ビジネスパーソンのための会計リテラシー 数字に表れる企業の特徴をつかむ

会計は一部のプロフェッショナルの領域と思われがちですが、例えば京セラの稲盛和夫氏のように、多くの優れた経営者は財務会計への深い理解と洞察を持って会社経営の舵をとっています。 会計がビジネスパーソンにとって欠かせないリテラシーであるのは、会計の仕組みがわかることで、自分の仕事がどのように会社の業績とかかわっているかがわかり、変化の激しい経営環境の中で自社の打つべき手とその効果が予測できるようになったり、お客様の課題により踏み込んだ提案ができるようになるからです。 今回は、会計情報を使った企業の見方について紹介したいと思います。


会計リテラシーの必要性

毎日の新聞には、企業の業績情報や、投資やM&Aの情報が会計情報と同時に報じられ、巷に会計情報があふれています。 会計リテラシーは、ビジネスにかかわる人にとって不可欠なものといえるでしょう。 実際に、書店には「やさしい」「だれでもわかる」を売り物にした会計の本があふれています。 一方で、多くの人が、必要だと思いながらも「会計」は敷居が高いと感じるのは、財務諸表を見たときに見慣れない会計用語が並んでいることや、会計言語の文法にあたる会計ルールがわからないと、財務諸表は読めないと思われているからでしょう。 確かに、会計には法律や国際的な会計基準などで定められた多くのルールがありますが、それらすべてを熟知する必要はありません。 詳細なルールを理解していなくても、財務諸表の概観を大まかに見て、気になるところを確認していくことで、基本的なルールは徐々にわかるようになります。
以下では、財務諸表から何が読み取れるのかを実感していただきたいと思います。

財務諸表の特徴から企業を見る

図表01は、イオン、ローソン、ファーストリテイリングの流通業3社の単体決算の損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の構成比です。 さて、A〜Cがそれぞれどの会社か考えてみましょう。

(1)全体の概観を大まかにとらえる

財務諸表を見る際には、最初は細かい数字にとらわれずに全体の概観を大まかに把握するのが近道です。 まず、3社の概観をつかみます。図表01のA〜Cの会社は、売上原価率[1]の高い順番に並んでいますが、これを見ると売上原価率は18.4%から69.0%まで非常に幅が広いことがわかります。 次に一般管理費[2]を見ると、AとBの2社は売上高の29%前後であるのに対して、Cは64.3%と極端に高くなっています。 そのため、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益率[3]は、高い順にC、B、Aなのに対して営業利益率[4]はB、C、AとBとCが逆転しています。 さらに当期利益[5]の部分を見ると、どの会社もプラスで利益をだしていますが、BはA、Cに比べて高い収益性を実現していることがわかります。 ここまでの損益計算書の印象を頭に入れて、次に、貸借対照表を見てみましょう。
貸借対照表では、資産の内訳に注目します。流動資産[6]と固定資産[7]の割合を見ると、A、Cは固定資産の割合が高いのに対して、Bは低いことがわかります。 さらに固定資産の内訳を見ると、A、B、Cともに投資その他の資産[8]の割合が高いですが、Bの有形固定資産[9]が非常に少ないこともわかります。 次に、負債[10]を見ると、Bは負債の比率が低く、その裏返しとしてBの純資産([11]これは、従来の自己資本比率に相当するものです)は73.7%という高水準になっており、高い収益性によって得られた豊富な内部留保を保持していることがうかがわれます。

(2)企業の特徴を数字と結びつける

さて、全体の概観をつかんだら、次は3つの候補会社について考えてみます。
図表01のA、B、Cの大きな違いは売上原価率[1]で、それぞれA 69.0%、B 36.9%、C 18.4%となっています。 また、Bは有形固定資産の比率[9]が非常に小さいという特徴ももち合わせています。 通常、流通業というひとつの業種の中で原価率がこれほど大きく異なることはあまりありませんので、これは3社のビジネスモデルに大きな違いがあり、この原価率の違いはそれを反映していると考えたほうがよさそうです。
では、イオン、ローソン、ファーストリテイリングの3社のビジネスモデルには、どのような違いがあるのでしょうか。
イオンは総合スーパー、ローソンはコンビニエンスストアというのはすぐに思いつきます。 一方でファーストリテイリングは消費者にはユニクロというブランドをもつカジュアルウエアショップという顔しか見えないかもしれませんが、SPA *1(製造小売り)としての顔も持つ企業です。 この3つの異なる業態は収益面でどのような特徴に繋がるのかを考えてみます。
まず、ローソンはフランチャイズ展開しています。 ローソンのお店の売上はオーナーである店舗所有者の売上であり、ローソンの売上ではありません。 ローソンの売上になるのは、それらのオーナーから得られる手数料です。 ですから、ローソンの売上高の中には、一部の直販店からの売上とフランチャイズ店からの手数料収入の両方があるわけです。 売上高の大部分を占める手数料収入には原価がほとんどありませんから、全体の原価率が非常に低くなることが推測されます。 そのため、物販を行っている流通業としては極めて原価率の低いCがローソンであると推定できます。 また、売上高の大部分が手数料収入であることを考えると、加盟店を支援する本体の人件費などを含む一般管理費の比率[2]が高くなることも納得できると思います。
次に、SPAとしての顔を持つファーストリテイリングには、メーカー直販という仕組みがあります。 そのため、イオンなどの総合スーパーに比べて原価率が低くなるのではないかという仮説が立てられます。 ここで、Aより原価率の低いBの貸借対照表を見ると、有形固定資産の比率も非常に低く、自社工場をもたないファブレスメーカー *2 としてのファーストリテイリングの特徴が表れています。
また、イオンは大規模なショッピングセンターを主催して、ショッピングセンター全体の集客力を梃子に、そのテナントからのテナント収入も得るビジネスモデルを展開しています。 ですからイオンの有形固定資産はそれなりの規模を持っていることが推測されます。 これらのことから、Aはイオン、Bはファーストリテイリング、Cはローソンという結論に行き着くことができます。

