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連載・コラム組織行動研究所セミナー開催報告

コロナ禍で注目される自律的な働き方とエンゲージメント

コロナ禍で注目される自律的な働き方とエンゲージメント

コロナ禍に伴い、テレワークが一気に普及しました。オフィス勤務への揺り戻しもあるものの、テレワーク活用を常態化していく企業も増えています。弊社組織行動研究所では、その際に、自律的に働くことと仕事へのエンゲージメントを高めることが、鍵となると考えています。そこで、2021年9月9日の組織行動研究所セミナーでは、「コロナ禍で注目される自律的な働き方とエンゲージメント」と題し、人事・人材開発担当部門の方に向けて詳しく説明しました。

多くの社員は自律を求められていることを知っている




古野所長の写真

講師プロフィール
古野庸一 リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長
1987年株式会社リクルートに入社。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事。2009年より現職。著書に『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)、『「いい会社」とは何か』(講談社現代新書)、『リーダーになる極意』(PHP研究所)、『日本型リーダーの研究』(日経ビジネス人文庫)、訳書に『ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法』(プレジデント社)など。


「自律」と「エンゲージメント」には、2側面の関係があります。1つは、自律行動にはエンゲージメントが必要で、エンゲージメントを高めるには自律的に動けることが必要条件だ、という関係です。もう1つは、自律行動は「遠心力(会社・仕事から離れる力)」として働くため、「求心力」となるエンゲージメントも高めてバランスを取る必要がある、という関係です。いずれにしても、両者を同時に高めた方がよいことは明らかです。そこで今回は自律とエンゲージメントをセットでお話しします。

コロナ禍に入って、いよいよ「自律」が人材マネジメントのキーワードになってきています。なぜなら第一に、在宅勤務が増え、一人ひとりが自律的に働く必然性が生まれたからです。また、コロナ禍で仕事がなくなったり、仕事の仕方が大きく変わったりした方も数多くいます。例えば私の場合、2019年までは対面だった講演が、ほとんどオンラインに変わりました。私たちは、こうした変化に主体的に対応しなくてはなりません。加えて、人生100年時代や多様性の時代の到来も、自律を促す大きな要因となっています。一人ひとりがキャリア形成やワークライフバランスを自分なりに考え、行動を起こし、変化に対応する時代に足を踏み入れたのです。

実は、多くの社員は、組織から自律を求められていることを知っており、自律的に働きたいと思っています(図表1)。会社の業績や従業員の働きがい(エンゲージメント)を高めるために自律が必要なのだ、ということも分かっています(図表2)。


<図表1>「自律」に対する意識(単一回答/n=435)


<図表1>「自律」に対する意識



<図表2>会社が従業員に「自律」を期待していると考える理由(複数回答/%)


<図表2>会社が従業員に「自律」を期待していると考える理由

上司や組織のサポートが自律を促す



ところで、自律には3種類があります。やることは決まっているがやり方は任せられている「HOW自律」、やることを決めることから任せられている「WHAT自律」、自分のキャリアを自らコントロールする「キャリア自律」の3つです(図表3)。HOW自律は、テレワークに多い自律の形です。WHAT自律は、例えば新規事業提案、業務改善提案、組織市民行動(組織内に落ちている業務外の業務を率先して行うこと)などを指します。

<図表3>3つの自律


<図表3>3つの自律


私は自律行動を促進するものとして、3つの要因があると捉えています。1つ目は、他人に頼らず自分の判断で決める「セルフマネジメント」です。2つ目は、自分の考えや行動が世のなかのためになるか、会社の理念・方針に沿っているかを考える「公共善の意識」です。3つ目は、上司による「自律支援型のマネジメント」です。

以上の3つの要因を踏まえて、社員の自律を促すには「上司・組織の2つのサポート」が必要だと考えています(図表4)。1つは「公共善の判断材料の提供」です。社員に公共善を意識してもらうためには、会社の理念・方針は何か、世のなかのためになるとはどういうことかを、会社側からしっかりと伝えることが大切です。判断材料があれば、社員はそれに沿って自律的に考え、行動することができますから。もう1つは、本人の意思決定後の「行動のサポート」です。セルフマネジメントはあくまでも本人の努力によるものですが、残りの2つは、上司や組織の働きかけがものをいいます。人間の意志の力は決して強くありません。自律行動は、本人の努力だけではなかなか起こせないのです。

<図表4>自律行動に影響を与える要因

<図表4>自律行動に影響を与える要因


では、自律行動をサポートする「自律支援型のマネジメント」はいったいどうしたらよいのか。それには、「Will(したい)・Can(できる)・Must(すべき)」の3つの視点でマネジメントすることが必要だと考えています(図表5)。特に、本人のWillを重視することは、自律行動を促すだけでなく、エンゲージメントを高めることにもつながるはずです。ただ、それでもなかなか自律行動を取らない社員は一定数いるでしょう。そうした社員に対しては、「あなたがこの組織に最も貢献できるテーマ(働き方)は何ですか。一緒に考えましょう」と、寄り添う姿勢で接してみることをお薦めします。

