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特集

ハードの統合からソフトの融合まで

M&Aの組織・人材マネジメント<後編>

  • 公開日:2006/05/01
  • 更新日:2024/04/11
M&Aの組織・人材マネジメント<後編>

風土・文化(ソフト)の融合は、合併という転機において避けて通れない重要なテーマであるとの認識はされていても、どのタイミングで、何をしたら良いか、なかなか判然としないものです。また、どうしても制度(ハード)の統合を間に合わせることが優先されるため、ソフト面の施策は後回しにされがちです。しかし、ソフトの融合チャンスは3回あり、各社の置かれた状況に応じたタイミングで着手することが重要です。

今回の特集では、前回の制度(ハード)の統合に引き続き、風土・文化(ソフト)の融合について、具体的・一般的な事例をベースに、タイミングごとのポイントをツールの紹介を交えて提示してみたいと思います。

ソフト融合の3つのチャンス
ソフト融合のポイント
最初の融合チャンス事例
2番目の融合チャンス事例
3番目の融合チャンス事例

ソフト融合の3つのチャンス

どのような合併のケースにおいても、ハードの統合後、一定の期間が経過すると自ずと1つの組織として安定期に入ります。ソフト面においては、この安定期に入る前にいかにタイミングを見計らって風土・文化の融合を進め、合併当初のパフォーマンス見込みと実際との乖離を解消するのかがとても重要であるといえます。

具体的なタイミングとして、以下3つのチャンスがあると考えます。

【最初のチャンス】
合併当初にハード(制度)の統合と同時に、ソフト(風土・文化)の融合もはかり、合併によるパフォーマンスの見込みと実際の乖離を早期に解消します。

【2番目のチャンス】
合併後、ある程度時間が経過しても、思い通りのパフォーマンスが出ていないとの問題意識が醸成されたタイミングで、ソフトの融合を推し進め、早めに合併時の見込みと実際との乖離を解消します。

【3番目のチャンス】
合併後の組織・業務の混乱が収束し、1つの組織としてパフォーマンスが向上してきたタイミングで、ソフトの融合をはかり、合併の成果実現を加速させ、合併時の見込みと実際との乖離を解消します。

この3つの融合チャンスに沿って、それぞれのポイントと具体的・一般的な事例をご紹介したいと思います。

ソフト融合のポイント

弊社がこれまでお手伝いさせていただいた経験から、ソフト融合のポイントは、3つのチャンスそれぞれのタイミングによって異なってきます。合併初期であればあるほど、お互いの共通点と相違点をしっかり認識してソフト融合を進めることが効果的です。逆に、合併後ある程度時間が経過し、組織として安定してきている場合には、旧社ベースの発想・意識を外し、1つの組織として先を見据えた取り組みが有効となります。

最初のチャンス(合併初期の融合):お互いの共通点・相違点を知る
・統合会社におけるミッション、ビジョンなど融合のための旗印をかかげる
・両社の共通点・相違点を早期に目に見える形で確認、共有する
・社員同士で根底にある思いや、大事にしていること、目指していることをじっくり共有する

2番目のチャンス(合併後1~2年):お互いの共通点にフォーカスする
・統合効果、統合シナジーが期待に達していない、十分でないことにフォーカスする
・違いよりも、両社がこれまで大切にしてきたもの、原点などを確認しコアとなるものを抽出する
・さまざまな手段でコミュニケーションを行い、新たな理念や新たな戦略の浸透を進める

3番目のチャンス(合併後2年~):旧社ベースの意識を外し、一体として取り組む
・組織・業務・人事の統合による混乱が収まり、落ち着き始めたタイミングを見極める
・1つの組織として目指すべき組織・風土との乖離や、社員の現状意識を認識し、共有する
・フォーカスセッションや、プロジェクトチーム等により組織改善・変革を加速する

最初の融合チャンス事例

ビジョン、戦略、システムや、人事制度(ハード)の統合作業が進む中で、 風土・文化(ソフト)の統合を早くから重視し推進した事例です。
この事例企業では以下のような状況に陥っていました。

