連載・コラム
「今の環境下で人が育ち成果を出す職場の条件」とは
職場を救う「かみさま」
- 公開日:2008/11/10
- 更新日:2024/03/25
「かみさま」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?
組織開発と人材育成をテーマにクライアントの方々とともに問題解決に日々取り組んでいますが、今、職場における人材育成はかつてなく深刻な危機を迎えていると感じます。
「思うように人が育たない」という従来からある問題に加え、メンタルヘルスと早期離職の問題も入り込み、「育ちにくい」「休まれやすい」「辞められやすい」の三重苦に囲まれている職場が確実に増えています。
一方、この三重苦の中でも、人が育ち成果を上げている職場があります。
今回のコラムでは、そのコンサルティング現場の経験から見えてきた「今の環境下で人が育ち成果を出す職場の条件」について、職場を救う「かみさま」に例えてお伝えします。
みなさまからも、ご意見ご感想をいただければ幸いです。
土壌改良からの根本対策が不可欠
三重苦の問題に対して様々な対策が採られていますが、効果が出ているケースは少ないようです。
それは目に見える問題に対して単発的な施策にとどまっているからではないでしょうか。
メンタルヘルス対策の例を挙げると、上司やメンバーへのメンタルヘルス研修、メンター制度の導入、時短制度の導入など、「実施しやすく見た目に分かりやすい」施策が多く採られています。
確かに、これらの施策は必要ではあります。
しかし木を育てることに例えるならば、これらの対策は弱った木に対して陽の光や水を与えたり、病気を治す薬の投与という「目に見える問題への当面対処」に該当し、育成の基盤となる肝心の土壌強化の施策が不足しているというのが私たちの捉え方です。
今の職場は、バブル崩壊から長年厳しい環境にさらされた結果、木が育つための土壌が枯れ、やせてしまっている状態と言えます。このような土地では、弱った木に陽を当て水を与えても回復しにくいですし、新しい苗木(新人や中途入社者)を植えても育ちません。ちょっと強い風が吹くと倒れてしまいますし、病気を薬で処置しても、土壌がそのままならば同じ問題を繰り返すだけです。
つまり対策としては目に見える問題の対処だけでなく、その大本の原因である土壌改良が不可欠なのです。
根本的原因は「相互関与の希薄化」
土壌の問題について具体的に説明します。
三重苦の問題を解決すべく様々なクライアントの職場を分析してみると、人が元気に育っている職場とそうでない職場には、業種や規模に関係なく「ある共通した決定的な違い」がありました。
それは「職場における相互関与」の多寡です。
今の職場は余裕がなく、みな自分のことで手一杯です。
中途入社者や非正規社員も増え、お互いによく知らないしなんとなく価値観も違うという感覚が見えない心理的な壁を発生させます。
ゆとり世代と呼ばれる新人若手の言動は上司や中堅社員には違和感があり、ここにも壁が発生します。
つまり、様々な要因が全て職場における関わりを減らす、すなわち「相互関与の希薄化」をもたらす方向に変化しています。
一方、仕事の量や難易度はかつてなく上昇しており、自分ひとりだけの力で乗り越えらえる人はそうはいません。必要な時にお互いにサポートし合うことが不可欠です。
しかし相互関与の希薄化進行によって、必要な相互支援は自然には起こりにくい状況です。となると周囲に働きかけサポートを得たり、巻き込み活用していく力が必要とされますが、今の若手はこの「働きかける力」が非常に苦手です。苦しくても言えず自分の中に囲い込みがちです。中途入社者や異動者なども、見えない心の壁によって関わりが起こりにくく、同じ問題に陥る傾向があります。
結果、自分だけでできる強い人間だけが生き残り、そうでない人は「育たない」「休む」「辞める」という三重苦になりやすい構造なのです。
もちろん、三重苦の解決は「相互関与の強化」だけで実現できるものではありません。ただ、仕事の忙しさや難しさが変わることはないですし、本人の力を急に高めることもできません。研修を行っても、職場での上司や同僚の「関わり」があって始めて血肉になっていきます。今後の新人たちが「働きかける力」を持って入ってくることも期待しにくいです。
つまり、土壌を「相互関与のある職場」に変えていかない限り、根本的にこの問題を解決していくことはできない構造なのです。
突破口は、「職場にかみさまを育てる」にあり
では、職場にどんな土壌づくり、すなわち相互関与をつくっていけばいいのでしょうか?