<図表5>Will・Can・Mustの部下マネジメント

<図表5>Will・Can・Mustの部下マネジメント

働きがいは労働生産性・幸福感・株価などを高める



「エンゲージメント」は、ここでは「組織全般を配慮し、やりがいをもって前向きに仕事に向かう態度・行動」と定義します。細かく言えば、仕事に対するエンゲージメント「ワーク・エンゲージメント」と、ワーク・エンゲージメントに会社への愛着心などを加えた「従業員エンゲージメント」は違うのですが、ここでは一緒に扱います。なお、「働きがい」は、ワーク・エンゲージメントと職務満足感を合わせたものを指します。

ところで今、エンゲージメントが注目されている背景にはいくつかの動きがあります。例えば、企業は人的資本をはじめとする「非財務情報」の開示が求められるようになってきており、人的資本の一要素としてエンゲージメントがある、ということです。あるいは、経団連が「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」のなかで、「働き手のエンゲージメントの重要性」をトピックの1つに取り上げ、働き手がやりがいをもって仕事に打ち込めるエンゲージメントを高めることが、日本経済にとって重要だという考えを示したことがあります。 いずれにしても、日本人のエンゲージメントは世界最低レベルだということが注目されている要因でもあります。私たちの調査でも、諸外国より低い結果が出ています(図表6)。


<図表6>ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度による日本企業の調査


<図表6>ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度による日本企業の調査


一方で、先行研究では、働きがいが高いほど、社員の定着率が高く、労働生産性が高いことが分かっています(厚生労働省、2019、令和元年版労働経済の分析−人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について−)。また、弊社の調査でも、ワーク・エンゲージメントが高い群は低い群に比べ、幸福感と適応感が高く、離職意向は低いことが分かっています(図表7)。


<図表7>働きがいと幸福感、適応感、離職意向との関係


<図表7>働きがいと幸福感、適応感、離職意向との関係


さらに、働きがいのある会社は株価が高いことを示唆するデータもあります。働きがいのある会社研究所(Great Place to Work® Institute Japan)によれば、「働きがいのある会社」ランキング選出企業(ベストカンパニー)の株価のリターンは、その他の主要な株価指数と比べても高い傾向にあります。2010年の「ベストカンパニー」のうち、上場している10社に、ランキング発表後の2010年3月末に等金額を投資した場合、2021年3月末時点でリターンは280.4%(年率換算前)。同時期のTOPIXと日経平均のリターンはそれぞれ99.6%と163.1%でした(図表8)。この差は歴然としています。


<図表8>働きがいと業績


<図表8>働きがいと業績


出所:Great Place to Work® Institute Japan https://hatarakigai.info/hatarakigai/

エンゲージメント向上は経営そのものである



では、エンゲージメントと働きがいはどうすれば高まるのでしょうか。実は、各種人材マネジメント施策が、働きがいを左右することが分かっています(図表9)。本人の配置希望が尊重されること、評価結果とフィードバック、希望に応じて学べる研修、仕事の意義や重要性についての説明、従業員の意見が経営計画に反映されること、意見が吸い上げられること、ビジョンの共有、表彰・報奨などが、働きがいと大きく関わっているのです。

<図表9>人材マネジメント施策の有無と働きがいの関係


<図表9>人材マネジメント施策の有無と働きがいの関係


以上を踏まえて整理したのが、図表10の働きがいを高めるフレームです。このフレームは、2つのデザインで成り立っています。1つは「コミュニケーションのデザイン」です。会社の理念・目的を共有したり、社員の経営への参画度合いを高めたり、知の交流、ソーシャル・サポート、仲間との信頼構築などに力を入れるのです。

もう1つは、社員が仕事を楽しみ、仕事に意味を見出せるような「仕事のデザイン」です。これは「ハックマン&オルダムモデル」をベースにしています。具体的には、多様なスキル・才能を活かせる仕事(技能多様性)、自分で計画を立てたり自分のやり方で進めたりできる仕事(自律性)、結果を知ることができる仕事(フィードバック)、全体を理解した上で関われる仕事(タスク完結性)、他者の生活や社会にインパクトをもたらすなど自分にとって意味があると思える仕事(タスク重要性)を用意することで、仕事の楽しさと意味を担保するのです。

<図表10>働きがいを高める2つのデザイン

<図表10>働きがいを高める2つのデザイン


最後に、エンゲージメントを阻害しているものを一覧で紹介します(図表11)。実は、さまざまなことがエンゲージメントを阻害しているのです。これらをなくすだけでも、エンゲージメント向上に効果があるはずです。

