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アンケート設計と活用のポイント

データから社内の現実を見る

  • 公開日:2008/05/28
  • 更新日:2024/03/26
データから社内の現実を見る

組織の状態や風土・従業員の意識等の調査、いわゆる組織調査は、現在多くの企業で実施されており、その調査の結果は経営の重要な情報の1つとして、さまざまな施策へと展開されています。組織調査として組織の情報を収集する方法は、対象者へのインタビューや対象となる現場の観察などさまざまな方法があります。中でもアンケート調査は多くの従業員から広く情報を取得することができる有効な方法の1つであり、多くの企業で使用されている方法です。アンケート調査というと、手軽で簡単なものととらえられがちですが、従業員に回答の負荷がかかる関係上、たびたび実施できるものではありません。回答冊子やwebの回答用画面の準備にも少なくない費用がかかります。単純にききたいことを羅列するのではなく、欲しい情報を効率よく収集でき、次の施策に展開しやすい効果的な質問構成が求められます。効果的なアンケート調査のための知識・ノウハウ等は膨大ですが、実施準備から結果の読み取りまでの中で重要と思われるポイントをご紹介します。

アンケート調査の実施準備
アンケートの結果解釈

アンケート調査の実施準備

■調査の目的の明確化

調査の目的は、大きく2つに分けることができます。組織の実態を把握し、起きている現象に対してどのような仮説が成り立つかを考える仮説探索的な調査と、立てた仮説が妥当であるかを確認するための仮説検証のための調査です。原則的には調査の目的はどちらであっても構いません。しかし、組織課題として多くの現象が存在しその解決策も幅広いことから、少ない項目で効果的かつ精度の高い調査を行うためには、アンケート調査以外の情報(面談での情報や現場マネジャーへのインタビューなど)から事前に仮説構築を行い、仮説検証型の調査を行うことをお勧めします。このとき、状況を多角的にとらえるためにも、仮説は1つではなく複数あるほうが望ましいとされます。また、アンケート項目に無駄がないように、調査の結果をだれがどう活用するのか、できる限り事前に検討しておくことも重要です。

■スケジューリング

調査にかかる期間は規模や実施方法によりますが、実施の準備から結果の読み取りまでには少なくとも数カ月はかかりますので、事前にしっかりと実施の流れとそのスケジュールを組み立てておく必要があります。参考までに下記に弊社がお手伝いさせていただいている標準的な例を挙げてみました。

図表01 調査の流れとスケジュール例

■アンケートの設計

アンケート設計にあたっては、回答者から取得する属性を決定し質問項目を作成する必要があります。
回答者に属性も併せて答えてもらうことは、調査結果を読み取る上で非常に役立ちます。どのような属性を聞くかは調査の目的にもよりますが、弊社でお手伝いさせていただいた例では、部門や部署、職位・等級はほぼすべての調査で、目的(仮説)に応じて勤続年数、性別、新卒・中途、勤務地、職種、雇用形態、出向・非出向などの属性を尋ねています。
属性を設定する上で注意すべきことの1つとして、不用意に多くの属性を設定しないということが挙げられます。特に仮説の検討が不十分な場合は、結果読み取り時の不安から多くの属性を設定してしまいがちですが、不必要な属性は結果の読み取りを煩雑にしてしまう恐れがあります。多くの属性を設定するよりも、まずはきちんと調査の目的の明確化と仮説の検討を行い、設定する属性数を抑えることをお勧めします。また、匿名で行う調査では、属性を細かく設定することによって回答者が特定されてしまう場合があるため注意が必要です。匿名性が脅かされると回答者が感じると、回答率が大幅に下がったり、率直な回答ではなくなったりする等、調査結果の信頼性に問題が生じます。
設定する属性の決定とともに項目の作成も行うことになりますが、一般に項目数が多くなるほど回答率が下がり、また回答する内容の精度も下がると言われています。回答にはできるだけ負担がかからないよう項目数を最小限に抑え、回答時間はできるだけ10~20分、長くても30分以内におさめることが望ましいと言えます。
項目作成に関しては、項目の内容や形式、項目の並べ方などさまざまなテクニックがありますが、ここでは項目の内容について注意すべきいくつかの点について簡単にご紹介いたします。

