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人的資本経営・開示に関する現状調査

企業の人的資本経営に対する問題意識や、今後の取り組み方針とは

  • 公開日:2024/06/24
  • 更新日:2024/06/24
企業の人的資本経営に対する問題意識や、今後の取り組み方針とは

近年、企業規模問わず関心の高まっている「人的資本経営」。2023年3月期決算より、上場企業などを対象に人的資本に関する情報開示が義務化されて以降、企業の意識はどのように変化したのか。また、現在どのような取り組みを行っているのか。弊社では、こうした人的資本経営・開示に関する現状調査を実施し、調査結果をもとに考察を行いました。

調査背景
調査概要
人的資本経営・開示に関する現状調査で分かったこと
人的資本経営における共通の重要テーマは「人材の獲得・活用」

調査背景

企業における経営・人事課題の解決および、事業・戦略の推進を支援する株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(本社:東京都港区 代表取締役社長:山崎 淳 以下、弊社)。

今回弊社では、人的資本経営を捉えるフレーム(図1)をもとに、勤務先で人的資本経営の取り組みに関わっている、または関わる予定の計826名を対象に人的資本経営・開示に関する現状調査を実施しました。なお本調査は、企業の人的資本経営に関する注力点を明らかにすることを目的としています。

調査概要

調査概要

図1.人的資本経営を捉えるフレーム

注)大手上場企業の統合報告書記載内容を分析し、人的資本経営の構成要素を集約

人的資本経営を捉えるフレーム

人的資本経営・開示に関する現状調査で分かったこと

  • 人的資本経営の重要テーマは、半数以上の企業で「人材の獲得・活用(50.7%)」
  • 人的資本経営において、最も取り組まれているのは「人事制度(評価・報酬・等級)の見直し(56.7%)」
  • 人的資本経営を通じた成果として、最も期待されているのは「従業員エンゲージメントの向上(20.6%)」
  • 9割以上の企業で人的資本経営に関する取り組みを「継続(51.2%)」 「強化(42.2%)」
  • 2024年度の取り組みにおいて最も重要なテーマは「人事制度(評価・報酬・等級)の見直し(20.3%)」

人的資本経営における共通の重要テーマは「人材の獲得・活用」

昨今、人的資本経営への関心は高まりを見せており、各企業の統合報告書を確認してみると、それぞれの人的資本経営のあり方・取り組みが徐々に明確化されてきています。そのなかにおいて、本調査では人的資本経営における重要テーマは共通して「人材の獲得・活用」であることが明らかになりました。一方で、企業規模によって期待される成果や取り組みに違いがみられることも分かっています。

現在、人的資本経営においては「人材の獲得・活用」が重要テーマとして挙げられていますが、取り組みとして最も注力されているのは人事制度の見直しでした。しかし、施策の背景には企業規模によって違いがあるようです。たとえば、大手では働き方や女性活躍などの多様性を広げることを、中小・中堅では人材充足による事業成長をねらいとしているものと考えられます。それぞれ目指す姿ならびに対峙する課題が異なるため、人的資本経営のあり方に違いが生まれているようです。

一方、企業規模に関わらずエンゲージメント向上への関心が強いことも分かってきています。この背景には、離職率低下や従業員の仕事への意欲向上など違いはみられますが、従業員の働く環境への関心が高まっていることがうかがえます。

このように現在も関心の高い人的資本経営ですが、今後も関心は高まるものと思われます。特に、改定された人事制度の活用や、エンゲージメントの向上などを目的としたマネジメント力強化(現場での推進・実践)への関心は上昇傾向。今一度、現場のマネジメントを強化・見直し、戦略を推進する体制を作っていくことが今後の人的資本経営のテーマになるのではないでしょうか。

● 半数以上の企業が、人材の獲得・活用を重要テーマとしている

✓「人材の獲得・活用」は50.7%、「人材のパフォーマンス向上」は31.4%、「組織のパフォーマンス向上」は17.7%(図2)。

図2.人的資本経営における重要テーマ(単一回答)

Q:あなたの勤務先における「人的資本経営」の取り組みにおいて、最も重要なテーマをお選びください。

人的資本経営における重要テーマ

● 多くの企業で、人事制度の見直しが積極的に検討されている

  • 全体では、「人事制度(評価・報酬・等級)の見直し(56.7%)」の選択率が最も高く、企業規模問わず最も選択率が高い。
  • 企業規模別では、次いで中小・中堅で「中途採用の強化・見直し」 「新卒採用の強化・見直し」の選択率が高く、大手で「女性の活躍推進」 「リモートワークなど働き方の多様化推進」の選択率が高い。

→「人事制度(評価・報酬・等級)の見直し」は共通して高いが、企業規模別で見ると取り組みの傾向は異なる。中小・中堅では採用を通じた人材の確保を、大手では既存社員の多様性推進を通じた人材活用に取り組んでおり、企業規模によって人的資本経営のあり方に違いが表れている。

図3.人的資本経営における取り組み(複数回答)

