上司や部下の特性はどのように変化したのか 職場喪失、という宿痾

企業の合理化が進むにつれ、職場で減ってきているのがFace to Faceのコミュニケーション。そもそも職場とは何でしょうか。職場をつくる上司や部下の特性はどのように変化し、それが職場にどのように影響しているのでしょうか。弊社トレーナーとして8年間、企業研修の現場に立ってきた木下が、実際にお伺いした事例とともに考えます。


新入社員が話さなかった秘密

ある夕暮れ。山手線の高架が窓の外に見えるビルの一室。
新入社員の吉田さんは入社して9カ月のこれまでを、営業所長、2人の課長、7人の年の離れた先輩社員を前にして、緊張して顔をこわばらせながら話し始めた。

顧客先でうまく製品紹介ができず同席した先輩に途中で代わってもらって情けなかったこと、週次の営業会議で訪問目標や受注目標に届かず何も言えなかったこと、たまたま飛び込んだ顧客ではじめての注文がとれたこと、それが自信につながり受注先のご担当者に他社を紹介されて徐々に受注件数が増えてきたこと、顧客の確認を怠り納品時にサービススタッフに迷惑をかけて申し訳なかったこと、それでも今では少しは顧客先で話す自信がついてきたこと、指導してくれた先輩や上司に感謝していること。
時系列を追って、とつとつと正直に、顔を真っ赤にしながら、10分間話した。

同席した10人は、吉田さんが説明のために配ったレポートに目を落とし、あまり顔を上げることなく、なにやらたまにメモをしながら、黙ってじっと聞いていた。
吉田さんの説明が終わっても、しばらく沈黙が続いた。

しびれを切らした営業所長が、「せっかく話してくれたんじゃないか、みんな、一言ずつ、アドバイスしたらどうだ?」と出席者に向かって促した。
「新製品について、もっと導入事例を勉強してほしい」
「もっと自信を持って、粘り強く営業していってほしい」
「営業成績が新人の中で上位なのは、指導役としてもうれしいが、もっと訪問件数を増やして、年間新人トップを狙ってほしい」
「受注伝票の入力の仕方に不備が多いし、締め切りに遅れることもある。サービススタッフのことも考えて、きちんとしてほしい」
一人ひとりの発言を、吉田さんは「ありがとうございます」と、いちいち頭を下げながらノートにメモし続けた。

「おいおい、みんな、吉田に対する注文ばっかりじゃないか。吉田はよくやっているぞ、俺の23歳の時と比べたら、段違いだ。吉田君、たまには、今日みたいな話、聞かせろよ、俺も孤独なんだ」。乾いた笑いを誘ったこの言葉で、営業所長は吉田さんの入社後9カ月のふり返りミーティングを、始まって20分あまりで終わらせようとした。

吉田さんには、まだ話していないことがあった。転職を考えていること、でも実は迷っていることを…。

安定を望む若手、平穏を求める管理職

「今の会社に一生勤めようと思っている」60.1%、「きっかけ、チャンスが有れば、転職しても良い」26.6%。2012年度入社の新入社員を対象に行われたある調査(※1)によると、1990年の調査開始以来、前者は過去最高、後者は過去最低、だということである。同調査によれば、2005年を境に両者の数字は逆転し、その乖離は大きくなるばかり、のようである。また、「将来への自分のキャリアプランを考える上では、社内で出世するより、自分で起業して独立したい」とする回答は12.5%で、これまた過去最低の数字になっている。
一方、2012年度入社の新入社員についての別の調査(※2)によれば、「社会人として働いていくうえで大切にしたいと思っていること」の1位は「社会人としてのルール・マナーを身につけること」、2位「周囲(職場・顧客)との良好な関係を築くこと」、3位「仕事に必要なスキルや知識を身につけること」。その一方で、「失敗を恐れずにどんどん挑戦すること」(6位)「仕事で高い成果を出すこと」(8位)「何事にも率先して真剣に取り組むこと」(9位)は上位項目に大きく水をあけている。
「一度就職したら、転職や独立などの冒険は考えずに一生同じ会社で勤めたい、そのためには、ルールやマナーやスキルを身に付けて周囲とうまくやっていくことが大事」。無理矢理結びつければ安全・安定志向の若手像になるが、ごく部分的なデータだけでの解釈は、無論乱暴である。
ただ、調査データは、「一生同じ会社志向>転職・起業志向」「ルール・周囲との調和>挑戦・率先行動」を示している。

では一方、迎え入れる職場の上司側はどうか。管理職候補者の指向と性格を対象にしたある研究・論考(※3)によると、2000年代の前半から、「熟知した分野で着実に仕事を進める『実務推進指向』」が上昇し、「新規事業を自ら推進する『創造革新指向』」と「新しいアイデアを生み出す『企画開発指向』」が下降傾向にある。また、「調整−統率」は、自分の考えよりも周囲の意見を優先する「調整」寄りに、「維持−変革」は、リスクをとって大きな成長を目指すよりも着実に安定を目指す「維持」寄りに、変化している傾向が認められた。つまり短絡的に言えば、調整と維持を旨とし、慣れた実務を全うしたいと考える管理職が増え、変革のために周囲を統率して創造革新を志す管理職が減ってきている、と言えなくもない。
新規事業のような、0か1か先行きが見えない仕事は避けて、勝手知ったる業務に従事したい管理職像が想像され、多少のリスクを負っても自分のやりたいことに向けて周囲を統率していく革新的なリーダー像とは程遠いようにも思える。これをもって、管理職層、リーダー層の小粒化と論評するのは早計であり、さらには波風を避けて挑戦的なテーマに挑まず、粛々と自部署の業務管理に取り組んでいるから、競争激しいグローバル市場で勢いあるライバル国企業の後塵を拝しているのだ、と悲観的な論評を加えるのも、あまりに表面的な解釈だろう。

