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公開日:2024/01/22
更新日:2024/01/22

THEME 経営人材/次世代リーダー

連載・コラムさあ、扉をひらこう。Jammin’2023 professional interview

志があるのに報われていない人たちの肩を持ちたい〈Jammin’専門家インタビュー〉

志があるのに報われていない人たちの肩を持ちたい〈Jammin’専門家インタビュー〉

共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」、5年目のJammin’2023がスタートした。
現在は、41社253名の次世代リーダーたちが「不」を基点に新価値を生み出すプロセスに取り組んでいる真っ最中だ。Jammin’2023は全15コースがあり、各コースに1人ずつ、新規事業の立ち上げと各テーマの現場を熟知する「専門家」がついている。彼らと交流することで参加者の学びは一気に深まる。今回は「食料コース」の専門家・小野邦彦氏(株式会社坂ノ途中 代表取締役)に、ご自身の事業や取り組みについて、またJammin’と次世代リーダーたちの印象について伺った。

 

全国の新規就農者をパートナーに、環境負荷の低い農業を広めようとしている



小野さんの画像

小野 邦彦(おの くにひこ)氏
株式会社坂ノ途中 代表取締役

1983年奈良県生まれ。京都大学総合人間学部では文化人類学を専攻。外資系金融機関での「修業期間」を経て、2009年株式会社 坂ノ途中を設立。
「100年先もつづく、農業を。」というビジョンを掲げ、農薬や化学肥料不使用で栽培された農産物の販売を行っている。提携農業者の約8割が新規就農者。少量不安定な生産でも品質が高ければ適正な価格で販売できる仕組みを構築することで、環境負荷の小さい農業を実践する農業者の増加を目指す。
東南アジアの山間地域で高品質なコーヒーを栽培することで森林保全と山間地での所得確保の両立を目指す「海ノ向こうコーヒー」も展開し農業分野を代表するソーシャルベンチャーとして事業成長を続けている。京都市「1000年を紡ぐ企業」、経済産業省「地域未来牽引企業」「J-Startup Impact」など、受賞多数。


▼坂ノ途中の事業(Jammin'での投影資料を一部抜粋)

坂ノ途中の事業(一部抜粋)


――はじめに小野さんご自身のことを教えてください。

私は大学で文化人類学を学びました。文化人類学は、現代社会をさまざまな社会のあり方のなかの1つとして相対化する学問です。いまの効率や経済を極端に重視する社会のあり方に疑問を感じていた私にとって、とてもしっくりくる学問でした。それから、大学時代にはバックパッカーとして主にアジアを巡りました。あるときは上海からイスタンブールまでずっと旅をしました。

文化人類学を学んだり、アジアを旅したりするなかで、私は農業の危うさが気になってきました。現代農業は、今の効率性を追求し成果をあげている一方で、過去の遺産を食いつぶし、生物多様性を損なったりエネルギーを多用したりと、持続可能ではありません。この現状をどうにかしたいと思い、大学在学中に農業系で起業することを決めました。外資系金融機関で2年ほど修業した後、2009年に「坂ノ途中」を起業して、いまに至ります。

――坂ノ途中の事業内容を教えてください。

私たちが主に手がけているのは、環境負荷の小さな農法で育てられた農産物の販売です。西日本を中心とした全国の生産者と提携していますが、その8割が新規就農者です。ある調査では、新規就農者の約70%は、環境負荷の低い有機農業を志しています。ただ、挑戦者の多くは経営が成り立たず、早々にやめてしまう現状があります。私たちはその現状を変えるために、彼らが生産した品質の高い農産物を再生産可能な価格で買い取り、インターネットで販売するビジネスを行っています。新規就農者を支援することが、農業を環境負荷の低いものへと変えていく有効な手段だと見定めて、それを事業にしているのです。

また、文化人類学を学んでいたことから、私は東南アジアの山岳少数民族にもともと関心があり、東南アジアにおける森林減少に強い問題意識を持っています。山岳地域に住む人たちは森林を残したいと思っているのですが、現金収入のために仕方なく木々を伐採している現実があります。そこで、私たちは東南アジアの森のなかでコーヒーを育て、彼らが現金収入を得るための新たな手段をつくる「海ノ向こうコーヒー」という事業も推進しています。栽培や収穫後の発酵乾燥といったプロセスを改善することで、スペシャリティコーヒーをつくって価値を高めています。大きな可能性を感じながら、ビジネスを進めています。


▼Jammin’「食料コース」でのメッセージ(Jammin'での投影資料を一部抜粋)

Jammin’「食料コース」でのメッセージ(一部抜粋)

社会課題は複雑だから、分かりやすさに逃げない



――坂ノ途中のビジネスにおける「想い」を教えてください。

第一に、私たちには「志があるのに報われていない人たちの肩を持ちたい」という強い想いがあります。新規就農者はさまざまな面で苦労しているケースが多いです。しかし、彼らが報われることが、社会を持続可能なものにシフトするための第一歩としてとても重要だと考えています。

Jammin’でもよく話していることですが、事業案はロジカル一辺倒で評論家のようにつくるものではありません。ロジックはもちろん必要ですが、事業案の根底に「どうしてもこれをやりたい、周りに理解されなくてもなんとかしたい」というような、やむにやまれぬ想いがあることが大切です。新規事業の立ち上げで最も問われるのは、起業家の価値観や想いなのです。それが事業の強力な推進力になります。Jammin’参加者の皆さんにも、そのことをよく理解してもらいたいと思います。評論家のようなプレゼンテーションではなく、「どうしてもやりたい」という気持ちのこもった事業案を提案してもらえたら嬉しいです。

第二に、「分かりやすさに逃げない」ことを大事にしています。いまだに解決されていない社会課題は、複雑なものばかりです。だからこそ、分かりやすさに逃げないことが大切だと考えています。私たちが重視しているのは、新規就農者の現地に入って現状を包括的に捉え、本当に意味のある支援をすることです。そして、短期的解決を目指すのではなく、長距離走を走りながら、中長期的に本質的な課題解決をすることを心がけています。

――なぜ「長距離走」を心がけているのですか?