Q:「人的資本経営」について、あなたの勤務先で具体的に取り組まれているものをすべてお選びください。
注)選択率上位5項目を表記

人的資本経営における取り組み

● 人的資本経営に期待する効果は、企業規模で差が見られる

  • 全体では「従業員エンゲージメントの向上(20.6%)」 「従業員のスキル・能力の向上(20.3%)」 「生産性の向上(18.8%)」の選択率が高く、これらは企業規模を問わず上位に位置している。
  • その他、企業規模別では、中小で「離職率の低下(24.0%)」 「組織力の強化(20.2%)」、中堅で「戦略的人材育成・配置の実現(16.1%)」 「組織力の強化(15.8%)」、大手で「戦略的人材育成・配置の実現(15.5%)」 「経営戦略の実現(15.0%)」が選択率高く、上位に位置している。

→企業規模によって、人的資本経営を通じた期待成果には異なる傾向がみられる。中小では、エンゲージメントの向上以上に従業員のスキル・能力向上や離職率の低下に重きが置かれており、中堅では従業員のスキル・能力向上以上にエンゲージメントの向上が高く、従業員の仕事への意欲向上に関心があることがうかがえる。

一方、大手ではエンゲージメントの向上に加え、経営戦略に紐づいた人的資本経営に関心が高いものと捉えられ、一連のストーリーが描かれた人事戦略のもと、人事施策を展開しているものと推察される。

図4.人的資本経営を通じ期待される成果(複数回答)

Q:あなたが「人的資本経営」の業務に取り組むことで、勤務先からどのような成果を期待されているかを、すべてお選びください。また、特に成果を期待されていることを3つまでお選びください。
※これから取り組みに関わる予定の人は、関わる際に期待されると予想されるものをすべて、特に期待されると予想されるものを3つまでお選びください。
注)特に期待されている成果(3つまで)、選択率上位5項目を表記

人的資本経営を通じ期待される成果

● 人的資本経営への注目は引き続き高い水準で推移している

  • 全体では、「取り組みを継続する(51.2%)」「取り組みを強化する(42.2%)」の選択率が高い。
  • 企業規模別では、中小・中堅で「取り組みを継続する」、大手では「取り組みを強化する」の選択率がそれぞれ最も高い。

→企業規模によっては人的資本経営に関する取り組みの強度にやや違いがみられるが、引き続き人的資本経営への関心は高い。

図5.2024年度の人的資本経営取り組み方針(単一回答)

Q:今年度の「人的資本経営」に関する取り組みを踏まえ、来年度(2024年度)の取り組み方針をどのように考えているかをお選びください。

2024年度の人的資本経営取り組み方針

注)2023年度に人的資本経営に取り組んでいると答えた方の結果

● 今後も人事制度の見直しが取り組みテーマの中心と考えられる

  • 全体では「人事制度(評価・報酬・等級)の見直し(20.3%)」の選択率が最も高く、次いで「中途採用の強化・見直し(14.5%)」 「マネジメント力の強化(14.5%)」の選択率が高い。
  • 企業規模別問わず、 「人事制度(評価・報酬・等級)の見直し」の選択率は最も高く、また、「マネジメント力の強化」が選択率上位に位置している。
  • 企業規模別では、中小で「中途採用の強化・見直し(26.9%)」 「離職率の改善・適切な代謝の推進(14.4%)」 「健康経営の推進(14.4%)」、中堅で「中途採用の強化・見直し(14.7%)」 「女性の活躍推進(14.1%)」 「人的資本経営の目的明確化(13.6%)」、大手で「新卒採用の強化・見直し(14.7%)」 「女性の活躍推進(14.1%)」 「リモートワークなど働き方の多様化推進(13.3%)」の選択率が高く、上位に位置している。

→企業規模問わず「人事制度(評価・報酬・等級)の見直し」が高く、また「マネジメント力の強化」も共通して重要度の高いテーマである。改定した人事制度の活用や従業員のエンゲージメント向上などを背景にマネジメント力の強化に関心が集まっているものと推察される。

→企業規模別では、人材獲得(採用)への注力方針に異なる傾向がみられる。中小・中堅では「中途採用の強化・見直し」が上位にあり、目の前の事業を推進するための経験者・即戦力を必要としているものと捉えられる。

一方、大手では「新卒採用の強化・見直し」の選択率が高く、育成を前提とした中長期での人材基盤の確立を思考しているものと考えられ、事業規模に伴い人的資本経営の視点・時間軸に違いがあることがうかがえる。

図6.今後の注力施策(複数回答)

Q:来年度(2024年度)の「人的資本経営」に関する取り組みについて、特にあなたの勤務先で重要となるテーマを3つまでお選びください。
※「人的資本経営」の取り組みを今後(2025年度以降)行う予定・検討予定の方は、今後取り組みを行う際に、重要となるテーマを3つまでお選びください。
注)選択率上位5項目を表記

今後の注力施策

以上

執筆者

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技術開発統括部
コンサルティング部
4グループ
コンサルタント

増田 秀生

2017年リクルートキャリアへ新卒で入社。採用領域にて大手企業を中心にアセスメント、研修、コンサルティングサービスを提供。2020年、リクルートマネジメントソリューションズへ転籍し、2022年より現職。

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