答えは同じ変化にさらされている中でも成果をあげている職場にこそ存在します。結論から言うと、職場に「かみさま」が存在するかどうか、「かみさまの相互関与」があることがキーファクターでした。かみさまとは、
か : かかわる (相手に関心を持ち関わる)
み : みとめる (お互いの違いを認め受け容れる)
さ : ささえる (困っている人を支え助け合う)
ま : まなびあう (本音の対話と率直なフィードバックで気づき学び合う)
という内容をキーワード化した言葉です。
「かみさま」のいる職場には、安心感と信頼感が育まれます。
仕事が厳しくても、「自分ひとりではない。周りは自分を見てくれているし、何かあったらサポートしてくれる」という安心感があります。
この気持ちが、壁に当たって苦しんでいる人にとって大きな支えとなります。
現実から逃げたいという気持ちに負けず、今日も会社に行って頑張ってみようという気持ちを支えます。
仕事で困ったとき、忙しくしている先輩や上司に遠慮なく質問できたり、逆に困っているメンバーを役割に関係なく気づいた人がサポートする職場であれば、たとえローキャリアや入社したてで迷いの出やすい人が多くても仕事の成果は上がっていきます。違いを自分にないものとして吸収し成長します。
こうして得られる職場への信頼感や自分の成長実感によって、定着と戦力化という課題が同時にクリアされていきます。
さらに、そんな職場で働きたいという人が増え人材レベルが上がります。
また、今は正解のない時代で、職場メンバーが相互に学習し合う組織がますます求められていきます。
今の問題を解決するだけでなく、将来のあるべき組織像の観点からも、かみさまの相互関与は大いに有益なものと言えるでしょう。
事実、「かみさま」のいる職場は上下関係なく意見が交わされ、組織問題の改善提案が多く出され、部門が連携して顧客価値の提供に取り組んでいます。
ちなみに、この「かみさま」という表現は、ある小学校の校長先生から教えてもらった言葉です。
これを聞いたとき、「人が育つ職場とそうでない職場との決定的な違い」、つまり今の職場に必要な土壌改良のキーポイントそのものであることに気づき使わせていただいています。
脱マネジャー責任論。職場ぐるみで「かみさま」を育て始めよう
「かみさまの相互関与」がある組織づくりを目指す時に、注意すべきことがあります。
私たちは、育成というとどうしても上司の役割であり責任と考えがちです。当の上司もメンバーもそう考えます。ここに落とし穴があります。
今の上司はやることだらけで、精神的にも物理的にも既に満杯です。役割だからと上司にこれ以上何かを求めても、成果につなげることは困難です。逆に役割を求められているのに改善しない状態に上司もメンバーもストレスがたまり、関係を悪化させかねません。
そもそもこの問題は特定の誰かの責任ではなく、社会全体の複合的で大きな流れとして発生したどの職場にも降りかかる問題です。
これを職場責任者であるマネジャーの問題と捉えたり、メンバー個々人への単発の施策で解決しようとすることは根本的に無理があります。
そこで現実的に動かしていくために必要なのは、上司だけに頼らず職場メンバーぞれぞれが取り組み始めること、まさに相互関与の動きです。
例えば指導社員制度を導入するなら、運営を上司中心のしくみにするのではなく、指導社員から上司へ、指導社員からメンバーへという関わりを起こしやすい工夫やしかけを取り入れていくことが必要です。
ここを怠ると、すぐに制度が形骸化していきます。
さて、もっともっとかみさまの職場についてお伝えしたいところですが、紙面が尽きてきました。
みなさんの職場には、「かみさま」がいますか?
職場の「かみさま」は、まさに今の仕事環境下で人の育成と組織の成果を両立させていく鍵となる重要なキーワードだと思います。
今の問題になかなか突破口が見いだせていなければ、「職場にかみさまを育てる」ことを検討されてみてはいかがでしょうか?
執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
主任研究員
桑原 正義
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。 営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て2015年より現職。 探究領域:VUCA×Z世代の新人育成のアップデート、“個を生かす”生成アプローチ NPO法人青春基地(プロボノ)。立教大学経営学部BLP兼任講師
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