部長に求められる役割・必要な思考・行動とは? 部長が変わる、職場が変わる

執筆者情報
HRDトレーナー
キャリアカウンセラー
戸並 清志

ビジネスの複雑化が進み、同じビジネス手法をただ続けるだけでは、市場に価値を生み出せない時代。現場とトップをつなぐミドルマネジメント層の役割も、その重要性を増しています。それにも関わらず部長は、自分のすべきことを把握できずに悩んでいるというケースが多いのです。混迷の時代において、部長に求められる役割とは? 部長に必要な思考・行動とは?新任部長向けの研修のトレーナーをつとめる戸並が、受講者の事例をもとに紐解きます。


悩める新任部長

昨年のある秋の日。
私はとある企業の新任部長研修の場で、トレーナーとして担当している5人の受講者と向き合っていた。

その中の一人、50代の受講者が私の目を見つめながら、少し熱っぽい口調でこんなことを語り出したのである。
「私は言ったんです。『ただ年間行事をこなすだけなんてとんでもない。いろんな部署が仕事しやすいように主体的にニーズを拾ったりして動くのが総務の役目だろう』と。私は間違っていませんよね?」
言葉の主は、営業部での華々しい経歴を携えて今年度から総務部部長に任命されたAさん。Aさんは総務部に着任して粛々と請け仕事を無難にこなす風土ができてしまっていることが気になっていた。総務部に渇を入れるつもりで言葉を発したのだが、課長以下はみんなポカーンとしていたという。その一言で、両者の間に明らかな心の溝が生まれていた。

「そうやって情熱を持って語れるのはAさんのいいところだよね。でも、あなたは周りの人の話を聞いたり、引き出したりしよういう姿勢が欠けている」
そんな手厳しいフィードバックが、他の受講者とトレーナーの私から飛ぶ。私の言葉よりむしろ同じ立場の他の受講者の声が、Aさんの胸に響いたように見えた。

受講者の中にはこんな部長もいた。Bさんは何にでも手を出したがる性格である。会社の全体会議で使用するプレゼン用の資料を、自分で時間をかけて作る。部門内で起こっている問題を見つけたら自ら解決に動く。そんな具合である。
「自分でやったほうが早いし、思い通りになる。それにとにかく動いていないと不安で…」
新任部長研修では、昇進して約1年で事業経営を担う部長になるか、いわゆる「大課長」にとどまるかの大きな分岐点があることを伝えている。Bさんには部長という肩書がついただけで、やっていることは課長時代と変わっていなかった。

「フットワークがいいのはBさんのいいところ。だけど、何が一番重要なのか伝わってこない。それに直接手出しするのは部長の仕事なのかな?」
新任部長たちは、部長の役割を把握していないことが多い。それは当然のことで、世の中には部長の仕事を明文化しているものも学ぶ機会も少ないからだ。

口には出さないが、“部長として何をしたらいいのかわからない”という人もいる。まるで新入社員のようだが、それに近い気持ちの新任部長は実は多いのではないだろうか。

重要性を増す、部長の役割

ここ数年、ビジネスが加速的に複雑化している。多くの市場において、同じ仕事の仕方をただくり返すだけでは価値を生み出すことが難しくなった。さまざまな市場が今、成熟期をむかえているのである。価格競争が激しくなっただけでなく、クライアントの要望も高度化・複雑化・多様化している。また突然、思いもよらないところから、新しい競合が現れることもある。

こうした現状に対応するためには、ビジネスの仕組みや組織そのものの変革を考えることが必要だ。ビジネスの仕組みを変えるというのは一大事である。変えることにより仕事の評価指標が変わったり、従来の仕組みや組織を支持する社員との間にコンフリクトが発生したりするからだ。こうした大きな変革の意思決定は課長にはできない。部長の大きな役割の一つといえるだろう。

次に、会社の人員構成を考えてみる。日本の人口ピラミッドが年齢構成に反映されるため、社員の平均年齢があがってきている企業が多い。また、バブル時代に積極的な採用を行い、景気低迷期には採用を絞った企業も多いため、40代が多く、30代が少なく、20代がそこそこ多いという、いびつな人員構成が目立つ。
また雇用形態やワークスタイルの多様化も進む。例えば、業務委託契約、派遣社員、契約社員、出向者などが同じ職場で働くことは珍しいことではない。雇用形態が違えば、仕事に対する価値観も違う。そのような様々な価値観を考慮しつつ、部長として戦略を実現するための活力ある組織風土を形成することも部長に課された大きなタスクだ。

