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身近なテーマを絡めて大人の行動変容を考察

自転車ブームと大人の行動変容

  • 公開日:2009/10/09
  • 更新日:2024/03/25
自転車ブームと大人の行動変容

自転車ブームといわれて大分経ちますが、その勢いはまだ続いているようです。自転車を始める人の動機はさまざまで、趣味の充実・スローライフの実現といった個人の意思・意向から始める人もいれば、地球温暖化などの高尚な気概から始める人、メタボ予防といった健康志向から始める人もいるようです。

斯く言う私も、友人の刺激もあり、遅ればせながら先日初めて本格的な自転車を購入しました。最初友人の間で自転車が話題に上り始めたときは、全く関心がありませんでした。しかし1ヵ月くらい経ち、たまたま書店で自転車の専門誌を手にしたとき突如火がつきました。早速本を数冊買い込み、友人にアドバイスをもらって、すぐに購入を決めてしまいました。早々に決断したものの三日坊主になることもなく、今も週末を中心に可能な限り走り込んでいます。

昨今の企業研修は、研修で身に付けた行動を実際に職場で実践する、いわゆる「行動変容」まで期待されることが多くなっています。プライベートで自転車を購入して活用することも、ある意味で大人の新しい行動変容だと思います。こんな身近なテーマを絡めて、大人の行動変容を考えてみたいと思います。

行動変容のメカニズムとは?
職場で「レディネス」を高められるか?
個別の違いを掴む ~本気のツーリング?それとも気軽にサイクリング?
パートナー役に求められる力

行動変容のメカニズムとは?

人は新しい行動をどのように身に付けていくのでしょうか。

米国の予防医学分野の心理学者プロチャスカ教授らは、人の行動変容を支援するモデルを提唱しています。彼らは動機付けのレベルが行動変容の5つのステージ(段階)ごとに違っていることを確認しました。そして、その各ステージごとに適切な介入手法を提供することによって、行動変容の確率を高めることができるとしています。
またこのモデルでは、基本的にはプロセスが進むにつれて次のステージに進むのですが、うまくいかない場合は前のステージに戻ることも想定されています。例えば、(3)の「準備期」まで進んでトライアルをしてみたが、うまくいかなくて、(2)の「熟考期」に戻って取り組む課題を見直したり、時には(1)の「前熟考期」に戻ってあきらめてしまうといったことが起こるのです。

≪人の行動変容のステージ≫
(1)前熟考期   まだ本人の課題が明確でなく、新しい取り組みに対して無関心なステージ
(2)熟考期    課題をおぼろげながら認識し、どのような課題に向かうべきかを考えるステージ
(3)準備期    課題を明確にし、その課題に向けての準備やトライアルを行うステージ
(4)実行期    設定した課題に対して、6ヵ月程度実際に行動を変えてチャレンジするステージ
(5)維持期    実行期で実践した行動が定着するよう意識して行動するステージ

引用:J.O.Prochaska, J.C.Norcross and C.C.Diclemente “Changing for Good“ 1994

この場合に、特に重要になってくるのが、「レディネス」という概念です。「レディネス」とは、ここでは「(新しい行動を)することに対してどれほど“心づもり”ができているか」という心理状態のことを指します。
私の自転車の例のように、趣味で新しい行動を身に付ける場合、専門誌といったような外部からの刺激で急に火がつき、一気に(1)の「前熟考期」から(3)の「準備期」までステージが進むことが起こりえます。これはレディネスが一気に高まったケースといえます。もちろん、一方で(2)の「熟考期」で、専門誌などを読み、自転車の専門ショップに複数回足を運び、「どのような自転車ライフを過ごしたいのか」などを真剣に検討しながら「レディネス」を高めていく方もいらっしゃるでしょう。
いずれにしても、行動を変容させるために、特に(1)「前熟考期」と(2)「熟考期」で「レディネス」を高めていくことが重要であり、その上で外部からの刺激が非常に重要な役割を果たします。

職場で「レディネス」を高められるか?

この行動変容のステージモデルを仕事の側面に当てはめて考えると、例えば社員研修はステージ(1)の「前熟考期」から(2)の「熟考期」で「レディネス」を高める役割を果たします。 研修が終わった後、受講者は職場に戻り、(3)「準備期」や(4)「実行期」で実際に新しくやると決めた行動にチャレンジすることになります。

しかし、前述したようにこのステージモデルでは、前のステージに戻ってしまうこともあるのです。せっかく(4)の「実行期」に移ったとしても、職場でうまくいかなかったり、適切なサポートが得られなかった場合、「レディネス」が低下して、ひどいときには(1)の「前熟考期」に逆戻りしてしまうこともあるのです。

今年6月の特集記事『「効果があった!」と言われる研修実施のために~研修効果を最大限に発揮する準備とフォローのポイント~』にてご紹介しているのですが、研修でせっかく時間をかけて今後の新しい行動計画を立案しても、職場に戻ってから実践行動を継続することは非常に難易度が高いものです。

