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働き方改革とマネジメントの関係 SCSK

積極的にマネジャーの育成や登用を進めるのはなぜか

  • 公開日:2016/07/11
  • 更新日:2024/03/06
積極的にマネジャーの育成や登用を進めるのはなぜか

最近、「働き方改革」と「利益率の向上」を両立したことで注目されているSCSKは、実はマネジャーの育成や登用にも積極的である。なぜなら、この両立の鍵を握るのが、現場のマネジメントだからだ。SCSK株式会社 人事グループ 人材開発部長の杉山氏、人材開発課長の中藤氏にお話を伺った。

合併後、全社員で「働き方改革」に取り組む
業務品質を高める取り組みが効率的な働き方につながり、 残業を減らした
社員にはこの会社で元気に長く働き続けてほしい
経営トップの存在と、制度や組織の統合がプラスに働いた

合併後、全社員で「働き方改革」に取り組む

「残業の大幅低減・有給休暇ほぼ100%取得」と「継続的な営業利益向上」の両立を実現したことで、SCSKは世間から注目される存在となりつつある。

なぜ、一見、相反するようなことが両立できているのか。マネジメントの強化や育成にその秘密がありそうである。

SCSKは、2011年10月の旧住商情報システム(SCS)と旧CSKの合併で生まれた会社だ。合併前から、旧両社が協力して“夢ある未来を、共に創る”という経営理念を創り、全社に浸透させていった。それと並行して進めたのが「働き方改革」だ。具体的には、2012年に「残業半減運動」、2013年からは「スマチャレ(スマートワーク・チャレンジ)」を実施している。

「実は2012年、残業半減運動によりモデル職場の多くで残業は一時的に半減したのですが、年度末には元に戻ってしまったのです」と、人材開発部長・杉山敦氏は語る。その反省を踏まえたのが2013年からのスマチャレだ。「全社員の有給休暇取得日数20日・平均月間残業時間20時間」を目標に掲げ、2014年度には有給休暇取得日数19.2日(取得率97.8%)、平均月間残業時間18時間16分と、どちらもほぼ達成した(図表)。

営業利益と残業時間・有給休暇取得日数の推移

スマチャレは、なぜここまで成果をあげることができたのだろうか。

業務品質を高める取り組みが効率的な働き方につながり、 残業を減らした

実は、スマチャレの日常的な取り組みの多くは、会議の効率化など、オーソドックスな取り組みの積み重ねだ。では、どこに違いがあるのか。杉山氏によれば、ポイントの1つは「トップマネジメントが主導で、業務品質を高める取り組みと並行して進めたこと」だ。

「スマチャレ開始以来、毎週開催される役員以上が参加する会議(“情報連絡会”)で、月2回程度人事よりスマチャレの前月報告と進捗状況について説明を行います。各本部レベルの一覧であり、この報告により、平均月間残業時間と有給休暇取得率をチェックしていました。

実はこの指標は業務品質の指標でもあるのです。業務品質が高ければトラブルも少なく効率的、すなわち残業の少ない状況で業務が回っています。そして、これはマネジメントが効いているかどうかの指標ともいえるのです。例えば、システム開発プロジェクトの成否は企画段階(初期段階)が極めて重要です。そこでポイントを押さえた計画的な仕事の進め方をマネジメントできているかが問われます。

そうした継続的なチェックの結果、トラブルプロジェクトが減少し収益向上につながった面があります。また、一部門で解決できない場合は、トップ主導で忙しい部門に人員を回すなどの全社的な動きも促進されました。

残業低減と営業利益の向上を両立できた大きな理由は、こうした業務品質の向上などの施策と組み合わせ、意味を相互に関連付けたこと、それをトップマネジメントが主導したことにあります」

もちろん、経営陣だけが頑張っても仕方がない。マネジャーやメンバーも残業時間を減らす工夫を次々に行ったと、人材開発課長・中藤崇芳氏は言う。

「ミドルマネジャーやメンバーにも理念に強く共感する者が多く、例えばある部長が残業時間を減らすのが難しいと判断したのに、むしろ課長たちが主体的に残業を減らそうと頑張る、といったシーンも見られました。

