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自律的なキャリア開発を支援

人材開発におけるカウンセリングの活用

  • 公開日:2005/10/01
  • 更新日:2024/04/11
人材開発におけるカウンセリングの活用

ここ数年、従業員のキャリア開発支援を検討される企業が増えてきました。キャリア開発支援へのキャリアカウンセリング活用は、今後のトレンドとなることが予想されます。今春、リクルートワークス研究所が、「これからの10年の人事制度設計思想を考える調査」と題した調査を、上場企業約100社あまりの人事部門に行いました。その中で、半数以上の企業が「10年後に取り組んでいるであろう課題」として、「高度専門人材の育成・調達(61%)」「次世代リーダーの育成・調達(57%)」「中途採用の強化」と並んで、「キャリアカウンセリングなどによるキャリア開発の導入」を挙げています。

そこで、今回は、人材開発の主要テーマとなりつつある従業員個人のキャリア開発支援である「キャリアカウンセリング」活用についてお伝えしたいと思います。

自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(1)
自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(2)
自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(3)
人材開発にカウンセリングを活用する
キャリアカウンセリングの現場から

自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(1)

■人事、上司に加え、キャリアカウンセラーに期待

2004年に行われた労働政策・研修機構の調査によると、今後ますます、従業員は自己責任でキャリア開発を進めていくこと、従業員のキャリア相談に社内外の専門家を登用されることが予想されます。これらからもわかるように、キャリア開発支援に「キャリアカウンセリング」をいかに活用するかが今後のトレンドになっていくでしょう。 実際、私どもにも、企業様よりキャリアカウンセリング活用のご相談や、ご提案を求められる場面が増えています。

自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(1)

自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(2)

■カウンセリング/キャリアカウンセリングへの誤解

まず、カウンセリング、キャリアカウンセリングについて、簡単に説明しましょう。
欧米の国々では、カウンセラーは免許制度の下で管理されており、カウンセラーとはカウンセリング心理学を基礎に、体系的な専門教育を受け、免許取得した者が行う職業を指します。しかしながら日本においては、免許制は採られておりません。統一された見解や定義が無いまま、資格制度が先行したり、一部のカウンセリング技法の修得に重きが置かれたり、産業カウンセリングが労働安全衛生の観点から現場に導入されたりした影響で、偏った理解をされている場合が少なくないようです。

自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(2)

学術的な説明は専門書に譲ることとしますが、本文章は、以下の観点から書かれています。

・カウンセリングは、ある「技術」と「行為」を指し、多様な分野と定義があること
・カウンセリングでは、キャリア、メンタル、リハビリテーション、人間関係などさまざまな問題・テーマを扱うこと
・カウンセラーとは、さまざまな専門知識とカウンセリング技術を用い、クライアント(相談者)が抱える問題を、クライアント自身が解決できるように支援をする人

個人のキャリアの問題(たとえば、「今の仕事や職場でうまくやりたいと思っているが困っている」「これからのキャリアを考えたい」など)は、仕事への適応、人間関係、メンタル面の問題、家族の問題など様々な要素が絡んできます。キャリアカウンセリングはキャリアを対象としたカウンセリングであり、当然、キャリアの問題を扱うカウンセラーは、メンタルヘルスの基礎知識や技能を有しています。そのため、特別な断りが無い限りは、これ以降の文章では、カウンセリングという名称は、キャリアカウンセリングと同義で使用いたします。

更に、キャリアについての定義についても触れましょう。なぜならば、企業、個人とも、「キャリア」と言う時には、とても多様な捉え方がされているからです。

昇進、異動などの社内での経歴、転職や個人的活動を通じた社外での経歴、資格、能力、肩書き、その人の生き方や「その人らしさ」まで、実に多様です。「カウンセリング」と同様に、「キャリア」の捉え方も多様です。もしも、貴社内で「キャリア」「キャリア開発」と言われている時には、「キャリア」とは「何」を指しているか、「キャリア開発」とは、「どのような状態」を指しているのか、「キャリアカウンセリング」とは「どういった行為」を指しているのか確認しておくことも大変重要です。

自律的なキャリア開発をキャリアカウンセリングで支援する(3)

■カウンセリングは問題解決を支援するもの

先にも触れましたが、多くの方が「働く人の問題解決にカウンセリングは役立たないのではないか?」と疑問を感じておられるようです。「社外のカウンセラーでは、社内の問題に関れないから、カウンセリングでウチの社員の問題は解決しない」といった声も耳にします。確かに、カウンセリングやカウンセラーは、万能ではありませんから、そういう側面もあるでしょう。しかしながら、これは大変な誤解です。カウンセリングの目標は、相談に来られた方の抱えている問題解決です。

役に立たないと疑問を感じている方のお話をよくよくお聴きすると、カウンセリング=傾聴と誤解されていることがわかってきます。静かに黙って聴くことがカウンセラーだという理解です。これは大きな誤解です。確かにカウンセラー教育では傾聴は重要な要素として教育されていますが、それだけで終わるわけではありません。

