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日本人海外赴任者育成の鍵とは?

  • 公開日:2012/03/12
  • 更新日:2024/04/11
日本人海外赴任者育成の鍵とは?

昨今、日本企業の海外事業展開の拡大に伴い、日本からの海外赴任者は増加傾向にあります。数の増加に加え、その赴任先も欧米先進諸国からアジア・ラテンアメリカなどの新興国へ、そして、その対象も管理職だけでなく中堅社員・若手社員へと広がってきているようです。

このような傾向が加速するのに伴い、昨今、海外赴任者に関するご相談をいただくことが多くなりました。
例えば「赴任者の人選はこれまで事業部に任せてきた。しかし、赴任者が増える中、人事として共通の基準を考えたい」「海外人材が固定している。もう10年近く特定の国に赴任している人も少なくない。後任を送り込みたいが、誰が適任なのかがわからない」「英語力、実務能力のどちらを重視すべきか?英語ができても仕事ができなければと思うものの、つい見えやすい語学で判断してしまう」など、その「人選」における悩みの一例です。一方、その育成に関しても、「これまでは内示後2ヵ月程度で赴任させてきたが、『もっと準備期間が欲しかった』という声が海外赴任経験者からあがっている」などの声が聞かれます。「赴任してから鍛えられる」「赴任してみなければわからない」とはいうものの、実際には、現地に適応できず帰任せざるをえないケースも発生しているようです。

では、赴任者に求められる要件とはどのようなものなのでしょうか?
また、海外赴任を成功させるためには、どのようなサポートが有効なのでしょうか?
今月の特集では、弊社がこれまでに行ってきた海外赴任者へのインタビューと、赴任者育成を支援した事例を基に、そのヒントをご提供していきたいと思います。

海外赴任者が直面した「困難な現実」とは
赴任者が困難な現実を乗り越えた11のキーポイント
海外赴任者に必要なサポート~赴任の前・中・後~
事例:大手小売業A社 海外赴任前の「計画的育成」
海外赴任を成功させるために

海外赴任者が直面した「困難な現実」とは

海外赴任者に求められる要件と、望ましい育成やサポートのあり方を明らかにするため、弊社では、2010年~2011年にかけて、多様な業種・多様な赴任国にまたがる15社30名を超える海外赴任者・赴任経験者、その中でも特に、現地でマネジメントを担った人に対してインタビューを行ってきました。インタビューは、以下の観点で行いました。

 Q1.海外赴任したマネジャーは、どのような「現実」に直面するのか?
 Q2.海外赴任者がその現実を乗り越えるための「成功の鍵」には、どのようなものがあるのか?
 Q3.海外赴任を成功させるには、どのような具体的方策が必要なのか?

はじめに、赴任者が共通に直面していた現実を見ていきましょう。
今回は(1)タテヨコに同時拡大する職務の重圧、(6)日本の組織への再適応について解説いたします。

【表1.海外赴任者が直面する「困難な現実」】

◆タテヨコ同時拡大する職務の重圧・・・「職務拡大」への適応
多くの赴任者が苦労していたのが「職務拡大への適応」です。日本では主任や係長であった人が、赴任と同時に現地法人で部長職位に就くことも珍しくありません。しかも、自分とは価値観が異なる部下を抱え、日本での経験則が通用しないビジネス環境の中で、経営に近い意思決定や方針策定を行うことが求められるのです。加えて、日本では経理のスペシャリストであった人が採用に労務にコンプライアンス対応…と、未経験の職種を兼務するケースも多く存在します。この傾向は、長年安定稼働している現地法人ではなく、立ち上げ期の現地法人に赴任した人に顕著に現れていました。このような「タテヨコ職務拡大」の中で、ローカルスタッフに業務を任せず一人で業務を抱え込んでしまうと、成果があがらないどころか、最悪の場合、メンタルヘルスを発症する可能性すらあるのです。

◆日本の組織への「再適応」
赴任時の職務拡大に対応するかのように、帰任後、「日本への再適応」に苦労する赴任者も少なくありません。海外で大きな権限を与えられ、スピーディにダイナミックにビジネスを動かしてきた赴任者は、日本組織の「根回し」や「合議的」意思決定などの組織特性に馴染むことができず、そのストレスから新天地を求め、果ては、離職してしまう人も稀ではありません。このことは、本人だけでなく、グローバル化を急ぐ企業にとっても大きなマイナスです。「修羅場」に直面する「海外赴任」は「グローバルリーダー」が育つ貴重な機会といわれています(参考:Developing Global Executives (McCall,2002))。 にもかかわらず、日本への再適応問題を放置すれば、赴任経験者ばかりが海外赴任を繰り返し、グローバル人材が固定化してしまう=多くのリーダー候補者に海外赴任機会が与えられない、赴任者の学びが組織知として共有されない、などの問題へとつながりかねないのです。

