連載・コラム
さあ、扉をひらこう。Jammin’2022 leader interview vol.2
文化コース「家花火」のチームは、なぜJammin’ Awardグランプリを獲得できたのか〈Jammin’リーダーインタビュー〉
- 公開日:2023/08/28
- 更新日:2024/05/16
共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」は、2023年も引き続き開催する。2022年の振り返りとして、「2022 Jammin’ Award」で見事グランプリを受賞した文化コース「家花火(いえはなび)」チームにインタビューした。現在は実現に向けて進んでいる「家花火」の事業案は、いったいどのように生まれたのか。ターニングポイントはどこにあったのか。彼らはなぜグランプリを獲得できたのか。Jammin’の半年間で何を得たのか。チームメンバーのうち、澤井康二さんと鈴木佳祐さんの2名にお話を伺った。
- 目次
- 専門家の「文化と経済の両輪を回す」という言葉が、会社のキーワードとリンクした
- 花火業界の「不」を本当に解決したいから、事業案を一度白紙に戻して、花火事業者さんに話を聞きに行った
- 花火事業者さんや伝統工芸ガラス事業者さんが「一緒にやりたい」と言ってくれたことが励みになった
- Jammin’終了後、社内に「自社の数十年後」や「自分の想い」について有志で話し合う場を立ち上げた
- 関係性ゼロからチームをつくって、1つの結果を生み出せるところが魅力的な研修だ
専門家の「文化と経済の両輪を回す」という言葉が、会社のキーワードとリンクした
澤井 康二氏
株式会社村田製作所
鈴木 佳祐氏
株式会社野村総合研究所
――Jammin’2022受講のきっかけと開始当初の気持ちを教えてください。
澤井:村田製作所で新規事業開発を担当する澤井です。上司の勧めもありましたが、最終的には自分から手を挙げて、Jammin’を受講しました。当時は新規事業開発に携わってまだ半年くらいで、何から始めてよいか分からず、自分起点で動き出せていませんでした。そこで新規事業創出のやり方を学びたいと思ったのが、手を挙げたきっかけです。
鈴木:鈴木です。野村総合研究所で金融系システム開発を担当しています。私はJammin’の前に1年間、「価値共創」をキーワードに、イノベーションを起こすためのチームづくりや手法を学ぶ社内プログラムに参加していました。ただ、価値を創造するリーダーが現場でどのようなことをすべきなのか、ピンと来ていなかったんです。そんなときに「新価値創造セッション」という言葉を見つけて、すぐにJammin’に手を挙げました。
文化コースに参加して驚いたのは、チームメンバーが最初に持ち寄ったアイディアが、みんな全然違ったことです。同じテーマに向き合っていても、一人ひとり見えている側面が違うんだ、文化の切り口はこれほど多様なんだ、と知りました。
澤井:チームメンバーの業界も職種も本当にさまざまで、参加の目的や思いもそれぞれ違っていました。しかも、鈴木さんの言うとおり文化というテーマの範囲が広いため、最初は自分たちの事業案の切り口をどう見つければよいのか分からず、うまくかみ合いませんでした。不安を覚えたこともありましたね。ただ私自身は、チームで考えて作っていくJammin’の自由度の高さをポジティブに捉えており、高いモチベーションで参加することができました。
――序盤の印象深い出来事はありますか?
澤井:文化コースの専門家・矢島里佳さん(※株式会社和える 代表取締役。Jammin'2020から文化コースの専門家としてコースに伴走している。)が、初期に私たちの事業案に壁打ちをしてくれたことがありました。そのとき矢島さんが言っていた「文化と経済の両輪を回す」という言葉が印象に残っています。その一言で、文化コースでは利益だけでなく、文化的な価値も高い事業案を考えなくてはいけないと分かったんです。また、村田製作所も中期経営計画などで「社会価値と経済価値の好循環」をキーワードとして発信しており、矢島さんの言葉とリンクしました。Jammin’で学んだことや体験したことが、自社の新規事業に生かせることに気づいた瞬間です。
――最初の頃、他のメンバーのことをどう思っていましたか?