傾聴が重要な要素として教育されている理由は、カウンセリングでは、クライアントとカウンセラーの信頼関係を築くことがカウンセリングの成立要件となるためです。なぜ信頼関係を築く必要があるかというと、カウンセリングの目的は、クライアントが主体的に自分自身の問題に向き合い、問題解決行動をとれるようになることです。主体的になってもらうためには、カウンセラーを信頼し、自分自身のことを伝えていただかなくてはなりません。

初対面のクライアントは、自分の問題を見ず知らずのカウンセラーに、ベラベラと喋るわけではありません。話してもらうために、まずは、クライアントに「この人は自分の話を表面的ではなく、しっかりと聴いてくれる」と安心感を持ってもらわなければならないのです。そのため、相手の話を理解するために傾聴が重要となるのです。

さらに、カウンセリングには以下のようなプロセスがあります。

クライエントの抱えている問題がどのように変化するのか/カウンセラーが行っていること

カウンセラーは、さまざまな技術・手法を駆使して、これらのプロセスを進めていきます。この流れを見ると、カウンセラーの仕事は、コンサルタントのコンサルティング、営業職のセールスプロセスなど、クライアントの問題解決を行う職業のコミュニケーションプロセスと大きな違いは無いといえます。異なるのは、クライアントへの態度・姿勢、使われている技術や知識、ツールです。

人材開発にカウンセリングを活用する

■『個別性への対応』にカウンセリングが有効

では、カウンセリングをどのように人材開発プログラムに活かしていけば良いのでしょうか。カウンセリングの特徴は、なんといっても、「個別性への対応」です。この特徴を活かすべく、個別対応が必要なテーマについて、カウンセリングを活用しましょう。

例)
・個人のキャリアデザイン
・個人の能力開発支援(何が足りないか、何を伸ばすか)
・MBO運用支援:目標設定前の問題・課題整理、目標設定後の進捗フォロー

更に、集合研修と組み合わせることで、集合研修と個別カウンセリングが互いの長所を生かし、短所を補完しあい、効果促進が期待できます。キャリアデザイン研修とキャリアカウンセリングを例にして、考えてみましょう。

集合型のキャリアデザイン研修の良さ
・グループダイナミクスによる理解促進、動機喚起
・他者との価値観の違いを体験的に理解しやすい
・会社や事業の環境変化、人事制度などキャリアに影響がある要素を一斉に伝達できる

個別キャリアカウンセリングの良さ
・自分のペース、理解レベルで進められる
・自分自身の問題を相談でき、アセスメントツール解説などで、相談者自身の自己理解が深まる
・社内では話しにくいことが利害関係の無い第三者に相談できる(社外カウンセラーを活用した場合)

人間の行動は、知識、情動、意思によって影響されます。
よく言われることですが、研修終了後には気分が高揚している為、「やるゾ」という気持ちになるが、いざ現場に戻ると、現実の大変さに直面し、計画したことを出来なくなるとういケースもあるようです。研修で高まった動機を一過性に終わらせないために、フォロー施策としてカウンセリングを導入する企業もあります。

また、人材開発を行う際に悩む問題のひとつは、どのレベルの受講者をターゲットとして集合研修を実施するかです。高い受講者のレベル(知識、意識、経験値)に焦点を当てても、低いレベルの受講者達に焦点を当てても、双方不平不満を募らせてしまうことがあります。こうした場面でも、個別カウンセリングを集合研修と組合せることで、基礎教育を集合研修で行い、知識教育を実際の職務にどのように活用するかといった個別の問題を、個別カウンセリングで行う設計ができます。実際のある企業のケースを見てみましょう。

■集合研修とカウンセリングを組合せる

【ケース】中堅社員のキャリア支援施策
ポイント
・MBO面談のサイクルと組合せ、面談時にキャリアについて話し合うことを盛り込んでいる
・上司マネジャー自身にも、キャリアデザイン、キャリアの多様性理解させる
・相談窓口は社外カウンセラーを活用

人材開発にカウンセリングを活用する

【狙い】
中堅社員の活性化
管理職のキャリア支援意識醸成

【背景】
中堅社員の実態
・成果主義人事制度を2年前に導入。目標管理制度も徐々に定着してきた。
・組織がフラットになったため、ポストが少なく、中堅社員は今までのように組織管理職になりにくくなった
・また、若手社員の採用を絞ってきたため、組織内ではいつまでたっても一番下の年次
・刺激も無く、マンネリとなっている。
・リーダーシップを発揮して中核で業務を推進して欲しいのだが、バラつきが大きい。

こうした背景から、以下2点をポイントにキャリア支援施策を実施した。
・管理職にはキャリア研修を実施し、面談スキルなどの支援者研修を集合型の研修で行う。
・中堅社員には、個別カウンセリングをキャリア研修後と上司との面談後の2回受けられるようにした。
2回に分けた理由は、時期によって、次のような相談したいことが異なるから。
1)上司との面談時に話合う内容についての相談
2)上司との面談時に合意した計画を実践する際に起こる問題への対応の相談