また、部門ごとのチャレンジもさまざまで、例えばある事業部門では“スマチャレ係長”という役割を設けました。毎週、くじ引きで決まった“スマチャレ係長”が、課長の判断を仰いだ上で、メンバー全員の労務管理を疑似的に代行するのです。これは、残業を減らすだけでなく、若手・中堅社員がマネジャーを疑似体験し、その醍醐味を体感できるという意味でも、価値ある取り組みでした。

このようにして各部門が独自の施策をとることで、本来の目的に加え、業務効率と生産性を高め、組織力を向上させることもできました。

残業削減により浮いた残業代は全額社員にインセンティブとして還元しました。残業時間が目標値まで減った現在では、インセンティブ制度を見直し、裁量労働制の適用対象を拡大すると共に、裁量労働制対象外の若手社員にも20時間分の残業代を業務手当として固定支給しています。もちろん20時間を超えた場合にはその分を支給します。こうした施策によって、残業時間のカットが人件費カットのためではないと伝えていることにも効果があると考えています」

これらの取り組みによって、SCSKは働きやすさを推進し、社員の健康増進や自己研鑽を促進すると共に、女性が活躍しやすい環境を整え「長時間労働には戻らない“塑性変形(体質自体の変化)”を実現できつつある」(杉山氏)のだ。

社員にはこの会社で元気に長く働き続けてほしい

SCSKでは日々の業務クオリティ向上に加え、スマチャレや健康経営の推進や人材育成など、マネジメントの役割の重要性が高まったために、管理スパンを見直して、1人のマネジャーが見る社員数を適正化することにも取り組んだ。その分、マネジャーのポストを増やして、負担感を考慮しきめ細かなマネジメントができる体制を整えたのだ。実現できたのは、一体なぜだろうか。中藤氏は、いくつかの理由が考えられるという。

「1つに、ITベンダーにはそもそもプロジェクトマネジャーを目指す者が多く、マネジメント志向の強い社員が数多くいることが挙げられます。また、SCSKでは技術職でも職位が上がれば後進育成などのマネジメント業務が求められるため、対象層にはマネジメント力向上のための研修なども実施しています。そのことも、理由の1つかもしれません。

しかし、最も大きな理由は、働き方改革や健康経営などを通して、社員に“元気に長く活躍してほしい”というメッセージを絶えず発しているからだと思います。長く働くなら、マネジャーを一度はやってみようかと思う人も出てくるでしょう。SCSKは女性活躍支援を積極的に行っているのですが、女性マネジャー数も2012年4月の13名から4年後の2016年4月には約5倍の63名になっています」

経営トップの存在と、制度や組織の統合がプラスに働いた

最後に、なぜ一連の改革が成功したのかを杉山氏に伺った。

「第一に、経営トップの存在が大きかったと思います。社員が家庭や生活を大事にして、健康に長く働ける会社を創りたいというビジョンを、経営トップが一貫して掲げメッセージ発信していたことが、最大の要因に違いありません。

また、そのビジョンが社員によく伝わり、多くの共感を呼んでいたことも成功の秘訣でしょう。例えば、先に触れた“情報連絡会”の議事録はすべて社内に公開されています。また、スマチャレを推進するために取引先宛てに、趣旨賛同をお願いする手紙を書き、役員がお届けするなど、経営トップの本気度を全社員が知っているのです。

そうしたことを知った上で、一人ひとりがアイディアを出して実行し、自ら変わった結果、残業時間が減り、利益が増え、そのことで会社の知名度も上がってきました。ですから、社員の多くが会社を変革する一翼を担っている、まさに会社を“共に創っている”実感をもっているはずです」。

こうした実感が、変革の好循環につながっているという。こうした風土の職場であれば、マネジャーにチャレンジしようという心理的負荷も低そうだ。

「 もう1つ、合併前後に両社が協力して経営理念を創り、社員の融和を進めただけでなく、あくまでも対等な人事制度、システム、組織などの統合を進め、迅速に“一社”にまとめていったことも大きくプラスに働きました。

この4月から、経営トップは交代しました。今度は、私たちがより主体的に風土改革を進めていく番です」

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.42 特集1「伝えたい マネジャーの醍醐味」より抜粋・一部修正したものである。
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