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連載・コラム

シリーズ『人事のチカラ』vol.2

リーダーの行動変容物語を『紡ぐ』『語る』

  • 公開日:2009/12/07
  • 更新日:2024/05/16
リーダーの行動変容物語を『紡ぐ』『語る』

前回は、制度や仕組みの構築に加え、現場の行動変容のプロデュースへと、人事が担う役割が変わってきたというお話をしました。今回は、マネジメントやリーダーシップをテーマとした研修などをきっかけに、現場を変える第一歩を踏み出したリーダーたちの例をご紹介します。リーダーの行動変容とは、『口語』で言うとどういう状態か、というイメージをおつかみいただけると幸いです。

リーダーの行動変容物語を『紡ぐ』『語る』
「お地蔵様」を止めるだけで
前向きな(?)リストラ計画
自問自答する場をいかに作るか

リーダーの行動変容物語を『紡ぐ』『語る』

私は、現在は開発部門におりますが、8年間弊社の研修やワークショップを担当してきた元トレーナーでもあります。私が担当した研修現場で実際に経験した例を2つご紹介します。

日本を代表する大手IT企業A社の開発部門。すでに何年かマネジメント経験のある中堅課長クラス対象の研修でのことです。開始時間が近づき、研修室に一人二人と集まりだし、島に分かれたテーブルに黙って座り始めます。同じテーブルで挨拶を交わす方は誰もいないし、もちろん雑談もありません。手帳やレジュメを見ながら黙ってじっと待っているだけ。いやな予感がしました。研修開始時、私が「おはようございます!」とご挨拶をした途端、予感は現実になりました。こちらの呼びかけに声を出して答えてくれる方は誰もいません。せいぜい、首だけを少し前に傾けて会釈する程度。
その時、はっきり分かりました、事前に人事部長がおっしゃっていた意味が。

「お地蔵様」を止めるだけで

そもそも、『中核課長のマネジメント力向上』というお題で始まった研修でした。しかしその言葉は、前回ご紹介した『文語』の表現です。事前の打ち合わせ時にご発注責任者の人事部長にさらに具体的にお聞きしました。
すると「開発現場に活気がない。マネジャーの意識が足りない。事業ビジョンに『活気ある創発』を掲げ、『現場発のアイデアを活発に生み出し、試行錯誤を繰り返して、市場をキャッチアップする製品を開発する』を中期事業戦略の第一の方針に据えている部門にとって、この状況は致命的ではないか」とのこと。そこでさらに突っ込んで「つまり、具体的にはどんなことに違和感を感じられているのですか?」とお聞きすると、やっと『口語』の答えが返ってきました。「しばらくの海外駐在を終えて古巣の開発部門にもどったら、驚いた。朝から終業時までフロアがしーんとしている。喫煙ルームでも誰も話さない。黙って出社して黙って帰る。もちろんミーティングはあるし、仕事は進んでいるから何も話していないわけではないのだろうけれど。まるで別の会社みたいだ」。それが『中核課長のマネジメント力向上』の中身でした。
まるで石の「お地蔵様」のような受講者の方々を前にして、「これは骨の折れる2日間になりそうだな。それ以上に、半年後のフォローアップ研修は本当に心配だ」と感じました。
その半年後のフォローアップ研修では、2日間の本編の研修で得た気づきをベースに、なんらかの具体的な行動を実践して、その結果を持ち寄ります。ちょっと勇気がいりましたが、その研修の当日、私は20人の受講者の中でも最も筋金入りの「お地蔵様」受講者を指名して、実践結果をご披露いただきました。彼は恥ずかしそうに淡々と話してくれました。彼が2日間の研修の中で決意し半年間意識してやったことは、それまで部下が相談に来た時に仕事を続けながら受け答えしていたのを止めて、「パソコンの手を一旦止めて、部下の方に顔を向けて答える」ことだったそうです。しばらく意識して続けていたら、そのうちぽつぽつと部下が話しかけに来るようになったそうです。そして、そういう何気ない会話の中からちょっと試してみたいアイデアが生まれ、今ではそのアイデアをもとに次の製品発表会に出品するプロジェクトを部下が中心になって動かしてくれている、というのが話の趣旨でした。その話を聞いていた別のテーブルの受講者が突然話し出しました。「そうなんですよ。彼の課、すごく変わったんです。私は彼の課の横の島なのですが、それまでの静かさと打って変わって、今ではうちの課のメンバーが、ちょっと静かにしてくれないか、と頼むくらいに元気なんです」。研修をオブザーブされていた人事部長がうれしそうに驚いたのはもちろん、実は一番驚いていたのは発表した本人でした。「私がやったのは、仕事の手を止めて顔を見て話すだけだったのに……それでいいんですね」。彼は休憩時間中に、私にそう話してくれました。
現場の行動変容とは、何も大それたことだけではありません。リーダーが意識し、意図を持って始める行動。それが、現状の閉塞状態を突破して戦略を前に進めます。その行動がたとえ小さな心がけだったとしても、職場と自分をじっくり考えた上での決意であるなら、職場や部下の動きを変える力になり得る。そのことを人事が『口語』で理解し、承認し、推奨できるか?それを信じて、リーダーに決意の場を用意できるか? この点に、行動変容プロデュースの真価が問われます。

