良い条件を求めて転職をする人が増加する現代 グルメを雇うな! 〜人材リテンションの正しい姿〜


グルメが増えた日本社会

日本も欧米の影響を受けてグルメが随分と増えている。食べ物についてではない、会社内での処遇や働く環境についてのグルメのことである。転職市場が整備されていく中、より良い条件を求めて転職をする人は増加し、自分自身のキャリアデザインに対する関心も高まった。そうした状況は決して悪いものではないが、こうしたグルメが増えるにつれて、社員の会社に対する帰属意識が脆弱になったことは、組織をマネジメントする立場にとって頭の痛い問題である。

グルメが増えた背景には、成果主義が大きな影響を与えている。1990年代後半のブームの際には、多くの人事コンサルタントが次のような文脈で成果主義を導入することのメリットを紹介している。
「パフォーマンスの良い2割の人を潤せば彼らはもっと頑張ります。そうすると、真ん中の6割の人は刺激されて頑張ろうとします。残りの2割の人は自然に淘汰されます。よって組織が強くなります・・・」
成果主義導入の際によく使われた「2:6:2」の理論である。当時は「なるほど!」と思った人が多数派であったこのロジックに対して、今現在、感銘する人はどのくらいいるのだろうか。実際に、そのロジックで示された効果を実感している会社はどのくらいあるのだろうか。

三遊間のゴロへの嘆き

「以前はね、三遊間のゴロみたいに、どちらが対応するのかが曖昧な業務があっても、阿吽の呼吸でお互いが助け合って捌いていたものだけれども、最近は誰も手を出さなくなってきたね・・・」
最近、企業を訪問するとこのような言葉をよく聞く。成果主義が導入されたことにより、各々の仕事の内容や、何を成果とするのかといった指標が明確になったことで、一人一人の社員の役割は明確化し、業務スキルや専門性も高まったといわれている。
その一方で、「阿吽の呼吸」のような曖昧模糊としたものは否定され、「誰が読むのか?」と疑いたくなるような分厚い「業務分掌一覧」と「業務手順書」がそれに取って代わった。 

しかし、組織というのは難しいもので、個々の選手の力量を単純に足したものが、組織の力にはならない。組織力は人と人との連携の強さで決まる。例えば、自分の守備範囲に飛んできたゴロについては完璧に捌く球界屈指のサードとショートが、微妙な位置に飛んできた三遊間のゴロについては、エラーになる危険を恐れて捕球しようとせず、全てヒットになってしまったとする。あなたが、そのチームのピッチャーだとして、果たしてチームに対する帰属意識やモチベーションを保ち続けることができるだろうか?

グルメメニューと健康メニュー

「三遊間のゴロへの嘆き」は、学生にも大人気の超優良企業のマネジャーの言葉である。社員のリテンション(引きとめ)に関するアンケート調査をする過程の中で聞いたものだ。そのアンケートの中に、15個の選択肢を用意し、「モチベーションに影響を与えるものは何か?」という質問と、「現在の職場に欠けているものは何か?」という質問の2つの角度から社員に選んでもらった。
選択肢には、「成果連動報酬」、「選抜型のトレーニング機会」といった個人に付与されるものと、「職場の仲間との達成感の共有」、「職場の仕事の重要性が社内で認知されること」といった所属している組織全体に関するものまで含まれている。

調査結果としては、約半数の社員がモチベーションに影響があり、現在不足しているものとして「職場の仲間との達成感の共有」や「職場の仕事の重要性に対する社内認知」を挙げた。一方、「成果連動報酬」や「選抜型のトレーニング機会」を挙げる人は20%に満たなかった。

これは、一特定企業の調査結果に過ぎないが、自分の会社で同じようなアンケートを行った場合、どのような結果になるのかを考えてみるとよいのではないだろうか。

食べ物の世界に「グルメ」がいるのと同様に、処遇についても「グルメ」と呼ばれる人がいることは間違いない。また、その人たちの考えも決して間違ったものではなく、「グルメ」の活躍が原動力となり成功したビジネスも数多くあると思う。
問題なのは、「そもそもグルメと呼ばれる人が自分の会社には何%くらいいるのだろうか?」、「グルメ以外の人のモチベーションを引き出す施策を自分の会社は用意しているのだろうか?」ということである。
社員の多くは、刺激は少なくとも、「達成感の共有」であるとか、「仕事の重要性や大変さの相互理解」といった、お互いが健全な関係で働くことができる「健康メニュー」を欲しているのかもしれない。

2:6:2の「6」のリテンション

「グルメメニュー」を欲するのか、「健康メニュー」を欲するのかは、個人の志向によるものが大きいと思われるが、そうした志向は個人のライフステージにより変化していく類のものである。アグレッシブなキャリアを求めていた人も、結婚し子供が生まれ成長をしていく過程の中で、自分自身の仕事に対するスタンスも変わっていくかもしれない。それぞれのライフステージにあわせた働き方を選択できることは魅力的なことである。資産運用の世界でも、投機性を重視し海外の株式に投資する選択肢もあれば、安全性を重視し国内の公社債に投資するという選択肢もあり、個人はそれぞれの状況に好ましいものを選ぶはずだ。なけなしの退職金の投資の選択肢として用意されたものが、訪れたことも無い成長国のハイリスクハイリターンの株式だけだとしたら殺生なことだ。それと同じように、企業も特定の人が喜ぶ「グルメメニュー」以外に、より多くの人が望む「健康メニュー」を用意する必要がある。

特定の人しか恩恵を受けないメニューだけでは、多くの人は会社から気持ちが離れてしまう。もちろん、投資銀行のような「アップ・オア・アウト」を是として、グルメ志向の人を集めるという選択肢もあるが、日本企業の多くはそれでは仕事が成り立たない。
少子高齢化が進む中、「2:6:2」の「6」の人のリテンションは非常に重要だと考えられる。極論ではあるが、より良い処遇を求めて、企業を踏み台のように渡り歩くグルメ志向の人間を引きとめるよりも、そうした「6」の人を引きとめ、気持ちよく働いてもらう方が経営サイドから見ても理にかなった判断だといえる。

日本人の「食」の欧米化やグルメ志向が「メタボ」を増やし、健康を蝕んでいるという背景から「メタボ健診」が始まった。日本人の「職」の欧米化やグルメ志向についても、その功罪をそろそろ検証する時期に来ているのではないだろうか。

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