澤井:Jammin’のプレアンケートで自己診断をしたのですが、私は開放性や創造性が最高得点の7である一方、着実性は最低評価の1でした。実際、私はアイディアを出すのは得意ですが、物事を着実に進めるのは苦手です。反対に、鈴木さんはプロジェクトマネジャーという仕事柄、着実性が高いんですね。こうした多様なメンバーがお互いを補い合いながら進められたからこそ、うまくいったんだと思います。
鈴木:本当に4者4様でしたよね。みんなの意見を俯瞰するのが得意な人、みんなが持っていない目線から問いを投げかけて考えの幅を広げてくれる人、どのようなときもネガティブな発言をしない人など、多様な強みのあるメンバーがいることが本当にありがたかったです。チームワークが絶妙にいい塩梅でした。
花火業界の「不」を本当に解決したいから、事業案を一度白紙に戻して、花火事業者さんに話を聞きに行った
――ターニングポイントはどこにありましたか?
鈴木:最初は、文化的遺産の建築物を活用する案と、花火業界を盛り上げるビジネス案の2案を候補にしていて、10月のセッション2のときに全員一致で花火に決まりました。ただ、そのときはまだ「家花火」ではなく、花火をカスタマイズして贈り物にする事業案だったんです。
澤井:花火のパッケージをカスタマイズして、プレゼント需要を生み出していく企画でした。ただ、その事業案に関する質問をされたときにクリアに答えられず、自分たちの企画なのに腹落ち感がありませんでした。本当に花火製造者さんの「不」を解決できるのか、本当に価値のあるものなのかという点でモヤモヤがあったんです。
鈴木:そもそも我々にも花火をする習慣がなく、本当に花火に需要があるのか納得できていない部分がありました。それから、花火問屋さんを訪問した際、インドの方が花火を買いに来ていました。なぜかというと、インドでは特定の祝日に花火を上げてお祝いをする文化があるからです。このように日常に花火が根づいている社会なら、みんな花火をするわけですね。ところが日本はそうではない。こんな話を花火問屋さんとしたことで、生活に根づいていないものをプレゼントされても、みんなそんなにうれしくないのではないか、花火製造者さんたちのためにもならないのでは、という話になったのです。そうして12月のセッション4で、カスタマイズ花火プレゼントの事業案は白紙に戻ったんですね。
この辺の打ち合わせは、ちょっと雰囲気が重いこともありました。そこでセッション4から5にかけては、いつもよりも打ち合わせの回数を増やしたり、時間を延ばしたりして、本音を出しきって、全員が納得できるところまで密に話し合いました。
そのなかで、花火業界の「不」をあらためて捉え直すため、花火職人さんや花火問屋さんにヒアリングをしていったんです。そうしたら、花火ができる場所が減っているという問題が見えてきて、「場所に関係なくできる花火」がいいんじゃないかという話になった。そして、メンバーの1人が、入院中の人たちなどのために「家でできる花火」を作れたら、新しい文化と需要を生み出せるんじゃないか、と言ったんです。さらに澤井さんが「ガラスのなかで花火をしたらキレイじゃない?」とアイディアを膨らませて、「家花火」の事業案の骨子が完成しました。
こうやって全員で徹底的に不を突き詰めて、これなら勝負できるというアイディアを生み出せたとき、はじめてチーム全体が前に進んだ感じがしました。
澤井:セッション4のとき、それまでの自分なら、「カスタマイズ花火のままでいこう」となっていたかもしれません。12月の時点で振り出しに戻すのはリスクがあり、勇気の要る決断でした。ただ、「不」を解決するというJammin’の目的に立ち返ったときに、チーム全員でカスタマイズ花火をやめる意思決定ができたんです。それまでに、メンバーと良い関係性を築けていたことが大きかったと思いますね。年明け1月のセッション5(コース内プレゼンテーションの場)に「家花火」のアイディアをいきなり持ち込んだんですが、その時点ではメンバー全員納得していました。
▼「家花火」の事業案のプレゼン資料
花火事業者さんや伝統工芸ガラス事業者さんが「一緒にやりたい」と言ってくれたことが励みになった
――「家花火」に着目したのはなぜですか?