<図表11>エンゲージメントを阻害しているもの


<図表11>エンゲージメントを阻害しているもの


以上を踏まえると、エンゲージメント向上は経営そのものであることが分かります。決して人事部で完結することではありません。しかしもちろん、人事の皆さんが貢献できることも数多くあります。例えば、エンゲージメント・サーベイでエンゲージメントを定量的に調査すること、阻害しているものを調べること、イキイキと働く社員のインタビューを社内に共有してエンゲージメント向上のポイントを知らせることができるでしょう。

質疑応答

Q:リモートワーク下でエンゲージメントを高める方法を教えてください。

古野:エンゲージメントを高める本質は、「仕事自体を楽しめること」と「仕事に意味づけがされていること」です。テレワーク時もこれに変わりはありません。これらにとって重要なのは、期初のアサインメントです。本人がその仕事を楽しめるか、本人にとって意味のあるものになっているかに留意し、期初に、上司部下で、アサインメントをめぐって、しっかり議論することが肝要です。その時点で、上司部下相互に納得できる状態になっていれば、その後はテレワークであっても円滑に進みます。優秀なマネジャーをインタビューした際にも、これは共通して行われていました。

Q:日本企業は3つの自律のうち、何を望んでいるのでしょうか?

古野:多くの企業は、まずはHOW自律からと考えているはずです。WHAT自律は、誰もが簡単にできることではありません。キャリア自律はこれから進める会社が多いのではないかと思います。

Q:日本のエンゲージメントが低い理由を教えてください。

古野:自分の優れた点をあまりひけらかさない、という国民性がまずあります。ただそれだけではなく、自分の希望とは関係なく行われる異動や転勤など、日本企業では自律性が抑えられてきた面も強いでしょう。

Q:従業員アンケートに本音を書いてもらうにはどうしたらよいですか?

古野:私たちが知る限りでは、匿名にしなくても、アンケートには意外と本音を書く割合が高いです。ただし、アンケート調査の結果をうやむやにすると社員の信頼を失います。アンケートを取ったら、調査結果に真摯に向き合い、対応策を取る姿勢をもつことが大事です。

Q:エンゲージメント向上の重要性を経営にどうアピールしたらよいでしょうか?

古野:一番効果的なのは、リテンションです。エンゲージメントを高めないと優秀な人材が離れていってしまいますよ、というメッセージが最も伝わると感じています。

Q:3つの自律に対して、異なるアプローチが必要なのでは?

古野:How自律、What自律と比較して、アプローチが異なるのがキャリア自律です。キャリア自律で最も大事なことは、自己理解です。自分は何が得意で何が苦手か、大事にしている価値観は何か、何をしているときが最も自分らしいと思えるか、楽しいか、などを理解することです。

こうしたことは、日常の仕事のなかでは、埋没してしまうことがしばしばあります。そして、自己と仕事で必要とされる役割のコンフリクトが起こると、メンタル不全やバーンアウトにつながります。そのため、時々、自己を振り返り、今の仕事と自分が大事にしていることやモチベーションの源泉の乖離を確認し、軌道修正することが必要です。そのためには、研修、カウンセリング、セルフアセスメントなどが有効ですし、手挙げの異動の制度、副業の機会、カフェテリアプランなどが用意されている必要があるでしょう。

キャリア自律へのアプローチは、他の自律のアプローチと比べると多様で深いといえます。
自分のキャリアのことをきちんと考えていくと、今の仕事との向き合い方も主体的になってきます。そういう意味で、3つの自律はつながっていると考えています。

【text:米川青馬】

おわりに

今回のセミナーでは、コロナ禍で注目されている自律とエンゲージメントについてお話しさせていただきました。2つの概念はつながっていて、自律なきエンゲージメントはないし、エンゲージメントなき自律はないと思われます。しかし、双方を高める特効薬はなく、社員の自主性を信じて、地道な経営を継続していくことであるとあらためて感じました。
このセミナーを通して、最もビックリしたことは、多くの質問が寄せられたことです。100名を超えるオンラインでのセミナーは、質問がまったくないということがありますが、今回は多くの方からの質問が寄せられ、時間内に十分にお答えできませんでした。このテーマへの関心の高さを痛感することができました。

このテーマの研究、発信活動を継続していきますので、引き続き、よろしくお願いします。

【組織行動研究所 所長 古野庸一】

この記事で引用した調査『自律的に働くことに関する実態調査』
『ワーク・エンゲージメントに関する実態調査』

◇次回の組織行動研究所セミナーのご案内■ 2021年12月2日(木)13:30〜14:30 
「自律とエンゲージメントを促進するために 変わるマネジャーの役割」
> 詳細、お申し込みはこちら

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