連載・コラム
多様なアプローチを用いた施策検討のヒント
徹底できる組織の秘訣 〜「チームの機能化」とは?〜
- 公開日:2014/09/15
- 更新日:2024/03/26
「徹底できる組織」「チームの機能化」というタイトルをご覧になって、どのようなイメージをされたでしょうか?
新たな戦略や方針を打ち出したが、具体的な新しい動きが起こらない。研修やワークショップを実施したが、思うように効果が持続・定着しない。このようなお悩みを、多くのお客様から伺うことが増えてきています。
今回のコラムでは、このようなお悩みに対して、実際に企業の業績向上や顧客接点強化の支援に携わっているシニアパフォーマンスコンサルタントの山田圭介の考察をご紹介します。
組織開発の視点も交えた、多様なアプローチを用いた施策検討のヒントとなれば幸いです。
「徹底できない組織」の共通点
突然ですが、あなたは自社の営業メンバー向けの研修企画担当だとします。
「今まではお客様に一方的に説明することが多かった気がします。確かにお客様と合意しなければ、その先にはつながらないですよね。他のメンバーがそこまでやっていることを知って、自分ができていないことに気づきました」
あなたが企画した研修の受講者からこのような感想が出てきたとしたら、研修は成功でしょうか、失敗でしょうか? あるいは、あなたはこの研修に及第点を与えられるでしょうか?
これらの問いに答えはありませんが、ここからは施策の効果を定着させ、実践し、業績につなげるための考え方と取り組みについて掘り下げてみたいと思います。
私たちは、仕事がら、人事部門や営業企画部門の方々から、次のような悩みの声を伺う機会が増えている。
「研修は実施しているが、実践に結びつかない。効果が定着しない」
「メンバーの活動の標準化によって、組織全体の業績や効率を高めていきたい」
「提案型営業を標榜しているが、従来のやり方から脱却できない」
昨今、多くの企業が組織力の強化を方針として掲げ、さまざまな施策を講じている。
ここで注目したいのは、弊社にご相談やご依頼をいただく企業の多くが、「すでにさまざまな試行錯誤を繰り返しているが、大半は一時的ないしは部分的な効果にとどまり、定着していない」のが実情だという点だ。
なぜこれらの施策が、期待する効果を生んでいないのだろうか?
その要因を紐解くと、2つの共通点が見えてくる。1つは、業績を高めるための望ましい行動が明確になっていないこと。もう1つは、全員が最低限行うべきアタリマエが組織内で徹底されていないことである。
では、どのように上記の障害を克服し、アタリマエを徹底できる組織を作ることができるのか?
これまで、多くの組織を支援してきた経験から、具体的な事例を交えて、そのポイントを紹介しよう。
望ましい行動を共有できているか
望ましい行動が明確でないと、バラバラで属人的になりがちになる。
現場の一人ひとりに目を向ければ、「自分なりに」望ましい行動を実践している「つもり」で必死に取り組んでいるが、組織としてはバラバラの動きになっていて、なかなか成果が出ないということが多いのだ。
私が主に担当する営業力強化の支援を題材に、具体的なエピソードを紹介しよう。
先日、ある企業の営業メンバーAさんに同行する機会を得た。Aさんは、担当するお客様と対面すると、数十分の雑談を始めた。どうやらお客様との関係性はとても良好なようだ。
そしてアポイントの時間も終盤に差し掛かった頃、Aさんはおもむろに提案書とパンフレットを差し出し、「今はこの商品・サービスがオススメです。ご存知ですか? ご興味はありませんか?」と、自社の商品・サービスを一方的に勧めたのだった。
Aさんが一生懸命説明していることはよく分かったものの、お客様の反応は結局よく分からずじまいだった。そして帰社後は、「今日は○○社に提案してきました」と上司に報告した。もちろんAさんは頑張っているし、お客様との良好な関係を作るのも得意なのだろう。しかしながら、率直に言って「良い商談」とはいえないものだった。
なぜなら、Aさんは提案プロセスの目的・ゴールを、「お客様の課題と解決策についてお客様と合意すること」ではなく、「提案書を作ってお客様に説明すること(=提案行為)」と捉えていたためだ。
営業責任者の方にその状況をご報告した結果、その営業組織では、自社における望ましい営業プロセスの目的・ゴール・標準的な手順をすべて言語化し、メンバーと共有することになった。その過程では、各営業メンバーが日頃の営業活動のなかで、どこまでやれているかも確認した。もちろん新人や若手だけでなく、すべてのメンバーを巻き込んで。
このように、組織として業績を高めている組織では、すべてのメンバーに求める行動の進め方や水準を具体化している。具体化とは、「何のために」「何を」「どこまで」行うのかをプロセスごとに明示することであり、さらに組織内での共通理解にしているのである。
また、その前提となるメンバーの役割も、同時に明確化している。ここでの役割とは、機能・業務レベルのものでなく、お客様側から見た価値や求められる成果を表現したものであることが望ましい。
営業に置き換えるならば、前者は「既存顧客のフォロー」「提案・受注活動」、後者は「お客様の課題解決を支援する」「お客様のビジネスの成功を支援する」というように、異なってくる。
前述の営業組織では、上司やお客様から要望される目の前の「業務」をこなすだけではなく、自らの営業活動をメンバーの役割に照らして見直すことができるようになった。
望ましい行動を、具体的な日常レベルで考えるほど、それらの多くが「アタリマエ」の行動であることに気づくことができる。そして、そのアタリマエの徹底がいかに難しいかということにも。
チームの問題として取り組めているか
