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特集

効果を挙げるための組織開発のヒント

変革を通じて組織を成長させる

  • 公開日:2008/05/12
  • 更新日:2024/04/11
変革を通じて組織を成長させる

「組織を良い方向に向けたい」 「今よりもっと強い組織を作りたい」 「自律的に組織が変わるような組織作りをしたい」・・・現在の組織を思いの通りに変革できればすばらしいことです。

しかし、一方で、過去を振り返ると、内需拡大、バブル崩壊、IT技術の進展……等々、企業は、いつでも外部環境に対応するために変革を余儀なくされ、成功し、失敗しています。

“組織を変えたいが、成功に導くように進めるにはどうしたらよいのだろうか?”実際に組織変革を手がけようと考えている皆様の悩みは単純なものではありません。

本特集では、弊社がコンサルティングの現場で培ってきた、組織開発の考え方と基本的なアプローチについて解説していきたいと思います。
アプローチのポイントは、“求められる変革に沿った兆しを発見し、変革への取り組みとして推進させる”という組織の内部の力に着目していること、“課題解決のために必要な組織力を身につけ、自走できるようにすること”にあります。
組織変革に取り組もうとしている方、または、すでに取り組んでいる方にとって、何かしらのヒントを掴んでいただければと思います。

組織開発の全体シナリオを描く
変革対象の関連を意識する
変化の兆しと心理的な壁に着目する
基本的なアプローチ(1)
基本的なアプローチ(2)

組織開発の全体シナリオを描く

「組織開発」という言葉には様々な定義がありますが、本稿では、 “部門間・職場内の関係性を改善しながら、組織内の自立的な活動を促進させ、計画的に変革に取り組んでいくこと”と定義して話を進めていきます。組織開発を進めていく上では、活動の趣旨や意義を明らかにして様々な関係者を巻き込んでいくために、全体シナリオを描いていく必要があります。

全体シナリオを考える枠組み

全体シナリオは、変革活動の前提となる“事業環境”の変化や狙うべき“事業成果”について明示した上で、“目指す姿”、“組織全体としての取り組み”、“現場での取り組み”というコアとなる三層を考えていきます。

それぞれの取り組みの成否のポイントは、(1)各現場がミッションにあった本来の業務にどれだけ注力できるか、(2)ある現場の取り組みの成果が連関し、組織全体や他の現場に良い影響を及ぼせるか、(3)2つの取り組みが、互いに補完し、連携して活動していくようにシナリオを作ることです。

これらを進める上で、組織には促進・阻害要因となる風土・文化があります。これらの心理的な要素は、取り組みを進める上で考慮しなければうまくいくことはありません。

次ページでは取り組む対象の考え方について整理していきます。

変革対象の関連を意識する

顕在化した組織課題の対象範囲は広く、また、それぞれの領域で専門的にさまざまな概念・手法が存在しているため、特定の領域や対象に偏って考えがちです。しかし、組織開発を進める上では、対象を絞って取り組むのではなく、対象のつながりを考え、どこから手をつけることが「取り組みを進めやすくするのか」、「巻き込む関係者に良い影響を及ぼせるか」を考えることが大事です。

例えば、職場で人材が育たないという課題を考えてみます。ポイントは育成の責任を負っている上司の行動であろうと考えられますが、そこだけに注力していても改善されるとは限りません。それ以外にも、事業戦略の方向性と人材像や育成方針の整合や、業務遂行と育成プロセスの関連づけ、評価制度の整備、育成対象者のキャリア自律支援、投資の有効性の検証等が必要かもしれません。

どこから手を打てば有効なのかは、組織の現状や根付いている組織風土により様々です。しかし、変革対象のつながりを見極め、良い影響が望める手を順序良く手を打っていくことが重要です。

組織課題の対象(例)

次ページでは全体シナリオの中で、対象に対してアプローチする上でのポイントについて説明していきます。

変化の兆しと心理的な壁に着目する

変化の兆しに着目する

弊社では、変化の兆しに着目する考え方を重要視しています。それは、“必要な変革に沿った兆しを発見し、変革への取り組みとして推進させる”という組織の内部の力を中心とした考え方です。

1.組織は、組織内部からの力で変わる
2.内部の力の源は、社内にある変化の兆し※である
(※変化の兆し = 問題意識が高く、変革に前向きな個人やグループ、その取り組み)
3.変化の兆しを最大限に生かすことで、取り組みの自律性と継続性が期待できる

これは、単に経営手法やベストプラクティス等を新たに取り入れて組織を強化していく考え方とは異なり、あくまでも内部の力を生かして組織を自己成長させていくという考え方です。

心理的な壁に着目する

どのような組織にも変化の兆しはありますが、組織内でスポットライトを浴びていない可能性があります。その原因は、組織内に知らず知らずのうちに出来上がっている、心理的な壁にあります。その壁は、“組織を良くしていくために必要なことは分かっているが、行動はしない”という状態を作り出します。そうした組織の状態では、変化の兆しが取り上げられることはないのです。

よくある心理的な壁(例)