その理由の一つに、職場での行動は趣味の行動と違い、他者との関係性の中で実行されることが多く、他者からの認知・承認を必要とすることが多いことが挙げられます。 自転車などの趣味の行動では、 実際に自転車に乗り「以前より速く走れるようになった」「お腹周りがスマートになってきた」など自分なりに小さな変化を実感できれば行動は継続しやすくなります。 一方、職場での行動では、自分では多少変わったつもりでも、周りから「変わったね」とフィードバックをもらえないと、その変化を実感しにくいことが多いのです。
前述の特集記事では、職場での実践の障害として「忘却」「上司の理解不足」「周囲からの承認の不足」の3つを挙げていますが、「レディネス」を高い状態で維持するには、特に後者2つがポイントとなります。せっかく新しい行動を身に付けようと思っても、上司から理解されていなかったり周囲から承認やフィードバックがもらえないと、行動を変えようという「レディネス」が急降下してしまうのです。

自転車も、周りから「いい趣味始めたね」「効果が出てきたんじゃない」と言われるとさらに続けたくなります。ましてや、他者との関係性の中で実行される仕事場面ではなおさらです。職場での行動変容を促進させるためには、「レディネス」が低下しないように本人任せにしない組織的なサポートが必要なのです。

個別の違いを掴む ~本気のツーリング?それとも気軽にサイクリング?

では、新しい行動を身に付ける場合、「レディネス」だけに着目していればそれで足りるのでしょうか。

私は主としてキャリアデザイン研修のお手伝いをさせてもらっていますが、プログラム内で一人ひとりのビジネスパーソンのあり方や働き方を考える際には、受講者一人ひとりの実現したいキャリアビジョンや志向が実に多様であると感じます。

自転車を趣味にしている人でも、「トライアスロンに挑戦したい」、「ツーリングにチャレンジしたい」、「折りたたみ自転車で街を気楽に走りたい」など、さまざまな志向によって購入する自転車が変わったり、行動を広げたりします。仕事においても趣味においても、そのような志向・ビジョンが今後の行動の原動力の大きなウェイトを占めていると考えられます。

また、研修の最後に仕上げてもらう「行動計画」にも一人一人の違いが表れます。「行動計画」とは、研修の最後に仕事で新しく取り組む行動を決めて書き出すことですが、各人の学習スタイルごとに、取り組む行動が違ってきます。例えば、「経験することから学習することを好むスタイル」の人もいれば「マニュアルや本から学習することを好むスタイル」の人もいるというわけです。

このように、趣味においても仕事においても人の原動力につながる志向やビジョンは個別性が高く、行動する時のスタイルもまた個別性が高いものです。ただ、仕事の場合は、上司の期待や周囲の関わり方によって行動が大きく左右されるのが現実です。仕事での行動変容を確実に促していくためには、周囲が、前述の通り個別に異なる「レディネス」の状態を押さえつつ、さらに、上記のような個人の志向・学習スタイルなども理解した上でサポートすることが重要です。

パートナー役に求められる力

このように、研修後に職場で行動変容を継続するには、周囲の協力が欠かせません。特に、上司が部下の一人ひとりの違いを押さえ、さらにその人が置かれた立場も分かった上で、適切な支援を行うことができれば、それは非常に効果の高いフォロー施策となるでしょう。

しかし現在の職場の上司には既にさまざまな要求が課されており、全てを上司ひとりに期待するのは多くの場合酷なことです。また研修受講者が管理職クラスの方であれば、自分がうまく行っていないことを自分の上司に相談するのは、心理的に抵抗を感じる場合もあります。
そのため、企業によっては研修の実効性を高め、行動変容を継続するために、その人のレディネスの状態を適切にアセスメントし、適切な支援を行える、個別の専門的なパートナー役を用意するところも出てきています。

支援するパートナー役には、その人のレディネスの状態や、本人の学習スタイル、志向を踏まえて、行動変容を継続するための最適な手法を判断する力が求められます。例えば「周囲の期待」に注目したほうが良い場合は、周囲の期待を確認するために360度フィードバックを行ったりします。また本人が成功体験を積み、それについて適切なフィードバックをもらうことが有効な場合は、成功体験を積めるような課題設定を行い、結果を共有するアプローチを採ったりします。人によっては、ビジョンを考えてもらう方法が有効な場合もありますし、この仕事をする意義や意味を問い直す方法を通じてやる気を発見する方法が有効な場合もあります。

米国でのリーダーシップ研究・育成機関でトップランクに位置づけされるCCL( Center for Creative Leadership)では、ほとんどのリーダーシップ開発研修に、CCLでトレーニングを受けたコーチによるコーチングをセットにして提供しています。最新の受講者に対しての調査では、受講者が「もっとも効果があり、インパクトがあった」と挙げたプログラムがコーチングでした。コーチの力を借りながら、研修で設定した課題を見つめ直したり課題に対して適切なフィードバックを受けることが、受講者にとっていかに貴重な機会であるかが分かります。

もしこれから新たに社員研修を企画される場合に、例えば「研修直後は良いが、効果がどうしても長続きしない」「結局同じつまずきを繰り返している」というお悩みがある場合は、カウンセリングやコーチングといった個別の支援が有効な策となるかもしれません。

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