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連載・コラム

人や組織の特性を「見える化」するアセスメント

テストで人のことが分かるのか?

  • 公開日:2013/11/20
  • 更新日:2024/03/26
テストで人のことが分かるのか?

昨今、弊社へのお問い合わせが増えているサービスの一つにアセスメントがあります。多様化する人材の最適配置や次世代リーダーの早期発掘など課題はさまざまですが、共通する第一歩がアセスメント、つまり人や組織の特性の「見える化」です。
そこで今回は、アセスメント(テスト)開発に携わる弊社研究員に光を当てました。誰もが感じるテストへの疑問・疑念をどのように乗り越え、何を大切にしているのかをお伝えしたいと思います。

テストとの出会い
「御社には占い師がいるのですか?」
テストに携わる葛藤
「個と組織を生かす」ために

テストとの出会い

私は社会人の特性を測るテストの開発をしている。私が担当しているのは、短文への回答により人のパーソナリティなどを測るテストである。

私とテストとの出会いは、学生時代にさかのぼる。心理学科に籍を置いていたため、大学の授業で教わった。「人と会うことが好きだ」などといった短文に、当てはまる度合いを回答する。出会った時の率直な印象は、「なんだこれは?」というものだった。

テストとの出会い

何かの絵を見せてその中に何を見出すかによって測るとか、「木」「家」などの題を提示して絵を描かせることによって測るようなテストは、何やらありがたみがある。しかし、短文に当てはまる度合いを尋ねるというのは、何の芸もないのではないだろうか。

「こんなもので人間のことが分かるのだろうか」が第一印象だった。「こんなもので測られてたまるか」とも思った。

しかし、だからこそ興味が湧いた。変なものだという印象はあったが、とはいえそういうものが世の中に存在し、それに従事する人がいる。ということは、何かの価値や有用性があるのであろう。私がこの仕事を始めたのは、このときの自分の疑問を解消するためでもあった。

「御社には占い師がいるのですか?」

●なぜテストは当たるのか?
この仕事を始めたばかりの頃は、謎だらけであった。

例えば、「社交的であるか」など人物特性を測定する際、一つの設問のみではなく、三つ以上の設問の回答結果を足し合わせた値が用いられる。一体なぜ、一つの設問ではいけないのか、初めは理解できなかった。

「御社には占い師がいるのですか?」

先輩から「一つだけだと結果に偏りが生じることがある」と言われて、腑に落ちた。身長や体重などと異なり、一つの設問への回答だけがたまたま低く出るというブレが生じることがある。そのため、できるだけいろいろな方向から光を当て、ブレを最小限にするために複数の設問を用いているということだった。

また、別の疑問も持った。短文を提示するのは意図を読まれるのではないか、あるいは、正直に回答したとしても自己認識がズレている人の場合は、結果が正確に表れないのではないか、という疑問がぬぐえなかったのだ。この疑問に対しては、仕事の経験がその答えを教えてくれることとなった。

テストには、「プロフィール分析」という分析手法がある。人物特性を「社交性は高い」「ストレスへの強さは低い」と断片的に見ていくのではなく、「この人は社交性が高いことに加えてストレスへの強さが低いという特徴があるため、総合的に見るとこういう人物である」と見る方法である。

前職にて、私がある企業のデータを用いてプロフィール分析を試み、営業担当者がその企業を訪問し、分析結果を報告したことがあった。報告から帰ってきた営業担当は、興奮気味に私に話しかけてきた。

「御社には占い師がいるのですか?」と言われたというのだ。その後も何社ものデータで同様の分析を行ったが、ほぼ百発百中の結果となった。

懐疑的だった私も、このような事実を目の当たりにすると、信じざるを得なくなってくる。なぜテストは当たるのか? 当時の顧問からは、率直な回答を引き出す仕組みがあるとか、制限時間を設けることによって意図を含める時間をなくすなどの工夫があることを説明された。

●パフォーマンスを予測できるのか?
前職ではストレスへの強さを測るテストを開発していた。「切り捨てるためではなく、特性を見極めてその人に合った接し方をするために使ってください」とうたっており、社会的意義のあるものを作っているという誇りを持っていた。

数年経ち、縁あってリクルートマネジメントソリューションズへ転職し、仕事のパフォーマンスに関連する人物特性を測るテストを開発することとなった。入社直後は、「仕事のパフォーマンスを予測するなんて、恐れ多いことをしてよいのか」と戸惑った。パフォーマンスを予測できることが検証されていることも知っていたが、どうしても疑いの念がぬぐえなかったためだ。