課題設定の近視眼
ビジネスモデルや先々を考えた長期的思考よりも、目先の課題や目標を取り上げた、短期的思考を優先してしまう

組織の狙いと現場行動の不一致
組織的に新たな方向に行動しようと戦略や組織体制、ルールを変更しても、現場では旧来のやり方を優先してしまう

現場マネジャーの葛藤
現場の負荷をその場しのぎで対応することで精一杯であり、本来やった方がよいと思われることが後回しにされてしまう

風土変革を阻む温床
危機的な状況が示されていても、会社への安心感や職場や上司との良好な関係ゆえに、現行踏襲を受け入れてしまう

組織開発に取り組んでいく中で、キーパーソンに“心理的な壁が生み出した組織の現状”に向き合ってもらい、変化の必要性を認識してもらうことが大事なポイントになります。

次のページでは、組織開発の基本的な5つのステップについて説明していきます。

基本的なアプローチ(1)

この基本的なアプローチは、前述の全体シナリオを描き、変革対象を定め、変化の兆しと心理的な壁に着目しながら進めていくものです。

5つのステップは、大きく2つのフェーズに分かれます。Step1,2,3は、組織内で危機感を醸成しつつ方向性を探り、今後の取り組みの体制を整えるという準備フェーズです。Step4,5では体制を動かしながらパイロットから組織全体へ取り組みを展開するという実行フェーズです。

このステップの中で、変革の対象となるキーポジション、それに求められる行動と責任を負うべき仕組みの3つを合わせ、準備と実行のフェーズを進めます。

基本的なアプローチ(1)

以降のページでは、基本アプローチに沿って、各ステップのポイントを説明していきます。

基本的なアプローチ(2)

Step1 現状を振り返る
ポイント:現状を明らかにするための調査は、最初から膨大かつ煩雑なものにせずに、範囲を絞りながら進めること

このStepでは、現状を各種調査・分析により実態を明らかにしていきます。
調査においては、仮説を設定して調査範囲を絞ること、情報を段階的に集めること等で、無駄を少なく情報を収集することが肝心です。その際、定量的な事実と定性的な事実の両面から状況を明らかにすると、さらに情報は有効なものになります。

【事例1】食品関連 A社 「仮説で焦点を絞る」
A社では、組織風土改革に向けた取り組みを始めるにあたり、社内アンケートを実施しました。
アンケート実施前の仮説として、上司が業務に追われ部下の育成が後回しになっていることと、導入途中にあるJIT方式が部門間のコミュニケーションに悪い影響を与えているという2点を設定しました。
焦点を明確にしたアンケートにより仮説が検証できたことで、管理職にヒアリングすべきポイントを効率よく明らかにすることができました。

【事例2】住宅・不動産関連 B社 「定性・定量の両面を見る」
B社では、ブランド調査の定量的な情報を競合他社と経年で比較し、自社のサービスを評価していました。新たな顧客サービスのあり方を検討するにあたり、定量的な情報に加えて、販売子会社と管理子会社から見た親会社の仕事の進め方に関する顧客の生の声を定性情報として収集しました。
定量情報だけでは分からなかった自分たちの仕事の進め方のまずさ、顧客の対応として新たに取り組まなければならない具体的な場面について実感を持って確認することができました。

Step2 変革の必要性を共有する
ポイント:現実を直視して、組織の中にある心理的な壁を乗り越えて、必要性を共有すること

このStepでは、収集した情報を通じて組織の状況を適切な人に共有し、課題や目指す方向を探っていきます。
収集した情報は、問題を解決すべき当事者に見せ、そこから感じ取れることを当事者の間で共有していくことが重要です。

【事例3】化学関連 C社 「認識の違いを知る」
C社の管理部門は、中期計画の実行上の阻害要因を取り除くため、組織診断アンケートを実施しました。その結果を管理部門内のメンバーで議論することを通じて、各自の視界を理解し、営業の連携やミドル層の問題を明らかにすることができました。
次に彼らは調査対象となった工場や事業部門へ赴き、同様の議論を通じて課題を探りました。その中で、自分たちの認識との違いや認識していなかった問題が多く存在していることに衝撃を受けました。

【事例4】アミューズメント関連 D社 「齟齬のある現実を直視する」
D社では3ヵ年の経営計画を描き、確実に実行・検証していく経営を根付かせることを考えていました。その前提として、経営企画部では、今まで制約のなかった事業投資のあり方を見直す必要性を認識していました。そこですべての事業について実際に創出している付加価値と今後求められる付加価値を算出し、役員が立案した事業計画や事業課題と合わせて役員全員で共有する場を設けました。
今までの事業運営で創出した付加価値と今後の事業計画のちぐはぐな状況に一同愕然とし、事業の整理と今後の事業計画の再検討の必要性を強く認識する場となりました。

Step3 方向性にあった兆しを発見する
ポイント:人材の思いの強さと行動特性を見定め、化学反応が期待できるチーム編成を考えること

このStepでは、潜在的にリーダとなりえる人材や取り組みを推進するチームのメンバーを選定し、体制を作っていきます。
ある程度明確になった解決すべき問題や目指す姿を共有したときの反応を元に、問題意識や使命感の強さ、グループワークでの特性などを考慮して、メンバーを組織化する必要があります。どのように役者を立てるかが今後の取り組みの成否を分けるといっても過言ではありません。

