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3つのタイプから学ぶ活用のポイント

その意識調査、本当に活用できてますか?

  • 公開日:2009/09/07
  • 更新日:2024/04/11
その意識調査、本当に活用できてますか?

昨今の厳しい経営環境を乗り切り、将来の成長につなげていくために、各企業ではさまざまな施策を実行しています。一方で、従業員は顧客と会社からの期待・要望に応えるべくなんとか踏ん張っています。

こうした厳しい環境下だからこそ「従業員一人ひとりはどう感じているのか」「不満が蓄積していないか」など、従業員や組織の状態を、正しく把握しておくことが、企業にとって以前にも増して重要になっているといえるでしょう。

本特集では、従業員の状況を知るためのひとつの手法として、主にアンケート形式での意識調査を取り上げます。少し前から、従業員満足(ES)ブームともいえる状況も見られ、企業はこぞって従業員の声を聞こうと意識調査を実施しています。結果をうまく活用している企業は、意識調査で現状を把握し、その後の解決策につなげています。さらには経年で実施し、その影響の範囲を広げ、調査自体の内容を進化させています。しかし、ほとんどの企業はそこまでの活用には至っていないのです。

どうしたらせっかく実施した調査をうまく活かせるのか?弊社でこれまで実施してきた100社以上の調査~検証~改善施策実行の事例をもとに、意識調査の現状と効果的な活用についてご紹介していきます。

意識調査がうまくいかない3つのタイプ
【プランニング】「案ずるより産む」タイプ
【フィードバック】「臭いものには蓋する」タイプ
【アクション】「石橋を叩いて渡らない」タイプ
進化を続ける調査

意識調査がうまくいかない3つのタイプ

意識調査をうまく活用していくには目的・仮説の「プランニング」、結果の「フィードバック」、改善への「アクション」という、3つの観点から考えます。細かく見れば、各所に気をつけるべき点はたくさんあるのですが、ここでは活動全体を見る視点から大きく3つに分けて紹介します。

まずは“活用できていない”と考えられる状態を知ることから、目指す姿を考えてみることにしましょう。意識調査を実施してみたもののうまくいっていないと悩んでいる企業は、ほとんどのケースが以下の3つのいずれか、あるいは複数にあてはまるようです。

意識調査がうまくいかない3つのタイプ

次ページからは、それぞれのタイプが陥っている状況と、解決に向けたポイントを、ケースも交えながら順に説明していきたいと思います。

【プランニング】「案ずるより産む」タイプ

●よく聞くお客様のお悩み
・「社長が代わり『今の会社の状況を把握したい』とのことで、意識調査をすることにしました」
・「CS(顧客満足)のためにはESが大事なので、当社でもES向上を目指すことにしたんです」
・「親会社がやっているから、実施しろと言われているんですよね」

企業の担当者の方に、意識調査を実施する目的・背景をお尋ねすると、こんな答えが返ってくることがあります。

●データの迷路で宝探し?
意識調査をとりあえず実施して、結果を見ながら何か有用な情報や自社の課題はないかを見つけようというケースは少なくありません。しかし、このような展開の場合、往々にして“宝探し”に陥ってしまいます。もっと分析を重ねれば何か見つかるんじゃないか、と探し続けた結果、データの迷路で迷子になってしまうのです。聞きたい質問を、ただ順に並べて構成された意識調査からでは、自社に合った課題が自動的に出てくるということはほとんどありません。

●調査で何をしたいのか?
理想的には、調査を実施するにあたって、「意識調査をなぜ実施するのか?」「調査によって何を明らかにしたいのか?」「結果に基づきどんな施策を展開したいのか?」といったことを、ビジョンや経営方針、事業の状況に照らして明確に位置づけておく必要があります。その上で、目指す方向に対する組織の現状を踏まえた課題を設定し、その仮説に基づいた質問項目の設計を行います。つまり、明らかにしたいことや調査後のアクションに対して、なんらかの意図や意思、思惑を持った状態で質問を設計することこそ重要だといえます。