最低限行うべきアタリマエの徹底は、実際に多くの企業が直面している大きな課題だといえる。
組織全体で、何らかの行動を強化する、変革するという方針を掲げても、多くの場合は一過性のイベントのように扱われ、たいていは元のやり方に戻る。
例えば、営業組織ならば、決められた行動を一時的に実践してみても、それをやった個人が注目されないことが少なくない。一方で自分自身の行動を変えなくても、組織内で問題として扱われることはない。このような状況が、組織でのアタリマエの徹底を阻害しているのではないか、と感じることが多い。
アタリマエの徹底に成功している組織では、上記のような状況を作らないために、チーム全体で強化・変革を志向し、意図的にチームの機能を高める工夫をしている。
チーム全体でお互いの仕事を見える化し、メンバーが相互に承認・アドバイスしあう場と関係性を作るなどして、「一人ひとりの行動に対して必然的にスポットライトを当てることを日常化」しているのである。そして、チームの活動上の問題をチーム全員で解決していくことで効果的に業績を高めている。
これを私は「チームの機能化」と呼んでいる。
例えば、私が支援したある営業組織では、週1回の営業会議の変革を「チームの機能化」のテコとした。
その組織では、長年、定例会議といえば、方針や必要事項の周知・伝達、業績の進捗確認(いわゆる数字のツメ会)を目的に行われていた。そのため、参加メンバーの表情は暗く、必要最低限の発言しかしない。また営業メンバーは自分以外のメンバーがどのような仕事をしているのかを知る機会もほとんどなく、関心も低かった。
私はこの状況に着目し、「チームの機能化」のために、定例会議の活用方法を変えたかった。会議を、いわゆる進捗確認の場から、相互アドバイスの場に刷新することを提案し、実際にその支援を行った。
具体的には、各メンバーが、一週間で取り組んだ具体的な活動内容を共有し、さらに前に進めるための相談をする。周囲のメンバーには過去の経験や自身の営業活動上の工夫、思いついたアイデアをアドバイスしてもらう。最後に、発表者は次の1週間で取り組むことを宣言する、というもの。
新しい会議のルールはシンプルに2つ。「否定的な発言をしないこと」と「全員が発言すること」だ。このような会議を繰り返すことで、チーム全体で営業活動を進めていく体験をし、習慣として定着させていくことをねらっていた。
実際に当初は、発表準備が面倒くさいと不満を漏らし、上司や先輩の前での発言に臆するメンバーも少なくなかった。
そのような導入当初の障害を乗り越えるために、組織全体で「チームの機能化」をメンバーの重要な役割の1つと設定し、営業マネジャーがそれを要望した。これが効果的だった。
このメッセージは「自分だけが業績成果を上げていればいい、というメンバーは認めない」ということと等しく、実際にチームメンバー相互の関わり方は変わっていった。何より嬉しかったのは、一人ひとりが生き生きとして自分の考えを発言するようになったことだった。
活動の水準を高めあえているか
自分自身の日々の仕事ぶりがみんなに注目され、承認される。
チーム全員に約束した行動を実行しなければ、周囲のメンバーから叱咤・要望される。
全員の営業活動が前に進む手ごたえを実感できるようになると、次のような声が聞かれるようになった。
「全員が決めたことをやっているので、自分もやらないと恥ずかしい」
「他のメンバーから、アドバイスやアイデアがもらえて嬉しい」
「アドバイスすることで、他のメンバーの役に立てて嬉しい」
「チームメンバーの活動内容を知って、自分も負けたくないと思うようになった」
「チームの機能化」がもたらしたのは、自分たちの活動の水準を自ら高めあえる、チームの関わりそのものなのだ。そして、それはアタリマエの徹底ができる組織の必要条件だといえるだろう。
通常、チームを機能させるのは、マネジャーの役割・責任として語られることが多い。
しかしながら、「チームの機能化」を真に体現している組織では、マネジャーだけではなく、メンバー一人ひとりが、チーム内で相互研鑽する役割や具体的な関わり方を要望し、「チームの機能化」に全員で取り組んでいる。
最後に、具体例として紹介した営業組織は、現在、よりレベルの高い営業活動を実践できるようになっている。それも自分たちの力で。
なぜなら、「チームの機能化」に取り組んだ結果、全員が決めた活動を徹底し、共有することで知恵が結集するようになったためだ。加えて、「あいつはここまでやっている。自分はもっと上手くやってやろう」というチーム内での健全な競争意識が芽生えたようだ。結果として、一人ひとりの創意工夫が生まれ、自ら新しいチャレンジを続けられる組織に生まれ変わっていたのだ。
新しい方針や取り組みを決めることよりも、そのことを組織で徹底することの方が難しい。しかし、私は経験則として、「徹底できる組織」を実現できれば、すでに取り組んでいる施策も実り多いものにできると考えている。そして、「そのために、人事部門や企画部門の方々とともに、何ができるだろうか?」と、常に考えている。
「効果が定着しない」「実践につながらない」「従来のやり方から脱却できない」ときには、「チームの機能化」の切り口から施策を考えてみてはいかがだろうか。
執筆者
技術開発統括部
コンサルティング部
2グループ
シニアコンサルタント
山田 圭介
営業アウトソーシング事業、人材派遣事業の企画営業に従事したのち、 2007年にリクルートマネジメントソリューションズに入社。 営業力強化・変革支援領域のコンサルタントとして、さまざまな業界で顧客接点強化のための組織開発や人材開発に携わる。
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