農業に関わっているとよく分かるのですが、物事の成長速度と分解速度には相関があります。平たくいえば、速く成長したものは分解されるのも速いのです。反対に、ゆっくりと成長する作物は長く残ります。私たちは後者でありたいですし、新規就農者の皆さんにも長く続けてもらいたいと考えています。社会を変えるためには、持続可能なペースで、長く関わることが大事だと思っています。

私たちのビジネスは「遅くて速い」のが特徴だと思います。たとえば、最初の頃は「小さくいいことをしよう」という考えが強く、コンパクトな地域ビジネスを志向していました。しかし、やはり無力さを感じることも増え、8期目にベンチャーキャピタルから資金をはじめて調達しました。一般的なスタートアップと比べると、資金調達までに随分と時間をかけています。

今の、事業の進め方もそうです。多様なバックグラウンドをもつメンバーが社内でさんざん議論しながら進めるので、どうも歩みが遅いように感じる。だけど、実はリリース前にいろんな視点での課題をつぶせているので、リリース後の後戻りはとても少ない。その結果、事業成長の速度はそれなりに誇れるものになっています。

大企業の社員は「特権階級」だと自覚してほしい



――Jammin’に参加してみて、いかがですか?

このように参加者が本気になって取り組む企業研修もあるのか、と驚いています。Jammin’参加者の皆さんが、事業案の創出に相当の熱量と時間を注ぎこみ、身を削っている姿を見て、私も頑張りに応えたいと思うようになりました。自分の感性や価値観を大事にしながら取り組む参加者もたくさんいて、好感を持っています。その結果、Jammin’2022の食料コースの代表チームとなった「顔の見える牛乳」のように、手触り感があって、実際に成立するのではないかと思えるような事業案も出てきています。

ただ、京都に本社を置き、全国の中山間地域などいわゆる「地方」と関わっている私からすると、首都圏・大都市圏の大企業社員はいわば「特権階級」なのですが、そのことに無自覚な人が多いとも感じます。特に東京は、他の地域とはまったく違う場所であることをよく理解してほしいと思います。東京はたとえば、日本の中山間地域よりも他国の大都市に似ていて、一方で日本の中山間地域は日本の大都市よりも他国の中山間地域と似ています。少なくとも食料コースに参加する皆さんは、日本の地方に自ら踏み入って現状をよく理解し、大企業社員は特権階級なのだと自覚したうえで事業案を創出することが欠かせません。東京や大都市圏の感覚だけで食料コースの事業案を考えても、まずうまくいきませんから。

大企業の皆さんが、偉くなる前にJammin’に参加して、自分が特権階級であることを自覚し、地域の現状をよく知ったうえで「0→1」を考える経験をすることは、きっと将来に役立ちます。本人がいずれ新規事業を創ったり、事業を拡大したりする立場になったときに、視野・視座の拡大という観点で、本人にとっても企業にとっても良い効果があるはずなのです。いずれはJammin’参加者の皆さんと連携して、一緒にビジネスを進められる未来を期待しています。

▼オンラインインタビューでの小野さん

オンラインインタビューでの小野さん

さんざん調べてつくり上げた事業案を「手放す勇気」を発揮してほしい



――坂ノ途中の今後の事業方針を教えてください。

先ほども言ったとおり、15年間続けたら、新規就農者のつまずきや悩みを日本で一番知っている会社になりました。気づいたら、独自のポジションに立っていたのです。一方で、新規就農者の定着支援というテーマは、年々大事なものだという認識が強まっており、国や自治体、企業からの注目が集まっています。いくつもの企業から出向者を出してもらい、交流を増やしています。また、「坂ノ途中の研究室」を立ち上げて、アンケート調査を行ってデータを分析したり、報告書を出したりするサービスも始めました。私たちはこれから、有機農業に必要なデータインフラを構築していきます。そうやって私たちの役割をしっかりと果たしていきたいと考えています。

――Jammin’参加者の皆さんにアドバイスやエールをお願いします。

「手放す勇気」を大事にしてください。さんざん調べてつくり上げた事業案を途中で一度捨てて、ゼロからもう一度考えてみるのです。あるいは、何かをガラッと大きく変えてみるのです。そうすると、すばらしい事業案が生まれることがよくあります。Jammin’でも、手放す勇気を発揮した結果、成功したチームをいくつか見てきました。私は、目の前で手放す勇気を見ると嬉しくなります。

それから、Jammin’が終わった後、形状記憶合金のように元に戻らないでもらえたら、と思います。「そんなこともあったなぁ」とJammin’参加前と同じように仕事に戻るのではなく、折に触れてJammin’のことを思い出し、自社でもJammin’で得た体験や視点、知識や考え方をぜひ発揮して、自分なりに新価値を生み出していってほしいのです。皆さんの今後に期待しています。


【text:米川 青馬、illustration:長縄 美紀】


※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。



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