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6つの観点から代表的な考え方・強化策を提示

「成果主義」見直しのポイント

  • 公開日:2005/09/01
  • 更新日:2024/05/11
「成果主義」見直しのポイント

近頃の人事制度に関するさまざまな調査によると、中堅・大手企業では成果主義志向の人事制度が、7~8割の比率で既に導入されているようです。人事制度の改定・改革は一巡し、新たな制度を設計通りに運用し、成果主義人事制度の“成果”が問われる段階にあります。

他方、特に昨年あたりから成果主義志向の人事制度に対する批判・反動も多く見聞きされます。いろいろな情報が錯綜し、企業を取り巻く環境変化のスピードが増し、現場のニーズが複雑化・高度化する中で、新たに構築した制度を意図した通り運用していくのは、決して容易ではありません。

本特集では、多くの企業で導入されている成果主義志向の人事制度を、自社において運用していくための「見直しのヒント」として、6つの観点から代表的な考え方・強化策を提示してみたいと思います。

目標・成果マネジメント
報酬マネジメント
異動・配置マネジメント
採用・定着~育成マネジメント
最後に(じっくり自社の制度を考える)

目標・成果マネジメント

目標・成果マネジメント Part1

成果主義志向の人事制度においては、今まで以上に評価結果が報酬などに大きく影響することになります。目標に対する達成度としての業績、職務・役割内容に沿った成果、業績・成果のベースとなる行動や能力などをいかに客観的かつ公正に評価し、その評価結果に納得性を持たせるかは大きな課題の一つではないでしょうか?

目標・成果のマネジメントに関しては、大きく以下の2つがポイントとなります。

(1)マネジメントライン(評価者)を適正化する
評価者に求められる資格とは何でしょうか。客観的な評価“スキル”の土台上に、業績達成・成果に結びつくプロセス・アプローチを示し、そのための具体的な行動や取り組みを日常業務の中で認知・評価できる“力量”を兼ね備ている。さらに評価の目的を人材育成に高め日常化する“マインドセット(心構え・心的傾向)”を持った人材を評価者にすえる努力が求められます。(図表1左側)

(2)評価の納得性を向上させる
評価の納得性向上のために何ができるでしょうか。基準の精緻化や定量化などによる“客観性の高い仕組み”という土台をつくること。評価に際しての“情報ソースを多様化”すること。その上で半期や1年に一度のイベントではなく“日常の中で都度小まめにコミュニケーション”することを積み重ね、評価結果への満足・不満足を超えた前向きな力を引き出します。(図表1右側)

人事制度が成果主義志向に切り替わっていても、引き続き年功的な昇格を続けている場合、「評価の力量もなければ、マインドセットもない管理職」が評価者として評価することがあります。環境変化が激しく、仕事内容が高度化している中で、評価者自身が環境変化に応じて目標を見直し、プロセスやアプローチの方向性を定め、メンバーに展開できなければ、どんなに評価スキルはあっても納得性の高い評価は難しくなります。また、目標設定・フォロー・評価・フィードバックを通じて、部下を育成するマインドセットがなければ、単に昇降給のための評価になりかねません。

図表1 マネジメントラインの適正化と評価の納得性向上/図表2 会社一律の"制度主導"から"ラインマネジメント主導"へ

目標・成果マネジメント Part2

人事制度の基準を、全社一律で、短期間のうちに「年功や職務遂行能力」から「成果や職務・役割」に変更した会社も多かったのではないでしょうか。その際、変更前の人事制度の年功色が強い会社ほど、新たな制度への変更は困難な取り組みとなり、その困難さから新たな制度を導入すること自体が「目的」になりがちではなかったでしょうか。“制度改革によりラインマネジメントが変わり組織全体が変わる”との期待に反して、運用するうちに制度に対する予期せぬ疑問や要望の声が上がり始めているケースもあると思います。

皆さんの企業では以下のような点において、全社一律の制度・仕組みの使いづらさを感じていませんか?