澤井:屋内でできる花火は、病院や介護施設の方が楽しめるだけでなく、都市部のニーズも高いと考えました。なぜなら、花火禁止の場所が多いからです。東京23区の場合、半分以上の区の公園が花火禁止なんですよ。そうした「不」を解決することで、新しいニーズと市場を創出できる点に魅力を感じました。さらに伝統工芸のガラス容器を組み合わせて、より美しくできたら、まさに新価値創造が実現するんじゃないかとワクワクしてきたんです。
鈴木:花火の「不」を突き詰めて調べて、「今や3割くらいの子が手持ち花火をしないまま大人になる」という事実をつかんだり、東京にある私の自宅周辺だと、クルマで移動しないと花火ができる場所まで行けないという事実を発見したりしました。「場所の不」があるからこそ、花火をやる機会が減っていて、花火が売れなくなっている。やる側の不と、作り手側の不がリンクしていきました。
澤井:「家花火」には線香花火がマッチするのですが、実は線香花火を作っている会社は3社しかありません。その1社に話を聞きに行ったところ、手で持って楽しむ玩具花火は海外産がシェアの9割を占めている現実を教えてくれました。その花火製造者さんは、私たちのアイディアにチャレンジしたい、一緒にやりたいと言ってくださった。そのとき、自分たちの事業案が本当に「不」を解決できるかもしれない、という手応えを得られたんですね。このことがものすごく励みになりました。
鈴木:最初、メンバーの1人が花火製造者さんに約束を取り付け、インタビューしてきてくれたのですが、そういうアクションが簡単に受け入れられることに正直驚きました。それだけでなく、事業者さんたちが正直にありのままを話してくださったことがうれしかったです。また、その後に「家花火を買いたいですか?」といったアンケートを取って、世間の生の声を集めたことも大きな収穫でした。そのデータを活用して、細かいところを具体的に詰めていきました。アンケートが自信にもつながり、私たちの熱量も上がりましたね。
澤井:花火製造者さんから花火のサンプルを提供していただいて、ガラスの容器を買ってきて中で花火をしたらキレイで、自分自身も欲しいと思えました。さらに、伝統工芸ガラスの事業者さんもぜひ一緒にやりたいとおっしゃってくださった。そうしたら、さらに使命感とモチベーションが湧き上がってきました。
――そうして事業案が完成し、見事にJammin’ Awardでグランプリを受賞したわけですが、そのときの気持ちはどうでしたか?
澤井:感無量でした。予想以上に多くの人から、「発売になったら買います」「応援します」などと声をかけていただいて、素直にうれしかったです。「家花火」は、大企業が期待するような売上規模ではありませんが、実際に花火製造者さんや花火をしたい人たちが抱える「不」を解決できるという強み、それを実現したいという私たちの想いを評価していただけたのだ、と捉えています。
▼ 2022 Jammin’ Awardの表彰式の様子
Jammin’終了後、社内に「自社の数十年後」や「自分の想い」について有志で話し合う場を立ち上げた
――Jammin’は「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」の3つのリーダー行動を大切にしていますが、この3つをどのように実現しましたか?
鈴木:「ひきつける」が一番難しかったですが、私は初対面のときから、自分の意見を積極的に発信したり、問いを投げかけたりして、皆さんの興味を惹くことを大事にしました。「いかしきる」は、先ほども話したとおり、チームメンバーの特徴や特性がバラバラだったので、全員が適任を果たせばうまくいくだろうと思っていました。調べものが得意な人、アイディア出しが得意な人、営業や取材が得意な人、スケジュール管理が得意な人など、チーム内のリソースを生かしきって、適材適所の配置ができました。「やってみる」は、私がJammin’で一番新鮮だったことです。花火製造者さんなどステークホルダーの現場を訪問して、実際に話を聞き、手触り感のある情報を手に入れられたことが、大変良い経験になりました。
澤井:「ひきつける」は苦手で、強いリーダーシップを発揮するのが得意ではありません。その代わりに、率先して行動したり調べたりアイディアを出したりしてメンバーをひきつけ、プロジェクトを前に進めることを意識しました。「いかしきる」は、私はいったんみんなの意見を受け入れてから考えることが得意なので、メンバーが自由に意見を言いやすい場をつくることを意識しました。「やってみる」は、花火製造者さんや伝統工芸ガラス事業者さんなど、コネクションのないところに飛び込んで話を聞いてみたのがよかったです。普段の仕事ではめったにない機会ですから。やってみることの効果も実感できましたね。
――Jammin’を通して得られたことはなんですか?