こうしたケースでは、どのような成果、効果が出ているのでしょうか。
・仕事の意味づけ:多少マンネリ化しつつあった現在の仕事を、自分自身のキャリアと関連付け、再定義し、自己実現に向けて取り組む
・主体的な能力開発:行うべき能力開発を自らの考えで計画を立て、取り組み、獲得していく
・キャリア選択:年度で能力開発や業務課題を考えながらも、自分自身の価値基準(大事にしたいこと、ありたい姿)が考えられ、あるべきキャリア(キャリアゲート)を選択するための準備する

特に、上司との面談1前に、キャリアデザイン研修と個別カウンセリングによって、自分自身の目標、課題がよりいっそうはっきりできたようです。また、結果として、若年層のリテンションに効果があがっているようです。

ここまで、見てきたように、カウンセリングは、対象者の個別性の高い問題を解消する手法として、有効な手法と言えそうです。

その他、カウンセリング活用に当たっての留意点として、主なものを挙げてみます。
・広報・プロモーションの重要性-キャリア研修、キャリアカウンセリング、カウンセリングといった施策は、従業員からは誤解されがちです。狙いや行う内容などを正しく理解される工夫が必要です。
・人事部門自らが上司、本人に理解促進されるように、説明時間をとり、質問窓口を設けましょう。
・カウンセリングの受けやすい体制・運営面の工夫-場所や時間など従業員の方の状態に合わせ設計します。
・良いカウンセラーを選ぶ-単に資格、経歴ではなく、キャリア相談の実践経験、コミュニケーションスキル、専門家からの定期的なトレーニング(スーパービジョン)を受けているかどうかなどが検討点です。
・メンタルヘルス、コンプライアンス部門、他相談窓口との連携を進めましょう。

キャリアカウンセリングの現場から

■第三者が相手だからこそ、「今起こっていること」に向き合える

弊社が運営している「リクルートキャリア相談センター」は、様々な業種・規模の企業と契約し、キャリアカウンセリングサービスを提供しています。提供方法は、センターにお越しいただく来訪型もあれば、契約企業の事業所内で行う派遣型もあります。対象も、若手、管理職、役職定年や雇用延長の相談に訪れる50代の従業員の方など、様々です。相談内容も身近な同僚・上司との人間関係から、将来への不安・あせり、経営・上司への不満が出ることももちろんあります。

会社・上司への不満や人間関係など、社内を知らない社外のキャリアカウンセラーが解決できることなどないといわれることもあります。実際にカウンセリングをしていると、はじめは憤りやあきらめ、時には他者を攻撃するような強い感情が噴出することもあります。 しかし、散々話をし、感情的になったあとに出てくるのは、「とは言っても、自分も○○しないといけないんですけどね」「そんなこと言っていても何も始まらないんですけどね」と言った一言。結局は、自分が何かを変えないと、状況は変わらない、という、現実を見つめる状態に自然と変わって行きます。
これは、利害関係のない、第3者にだからこそ、さまざまな感情を、理屈抜きに、順序も気にせず、話し続けたからこその効果とも言えると思います。

同じように最近強く感じていることの一つは、管理職の方々へのキャリアカウンセリングの必要性・有効性です。実際にいくつかの企業で行っているケースでは、カウンセリング後のアンケート等において、気付きや、その後の行動の変化だけではなく、カウンセリングという場があることそのものに対する感謝の気持ちや、とても楽になった、という安堵の気持ちが聞かれることが特徴的です。

考えてみるまでもなく、管理職ほど「役割機能」として他者(部下・同僚など)と関わる機会が多くなり、自身のこと、特に「好き」「嫌い」(やりたい、やりたくない)といった嗜好や、興味関心、自身の将来についてなどを話す機会も、話せる相手も少ないからではないか、と推測できます。
確かに、組織を考えれば明らかなように、マネジメントの立場にある人は一人であり、その業績に対する責任や、数多くの部下の育成・指導など役割を抱え、どうしても自身のことは後回し、もしくは押さえつけて日常を過ごさねばならないことが多いように見えます。

一方で、若手~中堅社員の方は、ポスト不足や、ブロードバンド化・フラット化により、なかなか次のステージが見えなくなり、何を目指すのか、何を身につけていくべきなのかを迷い、あせっているケースも多いように思います。何に向かっていくのか、何を目指すのかを、会社から与えられるのではなく、自分自身で決めなくてはならなくなってきたからともいえます。

選択型のスキルアップ・能力開発のメニューを提示しても、なかなか手が上がらない、もしくは逆に、とにかくいろいろなメニューにチャレンジするものの、それが仕事にどうつながるのか見えない、と言った現状もあるようです。本来は、自身がどうなりたいのかを、ひとり一人が考え、それに合ったオリジナルの能力開発プランを立てなければ、選択する(させる)意味がないとも言えます。

今後、企業内個人にとっても、自身で選択し意思決定する機会が増えてゆきます。 一方で、思うようにならず、現実を見つめて折り合いをつけることも重要になってくるでしょう。このような中で、年代や職種・職務を問わず、個人に対するサポート役として、キャリアカウンセリングがますます必要かつ有効になると考えています。

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