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特集

ハードの統合からソフトの融合まで

M&Aの組織・人材マネジメント<前編>

  • 公開日:2006/04/01
  • 更新日:2024/04/11
M&Aの組織・人材マネジメント<前編>

弊社では、合併に伴う人事制度の設計・組織融合のお手伝いをさせていただくことがあります。その大半は、いわゆる「水平・対等」方式の合併になります。人事の観点からすると、社員のモラールやモチベーションに配慮した「水平・対等」方式の合併は、日本的なスタイルであり、風土・文化の融合も進みやすく現実的な方式であるように見えます。しかし、いざ、実際にそれぞれの組織や制度を統合しようとすると、難しい点も少なくありません。

本特集では、弊社がこれまでお手伝いしてきた事例をベースに、「水平・対等合併」の場合の、制度(ハード)の統合と、風土・文化(ソフト)の融合の方法を、具体的なツールの紹介を交えて提示してみたいと思います。

制度(ハード)の統合部分を前編、風土・文化(ソフト)の融合部分を後編としてご紹介いたします。今回の特集では前編の制度(ハード)の統合についてとりあげます。

水平・対等合併という形態の難しさ
統合人材マネジメントポリシーの再構築
等級制度の統合と運用
評価制度の統合と運用
賃金制度の統合

水平・対等合併という形態の難しさ

平成16年度の『公正取引委員会年次報告』(独占禁止白書)によると、日本国内の合併形態は、製造業、非製造業によらず、水平関係での合併が過半数を占めています。また、統合比率に明らかな差がある場合であっても、案件公式発表では「対等合併」として広報され、それに基づいてその後のプロセスが進められる点も大きな特徴と言えます。つまり、統合比率によらず、「水平・対等合併」という形で、双方のやり方を尊重する事が求められます。

人事の観点からすると、対等合併という形態は、社員(時にOB・OGまでも含めて)のモラールやモチベーションに配慮した日本的なスタイルといえます。しかしその半面、実際に組織や制度を統合・融合するにあたっては、以下のような現象が少なからず見受けられます。

組織面
・役員・管理職ポストを平等に配分することに留意した結果、組織の重複が残ったままとなる
・対等関係で複数の企業がそのまま合併・統合したことにより、人員が足し算のまま残っている
・ポストや業務の重複により、組織が巨大化・複雑化してしまい、意思決定プロセスが煩雑となり遅くなる

人事面
・「いいとこ取り・残し」で制度を統合した結果、会社の方針や戦略と制度が乖離し、制度への疑義・不満がでる
・賃金水準の違いを解消すべく移行・調整措置を設けたが、あるべき姿からかけ離れた運用実態となっている
・統合前の駆け込み昇格・昇進により、資格のレベルと実際の仕事・役割内容とがねじれている

風土・文化面
・たすきがけ人事、業務の重複、明確なポリシーや方針の不在などで、組織・風土の融合が進まない
・価値観・考え方や業務の進め方の違いばかりが目立ち、シナジーよりもマイナスの現象が顕在化している
・融合の重要性を認識しつつも、融合のきっかけや兆しがなかなか見出せないまま現状に流されている

統合人材マネジメントポリシーの再構築

日本企業間での水平・対等合併型の場合、人事制度統合のリードタイム、すなわち統合案件の公式発表から実際の組織統合実施までは、12ヵ月~15ヵ月となる場合が多く、実質的には1年足らずのうちに、制度統合を進めることを強いられることが多くあります。その結果、実際の組織統合までの制度の統合が目的となり、ややもすると急ごしらえ、間に合わせで人事制度が統合されがちです。

本来、組織の観点としての統合会社のビジョンや基本方針、個人の観点としての社員意識や風土・文化、これら両方を検討した上で、統合人材マネジメントポリシーを構築し、人事制度(ハード)の統合と、風土・文化(ソフト)の融合を進めることが理想的です。特に水平・対等合併の場合、統合時にはビジョンや基本方針がまだ具体化されていなかったり、社員意識や風土・文化に関して考慮するだけの余裕がない場合が大半だと思われます。そうした場合には、実際の組織統合後、なるべく早いタイミングで「総合人材マネジメントポリシー」を再構築し、人事施策を見直し、再設計していくことが最善策といえます。(図表1)