[1]曖昧な表現を避ける
正しい情報を得るためには、回答者が何を聞かれているのかが明確に分かるような質問文でなくてはなりません。例えば「近年の人事施策において」という表現を用いた場合、その人事施策が何を指すのかの理解が人によってまちまちであるならば、この表現は避ける必要があります。

[2]難しい言葉は使わない
特に、多くの従業員を対象として実施される場合は、どの従業員にとっても分かりやすい、平易な言葉で項目を作る必要があります。特定部署のみが使う専門用語や業界用語などは避けるべきです。

[3]言葉の偏りに注意する
質問文の中に評価的なニュアンスを含んだ言葉や言い回しがあると、回答に影響を与えます。例えば、「人事制度の改定に賛成ですか」という質問と「人事制度を改定することはやむを得ないと思いますか」では回答に違いが出てきます。他にも、良いまたは悪いイメージが定着している言葉を使用することで回答を誘導してしまうこともありえます。有効な情報を取得するためには、表現にも十分に気を配る必要があります。

[4]ダブル・バーレル(double-barrel)にならないようにする
ダブル・バーレルとは、1つの項目に複数の意味が含まれていることを指します。例えば、「上司はあなたの業務状況について指導する機会を持ち、目標達成に向けて有効なアドバイスと適切なサポートをしてくれる」というような項目がこれにあたります。この項目には、「上司はあなたの業務状況について指導する機会を持ち」と「目標達成に向けて有効なアドバイスと適切なサポートをしてくれる」の2つの内容が盛り込まれているため、回答者はどちらについて回答すべきなのか困ってしまいます。また回答結果の読み取りの際に、どちらへの反応であるのかを識別することができません。

[5]誘導的な表現を避ける
調査者が意図する方向に回答を誘導することは極めて不適切です。例えば、「一般的に○○施策は効果的であると言われていますが、わが社においてもこれを導入することに賛成しますか」というような表現は回答者に「YES」と言わせるように誘導していると言えます。

項目の形式にはさまざまなものがありますが、代表的なものとして5段階のリッカート形式が挙げられます。

(例)
 「経営層は社の方針を明確に打ち出している」
   あてはまる
   どちらかといえばあてはまる
   どちらともいえない
   どちらかといえばあてはまらない
   あてはまらない

この形式は集計と解釈がしやすい優れた形式の1つですが、回答の精度を上げるため、選択肢の中には5段階の選択肢に加えて、「わからない」(または「回答できない」「判断できない」等)を入れる必要があります。「わからない」がない場合、回答者は「どちらともいえない」を代わりに選択することがあり、「どちらともいえない」の意味がブレて、集計結果の精度を下げることになってしまいます。また、項目によっては「わからない」人がどのくらいいるのかも重要な情報となります。
この形式以外にも、多肢選択法(多数の選択肢の中から、該当する選択肢を1つまたは複数選択する方式)、順位法(選択肢に順位をつけさせる方式)、自由回答(自由に回答を記述させる方式)などがあり、調査の目的によって適切な方式を選択する必要があります。

アンケートの結果解釈

アンケートの結果の解釈については、調査開始時に組み立てた仮説をもとに、結果をバランスよく読み取っていく必要があります。「バランスよく」とは仮説以外の結果も見出せる可能性があるため、仮説を念頭に置きながらも、仮説以外の現象も見逃さないようにすることです。
結果の解釈についても多くの読み取りノウハウがありますが、ここでは特に気をつけたい点のみかいつまんで説明をします。

■回収率

結果を解釈する上で、まず気をつけたいのはアンケートの回収率です。回収率が低い場合、その調査の結果は一部の従業員の意見のみが反映されている可能性もあり、慎重な読み取りが必要となってきます。アンケートの回収率は高いに越したことはありませんが、100%の回収はまず無理です。弊社のコンサルタントの経験では、従業員を対象としたアンケート調査の場合、回収率が8割を超えれば良好、6割を下回るようであれば回収率は悪い、といえるとのことです(この回収率の目安は、お客様への郵送等、社外の人を対象とする場合の調査とは異なりますのでご注意ください)。
全体として回収率が良かった場合であっても、属性ごとでの回収率が極端に異なる場合(例えば特定部署の回答がほとんどない等)は、その点を勘案しながら全体結果を読み取る必要があります。また、属性ごとに集計を行ったときに、回答者数が少なかった属性集計結果についても同様の注意が必要です。