ただ、現実としてはまず調査をやってみようというところから始まることが多く、とりあえず実施してみること自体は、ファーストステップとしてはよいことではあります。なぜなら調査内容が一般的なものであっても、特に気になっているテーマに合わせて結果を見ることによって、有用な情報を読み取り、適切な課題を設定することができるからです。

●一口に「顧客志向」といっても……
顧客志向やお客様満足を掲げている企業を例に挙げてみましょう。
弊社の汎用的な意識調査では、図表1のようなカテゴリから質問が構成されています。そのまま結果を見れば、カテゴリごとの得点傾向が読み取れるのですが、例えばこの企業の特性にあわせて顧客満足に関わる要素を抜粋して検証してみます。ここでは影響が考えられる要素として、仕事の特性・負担感・職場内の連携・上司のサポートといった項目をピックアップします(この作業を“リフレーム”と呼びます)。すると、「職場における顧客志向は比較的高い水準にあるが、仕事の量的な負担が高く、職場内の連携も十分取れているとはいえない。現在は、顧客に対してよりよいサービスを提供していこうという個々の高い意識で担保されていると考えられるが、反面、個人の意識頼りともいえなくはない。今後は、上司や周囲のサポートの体制・仕組みについても検討していく必要がある」といった解釈ができることになります。さらに、関連付けて読み取った項目の間に統計的に有意な関係が見られるかどうかを、相関分析などの手法で検証していくこともできます。
すなわち重要なのは、出てきた結果と事前に整理した事業課題をいかに結び付けて考えていくことができるかどうかにあります。

【図表1 調査結果の解釈】

【図表1 調査結果の解釈】

【フィードバック】「臭いものには蓋する」タイプ

●よく聞くお客様のお悩み
・「結果を従業員にそのまま返すと、数値が一人歩きしてしまう。その結果、どこの部署が高いとか低いとか、単なるうわさのネタになってしまうだけなので、返すのは管理職までに留めておくのがいいんじゃないか」
・「意識調査は経営や人事サイドが現状を把握して、必要な施策を検討する材料にすればよいので、現場に返す必要はない」
・「結果だけ返すと、どうするつもりなのか?を問われるので、今後の取り組み施策とセットでないと返せない」

調査結果を現場へ返すことについて、担当者の方がこんなことを話されていることがあります。

●「結果を返さない」=「ネガティブフィードバック」!?
調査に対して回答したということは、回答者側の心理としては何らかの意見であったり、期待や要望、不満の声をあげたということになります。こうした調査は、匿名で実施するケースが一般的ですが、回答者はそれなりの覚悟(ちょっと大げさかもしれませんが)を持って回答したことには変わりありません。これに対して何のレスポンスもないというのは、答えた側からすると不満が募ります。つまり、結果を返さないことそのものがネガティブフィードバックともいえるのです。ちなみに、意識調査の中でフリーコメント(自由記述)をとる場合も多いのですが、その中で調査そのものに対する意見を聞くと、「結果がきちんと返されていない」という不満がトップ3に入るケースは非常に多いです。

●お勧めは各職場での意見交換
フィードバックの仕方ですが、まずは全従業員向けに、全社の調査結果をフィードバックするのはもちろんのこと、「結果は誰がどのレベルの情報まで見ているのか」「結果をどのように受け止めたのか」「今後どうしていこうと思っているのか」といったことを、繰り返し現場に伝えていく必要があります。また、部門単位では、少なくともマネジメント層には、部門全体の状況を、経営層と同じ目線で共有しておく必要があります。そして、本特集で特にお勧めしたいのは、各職場で職場のメンバーを交えて、結果について意見交換する場をセットすることです。この場では、必ず解決策を決めるとか、綿密な計画を作り上げるといったゴール設定はしません。調査結果を通じて、職場に対するお互いの見方や考え方をじっくり共有し合うことをゴールと置きます。
ただし各層に結果を返す際のポイントとしては、数字に過剰反応してしまわないように読み取る際の基準を示したり、どこを中心に見ればよいのかを伝えていくなどの配慮は必要となります。また、調査の目的や背景などの情報を繰り返し伝えていくことが重要なのは既に述べたとおりです。