対等・水平合併の場合には人材マネジメントポリシーからHRM戦略、人事制度や組織融合へと展開する際に、特に「風土・文化」や「社員意識」の実態把握をしっかりと行い、そこから有効な情報を得ることが重要となります。
まず、両社がどのような風土や文化を持っているのか、また社員が仕事や職場、上司や会社にどの程度満足し、どう認識しているのかについて、それぞれの共通点と相違点を明確にします。これらを人材マネジメントポリシーに適切に反映させることで、両社の社員にとって納得感の高い人事制度を設計する事が可能になります。(図表2)

図表1/図表2/図表3

社員意識の把握

ここでは社員意識を把握するためのひとつの方法をご紹介します。

弊社では、社員意識を把握する手法として「ESサーベイ2」を提供しています。満足度(結果指標)とそれに影響を及ぼす要因とに分けて捉え、満足度の構造を立体的に解釈します。企業人の満足度やモチベーションを左右すると言われている「仕事」「職場」「上司」「会社」の4つのカテゴリー別にその実態を明らかにしていきます。

これらのアセスメントにより、統合企業がお互いの風土文化や社員の意識の相違点を十分に理解した上で、人材マネジメントポリシーおよび人事制度組織融合施策を考える事が可能になります。(図表3)

等級制度の統合と運用

評価制度の統合

前述のような方法で人材マネジメントポリシーを再構築した後、具体的な人事制度へと展開する事になるわけですが、各人事制度の中でも、中心に据えられるのが「等級制度」になります。

最近、弊社でお手伝いさせていただく事例を改めて見てみると、統合前に、既に両社とも能力を基準とした制度から、職務や役割を基準とした制度に移行済みである場合も、多く見受けられるようになりました。また、統合を機に職務や役割を基準とした制度へシフトする例もあります。

いずれにせよ、このような場合は、職務や役割を(再)評価することが必要となります。ここで大切なことは、(再)評価を行う、タイミングと方法です。本来、職務や役割の評価を行うには、その前提となる組織構造が定まっており、それに基づいて個々の職務・役割の内容がある程度決まっていることが必要です。しかし実際には、統合前や統合直後は、個々の職務・役割や、
その前提となる組織は未確定だったり流動的である事が多いのが現実です。

そこで、ある程度組織構造が定まり、個々の職務や役割が評価しうるようになったタイミングで、初めて評価を実施するケースが考えられます。その際には、統合後の組織内の代表的な職務を基準として設定し、それらとの比較の形で評価を行う(相対評価)ことで、ブレが少なく、新たな組織内でのコンセンサスも得やすい評価が可能になります。
統合時における絶対評価による職務評価と、相対評価による職務評価の特徴、メリット・デメリットを記します。

等級制度の統合と運用

尚、弊社では、代表的な職務を基準とした相対評価による手法として「職務評価システムJOES」を提供しています。

評価制度の統合と運用

評価制度の統合

人事制度の中心となる等級制度が定まった段階で、次に評価制度を統合していくことになります。

人事評価制度の内容や名称は各社各様ではありますが、最近では「目標管理制度(MBO)」と「行動評価(コンピテンシー評価)」の2つの評価制度を取り入れている企業が多いようです。(その他、「知識・スキル評価」「情意評価」などを実施している企業もあります。)

ここでは最近の「目標管理制度(MBO)」と「行動評価(コンピテンシー)」を統合する場合のメリットと課題を記します。

評価制度の統合と運用

目標管理制度(MBO)は、制度そのもの(シートや評語、標準分布等)を統一するのは簡単であっても、運用方法を統一するには注意が必要となります。この点は次の「評価制度の運用」で別途説明します。