・個人の目標達成か、チームの達成か、短期・中期・長期どのタイミングで達成されるかが部署・部門により大きく異なる。

・プロセスや行動が、どの程度、目標達成や成果発揮へ直結するのかが部署・部門により異なる。

・部署・部門によっては、評価者が現実的に評価できる「評価対象」「評価範囲」「評価人数」を超えており、評価に納得性を持たせにくい。

・現場において物理的に評価者が不在に近く、日常接する機会が少ないため、評価することが難しい部署・部門がある。

・目標自体を明確に期首設定することが難しいため、設定した目標に対して成果を評価しづらい職種がある。

・職種によっては期首の目標よりも、期中の成果を期末に詳細に評価した方が評価しやすく、納得性がある。

全社一律の新たな人事制度の運用を始めて2~3年後には、ラインマネジメントの実態に即して制度の修正・運用方法の最適化をはかり、ライン主導の新たな制度を展開・運用していくアプローチが必要です。

図表2のような全組織共通の制度・運用方法をプラットフォーム(基盤)としてベースにしつつ、例えば研究・開発、生産、企画、販売、管理などのラインマネジメントの実態に合わせて目標設定・評価・フィードバック方法などを最適化することにより、各ラインのマネジメントツールとして制度を最大限活用できます。

報酬マネジメント

報酬に関する制度の見直しは、以下の3つがポイントとなります。

1.報酬額そのものも重要だが、決定プロセスを大事にする
報酬額そのものを「社内で公正であり」「外部競争力がある」ものとすることは重要です。
同時に、報酬の決定プロセスを明確にし、従業員が納得しうるものとすることも大切です。

2.人件費を一方的にコントロールするのではなく、マネジする
会社都合により、総額人件費・個別報酬額を一方的に「押さえ込む」のではなく、全社業績や従業員のモチベーションの状態をみながら、適切にマネジすることが重要です。

3.金銭のみならず、非金銭も含めた広義の報酬を考える
成果主義志向の制度において、ややもすると金銭報酬でのメリハリばかりに重きが置かれがちです。広義の報酬として非金銭報酬にもフォーカスし、金銭報酬とのバランスを考えて、有効に活用することが求められます。

特に最近では、図表3のように広義の報酬を考え、非金銭の仕組みも充実させる取り組みが盛んになっています。
リクルート社の事例として、例えば以下のような非金銭報酬の仕組みがあります。

【成長チャンスを提供】
・Business View(社外派遣制度)
国内外企業への派遣プログラム。一定期間、異なる業界・組織に身を置き、自社にない視点や物事の考え方・仕事の進め方を吸収。

・Career Web(公募制社内転職)
各部署が必要とする人材を社内で公募。入社3年目以上の社員なら誰でも自由に応募できる。いわば「社内転職」。

【新規事業の創出】
・NVC賞:
特に優れた成果について“New Value Creation(NVC)賞”として全社表彰。

・New-Ring:社員の自由応募による提案活動の場。「新規事業部門」「経営への提言部門」の2つがあり、バックアップ体制を整え、案件・内容によっては独立・起業への道も用意。

図表3 広義の報酬マネジメント

異動・配置マネジメント

異動・配置に関しては、以下の2つがポイントとなります。

1.成果を問うことと、仕事や役割を選べることとの一定のバランスを保つ
仕事の成果に着目し、日頃の仕事ぶりと成果を評価するため、与えられた仕事や責任などが個人の成果に少なからず影響します。よって、個人が仕事の内容や成果の出し方を一定の範囲で選ぶことができる仕組みが必要で、「成果を問うこと」と「仕事を選ぶこと」は両輪の関係となります。

2.本人の持ち味や特性を加味し、生かす
仕事の成果が問われる中で、個人は自らの持ち味・適性をしっかりと把握し、主体的・自立的に仕事に取り組み、成果の出し方を考える必要があります。異動・配置に際しては、個人の業績・評価の高低や、コンピテンシーの発揮度合いのみによらず、持ち味・適性も加味することが大切です。

成果主義志向の人事制度では、報酬の年功部分を極力排除する一方で、目標・成果の基準を明確にして個人の成果を問うだけでは、“会社都合のチャンスなき成果主義”に陥りがちです。これでは、従業員の制度への納得感が得にくいばかりか、反感や不信を招く結果になりがちです。そのために、「自己申告制度」や各種の「キャリア支援施策」など、従業員自ら選択・決定できる仕組みを構築している会社が増えています。

最近、気になる現象として目先の短期的な業績・目標をクリアし続けているうちに、従業員個人が疲弊してしまうケースがあります。例えば、下図のように役割使命感が高く、期待される行動(コンピテンシー)をとり続け、安定的に業績を上げていても、本来の個人の適性がない場合、やがて本人が燃え尽きてしまう可能性があります。
ハイパフォーマー(高業績者)ほど、この傾向があるのかもしれません。

他方、個人の適性があっても、行動に結びつかず、本人が自信を失っていたり、腐りかけていたりすることもあります。この場合、ちょっとした環境の変化で見違えるほど変わる事もあります。

【図表4 役割使命感と宝の持ち腐れ】

図表4 役割使命感と宝の持ち腐れ

採用・定着~育成マネジメント

採用・定着マネジメント

採用に関しては、七・五・三といわれる現象があり、大卒の場合であっても、3年以内に3割(直近データでは3.5割)の新入社員が転職しているのが現状です。せっかく採用した有望な社員をいかに引きとめ、自社で活躍してもらうか?環境変化がめまぐるしく、競争が激化する中で、若年層に対して、無意識に過度な自立を求め過ぎてはいないでしょうか?

