STEP

特集

「いい会社」から考える人事の役割

働く人の代弁者であり、経営のパートナーとなる人事とは

  • 公開日:2010/07/05
  • 更新日:2024/04/07
働く人の代弁者であり、経営のパートナーとなる人事とは

いい会社の研究は、昔から行われています。代表的なものとして、ピーターズとウォータマンの「エクセレント・カンパニー」、コリンズとポラスの「ビジョナリー・カンパニー2」が挙げられます。 「エクセレント・カンパニー」では、成長率と財務諸表の健全さという観点、「ビジョナリー・カンパニー2」では、30年間の株式運用成績によって、「いい会社」を定めています。いずれも財務的業績がいい企業を「いい会社」としています。

一方で、財務的に大きな飛躍はないが、長く事業を継続している企業も、今後の企業経営を考えるにあたって、注目に値します。特に、100年を超える「超長寿企業」は、近代国家誕生以前に創業され、この100年間の激変する環境を生き残ったという観点で、「いい会社」といえるのではないでしょうか。

また、働く人の「働きがい」というのも、「いい会社」を考える上で、必要な観点であるといえます。従業員がいきいきと働いているという側面は、企業の社会的責任からも、今後より重要視される観点であると考えられます。

今週の特集では「いい会社」を、「財務的業績」「長寿性」「働きがい」の3つの観点から考えていきます。

「いい会社」に共通する4つの特徴(1)
「いい会社」に共通する4つの特徴(2)
競争力の源泉は人にある
「いい会社」に今求められる人事の役割
人事の役割

「いい会社」に共通する4つの特徴(1)

「財務的業績」の特徴については、弊社組織行動研究所のプロジェクトメンバーによって、1974年9月から2008年6月までの、全上場企業の株価リターンを計算し、産業別に株価リターンが大きかった企業を選出し(表1)、各企業の事実分析(※1)を行いました。 そして、「長寿企業」の特徴に関しては、亜細亜大学教授 横澤利昌氏が中心に行った長寿企業の調査(※2)を参考にし、「働きがい」については、Great Place To Workモデルを参照しました。

そこから導き出された「いい会社」に共通する特徴は、以下の4つです。
(1)時代の変化に適応するために自らを変革させている
(2)人を尊重し、人の能力を十分に生かすような経営を行っている
(3)長期的な視点のもと、経営が行われている
(4)社会の中での存在意義を意識し、社会への貢献を行っている

4つの特徴に大きな驚きの事実はないかもしれません。すでに多くの人によって、語られていることであるし、実際に多くの会社で実行されている内容でもあるからです。

【表1 株価リターン上位銘柄(東証上場企業:1974年9月~2008年6月)】

【表1 株価リターン上位銘柄(東証上場企業:1974年9月~2008年6月)】

※1 事実分析に用いた資料は、対象企業の創業から現在までに関して書かれた書籍、社史、記事などです。成功要因の抽出方法としては、まず初めに、過去の同様の研究を参考にした持続的に成長するための条件と考えられる要素を、次に収集した各社資料の「事実」を抽出し、各要素に該当するかどうかのチェックを行い、「持続的成長を促進するための要素」75項目を厳選して抽出しました。各社にインタビューを申し込み、チェック依頼、最後に、会社ごとにチェックした75項目の要素を業績のいい会社すべてで見ていき、「成長期・安定期でも危機感がある」「成果やプロセスをモニタリングする仕組みがある」などの成功要因を抽出していき、財務的な業績が良好な企業の特徴を構築していきました。
※2 横澤利昌編著(2000)『老舗企業の研究-100年企業に学ぶ伝統と革新』生産性出版

「いい会社」に共通する4つの特徴(2)

この4条件は、互いに関連しています。環境に適応するために自らを変えていく必要があります。その変革の主体は人であり、その人の持っている能力を最大限に引き出すために、人を大切に扱うことが求められます。一人ひとりが持っている知恵や能力を促進させ、働く意味を持たせ、やる気にさせるために、その会社の「社会での存在理由」を明確にしています。また、変革の方向性を考える上で、あるいは社会での存在理由を考える上で、長期的な視野が必要となってきます。

「いい会社」に共通する4つの特徴(2)

競争力の源泉は人にある

4つの特徴の中で、「人を尊重し、人の能力を十分に生かすような経営を行っている」という観点は、最も人事の関心ごとに近い領域です。
「人を尊重する」ということは、一人ひとりを丸ごと人として見ていますかということです。それは、終身雇用制度でもありません。一人ひとりと向き合い、一人ひとりを信頼し、持ち味、強みを生かす経営です。