赴任者が困難な現実を乗り越えた11のキーポイント

では、海外赴任者がこれらの現実を乗り越えるためには、何が「成功の鍵」になるのでしょうか?
私たちは、このような困難な現実にあってもなお、高い成果をあげていた赴任者の共通項から、そのヒントを探りました。

◆11のキーポイント

1.一目おかれる「専門性」
国によっても異なりますが「語学力」以上に重視されるのが、現地で一目おかれる「実務能力」「専門性」です。これらは、海外でローカルスタッフと対等にやりあい、信頼を獲得するための拠り所となります。

2.「好奇心」から生まれる良好な人間関係
ローカルスタッフとの価値観の違いを楽しみ、自ら現地のコミュニティに入り込んでいく姿勢があってはじめて信頼関係を構築することができます。国内外を問わず、プライベートのつながりが仕事にも良い影響を及ぼします。

3.「事実に基づく」「率直な」コミュニケーション
国による違いはあれど、多くの国では日本にいるよりも「自分の意見をストレートに伝える」ことが求められます。「言わなくても分かる」ではなく、「言わないと分からない」、さらには「言っても分からないかもしれない」くらいの心構えが必要です。

4.ローカルスタッフを信じ、任せ、育てる「人材育成の力」
「自分よりローカルスタッフのほうが現地を知っている」ことを認め、ローカルスタッフを信じて任せることができるか否か?が、ローカルスタッフの成長を左右します。転職が多く、部下のリテンションが困難な国であっても、自社の社員として育てることを諦めない姿勢が重要になります。

5.スピーディな「問題解決」
海外では日本では起こりえないような問題が発生することがあります。また、成長著しい新興国ではビジネスをとりまく環境変化が激しいため、普段から事実情報を集め、問題の発生を予測して予防策を徹底したり、問題発生時にはスピーディに解決することが求められます。

6.役割を超えた「チームワーク」づくり
職務分担が日本より明確なことが多い海外では、役割を超えたチームワークを作ることは時に困難であり、意識的に働きかけなければ各ローカルスタッフは個人プレーに走りがちです。また、東アジアの国々では、ローカルスタッフは「家族的な職場」を期待する傾向にあります。

7.赴任における「志」の明確化
海外赴任に際して、上位者から明確にミッションを指示された、という人はそう多くありません。だからこそ、「海外で何を実現したいのか?」自分自身で主体的に意味づけることが必要になります。これが、ストレスフルな状況におかれた際の拠り所となります。

8.「組織方針」を自分の言葉で伝える
日本本社では暗黙に共有されている、企業として向かうべき方向性や価値基準も、海外拠点においては繰り返し、具体的に伝えなければ伝わりません。

9.バランスのとれた「意思決定」
本社と現地の板ばさみの中にあっても、いかにバランスのとれた意思決定を行うか? 特に環境変化の激しい新興国では、日本本社とは異なるスピードで意思決定を求められる場面が多くあります。ローカルスタッフの前で「持ち帰るからちょっと待って」と判断を遅らせることは、上司としての信頼を失うことにつながりかねません。

10.自分のリーダーシップに対する「リフレクション」(内省)
部下の価値観も、ビジネスの進め方も日本と異なる海外では、自分が得意とするリーダーシップのスタイルがそのまま通用するとは限りません。そのような時、自分のリーダーとしてのあり方について振り返り、意識的に変えていくことができるかどうか、が重要です。

11.よき「理解者」の存在
ストレスフルな海外で、赴任者が心を折らずに奮闘し続けるためのサポーターの存在は不可欠です。後ろ盾となる上司の存在、生活のアドバイザーになってくれる社内外の赴任者ネットワークに加え、ローカルスタッフの中で「右腕」といえるような存在を作れるかどうか?が鍵となります。