先輩にこのような疑問を呈したところ、「お客様が使ってくださるのには訳がある」と言われた。その先輩も営業担当時代に、私が前職で行ったような「占い」をお客様に行ったらしく、テストの結果は仕事の仕方・能力に如実に表れていることを実感したというのだ。

テストに携わる葛藤

仕事の経験を通じて、人物特性をある程度見極められること、パフォーマンスをある程度予測できるということを知った。このように疑問を一つひとつ解消していったが、最後に残った砦が、テストそのものが持つ性質への違和感だった。

テストは考えようによっては残酷なツールである。人の限られた側面を見て、ある意味で「決めつける」。目利きの人間ならば、実際に接する中で人の資質を正確に把握することが可能かもしれないが、テストは大量の受検者を一度に測っており、例外を必ず含んでいる。これが1点目の疑問だ。

テストに携わる葛藤

2点目の疑問は、テストの持つ思想に関することだ。「生来の資質であり変化する可能性が低い」と想定される領域を測るテストも扱っている。人間の成長可能性を信じるトレーニング領域と異なり、夢や希望を持ちづらく感情移入をしづらい領域だ。

私は人間の成長可能性を信じたい。私自身も、かつて統計が苦手だったが、努力に努力を重ねて理解してきたという経緯を持つ。また、人にものを教え、成長していく姿を見ることも好きだ。だから、人間は必ず成長すると信じている。そのため、テストによって「生来の資質であり変化する可能性が低い」というメッセージを出すことに強い違和感を持っていた。

1点目の疑問を、思い切って職場で打ち明けたところ、ある先輩がこのように答えてくれた。「テストは確率論の世界。もちろん、例外はある。また、テストよりも目利きの人間が見た方が正確かもしれない。しかし、多くの社員を抱えた企業で、候補者がたくさんいる場合、一人ひとりを公平に見ることが現実的に可能か、という話だ」と。今までに聞いた説明の中で最も得心した。テストは、効率よく全体最適を測るための有効なツールなのだ。神の目がない代わりに、裏には膨大なデータを持っており、ある程度の予測の確かさを担保しているのである。

2点目の疑問についても、別の先輩がある考えを提示してくれた。「あなたの持ち味を最も生かせる場所はここですよ」と知らせるためのツール、という考え方だ。個人にとってありがたくない結果がフィードバックされることもあるが、「あなたの持ち味は○○なので、~を意識することによってより職務にマッチした行動を取れるようになります」というメッセージを伝えることは可能なのである。

「個と組織を生かす」ために

テスト開発の仕事は多岐にわたる。基礎研究、新商品開発、既存商品のメンテナンス、販促・納品支援などだ。最新のテスト理論やリーダーシップ論を読み解くこともあれば、問題冊子などの校正を行うこともあり、納品支援のためにデータの分析を行うこともある。
スピードが必要な仕事と慎重さが求められる仕事、高度な専門性を要求される仕事と広く一般に分かりやすく説明する仕事を同時に進行させることもあり、柔軟性と切り替えが求められる。

「個と組織を生かす」ために

私が日々の仕事の中で、特に気をつけているのは次の3点だ。

1点目は、測定すべき内容を測定すること。
弊社のテストは歴史ある商品が多いが、今の時代に求められる人物特性を測定できるよう、国内外の研究をレビューしている。また、パフォーマンスとテスト結果に関連があることを随時検証している。

2点目は、正確に測定できる技術を身につけること。
例えば、回答の際の「faking(自分をよく見せようとして回答する傾向)」を極力抑えるような測定手法を商品に搭載するためには、最新のテスト理論のキャッチアップが必須となる。国内の実務家で取り組んでいる人はまだ数少ないため、闘志が湧く仕事だ。

3点目は、徹底してチェックをするということ。
2点目の正確に測定することに関連するが、若干毛色が異なる。採点・集計システムのロジック、テストの項目に文言等などの誤りがないよう、地道にチェックを重ねる。
私の仕事では、「間違えました、ごめんなさい」は通用しない。ともすると、人の一生を左右することさえあるからだ。この仕事に従事したことのある人全員に共通する感覚は、「ミスをすることへの恐れ」である。こと数値のチェックや文字の校正といった話になると、全員の顔に緊張感が走る。日頃スピード感を持って仕事に取り組んでいるが、チェックや校正については、間違えることのないようきちんと時間をとって取り組むという習慣が染み付いている。

専門性の高い仕事から実務色の濃い仕事まで、心を込めて日々取り組んでいる。すべては個人と組織の最適なマッチングを実現するために。

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