効果の高い研修とは 効果的な“気づき”をもたらす研修プログラムの条件

研修プログラムにはさまざまな領域、テーマ、技法があります。一方、同じようなテーマを扱っていても効果の高い研修とそうでない研修があります。私たちは、「効果の高い研修とは研修受講後に学習したことを実践する確率が高い研修である」と定義します。そして、研修効果の差をもたらす鍵は、限られた時間・条件の中で受講者がいかに大きな深い“気付き”ができるかどうかにある、と考えています。その上で、本稿では、研修の中で生じる“気づき”のプロセスをモデル化し、効果的な“気づき”をもたらすための条件を考察します。


“気づき”の力

「ハッと気づく」といわれるように、“気づき”とは、それまで知覚しなかったことに注意が向いて、物事の存在や状態を知ることを意味します。また、意識を取り戻す、正気に戻る、という意味があります。 これは研修における受講者の学習でいえば、「ものの見方が変わった」「○○に対する考え方を改めた」「本当の自分の姿を知って元気が出た」といった感想となって表現されることになります。

当然、“気づき”には大小深浅があるわけですが、とりわけ大きくて深い“気づき”には、受講者の価値観や姿勢に大きな影響を与え行動を一変させた、というような結果をもたらす力があります。ではこのような効果的な“気づき”は、どうやって生起するのでしょうか。ここでは「自己概念の変容」というキーワードを使って考えてみることにします。

“気づき”とは〜 自己概念の変容

人は誰でも「自分はこのような人間である」とか、マネジャーであれば「私は日頃このようなリーダーシップ行動を取っている」という安定した自己概念を持っています。それゆえに人は一貫性のある行動を取ることができると考えられます。ところがリーダーシップの実態は、これを受け取る他者(ex. 部下)が感じる影響力(他者認知)ですから、「つもりの自分」と「傍目の自分」にはギャップが生じるのが普通です(図表1)。

図表1 つもりの自分と傍目の自分

したがって、何らかの機会に他者から「実は私はあなたのことをこう感じていた」という認知ギャップを突きつけられると、多くの人はそれまで安定していた自己概念が動揺して葛藤が生じ、場合によっては崩壊の危機に直面します。しかし、本来人間には、安定した自己概念を保ちたいという本能が備わっているため、やがて時間の経過とともに自ら自己概念の修正・拡大を行い、新たな自己概念を受容することによって、再び安定した状態が訪れることになります(図表2)。

図表2 自己概念の変容プロセス

この「自己概念の動揺→葛藤→修正・拡大→受容」こそが、大きくて深い“気づき”の正体であると考えられます。またこのモデルで考えると、「葛藤の大きさ」と「受容の深さ」こそが、効果的な“気づき”をもたらす源泉であるということになります。では研修プログラムの実際において、このような効果的な“気づき”を実現するためには、どのような条件が必要なのでしょうか。

効果的な“気づき”をもたらすための3つの条件

(1)研修プログラムの構成要素について

一つ目のファクターは、研修プログラム中に、「自己概念」や「自分のものの見方・考え方・感じ方・価値観・姿勢」といった自分自身を規定しているものに目を向け、これを内省・洞察するという学習プロセスが設計されていることです。

たとえ知識・概念の習得を主目的とする研修プログラムであったとしても、単に「知識の伝達→反復→習得度の確認」というシングル・ループではなく、知識・概念を扱う自分自身の「ものの見方や考え方」を他の受講者のそれと比較対照して自己洞察させるというダブル・ループが組み込まれていることで、受講者の学習には“気づき”が生じます。それによって受講者は単なる知識・概念の習得にとどまらず、「知識・概念の使い方」を学習することになります。

また、こうした学習が研修受講後に高い実践確率をもたらすには、“気づき”が大きな葛藤と深い受容を伴うものであることが重要ですが、そのためには、やはりある程度の時間を確保することがどうしても必要です。つまり深い“気づき”には「溜め」が必要なのです。浅い整理や安易な妥協は“気づき”とは本質的に異なるものであり、表面的にはスムーズな研修プロセスに見えても、実践効果という意味ではあまり期待が持てないことが多いようです。

(2)受講者同士の相互フィードバックについて

効果的な“気づき”を起こすための条件の中で最も重要なファクターは、研修の場での受講者同士の相互作用がいかに深い次元で行われるか、です。そのためには、受講者がありのままの自分を積極的に自己開示し、それに対して他の受講者が感じたままを率直にフィードバックすることが不可欠です。ここでいう率直なフィードバックとは、もちろん一方的な非難中傷や冷酷な評価ではありません。また、あえて極論を言えば、ある受講者が表明した意見に対する賛否の表明や別の見解表明のことでもないのです。ここでのフィードバックの本質とは、ある受講者の意見の内容を通して浮かび上がる、その受講者の「世界に対する態度を規定している規範=ものの見方・考え方・感じ方・価値観・姿勢」について感じたことを、「私にはこう感じられた」と返してあげることなのです。