海外赴任者に必要なサポート~赴任の前・中・後~

前頁の「鍵」を見ていると、あることに気付きます。これらは、日本国内でマネジメントを行う上でも同様に求められるものだということです。しかしながら海外では、より高いレベルで求められることは間違いありません。だからこそ、弊社では赴任の【前】【中】【後】のそれぞれのフェーズで、以下のようなサポートを赴任者に提供すべきだと考えています。

【図1.海外赴任者に対する望ましいサポート例】

【図1.海外赴任者に対する望ましいサポート例】

◆赴任前
<選抜>
一般的に「語学力」と「実務能力」で選抜されることの多い赴任者ですが、後天的な開発が容易でない「好奇心」や「海外で仕事をする意欲」も軽視できません。これらは、強いストレス下におかれる海外でモチベーションを維持する源になります。

<育成>
インタビューを行った赴任者の中には、現地で経営管理やマネジメントの難しさに直面し、慌てて独学した、と語った方もいました。赴任前にマネジメント経験がない場合には特に、日本とは異なる環境でマネジメントを行うための能力開発を行うことが重要です。しかし、赴任決定後、わずか数ヵ月の間にトレーニングすることは容易ではありません。候補者人材をプール化し、計画的・中長期的に育成する必要があります。
※「育成」については、次章で個社事例をご紹介いたします。

◆赴任中
赴任先でも学習環境を維持できるよう「能力開発ツール」を提供すること、本人と家族にとって生活面やメンタル面での支えとなりうる「ネットワーク(人的サポート)の提供」などが不可欠です。

◆帰任後
帰任後の日本への再適応は、最も「本人任せ」になりがちです。赴任経験を意味づけする機会や、赴任経験を発信する機会の提供などを通じて、本人・会社双方にとってメリットのある帰任後のサポートを設けたいものです。

事例:大手小売業A社 海外赴任前の「計画的育成」

弊社では、海外赴任者およびその候補人材の育成を支援することが、昨今増えてまいりました。ここでは、海外赴任者の計画的育成・赴任に向けたレディネスの形成に成功している大手小売企業A社の事例をご紹介します。
中国およびASEAN諸国を中心に出店を加速させているA社では、その立ち上げを担う人材の育成が喫緊の課題となっています。そこで、海外赴任候補者のプール群を形成し、計画的な育成を行うことを決定しました。弊社では、これまでのインタビューなどを基に赴任者に求められる能力開発マップを作成し、全3回の研修を通じてその育成を支援してまいりました。

【図2.海外赴任候補者ブール群対象 全3回研修の全体像】 【図3.全3回研修の詳細】

対象者はいずれも、これまで海外でのビジネス経験はもちろん生活経験もほとんど無い方が中心です。そのため、研修ではA社の重点国である中国を中心に、赴任後、マネジャーとして意思決定に迷う典型的な場面、かつ、ローカルスタッフの信頼の獲得を左右する場面などを扱ったケーススタディを使いながら、海外で求められるマネジメントを学んでいきます。
こういった取り組みを通じて、早くも今年、受講者の中から海外に赴任する人が出始めました。また、全3回の最後の決意表明では、「難しそうだけれども、海外で人を動かすということ、マネジメントを自分の成長のためにもやってみたい」「第1回目の研修を受けた時点ではぼんやりしていたが、今では海外で活躍するということの具体的なイメージがついた。上司にも『覚悟を決めた』と言いました」「自分が行って、さらに現地の責任者を育てたい」「現地の人たちの生活レベルを一段も二段も上げる、そんな店を作っていきたい」など力強い宣言が続きました。

海外赴任を成功させるために

海外ビジネス展開を急ぐ日本企業からは、「人材の成長を待っていては、事業のグローバル展開に追いつかない」という声をよくお聞きします。その中で、赴任者を十分に選抜・育成してから送り込む余裕は無く、「行ってから鍛えられる」式で赴任させることになってしまうのも無理はありません。また、「経営の現地化」に伴うヒトの現地化を進める企業では、日本人赴任者の割合を減らし、ローカルスタッフのマネジメント登用や権限委譲を進める方向へと進んでいます。とはいえ、日系企業の強みとその強みを生み出す行動指針を海外拠点に浸透させる上で、日本人赴任者の担う役割は、当分、大きいといえるでしょう。海外赴任を成功させるために、また、海外赴任を「グローバル人材」育成の機会として最大限活用するために、赴任【前】【中】【後】の中長期的な取り組みが有効ではないでしょうか。

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