・2社の統合決定後に、両社の戦略や、ビジネスプロセス、情報システム等の統合作業が一斉に始まった。
人事制度の統合も早々と着手されたが、統合作業の人・組織文化の融合に関しては後回しとなっていた。
・両社の間で、ソフトの融合は避けて通れない重要なテーマであるとの共通認識は強かった。しかし、何から着手すべきか判然としない状態のまま、どうしても目先の制度の統合作業に意識と時間が向けられがちであった。

そこで、お互いに不要な遠慮をせず本音で話せる関係をつくり、統合後に1つの組織として一緒にやっていけるとの意識を醸成するために、セッションを1つの契機として融合を推進しました。

実際には、図表1のような部長クラス、課長・主任クラス単位でのセッションをベースにしています。お互いのこれまでの仕事内容や個人的な思い、誇りなどを時間をかけ、じっくりとミーティングを実施し、根底にある思い、大事にしていることや目指していることが近いことを確認、ソフト融合の最初の一歩としました。

この事例においては、統合初期での融合のタイミングであることから、まずはお互いの共通点と相違点を明確に認識し、その上で相互に大切にすべきものを共有することに注力しています。課長・主任クラスのセッションにおいては、このプロセスを図表2のような手順で進めました。

図表1/図表2 課長・主任クラスのセッション概要

【融合施策実施後の効果】

研修直後には「お互いに知り合うと意外に似ていた」「以前から一緒に働いてきたようだ」「同じような苦労を経験していた」などの声が聞かれました。このセッションを契機として、人的ネットワークが構築され、余計な前置きや気兼ねをすることなく、お互いの業務が繋がり、広がり始めました。さらに、お互いに身近に感じながら比較的早いタイミングで1つの組織としてスムーズに仕事が進められるようになりました。

2番目の融合チャンス事例

次に、グループ会社の合併事例です。融合施策を打つに至った背景として、以下のような状況にありました。

・体質強化と得意分野・領域を生かした新たな価値の創出を目的に、複数のグループ会社を合併させた。
・合併後の最初の1年は、基礎固めの時期とおいて、トップが先頭に立ち積極的にさまざまな施策を進めた。
・1年が経過したところで、これまでの活動の結果を振り返り、今後の方向性を見定めることにした。
同時に、新たな幹部・マネジメント間の意識統一も図りたいと考えた。

そこで、以下のステップで知的資本に関するアセスメントを契機として、各部門へ展開する過程でソフトの融合を推進しました。(図表3)

図表3/図表4

【融合施策実施後の効果】

この事例においては、合併後、一定期間が経過したタイミングで、合併効果に関する状況を客観的に共有し、統合会社としてのコアと なる強みを再確認したうえで次の施策に繋げることに注力しています。アセスメントを契機にした施策実施後、統合当初に狙いとして いた合併シナジーの拡大を始め図表4のような成果が実現されています。

3番目の融合チャンス事例

3番目の融合チャンスとして、ラインマネジャーの活動を中心とした一般的な事例です。

・一般的な事例として、統合後、本格的な業務プロセスやシステムの統合で手一杯となる。ソフトの融合に手がまわらないまま、あっという間に2~3年が経過している。
・統合のドタバタがある程度落ち着いたタイミングで、現状に対する社員の意識を改めて共有し、ラインマネジャーや、現場の社員を巻き込んで1つの組織としての改善・変革が始まる。

前回、ご紹介しました社員意識調査(ESサーベイ2など)の実施・結果分析をもとに、ライン主導による現状認識共有、施策の検討を通じて、旧社ベースの意識を排除し1つの組織として融合を加速させます。

3番目の融合チャンス事例

【融合施策実施後の効果】
出身会社の枠組みを超え、改めて融合するという意識よりも今や同じ会社の職場メンバーとして自分たちの課題を共有し、自分たちで 取り組んでいくサイクルが回りはじめました。新たな課題に取り組み、解決していく過程でメンバー間の一体感が醸成、強化され、職場の活性化や業務の効率化が身近に感じられるようになりました。

以上、M&Aの組織・人材マネジメント に関して制度(ハード)と風土・文化(ソフト)の2回にわけて述べてきました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。ソフトの融合のチャンスは1度のみならず、2度、3度とあります。みなさまの会社において、実際にM&Aに直面した際に、ご参考になる部分があれば幸いです。

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