今後ますます、「人」が競争力の源泉になってきます。働く人のやりがいを高めるために、「一人ひとりと向き合う」ということは経営の基本であり、人事の基本でもあると考えられます。そういう観点で、再度、人事施策を点検してもいいのではないかと思われます。

豊かな社会になればなるほど、働く人の動機は、より高度になってきます(図1)。
「社会の中での存在意義」が認識できる企業で働くことによって、仕事への意味付けはより容易になります。自分がやっている仕事が社会に役に立っていると思えることは誇りになります。人はそういう会社に勤めたいと思うし、そういう仕事に懸命に向かうことができます。したがって、社会から支持される会社をつくることは、採用で自社に必要な人をひきつけ、働きがいを提供し、人の知恵を引き出すことにつながります。

【図1 社会貢献意識の推移】

【図1 社会貢献意識の推移】

(備考)
1.内閣府「社会意識に関する世論調査」により作成
2.「あなたは、日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っていますか。それとも、あまりそのようなことは考えていませんか。」という問に対し、回答した人の割合。
3.回答者は、全国20歳以上の者。

そのような観点で採用活動をあらためて定義することによって、人事の役割に広がりを持たせることができるのではないかと思われます。

「いい会社」に今求められる人事の役割

ビジネスは、基本的に未来を扱います。その未来は、3カ月先のこともあれば、10年先のこともあります。あるいは100年先ということもあります。
新卒採用ということであれば、40年レンジで考えておく必要があります。厳密には、そこまで長期の雇用責任はないかもしれませんが、今年採用した人が定年まで働き続ける可能性はあります。そのリスクを勘案して、採用する必要があります。

人事部門が、40年後のビジネスを予測することは本業ではないかもしれません。しかし、自社のコア・コンピテンスと競合との位置関係を考えながら、10年後、20年後ぐらいのグランドデザインを一度描いてみることは、試す価値があることだと思います。というようなことを念頭に置きながら、人事は動いていかなければいけません。競争が激しくなればなるほど、長期でモノを考え、未来を先取りする戦略の競争になり、人事は人事なりの対応が必要になってくると思われます。

企業を取り巻く環境は常に変化していきます。最初は小さい動きであっても、やがて大きな動きに変わっていくこともしばしばです。音楽業界では、音質の悪いMP3に関して否定的でした。音楽をダウンロードする作業の面倒くささやパソコンで音楽を聴くことを誰も好まないと思っていました。そこへアップルがふらりとやってきて、あっという間に世界最大のオンライン音楽配信業者に成長しました。
同様に、写真機のアナログからデジタルへの転換、オフセットからデジタル印刷への転換、あらゆる業界において、時代は変わり、時代に合わせた変革が必要になってきています。

そのような時代において、企業を安定的に成長させていくためには、一過性の戦略形成力ではなく、組織として環境に適応する力をつけられるかどうかです。環境に適応するために、常に危機感を持ち、過去の成功体験に縛られず、自らを変えていく力があるかどうかです。そして、そのことを愚直に継続できるような経営理念、風土になっており、その実行を支援する教育、制度、日常のマネジメントになっているかどうかが成長を持続できるかどうかの鍵を握っています。

そのことを支援することが人事の役割です。つまり、教育プログラムや制度をつくるのが人事の仕事ではなく、企業が環境に適応できるように、「働く人の意識や行動」を変えていくことが人事の役割です。働く人にとっても意欲がかきたてられるものでなければいけません 。

人事の役割

人事は、働く人の代弁者であり、経営のパートナーです。また、組織内の秩序を保つと同時に、外部環境へ適応するために変化を促進させる役割もあります。短期的な視点に傾きがちな経営に対して、長期的な観点を持ち込むことも人事の役割です。人はコストですが、価値を創造するリソースです。 グローバル化、メンタル不全、若者の早期戦力化、ポスト不足、中高年の活性化、次世代リーダーの育成など、人事の仕事は現実の対応に追われがちです。それゆえにあらためて役割を明確にしていく必要があります。 「いい会社」の特徴である、「環境に適応する組織」「人の尊重」「長期的視点」「社会的存在意義」という観点は、経営のあるべき姿を考えるきっかけになり、その中での人事の役割を考えさせる材料になるのではないかと思います。

SHARE

コラム一覧へ戻る

おすすめコラム

Column

関連する
無料オンラインセミナー

Online seminar

サービスを
ご検討中のお客様へ

電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付/8:30~18:00/月~金(祝祭日を除く)
※お急ぎでなければWEBからお問い合わせください
※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください

SPI・NMAT・JMATの
お問い合わせ
0120-314-855

受付/10:00~17:00/月~金(祝祭日を除く)

facebook
x