■基本的な集計と読み取り

項目の集計の仕方は質問形式により異なります。ここでは先ほど紹介をした代表的な形式である、5段階のリッカート形式の集計についてご紹介いたします。
基本的な集計の仕方としては、全体または属性ごとの平均と項目ごとの回答分布の確認が挙げられます。平均は選択肢(先ほどの例を用いると、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」「どちらともいえない」「どちらかといえばあてはまらない」「あてはまらない」)を5から1の数値に置き換えて集計を行います。選択肢の意味から、その項目の平均点の高低の評価を行うことが可能ですが(例えば、平均点が4点台であれば、多くの人が「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」を選択したことになるので、平均点は極めて高いといえます)、3近辺の細かい読み取りは困難であること、項目の性質によってはもともと得点が高く(または低く)なりがち等の問題もあり、精緻に得点を見ていくためには、アンケート調査の実施を複数回重ねることにより、得点の出方の傾向をつかむ必要があります。また、自社で作成したアンケート調査ではなく、専門会社のアンケート調査を利用した場合は、その会社の保有するリファレンスデータ(参照用データ)と比較するなどの工夫が可能です。
回答分布は項目の各選択肢の選択人数(またはその比率)です。同じ平均点であっても回答が平均点の周辺に集中しているのか、二極化しているのかで、結果の読み取りが変わってきます。つまり、全員が同レベルでそのように感じているのと、一部の従業員は比較的そのとおりだと評価している一方で、まったく逆のことを感じている従業員も相当数いるのとでは、解釈もその後の施策も変わってきます。したがって、平均と合わせて各項目の回答分布を確認していくことも重要です。また、回答者が1万人近い大規模実施の場合、属性ごとの集計結果の比較や経年での得点変化確認の際、大きな得点差は見出せないことが多く、平均の得点差と合わせて、回答分布の違いを確認することが結果を解釈する上で役立つことが多いといえます。

■発展的な分析

調査の目的によってはさらに詳細な分析が必要となる場合があります。その際の分析手法の1つとして相関分析が挙げられます。これは2つの変数の関係性を確認するために用いられる分析で、アンケートの質問項目同士の関係を見たり、アンケートの結果と業績等のアンケート以外の情報との関係性を確認したりすることができます。例えばアンケートの結果と業績の相関を確認すると、業績をあげている部署の特徴などをつかむことができ、施策を考える上で参考となる情報を得ることができます。この相関分析以外にも、目的に応じて因子分析や重回帰分析などが用いられることがあります。しかし、これらの分析に用いられる手法や結果の解釈は統計の専門知識を必要としますので、専門家に相談されることをお勧めいたします。

■自由回答

自由回答は、回答者の生の声がわかる優れた方法ですが、必ずしもすべての回答者を代表する声ではないことに留意する必要があります。自由回答は一般に回答者にとって負担のかかる形式です。故に記入を行う人にはそれなりの理由がある場合もあります(例えば、現状への不満が高く、どうしてもその不満を訴えたかった等)。このときの回答は往々にして内容にインパクトがあり、調査の結果を読み誤らせてしまう恐れがあります。自由回答の回答者数(または回答率)やその内容と同等の記述を行っている人の割合などを確認の上、結果を読み解く必要があります。
自由回答で注意すべきもう1つの点は、回答数が多いとすべての回答に目を通すのに膨大な時間がかかることです。最近ではテキストマイニングツールなどの便利なソフトウェアもあり、こうしたものをサポートツールとして利用するのも1つの方法です。

以上、アンケート調査の設計から結果の読み取りまで、かいつまんで説明をしてきました。アンケート調査では施策を考える上で有益な情報を得ることができますが、設計・実施・解釈それぞれの面に見落としがちな落とし穴があります。よりよい調査とするために、専門的な知識を持つアドバイザーに意見をもらうのも有効かと思います。
また、以下に効果的なアンケート調査のために参考となる書籍を挙げてみました。必要に応じてご参考ください。

組織調査ガイドブック (田尾雅夫・若林直樹編 有斐閣)
社会調査法入門 (盛山和夫著 有斐閣ブックス)
調査法講義 (豊田秀樹 朝倉書店)
“How to conduct organizational surveys ; A step-by-step guide” , Edwards, J.E. et al., 1996, SAGE
“Survey Methodology” , Robert M.Groves. et al., 2004 WILEY-INTERSCIENCE

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