●フィードバックの2:6:2
本部組織へ調査結果をフィードバックしたケースをご紹介します。このケースでは10ある本部に対し弊社が直接結果をご報告するとともに、その場で結果をめぐってディスカッションを行いました。2つの本部では、非常に活発で建設的な意見が飛び交い、管理職が一般社員も交えてディスカッションしていく活動などに展開しました。6つの本部では、基本的に調査結果は現状を表しているものとして、現場の状況もイメージしながら理解し受け容れられました。しかし、その後の活動につながるかどうかは五分五分といったところです。残る2つの本部では、結果を受け流したり、調査自体の信頼性について異論が出たり、環境要因など他責にする意見が噴出したり、なかなか調査結果に向き合うところまでいきませんでした。過去の事例などによる経験則として、フィードバックに対する反応は、概ねこのケースのように2:6:2に分かれると思います。特に社内的に弱い立場にある部署などで悪い調査結果が出ると、部署の扱われ方などに話が飛び火して、場が“炎上”することもあります。この会社の中で調査が活用できた2つの本部は、トップである本部長のリーダーシップはもちろんですが、本部の企画担当が意志を持って活動に関わったことが大きなポイントとなりました。

【図表2 フィードバックの事例】

【図表2 フィードバックの事例】

【アクション】「石橋を叩いて渡らない」タイプ

●よく聞くお客様のお悩み
・「1年経って2回目の調査を実施したけど、あまり結果が変わらない」
・「手を打ったほうがよさそうな課題がいくつか上がってくるけど、どれから順に手をつければよいのだろう?」
・「取り組んだことが結果にどれだけ表れているのかが分からない」

意識調査を継続して実施してきたが、具体的な施策の実行にまで及ばなかった企業において、よく聞かれる声です。

●結局何も変わらない!?
上記のように、「調査の実施から施策への展開ができない」「進め方が分からない」といったご相談は調査の回数を重ねるほど増えてきます。最終的に何らかの手が打たれて、少しずつであっても変化が感じられなければ、従業員からの見え方としては、「調査するだけして、結局何も変わっていない」ということになります。変わる見込みがないままに調査が毎回実施されると、調査の実施自体が、逆に満足度を下げることにもなってしまいます。

●全社レベル施策と職場レベル施策
有効な打ち手を見出していくには、「適切な人が、適切な情報を元に、適切な場で議論すること」、これが原則です。打ち手は大きく分けて、全社レベルでの取り組みと、職場レベルでの取り組みに分かれます。
全社レベルの施策を検討するのは、人事や経営企画といった部門が中心でしょう。まず、前提としてオーナーとなる役員層のバックアップがあることが重要です。さらに、具体策を検討する際には調査結果だけにとらわれることなく、その背景・要因を踏まえて検討します。また、実際に施策を実行することはもちろん大切ですが、従業員に対して課題をどう設定し、どのように対応しようとしているのかを伝えることは、大きなポイントとなります。意識調査で上がってくる課題は、変化を実感するのに時間がかかる取り組みが多くなります。「打ち手を見極めてから伝えよう」「効果が確認できてから伝えよう」と考えているうちに時間が経ってしまい、従業員に「何もアクションがない」と映ってしまうことは避けたいものです。
職場レベルでは、同じように職場という身近な単位での打ち手を考えることになるわけですが、本稿では職場レベルでは問題解決型のアプローチではなく、前ページで述べたような職場での調査結果を使った意見交換の“場”そのものを、職場づくりのための施策として捉えていただきたいと考えています。