また、フィードバックにはフィードバックする側の感情が上乗せされることが重要です。まずは、相手の態度・姿勢に対する好悪や賞賛や怒りといった素朴な感情を伝えることが効果をあげるでしょう。さらに「自分のアドバイスを受けとめてほしい」「私はあなたのことを信頼している」「偉そうなことは言えないけれど、それでもあなたには気づいてほしい」といった相互成長への願いや欲求が、フィードバックされる言葉の背後から伝わってくることの効果はたいへん大きいものがあります。不思議なもので、感情のこもらない冷静なフィードバックは、その指摘がどれほど正鵠を得ていてもなかなか受容されないのに、内容はともかくフィードバックする側のポジティブな感情が伝わったときに、受講者は心の殻を破ることが多いものです。人が何らかの態度変容を行う場合、まず感情が変化し、その後に感情変化と同じベクトルに認識の変化が起きるという順番を辿るかのようです。

(3)研修トレーナーのかかわりについて

受講者同士の率直なフィードバックが重要であるという観点でいえば、研修トレーナーとしてのさまざまな役割の中で最も重要なものは、受講者相互の感情交流が促進されるように、第三者として場のプロセスを見守り、必要な介入を行うことです。介入の焦点は、(1)受講者が防衛の殻を解いてありのままの自分を場に出せるようにすること、(2)他の受講者が率直なフィードバックができるようにすること、(3)研修の場に受講者同士の(ポジティブな姿勢を背後に持った)自由な感情交流が生じるようにすること、の3点です。 

また、受講者にあまりにも強い葛藤が生じた結果、他の受講者に対して激しい拒否や攻撃が始まったり、逆に安易な言い訳や妥協で済ませようとし、他の受講者がそれ以上かかわることができないようであれば、受講者自身の「今・ここでの姿(ありのままの自分)」を客観的に見させて、自己受容できるよう援助することも必要です。こうした極限状態でのトレーナーの機能は、受講者が何をめぐって葛藤しているのかを、受講者自身が自分で診ることができるように示唆・助言を与えること(説得ではありません)、そして受講者が自ら自己概念を修正・拡大したことへの承認を与えることですが、それは他の受講者(場)の素直な気持ちを代表し、増幅したものであることが重要です。いずれにせよ大きな葛藤を経て到達した深い自己受容は、時に自分の限界を自覚し受容するという意味で大きな痛みを伴うこともありますが、実に劇的なものであり、その後の受講者の姿勢や行動に大きな影響を及ぼすことになります。

研修の場は生き物であり、受講者同士の相互作用のレベルによって退屈な場にもなれば、エネルギーが活性化して多くの気づきや発見が起きる創造の場にもなり得ます。研修トレーナーは、研修の場で交わされる受講者の発言内容(コンテンツ)を把握するだけでなく、その背後に絶えず変化しながら流れている情動のエネルギーを感じ取り、これを活性化させる役割を担っているということになります(図表3)。

図表3 効果的な“気づき”をもたらす研修の構造

最後に:成人の発達と変容学習

自己概念の変容を伴う学習プロセスは、受講者にとっては自分自身に関する新たな知識の獲得と同時に、自己概念の変容によって獲得した知識を、自分を取り巻く世界(他者との関係性)の中でどのように活用するかについての学習を生起させている、と考えることができます。

こうした学習プロセスについて言及している理論にはRobert Kegan(1982,94)の構成主義的発達理論があります。Keganによれば、「人は環境との相互作用と解釈によって世界を形成している。人は成長し、時間とともに変化するが、そのプロセスにおいて質的に異なるフェーズに入る」。こうした学習プロセスは変容学習(Transformative Learning)と命名されています。変容学習は「行為や認知、感じ方、知っていることを変えるだけでなく、知り方(The way he knows)を変えるときに生じ」、「Subject(自己の一部としての絶対的で疑う余地のないもの)からObject(思考し、反芻し、形作られ、行動を起こせるもの)への転換」であるとしています。

このことは成人の学習と発達成長について有効な示唆であろうと思われます。なぜならば、成人学習の本質は、自分を規定している欲求・感情・基準・ルール(Subject)を対象化(Object)して扱えるだけの自己統制力を獲得することによって、白か黒か、敵か味方かといった二分法的な態度ではなく、さまざまな二律背反・矛盾・葛藤から逃げることなく対峙し、統合をもたらす能力を開発することにあると思われるからです。

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