「お地蔵様」を止めるだけで

前向きな(?)リストラ計画

また別のB社ではこんなことがありました。リーダーシップに関する研修を実施したのですが、受講者のある部長さんが冒頭の自己紹介でこうおっしゃいました。「半年前に今の部署に異動してきたのですが、赴任早々事業部長に呼ばれ、『沈み行く船に乗る覚悟はできているか』って言われたんですよねえ」と。他の受講者が苦笑、どうもその方の所属部門は業績不振で縮小・リストラ対象となっているような、全社でも有名な厳しい状況の部門のようでした。「業務計画を立てても、事業部長から『まだ足りない』『問題点がつぶせていない』『これで目標に届くのか!』と何回もつき返される」「部下はローキャリアばかり。できる課長は他部門に持っていかれ、ベテランは会社を去った」。彼の口から出る言葉はそんな内容ばかりで、彼が話すと研修グループの雰囲気が沈んでいきます。ところが、研修のあるセッションで何かが変わったようです。その人は、研修最後の感想交換でこう言いました。「できない、足りない、無理だ、とばかり考えていた。だから、部下にも、なぜできない、まだ足りない、と求めることばかりしてきた。だから部の雰囲気も暗くなっていたのかもしれない。でも、みなさんの話を聴いていると、できている、やれていることがうちの部にもあることが分かった。ちょうど中期事業計画のタイミング。みなさんにもけしかけられたので、今度は、うちの部の長所を基点に展開する運営計画を立てて事業部長に持っていこうと思う。もし、『馬鹿者』と一喝され却下されたら、みなさんを恨みますよ」。……クラス中大爆笑で研修は終了しました。

その後、その研修をオブザーブしていた弊社の営業担当が例の事業部長に会う機会があり、ちょっと尋ねてみました。「部下の○○さんが、一風変わった業務計画を持ってきませんでしたか?」「ああ、あれね。変わった内容だと思ったけれど、珍しく勢い込んで持ってきたから、いいんじゃないの、ってすぐOKしたよ。本人は拍子抜けしてたみたいだけど、今は活気も出てきたし、計画以上にうまく動いているよ」と答えたそうです。

自問自答する場をいかに作るか

「テキストや演習問題を使ってマネジメントの概念を学ぶ」「ケースを通してリーダーシップに必要とされる要素を学ぶ」「サーベイデータを基に職場活性の状況をつかむ」……研修の表層的な姿はそうですが、「学んだ」「分かった」「整理できた」だけではなかなか「取り組んでみたい」「やるぞ」にはつながりません。ケースに取り組み、他の受講者と議論するうちに、いつの間にか自分のマネジメントのことや、自分の組織・チームのことが頭の大半を占める。ぐっと深く思考して、自分と自分の組織について自問自答する。非日常の場所で研修に臨みながら、頭の中は自分と自分を取り巻く現実の日常になる。その瞬間を作るのが、我々の研修です。

自問自答する場をいかに作るか

そうなった状態を弊社のトレーナーは「(研修で使う)ケース離れ、データ離れできた」と表現します。さらに、深く自問自答するあまりトレーナーの存在が受講者の意識から霞のように消えてしまうことを「トレーナー離れ」と表現することもあります。そういう場を作ることができると、受講者が、「早く職場に帰って試してみたい!」という顔つきや発言に変わります。それが意識的な行動変容につながるのです。

とはいえ、あくまでも原点は、人事が『文語』ではなく、『口語』として現場の状況をつかむこと。事業戦略を実現する出発点である、現場リーダーの行動を、『口語』でイメージすることなのです。たとえば「部下の目を見て真剣に話を聞く」「自分の気持ちのこもった計画を迫力をもって上位者に話す」というように、「ストーリーテラー」として、現場の行動変容物語を頭の中で『口語』で紡ぎ、語る。その上で、それを実現するきっかけとなる施策、つまり制度改定、組織改変、配置変更、研修教育など、手段の組み合わせを考える。さらに研修なら、どのようなセッションが重要なのかを検討する。私どもでは、まずイマジネーションの段階からお手伝いさせていただきます。ぜひ、お声掛けください。

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