●役員のリーダーシップによる活動
調査結果を施策につなげていくために、役員層がリーダーシップをとった事例をご紹介します。
当時、従業員の見方としては、さまざまな調査が実施されているものの変革・改善につながっている実感がなく、「また調査をやるのか」という印象でとらえていました。そのため、意識調査の結果を真摯に受け止め、明らかになった課題について会社として取り組んでいくことを示していく必要がありました。
そこで、各部門の役員レベルが自ら結果を分析し、年度方針の中の活動として公表しました。その結果、全社としての問題意識が共有され、役員の間で施策に対して協力・連携しようとしている様子から、調査に対する本気度やその重要性が従業員に伝わりました。また、子会社も含めたグループ全体での統一実施だったこともあり、グループ会社横断の委員会を設置しました。委員会では、各部門の活動状況の把握とグループ全体で取り組む施策を企画し推進するということを担い、継続的な活動として展開していきました。
このケースでは、役員層が従業員に対して本気度を示し、活動を立ち上げていったことにより、ようやく調査が活用されるようになったというわけです。

【図表3 アクションへのステップ】

【図表3 アクションへのステップ】

進化を続ける調査

●段階的に展開する調査
ここまで調査に関する3つの活用しきれていない事例と、その解決方法について紹介しました。
■プランニング:実施の目的や課題を整理しておく。
■フィードバック:少なくとも全従業員に全社単位、マネジメント層には部門単位の結果をフィードバックする。
■アクション:どう課題を設定し、どう対応していこうとしているのか伝えていく。各職場で意見交換する場を設ける。
各ステップのポイントを整理するとこの3つになります。いずれも重要なポイントではありますが、時間や費用などの面で負荷がかかる部分もあり、最初からすべてを満たすことは難しいというのが現実ではないでしょうか。

そこで、意識調査をうまく活用している企業を見ると、「年ごとに調査の内容を見直す」「結果のフィードバックをする対象者を徐々に広げる」といった段階的な取り組みをされています。

【図表4 調査の進化イメージ】

【図表4 調査の進化イメージ】

例えば、初回実施ですべての職場に対して各職場単位のデータを返していくのは、「どんな結果が出るか不安に感じる」「すべての職場の状況を把握しフォローするのは大きな負荷がかかる」というような不安を感じられる方も多いでしょう。このような場合は、初年度はまず管理職に自職場の結果を返し、従業員全体には全社の結果を中心に広報し、次年度に職場単位の結果を返していくといった方法があります。
初回はそもそも自社はどれくらいの得点になるのか、他社と比べて高いのか低いのかが特に気になるでしょうし、2年目は、初回と比べてどこがどれくらい変わったのかどうかの、数値の変化が気になるでしょう。3年目ともなると、施策を実践し続けた職場と、何も実践していない職場の差が拡大し、もっと有効な施策に展開すべきだと思うことも多くなるようです。このように意識調査も回数を経ていく中で、自社にあった形に徐々に進化させていけばよいのではないでしょうか。

●継続することの必要性
また、そのためには一連の活動を継続していくことが必要です。コスト削減により予算が確保できないといった状況もありますが、限られた予算の中で優先順位をどうつけるかは、経営層からのメッセージそのものといえます。
厳しい環境下でも従業員の声を聞きながら経営戦略の舵取りをしていこうという姿勢は、従業員に対する経営層の信頼の表れであり、その声に応えていく事で従業員の会社への信頼感も高めていくことができるでしょう。

さいごに
意識調査は使い方によっては、「会社側が行っている施策が正しいことを確認したいだけではないか」といったうがった見方をされてしまうこともあります。その一方で、「今まで改めて話し合うことがなかった自分たちの組織に対して、お互いがどう思っているのかがよく分かった」というように、相互理解を深め、職場の風土を変えていくきっかけとして使うこともできます。職場や会社について思ったことを自由に発言することができるかどうかは、話し合うコンテンツの問題だけでなく、場への安心感や信頼といった要素が重要になります。結果のフィードバックの場を課題解決的なアプローチのみに終わらせるのではなく、フィードバックをきっかけに、定期的な対話の機会を設けるなどの活動に広げ、職場について思っていることを気楽に、でもまじめに語り合えるような風土づくりにつなげていただくことを推奨します。

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