仕事の意味・価値」の視点から、目標を設定し意味づける

もう一つの考え方に、「仕事の意味・価値」からの意味づけがあります。

初めて仕事の意味や価値、面白さ、やりがいを感じたのはどんな場面だったでしょうか。 お客様が自社の商品を「美味しい!」と笑顔でほお張っている家族団らんの場面だったり、自分が生産に携わった製品が実際に店頭に並びそれを眺めているお客様を見たときだったり、その仕事の価値や面白さを実感できる場面はいろいろあります。

これらを経験できる確率が高いテーマや領域に目標を設定し、メンバーが仕事の意味や価値、面白さ、やりがいを自ら発見して仕事にのめりこんでいくことを支援しようとする考え方です。

最近は、変化が速く、仕事の意味や価値を実感しないまま、どんどん次の仕事に進む傾向が強くなっていますが、ゆえにマネジャーが意図的に機会をつくることが必要です。 機会をつくるとともに、メンバーがその場面を経験したならば、それを見逃さず、その場面をめぐってメンバーがどのように思っているのかなどの対話を通じて共に確認していくことがポイントです。

(2)取り組むこと自体に動機づける

(1)では目標を意味づける2つの考え方を紹介しましたが、すべての目標に何かしらの意味づけを行うのは難しく、時には目標に意味を感じられないこともあります。

しかし、目標そのものには意味を感じられなくても、取り組むこと自体には動機づけられて前に進めることも多くあります。 たとえば、「このお客様に認められたい」「信頼しているこの上司が言うことなら」「自分を裏切りたくない」など、目標そのものに意味を感じようが感じまいが、動機づけられて前に進めることが、それにあたります。 「取り組むこと自体に動機づける」のがポイントの2つめです。

何によって動機づくかは人によって違います。 ところが、ともするとマネジャーは、自分と同じ理由でメンバーも動くと思い込んでかかわってしまいがちです。
“周囲からの期待”を感じると動機づくマネジャーが、あるメンバーに「私はもちろん、みんな君に期待している。君しかいない。是非これに取り組んでほしい!」と真剣に語っています。 一方メンバーは“期待してくれるのはありがたいが、それに取り組むことは自分の将来にどう役立つのかなあ”と思って聞いています。

わかっているつもりでも、ついやってしまいがちなことですが、人により動機づくポイントは違い、メンバー一人ひとりに合わせた動機づけが重要です。 メンバーを「動かす理由」ではなく、一人ひとりのメンバーが「動く理由」を知り、相手に合わせてかかわっていくことが、メンバーが自分ごととして仕事や目標に取り組むようになることを進めるポイントです。

(3)チームをつくり、チームの力で動機づける

もう1点、「目標」を自分ごととして取り組むようになることを促すものとして、「チームの力」があります。
「B=F(P, E):B = Behavior F = Function P = Personality E = Environment(人間の行動は単に本人の能力や性格のみならず、その職場が醸成する環境風土によっても影響を受ける)」というクルト・レヴィンの関数式がありますが、意味づけ・動機づけに加え、お互いに刺激し合い・支え合う「チーム」という土台をつくることも、目標を自分ごととして取り組むようになることを支援します。

チームにも人と同様、「成長ステージ」があると弊社では考えています。たとえば、新しく組織発令されてお互いに知らないメンバーが集まったばかりの組織はどんなチームでしょうか。
バラバラ、お互いに様子見、まずは自分のことを一生懸命やっている……これが最も初期の段階です。そこを越えると、お互いの業務歴がわかり、何となく気が合う、気が合わないができ始めます。数段階ありますが、最上の段階は「自分たちが大事にしたいことが明快な言葉になっていて、実現したいことが共通にわかり、そこに向けて一人ひとりが主体的に、かつメンバー同士で交流・協働しながら動いている/全員のよいところ・違うところを受け止め合い、違うからこそ一緒に取り組む意味があるということを実感できている」状態です。

弊社の研修にて確認したところ日本の多くの企業は、中段付近の「自分の目標について一人ひとりは必死に頑張っている。だが、マネジャーとメンバーが一対一の関係になっており、チームとしての協働・取り組み・目標はほとんどない」、チームになる一歩手前の段階にありました。

チームは自然には成長しません。マネジャーが「意図的につくるもの」です。初期の「お互いに様子見」の段階での、「マネジャーが自ら率先して手本・見本を示す、交流の機会を意図して設ける」といったかかわりや、「なんとなく気が合う、合わないができ始めた」段階での、「思ったことは何でも話してよいというムードをつくる、結果だけでなくそれぞれのメンバーの意図や真意が互いに共有できるようプロセスにも話題をもっていく」かかわりなど、成長ステージに応じた、ふさわしいマネジャーのかかわり方があります。

逆に、陥りやすい落とし穴もあり、「せっかくメンバー同士で動き始めているのに、すべての報告を求めて自分に目を向けさせてしまい、マネジャーがチームの成長の邪魔をしている」などはついやってしまいがちなかかわりでしょう。

チームの成長レベルを把握し、適切な手を打ち、チームを育て、チームの力でメンバーが動機づいて、目標の達成に向けて前に進める状態をつくるのが、3つめのポイントです。

さて、ここまで「目標によるマネジメントの実践――メンバーが『目標』を自分ごとと捉えて取り組み、前に進んでいくことを支援するマネジメントのポイント」を見てきましたが、最後にもう1つポイントがあります。

メンバーに夢中・本気で目標に取り組むことを求めるのであれば、求めるマネジャー自身が、「これはなんとしてでも取り組みたい」と自分の目標をもち、夢中・本気で向き合っていることが求められるということです。メンバーはマネジャーの姿勢を敏感に感じ取るものです。口先だけの意味づけ・動機づけで動くメンバーはどれだけいるでしょう。

では、マネジャーにとっての「自分の目標」とは何でしょうか。組織の目標にどのような意味を込めうるでしょうか。一個人としての意味づけは各々で異なるでしょうが、それに加えてマネジャーならではの意味づけとは何でしょうか。

それは、「チームづくり」だと考えます。組織目標の達成は必須です。そこにメンバーの成長とチームの成長の両方の視点から意味を込め、目標を通じてチームとメンバーを育てていくこと。これがマネジャーならではの目標の意味づけといえるのではないでしょうか。

もしかすると、それぞれが自分の力を最大限に発揮し、それぞれを互いに生かし高め合い、成果を共に喜び合えるチームが育っていく、その過程を経験できることこそが、マネジャーの仕事の一番の醍醐味なのかもしれません。

※1 労政時報 第3681号「目標管理制度の運用に関する実態調査」

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