一方、行動評価(コンピテンシー)に関しては、制度そのものを統一する事が比較的困難と言えます。何故ならば、「片方の企業は行動評価(コンピテンシー)を導入しているが、もう片方は能力評価を導入している」という場合や、「両社とも行動評価を導入しているものの、それぞれの項目・内容が異なる」という場合など、様々なケースが存在するからです。

とはいえ、いずれの場合においても、新たに行動評価(コンピテンシー)の制度を構築し、統一することが現実的です。その際、統合新会社での人材マネジメントポリシーや経営環境を踏まえた上で目的・狙いを明確にし、以下のいずれかのアプローチで統合していく方法が非常に有効です。

(1)バリュー浸透・意識づけ
・バリューそのものを熱く伝えると同時に、できるだけ具体的な行動の形で表現。バリューによる切り口であるため、網羅性にとらわれる必要はない。「何を大事にするか」を絞り込むことが肝要
・すでに明文化したものがあれば、それに沿って項目化。表面的に捉えることのないよう、ヒアリングや資料の読み込みにより背景やこだわりをしっかり理解した上で設計することが必要

(2)今すぐ行動変容!
・両社のハイパフォーマーたちの行動を、事例をもとに深く聞き出し、共通する「成果をあげるためのポイント」を抽出。
具体的な行動例を項目と紐づけて象徴的に紹介することも有効、メンテすることで統合会社のコアコンピタンスに直結
・「統合後の業務プロセスでは通用しなくなっている」という場合もあり、トップや上司からの情報も重視することが必要

(3)キャリア開発支援
・社員が自分のキャリアを考える上で役立つよう「この職種の仕事をするにはどんな能力が必要か」を整理して提示
・「プロセス」や「場面」よりも「能力」の切り口でフレームを設計。インタビュー等の情報を分析し最適なフレームを導き出す
・階層の違いも明確化が必要。階層の違いは「レベル差」よりも「視点の違い」が効果的

評価制度の運用

統合前の各社ごとの制度運用の相違が最も色濃く出るのが、評価制度の運用場面です。制度(評価フォーマット・評語・標準分布等)の統合は比較的簡単にできても、実際の運用の場面では、目標の設定から、実際の評価・フィードバック方法まで、評価者がこれまで慣れ親しんできた価値基準や評価方法がそのまま表出することがよくあります。

ただでさえ、評価者の評価マインドとスキルのバラツキを一定範囲に抑えることは困難である上に、統合時は新たな制度による運用プロセスを、両社で統一していく事が求められます。新制度に関する丁寧な説明会を実施し、詳細なハンドブックを配布しても、制度の主旨通りの運用を実現するのは非常に難しいといえます。

そこで、統合時に必要となるステップとして、評価者間で以下の3点を実際に経験していただく機会が必要になります。

1.【違いを知る】
これまでの評価基準・評価方法、実際にどのようにフィードバックを実施してきたのかを共有し、お互いの相違点を認識する

2.【違いを無くす】
お互いの違いを知った上で、新たな評価制度における評価基準・評価方法を理解し、お互いの違いを無くす

3.【理解を深める】
1,2で評価基準や評価方法を統一していく過程で、お互いの価値観や考え方に触れ、お互いの理解を深める

賃金制度の統合

水平・対等合併に際しては、「賃金制度」の統合が最も困難な課題になりがちです。

職務給や役割給の統合においては、賃金格差が大きい場合でも報酬レンジを広く設計し徐々にあるべき姿へと収束させるような制度設計を行なうことも可能です。

しかし、職能資格給や属人的な給与の統合では、従業員の士気や組合側への対応を考えると、基本的には高い賃金レベルに寄せざるを得ない場合が多くなります。統合を機に、属人的な給与部分の比率をしかるべき水準に引き下げることが解決策の1つといえます。

賃金制度の統合

今回の制度(ハード)の統合についての特集はいかがでしたか?
日本の企業同士の水平・対等合併の場合には、その形態ゆえの難しさをしっかり認識し、風土・文化や社員意識を踏まえたうえで、統合後の運用も考慮した制度(ハード)を統合する必要があると思います。

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