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経営と一体となって現場の活力を引き出す

これからの「人事の役割」とは?

  • 公開日:2013/09/09
  • 更新日:2024/04/11
これからの「人事の役割」とは?

2013年7月24日に、弊社は「RMS FORUM 2013 現場を動かす経営 ~人事は何をすべきか」を開催し、3社から人事経験豊富な経営層をお招きして、取組事例を発表していただきました。3社の発表には、「人事には、経営と一体となって現場の活力を引き出すことが求められている」という点で共通性が見られました。そこで今回の特集では、これから求められる「人事の役割」について、考察を深めていきます。

4つの「人事の役割」
「戦略」が先か?「組織」が先か?
「戦略人事」の2つのアプローチ
ベストプラクティスも、ベストフィットも
進化する「人事の役割」 ~SODのすすめ~

4つの「人事の役割」

「グローバル化に伴う人材マネジメント施策の企画と実行」「次世代リーダーの育成」「女性活躍促進のための施策立案」「高年齢者雇用安定法の改正に伴う制度の見直し」「非正規社員への対応」「メンタルヘルスへの対応」など、人事に求められることは多方面におよび、複雑さを増しています。
そして、そのどれもが重要ですが、限られた人材で求められる仕事を行っていくためには、優先順位付けが必要となるため、人事の役割を見直す企業が増えています。

弊社の組織行動研究所では、ミシガン大学デイビッド・ウルリッチ教授の「人事の役割の4分類」を参考にして、2010年に「人事の役割」を下図の4つに改めて定義しました。

図表1. 人事の4つの役割

図表1. 人事の4つの役割

そして2010年と2013年に弊社が行った調査(*1)で、企業人事の方に、4つの役割に対する優先順位をつけていただきました。図中の数値は、それぞれの役割に対して最も優先順位が高いと回答した企業の比率です。両年とも「戦略実現パートナー」の選択率が最も高く、どちらも6割ほどの企業が選んでいます。

調査結果からは、経営戦略に合わせて人事施策を考える必要性が高いことが推察されますが、「戦略」と「組織・人事」の関係性はどのように捉えればよいのでしょうか。

*1:「人材マネジメント実態調査」株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(2010年:n=240社、2013年:n=171社)

「戦略」が先か?「組織」が先か?

米国では1980年代に、人材を戦略実行の重要な資源と見なし、人材に望ましい行動を引き出すための戦略的人材マネジメントの研究(*2)が始まりました。日本でも1990年代に、バブル崩壊に伴う成果主義人事が検討される頃から、「戦略人事」という言葉が使われるようになりました。

「戦略」が先か?「組織」が先か?

しかしながら、「戦略人事」の概念は、人によって考え方が違っていることがあります。「戦略を実行するうえで必要な人材マネジメントを行うこと」という考え方もあれば、「優秀な人材を揃え、組織コンディションを整えることによって、戦略が実行しやすくなる」という考え方もあるのです。

前者は「ロシアへの進出にあたり、ロシア語ができる人材を調達する」ケースであり、後者は「優秀な新卒人材を採用することで、秀逸なビジネスモデルを創りあげる」ケースです。言い換えれば、「組織は戦略に従う」が前者で、「戦略は組織に従う」は後者です。

経営戦略を環境に応じて定めるときの想定期間は数年から10年程度です。一方で、人材を採用・育成するときの想定期間は数十年単位であり、両者が想定する時間軸には少なからぬギャップが生じます。特に日本では新卒一括採用を行い、簡単に人を解雇することができないことを考えれば、「組織・人事」が「戦略」に何らかの制約を与える可能性が高いといえます。

加えて、過去の経営理念や人材マネジメントポリシーによってつくられた組織文化や価値観は、戦略が変わったとしても短期間で簡単に変えられないことも考慮する必要があるでしょう。

これらの点を踏まえた「戦略人事」とは、「将来の戦略を想定して、その戦略を実行できる人材を先回りして採用・育成したり、戦略に合致した組織文化をつくったりすること」、あるいは反対に、「既に採用・教育した人材を生かして、自社独自の戦略を考えていくこと」であるといえます。

いずれにしても、戦略と組織・人事は相互に関係し合っているため、その相互の関係性をマネジメントしていくことが「戦略人事」といえるでしょう。ここまでは「戦略人事」に関して、戦略と組織・人事の関係性について触れましたが、「戦略人事」の中身はどのように考えればよいのでしょうか。

*2:例えば、Fombrun, Charles J., Tichy, Noel M. and Devanna, Mary Anne(1984)Strategic Human Resource Management. John Wiley& Sons. など

「戦略人事」の2つのアプローチ

「戦略人事」の中身についても、さまざまな考え方がありますが、欧米においては「ベストプラクティス」と「ベストフィット」の2つのアプローチに大別されています。

前者は、高業績企業が行っている組織・人事施策は普遍的であると考えます。例えば、人がやる気になる環境や施策は、国や企業が違っても同じであるため、高業績企業では似たような動機づけ施策を行っています。そのため、高業績企業が行っていることを探り、必要に応じて自社に取り入れていくという考え方です。

書籍『エクセレント・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー』などにおける研究は、そのような考え方の典型例であるといえます。それらの研究によると、高業績企業の特徴として「実験主義」「行動主義」「カルトのような文化」などが挙げられます。