一定の規模以上の企業において、全ての決定を経営トップが行うのは難しくなっている。経営トップが複雑化・多様化し、変化スピードが速い市場を見渡し、全てを把握することは不可能といっても過言ではない。一方で先述したとおり、現場の課長に任せきりでは大きな意思決定ができず、とても市場の変化に追いつかないだろう。だからこそ、部長がどんな意思決定をしたいのか積極的に声を上げる必要がある。部長から上層部への情報共有と提案はビジネスのカギを握っているのだ。

しかしながら、最初から部長の役割を知っている新任部長などまずいない。ここに私は危機感を抱いている。

変わり始めた部長、動き出す職場

さて、新任部長研修から数カ月後、年明け早々の話である。研修のふり返り面談の場で、Aさんは少し照れくさそうにこんな話をしてくれた。

「お昼どきにメンバーから『部長、お弁当をとりますか?』と聞かれるのですが、前は『外で食べるからいい』と答えていただけでした。でも今は、『どうしようかなぁ…。お弁当って何があるんだったっけ?』とか、『○○さんは何を食べるの?』のように雑談のきっかけにして、会話の機会を増やしています。」

Aさんは研修後、「部下の話を聞き、組織メンバーとの信頼関係を再構築すること」を自分の最重要課題として持ち帰った。そして、とても小さいけれど、大きな変化につながる一歩を踏み出したのである。このような会話を積み重ね、最近は、課長やメンバーからAさんへ相談がくるようになったとのこと。今後メンバーには、「いちいち細かい指摘をせず、“他部署の人達から必要とされる存在になっているか”だけを投げかけていきたい」。春頃には、部全体の雰囲気も変わっているかもしれない。

では、「大課長」ことBさんはどうなったのか。彼は本来の部長の仕事に専念し、実行フェーズは課長に大幅に権限委譲するようになったという。
例えば、パートナーである工事会社の当事者意識を高めるために、課長主導で課題と対策を整理させて勉強会を開催したり、部門の方針を共有したりした。現場をよく知る課長たちに任せたのがよかったようで、その結果なんと工事会社の忘年会にBさんと課長が招待されることになったという。しかも「御社が大切にしている価値観について、社員の前で講演してほしい」という依頼つきで。その忘年会がパートーシップ強化に繋がったのは言うまでもない。

他にも、Bさんは常に、部下である3人の課長の巻きこみを意識している。部の中期的要員計画の原案づくりを3人で行うよう指示。これにより課長たちは部門全体を見ることや、情報交換、今後に対する危機感が不足していることに気づいたそうだ。この一石二鳥は、Bさんの頭の中で想定されていたことだが、成果は想定以上のものであったという。

自分一人で仕事を抱え込むのではなく、課長や部下と連携して行う。そうすると新しい課題や、他部署との関わりの中で生まれる新しい可能性などが見えてくる。当然、忙しくなってきてはいるが、心なしかBさんの声は研修時よりも自信に満ちている。
「この忙しさ、嫌いじゃありません」
ふり返り面談が終わる間際、Bさんはそう言って笑顔を見せてくれた。

「行動」に必要な「機会」

「課長」のマネジメントについては研究され、言語化されたものがたくさんあるのに、「部長」の役割について明示されたものはほとんど目にしない。だからこそ、新任部長の育成機会には意義がある。

「自分の部の方針をブラッシュアップするための2日間です」
新任部長研修でこう説明すると、受講者である部長たちは快く参加してくれる。事実、研修プログラムは、受講者である新任部長が自分の抱えている悩みや課題を解決するため、大いに役立つものだ。研修中に作った戦略プランを練り直して、研修のふり返り面談のときに持ってくる受講者も多い。当たり前と言えば当たり前だが、当事者意識が極めて高まっているのだ。

そもそも受講者は部長というポジションを勝ち取った人たち。その能力やポテンシャルの高さは折り紙つきだ。当社の新任部長研修では2日間の研修プログラムの後、1週間後と2ヶ月後に面談を行い、フィードバックを行っている。その面談の場で部長のポジティブな変化を目の当たりにして、鳥肌が立つことが多々ある。もちろん研修だけでは行動にうつせなかった受講者も、何らかの「気づき」を持ち帰り、それぞれの課題と格闘しているようだ。

しかしながら、そんな優秀な人達でも、研修を受ける前は、部長という仕事を把握しきれていないというのが現実なのである。かくいう私にも部長の経験があるが、自分が完璧に部長の役割を理解していたかといえば、胸を張って「YES」とは答えられない。しかも、ここ数年、ビジネスが高度化・複雑化・多様化していることを考えると、今の部長のほうが難しい仕事と向き合っているだろう。

だから私は今日も、尊敬の念を持って受講者の前に立っている。これから訪れる新任部長たちのポジティブな変化を予感し、胸躍らせながら。
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