採用・定着に関しては、以下の3つがポイントとなります。

1.採用時:人と企業をマッチングさせる
成果主義志向の人事制度において、程度の差こそあれ大なり小なり、入社した日から退職するまで成果が問われ続けることになります。よって、採用時に採用候補者の価値観や志向と、自社の企業風土・文化との相性をできる限り確認した上で、採用することが求められます。

2.若年層:振り返らせて、自信を持たせる
成果主義志向の人事制度のもとで、従業員の自立を求める一方で、特に若年層に対しては節目となるタイミングで、ふさわしい場を設けて、一定の期間支援し続けることが必要です。成果・結果を出したプロセスにおいて、ささやかな成功体験を実感させ、自信を持たせていくことが大切です。

3.中堅層以上:自らの意識で選択、決定する
自らの意思(Will)を持って仕事やキャリア、働き方を選択できる機会をより多く提供し、選択することにより継続的な仕事へのコミットメントを引き出すことが有効です。

環境変化が激しく、競争の中でより成果を志向した制度の中においてこそ、特に若年層に対しては図表5のような成長ストーリーに合わせて、会社が計画的に支援し続けることが必要になるはずです。

図表5 成長ストーリーに合わせて支援する/図表6 個人の成長サイクルモデル

育成マネジメント

環境変化が早まり、かつ複雑化するのに呼応して、仕事の質が高度化し、仕事の範囲や量が拡大しています。このような現場の状況を育成機会と捉え活用できれば、日々の仕事が人材育成の好機となりえます。他方、この状況を放置しておくと、日々の仕事に流され、人材育成は場当たり的になり、従業員の能力の陳腐化、キャリアへの不安、人材流出など、大きなリスクを抱えることになりかねません。

皆さんの企業では、育成に関してどの程度日常化されていますか?

【ゴール設定】
・成長を期待する「人物像」が経営や上司から指示され、メンバーと会話されている
・MBO(目標管理制度)での目標設定において、「本人の成長」の観点からも課題を設定している

【インプット】
・担当職務において必要とされる知識/スキルが明確化され、習得機会が提供されている
・Eラーニングなど、タイムリーなインプットの機会が提供されている
・自己啓発に対しても、費用補助・休暇取得制度などの支援策が提供されている

【アクション】
・自己申告制度、公募制度など仕事やキャリアを選択する機会が提供されている
・期待する人材像に向けて、意識して経験を積ませている
・インプットした知識やスキルを発揮する場が与えられている

【リフレクション】
・研修や、多面観察などのツールを用いて、自分や仕事を見つめ直す機会が提供されている
・評価フィードバックをきっかけに、仕事ぶりを振り返り、次につながるアドバイスがされている

中長期的な視点により育成体系を構築し、育成諸施策に整合性を持たせ、効率のよい仕組みを構築することが求められます。そして、日々の忙しさに流されず、日々の仕事を成長サイクルに結びつけるために、図表6のようなサイクルにより成長の日常化をはかり、育成を加速させることがポイントです。

最後に(じっくり自社の制度を考える)

企業・事業戦略と人事諸制度の上位概念となるHRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)戦略のパターンは以下の4つに集約されます。皆さんの企業では、どのようなパターンによって今の制度を構築・運用されているでしょうか?

企業・事業戦略と人事諸制度の上位概念となるHRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)戦略のパターン/図表7 ミッション・ビジョンからHRM戦略へ

人事制度変更の時間的な余裕や企業・事業戦略の特定・明確化が難しくて、不本意ながら上記の【ベストプラクティス型】に沿った制度導入を行わざるを得なかったケースもあると思います。再度、図表7のような自社のミッション・ビジョンに立ち戻って、人材マネジメントポリシー、HRM戦略、人事諸制度へと整理し、自社ならではの人事制度とはどのようなものかを改めてじっくり考えてみてはいかがでしょうか?

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