*1 SPA :Speciality store retailer of Private label Apparel (製造小売業) 1986年にアメリカのGAPが提唱した概念で、自ら製品を企画し、自社ブランドとして委託生産させ、自らのチェーン店で販売するビジネスモデル。製造から小売までを垂直統合することで、自らリスクを負うが、中間マージンなどのコストを抑えたオペレーションが可能になる。日本ではファーストリテイリングが有名。

*2 ファブレスメーカー:Fabless (Fabric less)、工場を持たない製造企業を指す造語。自らは製品の企画、設計やマーケティング、販売などに特化し、生産を外部の工場に委託するビジネスモデル。もともとは半導体メーカーで発達した事業形態で、それ以外ではキーエンス、ファーストリテイリング、任天堂などが有名。

(3)財務諸表を見るポイント

さて、ここまでの過程で使った情報は、原価(もしくは売上高総利益)、一般管理費、営業利益、当期純利益、固定資産(有形固定資産、投資その他の資産)、負債合計、純資産合計など、7〜8項目でした。 財務諸表にはたいてい構成比がついているので、それを見ながら数字を見ると全体の構成イメージが簡単につかめることがわかっていただけたと思います。
もちろん、構成比や財務指標だけでは十分な情報とはいえません。具体的な財務諸表の数字を見ることも大切です。

図表02は、図表01の3社の実際の財務諸表の数値ですが、構成比や財務指標と実際の財務数値を見ることで、売上高や資産の規模感がより鮮明になります。

「数字」に強くなるために

ビジネスの世界では、よく「数字に強い」とか、「数字に弱い」という言い方をしますが、会計リテラシーの面で数字に強いということは、企業の特徴(戦略やビジネスモデル、業務プロセスの強み・弱みなど)である豊富な定性情報を、企業のさまざまな側面が表れている豊富な数字の情報源である会計情報に結びつけることができることだといえます。
今まで見てきたように、単に図表01の数字を見るだけでは、A〜Cの会社の漠然とした特徴しかわかりません。大切なのは、イオン、ローソン、ファーストリテイリングという個々の会社に対してもっているSC、フランチャイズ、ファブレスなどの定性的な情報とA〜Cの財務諸表の特徴を結びつけることです。そのためには、財務諸表で見つけた特徴が、どのような企業活動に由来しているのかを、想像力を駆使して仮説設定してみることが有効です。この仮説設定というのは自分の経験や対象企業へのイメージなどを参考に考えることなので、必ずしも正解である必要はありません。まずはどれくらい多岐にわたった仮説を考えられるかが、会計リテラシーを高める早道になるといえます。
さて、図表01でイオン(A)とローソン(C)を見ると、当期利益率[5]は1.2%、8.5%と大きな開きがありますが、株主資本合計[12]の比率は44.2%、51.5%で収益性ほどの大きな開きがありません。株主資本は、出資者(投資家など)から集めた資金と過去の収益の累積(内部留保)なので、イオンは収益性の割には大きな株主資本であると考えられます。そこで、図表02を見ると、当期利益( I )の金額はイオンとローソンではさほど差がないのに、株主資本合計( II )は、イオンはローソンの3倍もあることがわかります。これは過去の収益の内部留保にしては大きな金額なので、イオンは増資によって広く投資家から資金を調達しているのではないかという仮説が考えられます。*3
一般的に、資金の調達コストは借入などの間接金融よりも、増資などの直接金融のほうが高いと考えられ、増資によってダイエーの買収やSC拡大戦略の投資資金を調達しているイオンは、今後、投資家の期待に応えるための、事業の収益性を高めるために売り場あたりの売上を向上させたり、プライベートブランドなどによる収益力の高い商品の開発を強化していくのではないかというようなことも考えられます。このような意識で日々、新聞やWEBのニュースなどを見ていると、いろいろなビジネスのヒントが見えてくるのではないでしょうか。
このように、ビジネスパーソンに必要な会計リテラシーは、企業活動に関する定性的な情報と会計データを結びつけ、それらの情報を顧客ニーズの発掘や自部門の戦略立案・実行に結びつけるノウハウであるといえます。
弊社では、今後、その会計リテラシーを習得するための研修などを開発していきたいと考えています。

*3 実際に株主資本の経年変化などを見ると(上記の資料では表示していませんが)、イオンが近年、借入金ではなく増資などによる直接金融で資金を調達していることがわかります。

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