【事例5】金融関連 E社 「根拠をもって人選する」
E社では、組織の活性化を目的に意識調査を実施していました。上級管理職層を集め、意識調査の結果を共有し、日頃議論されない自分たちの組織のあるべき姿や今後の打ち手についてじっくりと話をしました。
その議論の状況をつぶさに観察することで、個々人の問題意識の高さや目指している方向性、行動特性を評価できたため、その後、組織活性化委員会のリーダとメンバーを確信を持って人選し、立ち上げることができました。

【事例6】サービス関連 F社 「大切にしている思いを理解する」
F社では、現場のサービス水準の向上に取り組むため、調査の一環として、現場の管理職に対してインタビューを実施していました。その中で、現状の問題意識と合わせて個人として取り組んでいることを聞き、問題意識を具体的な行動へ落としこみ、前向きに取り組んでいるかどうかを把握しました。
インタビューから、数人のベテランが大切にしている思いの共通性やサービスに対するプライドの強さを理解しました。そこから、サービス水準を向上させる取り組みにおいて、ベテラン達が一枚岩になり活動していくことをきっかけに、組織をうまく巻きこんでいけるイメージを掴むことができました。

Step4 兆しを取り上げ、変革への取り組みを推進させる
ポイント:パイロットでは、単体での成果を見るのではなく、全体へ展開するためのポイントを学習できたかを見ること

このStepでは、具体的に取り組もうとしている活動を試験的に実施し(パイロット)、その成果と展開時の注意点について確認していきます。
組織全体へ取り組みを展開していく前に、その取り組みがどの程度成果を挙げられるか、展開時にどのような障害が想定されるかを明らかにします。そうしたパイロットの結果から、全体への展開方法を再考し、展開時に必要なツールを作成することが重要です。

【事例7】自動車関連 G社 「不完全でもやりきる」
G社では、組織の活性化を目的にした職場のコミュニケーションを振り返るためのオフサイトミーティングを設計しようとしていました。パイロットに向けて事前準備が完全ではなかったため、実施すべきかどうか躊躇されましたが、展開時の論点を検証することを目的にパイロットを実施しました。
パイロットの結果、当初の予想以上に議論が活発に行われるという効果と部門によっては議論の難易度が高いという課題を確認することができました。

【事例8】金融関連 H社 「障害を実感する」
H社では、支店をサポートする本社機能の生産性を高めることをテーマに挙げていました。具体的に取り組むべき対象を定めるために、問題意識の高い人事部門が自らを対象にパイロットを実施しました。パイロットの中で、過去の案件を客観的に振り返り、自部門の上司と部下の生産性の低い行動特性を明らかにすることができました。
自社の行き過ぎた官僚的な組織文化の弊害を改めて認識するとともに、各部門へ展開する上では経営層と管掌役員のコミットメントがない状態では成功はありえないことを理解することができました。

Step5 取り組みを自走させる
ポイント:取り組みを徹底するよう働きかけるために、現場の取り組み状況について定量的に明らかにするこ

このStepでは、取り組みを展開し、モニタリングするための組織化を進め、定着させていきます。
取り組みを自走させるためには、現場を動かすために変革チーム、事務局、管理部門、オーナー役員等の関係者が、現場での取り組みの進捗状況を共有し、適切なタイミングで現場の活動を支援することが重要です。

【事例9】エネルギー関連 I社 「多方面から働きかける」
I社では、変革の一つの施策として支店の現場マネジャーがミーティングのやり方を変えることに取り組んでいました。対象となる現場マネジャーは、5つの支店に50人と多いため、支店別に変革推進担当だけでは十分に働きかけられず、施策の徹底が難しい状況でした。
そこで支店別の変革推進担当と現場のマネジャーの上司にあたる支店長、本部の事務局の3者が情報を共有し、各方面から現場のマネジャーに働きかけることで施策を徹底させていきました。

【事例10】エネルギー関連 J社 「行動するための指標を設定する」
J社のコールセンターでは、顧客満足の改善を図るため、新しい業務のやり方を導入することになりました。その中で、現場マネジャーが適切な行動を取れるように、業務上の主要な指標を旧来の結果指標以外に、「業務が順調かどうか」、「改善余地があるかどうか」を測るプロセス指標を設定し、適切なタイミングで把握できるように切り替えました。 現場マネジャー自身が、自律的にその指標の計画と実績の差異を見て、適切に現場に働きかけていくことで、現場に新たな業務を徹底し、浸透させていきました

さいごに

組織開発の考え方やポイントについて、一通りのご紹介いたしましたが、これらが唯一の方法というわけではありません。業種業態、業績の状況、社員の心理状態などにより進め方は異なり、あくまでも貴社の置かれている状況に応じて最適な進め方を考えていくことが大切です。 本特集の内容が、貴社の取り組みを進める上で、気づきや参考になれば幸いです。

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