鈴木:現業で何度かチームリーダーになりましたが、Jammin’に参加して、これまでは自分の思いや上司の受け売りをメンバーに一方的に伝えることが多く、メンバーの声を聞くことがあまりできていなかったことがよく分かりました。また、短期的な視点しか持っておらず、自分たちの事業の数十年後を議論したことなどありませんでした。でも、「家花火」では数十年後を考えたんですよ。未来を話し合う場が必要だと感じました。
そこで、私は今、自チーム内の若手有志を募って、自分たちが会社の中核を担うときに自社の事業がどうなっているのか、自分たちはどうしたいのかを定期的に話し合う場を設けています。Jammin’と同じで、いざ話し合ってみると、考え方や見方が全員違うんですよ。同じ職場、同じチームにいながら、相手のことを全然理解できていなかったことが浮き彫りになりました。今、この仲間たちと未来を見据えた事業のつくり方を考えながら、皆で同じ方向を向こうとしているところです。
澤井:私は今、新規事業開発を担当しているのですが、まさに新規事業開発のポイントを学べたと思っています。先日、上司と一緒に、「家花火」がなぜ周りから高く評価していただけたのかを振り返ったのですが、そのときに分かったのは、「家花火」は、一番に「不」の解決、社会課題の解決から入ったのが成功の要因だった、ということです。もちろん、ビジネスを持続させるためには売上や利益が必要ですが、社会課題から入って、個人が本当にやりたいという想いを大事にすることが新規事業開発のポイントだと見えてきたんです。まさにこれから、Jammin’で学んだこと、経験したことを自社でやろうとしているところです。
関係性ゼロからチームをつくって、1つの結果を生み出せるところが魅力的な研修だ
――現在、「家花火」は実現に向けて動いているそうですね。詳しく教えてください。
鈴木:事業案を実現するために課題を乗り越えていこうとしています。何度も実験して、商品の特性や課題をクリアにしていっています。花火製造者さんと打ち合わせして、花火製造者さんができること、私たちができることを整理し、お互いに小さなサイクルでトライアンドエラーを進めているところです。
澤井:ここまでみんなが応援してくれたのだから、やるしかないと思っています。ただ、安全性の問題と、煙とにおいの問題の2つの大きな問題があります。今は実験しながら、その2つをどう解決したらよいのかを考えています。実現チームには、Jammin’の他の受講者にも加わってもらっています。さらに、デザイナーの友人などにも参加してもらって、これからデザイン面も詰めていく予定です。
――これからJammin’に参加する人にメッセージをお願いします。
澤井:Jammin’は、自社の仕事を離れ、一個人として社会課題解決に取り組み、プロダクトやサービスを考えられる点が魅力です。自分の想いを反映し、チームメンバーと一緒になって、社会にインパクトを与えるアイディアを考えることができる貴重な機会だと思います。私自身、もう一度やりたいと思っているくらいです。大変な部分もありますが、得られるものも多いですから、ぜひ楽しみながらチャレンジしてください。
鈴木:関係性ゼロの間柄からチームをつくって、1つの結果を生み出せるところが魅力的な研修です。加えて、起業し活躍している専門家の皆さんに自分たちの案を直接ぶつけて、フィードバックをいただける機会もあります。私も澤井さんと一緒で、もう一度参加したいくらいです。次に参加したら、もっと早くから動いて、フィールドワークやアンケートなどの機会を増やしたいですね。現場の危機感は、現場に行って聞かないと分かりませんから。ぜひ躊躇せずに現場で情報を集め、事業案をブラッシュアップすることをお薦めします。
【text:米川 青馬、illustration:長縄 美紀】
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