私たちは、顧客として受けるサービスや電話での応対、店舗の清掃状態などから、高業績企業に共通するものを肌で感じることができます。同様に、業績が悪い会社にも共通するものを感じます。そのため、体験的にも「ベストプラクティス」の意義はご理解いただけると思います。

「戦略人事」の2つのアプローチ

「ベストプラクティス」への反論として、各社の経営環境やビジネスモデルは異なり、経営戦略も違うのだから、高業績企業と同じような人材マネジメントを行っても、同じような成果が得られるわけではない、というものがあります。

競争戦略を考える基本は、競合との差別化、つまり競合と違うやり方をとることにあります。差別化によって高い業績を生み出すということを考慮すれば、各社の戦略に応じて、各社独自の人事ポリシーや施策のあり方があるべきだと考えられます。この考え方が、後者の「ベストフィット」という考え方です。

組織文化や人の価値観・知恵・思考様式は目に見えにくく、模倣することは困難です。模倣困難性が競争優位性を高めると考えると、「ベストフィット」の「戦略人事」が競争優位の源泉になるといえるでしょう。

では、「ベストプラクティス」と「ベストフィット」は、どのように取り入れていけばいいのでしょうか。

ベストプラクティスも、ベストフィットも

「どうすれば競合に勝つことができるか」「競争優位性を高めるために、組織・人事として行えることは何か」という視点から「人事の役割」を考えると、「ベストプラクティス」と「ベストフィット」の双方を取り入れることが重要になります。

ベストプラクティスも、ベストフィットも

「ベストプラクティス」を取り入れる際は、自社の実態と比較して必要性を吟味すること、そして時には、自社の従来の考え方や施策を見直すことが重要です。例として、次世代リーダー育成に関して、自社への導入を考えてみましょう。

次世代リーダー育成の方法には、世界の高業績企業群が共通して行っているプラクティスが存在します。具体的には候補者を早期に選抜して、マネジメント職に登用します。同時に、集合研修で本人の内省と覚悟を促し、異動と昇進を繰り返して、リーダーを育て上げるというものです。

そのような高業績企業群のプラクティスを大いに参考にしたいところですが、実際に取り入れるためには乗り越えるべき障害があります。それは、自社で大切にしている価値観や強みと合わないおそれが生じるというものです。例えば、部門をまたがる異動の困難さや選抜することへの抵抗感、組織の一体感が損なわれるリスクなどです。

しかしながら、中長期をにらみ、グローバルでの戦いに備えて、次世代リーダー育成を避けて通れないとしたら、それらの障害を乗り越えてでも必要な「ベストプラクティス」を取り入れるべきです。そのときは、ただ取り入れるのではなく、その過程において自社が大切にしている価値観や強みを新たに創りあげ、経営の質を高めていくことが重要になるでしょう。

一方で、競合との差別化を考え、自社独自の施策を展開する必要もあるでしょう。例えば自社の技術力が差別化の源泉なのであれば、それを担保するための施策を再考する必要があるでしょう。

採用・育成・配置などの「人材マネジメント」施策とともに、人と人を結びつけ、新たな知を創出していく場の設計やイベントの設計などの「組織開発」施策を同時に考え、経営戦略と連動した自社ならではのポリシー・施策を実行していくことも求められます。先に説明した「ベストフィット」の考え方です。

つまり、「ベストプラクティス」と「ベストフィット」は相反するものではなく、自社が競争優位性を確立して持続的に成長するために、人と組織に関するポリシー・施策を実行する上で、必要なアプローチを是々非々で検討するべきだといえます。

最後に、今後より強く求められる「組織開発」について、その考え方を整理しておきましょう。

進化する「人事の役割」 ~SODのすすめ~

自社が持続的に成長するために、人と組織に関することに人事が責任を持つとしたら、「組織開発」という考え方をより取り入れていく必要があります。「組織開発」は、1 1を2より大きくして組織が効果的に機能するような仕掛けをつくることです。

進化する「人事の役割」 ~SODのすすめ~

これまで「組織開発」は、米国に較べて、日本ではあまり注目されてきませんでした。従業員が同質的であり、そもそも組織としてのまとまりは自然にできており、意図的な「組織開発」が必要でなかったということがその理由のひとつです。加えて、「組織開発」は経営あるいは現場の仕事であり、人事の仕事ではないという暗黙の了解があったように思います。

しかしながら、組織としての競争優位性を築いていく役割を担うことが人事に求められるのであれば、「組織開発」の戦略的な活用が、人事の仕事の大きな柱になると考えられます。つまり、「戦略的人材マネジメント(SHRM : Strategic Human Resource Management)」の実現だけではなく、「戦略的組織開発(SOD : Strategic Organization Development)」の実現が、これからの人事に求められるのです。

具体的には、「経営や仲間の信頼醸成」「企業理念・バリュー・ビジョンの共有」「個人の知を組織の知へ転換」「組織間連携の促進」「失敗や実験の奨励と、組織の学習能力の向上」「組織状態の測定」などの仕掛けが、SODで扱うテーマです。

そして、「公式・非公式のイベント」「社内報などのコミュニケーション・ツール」「バリュー共有のためのワークショップ」「ナレッジ共有の機会」「組織サーベイ」などの企画・設計・実行が、人事がSODを主導するための具体的な仕事です。中には総務や広報や経営企画の仕事もあり、部署を超えた協働が求められるかもしれません。

いずれにしても、「全体を俯瞰して、人・組織に責任を持ち、関わり続けること」が、これまで以上に重要になるとともに、人事の存在意義を強くすることにつながるでしょう。

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