ただ、驚くことに、先ほど二つの新入社員調査から見られる若手像と、この研究論考が示す管理職候補層の傾向は、奇妙にも見事に一致している。この人たちで構成される職場は、論談風発、侃々諤々、生き馬の目を抜く、切磋琢磨、自由闊達、という言葉がぴったりとは、もちろん到底思えない。激しい経営環境の中で戦い抜くために必要とされる挑戦的な職場のエネルギーが、まったく想像できない。

死活問題となった「職場」の生成

終わりそうになったミーティングに、同席していた人事部長が、待ったをかけた。
「吉田君、辞めていったアルバイトスタッフの話はしなくていいのか?」
「えっ、何の話だ?」ミーティングを終えようとしていた営業所長が吉田さんの顔を見た。

職場でのミーティングに先立つ2週間前、全社の新入社員を集めた同期同士でのふり返りミーティングが、人事部主催で行われていた。同期同士が自由に話せるよう、できるだけ人事部員が介在しないように設けた小グループの議論で、吉田さんは同期を前にしてこんな話をしていた。
「俺、辞めようか、どうしようか、迷っているんだ」
「どうして? なんで? お前、営業成績だっていいのに。何か、ストレス、あるのか?」
「…ウチの営業所、暗いんだ。みんな黙って淡々と仕事しているだけだし…」
「そりゃ、ウチの課だって同じだよ。仕方ないだろ、慣れるしかない、そういう会社だ」
「それに、今辞めたって、ウチみたいな大手は採用してくれないんじゃないか? 止めとけよ、苦労するぜ」
「そうも思うんだけど…だから迷っているんだ。でも、このまま居ても、何も無さすぎるし…」
「俺は、ガミガミ暑苦しくいじられるよりは、ウチみたいなほうが楽だけどなあ」
「つい最近辞めていったアルバイトスタッフに言われたんだ。『この営業所、なんでこんなに暗いの? キミ、若いのによく我慢できるね』って。俺って、すごく無駄な時間を過ごしているかもしれない、って不安になるんだ」

人事部長から水を向けられた吉田さんは、意を決したように、同期同士のミーティングで話したことを、ゆっくりと言葉を選んで話し始めた。ミーティングの空気が変わり始めた。
一旦終了しかけたこの職場ミーティングは結局、吉田さんの正直な吐露をきっかけに、今後の営業所のあり方、お互いの関わり方をめぐって、本音の議論が終電時刻まで続いた。


「いやあ、お恥ずかしい話なんだけれどね」と言ってこのエピソードを私に披露してくれたその人事部長は、続けて次のような話をしてくれた。
その方は、米国での開発責任者の任を解かれ、10年ぶりに日本の本社に戻って人事部長になった。戻ってきて、驚いたそうだ。表面的には二つのことが消えていて、本質的には一つのものが無くなっていた、という。本社だけか、と思って拠点や現場を回ったが、抱いた感想は変わらなかったそうだ。「表面的に消えたこと、それは『あいさつ』と『雑談』。本質的に無くなったもの、それは『職場』なんだよ。新人のふり返りミーティングは、実はその後の職場でのミーティングのほうに意味があったんだ。」

弊社の研修トレーナーが、ある研修中に受講者に問うたことがある。「職場って何ですか?何だと思いますか?」と。管理職も、若手も、答えはあまり変わらなかった。仕事をするところ。自分専用のパソコンと机がある場所。「平然と疑問も無くそう答えたんだよ」と驚くトレーナーの話を聞きながら、私はその人事部長の話を思い出した。同時に、弊社でも従業員がそう答えるかもしれない、と思って寒気を覚えた。


冒険を厭う若手を嘆いても、革新・創造を避ける管理職を憂えても、それだけでは何も始まらない。感情の交流がないところに、エネルギーの高まりは起こらない。せっかくいい人材を採用しても、せっかくすばらしい戦略を打ち出しても、環境が激しく変わり、顧客を掴む難度が上がり、競争相手とのつばぜり合いも熾烈になる中、そもそもエネルギーの高まりが無い組織にほとんど勝ち目はない。「職場」の生成・復活は、現実問題、死活問題、経営の重大な課題となっている、と私は思っている。
欧米企業のHRセクションには職場開発のプロ人材がいるが、日本の企業ではほとんど耳にしたことがない。一人ひとりの自立的な成長を促すことは大事だが、お互いが刺激しあい高めあう職場開発は緊急度の高いテーマではなかろうか。職場活性の始動ボタンを押すのは、人事セクションの重要な責務の一つ、だと思う。


※参考・出典
※1:「2012年 新入社員 春の意識調査」日本生産性本部
※2:「2012年 新入社員意識調査」リクルートマネジメントスクール
※3:「管理職候補者層における過去15年の指向および性格の変化」松本洋平/佐野洋子/岩岡若菜/内藤淳:組織行動研究所(経営行動科学学会第12回大会)
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