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調査レポート

職場のシェアド・リーダーシップに関する実態調査

リーダーとメンバーのどのような影響力が職場を強くするか

  • 公開日:2022/11/28
  • 更新日:2024/05/16
リーダーとメンバーのどのような影響力が職場を強くするか

さまざまな環境変化に素早く対応することが求められる今日の企業において、職場のリーダーが強い影響力を発揮するだけでなく、メンバーそれぞれがお互いに影響力を発揮し合う「シェアド・リーダーシップ」が注目されている。今日の日本の職場において、実際にシェアド・リーダーシップはどのくらい好ましいと考えられ、どのように機能しているのだろうか。本調査では、従業員規模300名以上企業に勤務の正社員493名に、シェアド・リーダーシップに関する考えと自職場での実態について尋ねた。

目次
はじめに ─ 調査概要
シェアド・リーダーシップ 重要との回答は8割以上
職務特性によってはポジティブ回答は9割以上
統制の必要が高い職場では否定的な意見も
半数以上がリーダーシップをとる職場は約5~6割
シェアド・リーダーシップに影響する条件とは
リーダーに求めるのは明確な指示と意見の傾聴
職場パフォーマンスに効くリーダーシップとは
リーダーとメンバーが相互に影響し合う職場を

はじめに ─ 調査概要

シェアド・リーダーシップが職場で実現すれば、1人の公式のリーダーが方向を示すことの限界を緩和することができるだろうと期待されている。しかし、懸念点がないわけではない。リーダーシップが多くの人に分散することで、職場に混乱が生じたり、パフォーマンスが低下したりすることがないだろうか。また、シェアド・リーダーシップを推進することで、リーダーへの期待が低くなったり、リーダーが不要になったりすることがないだろうか。これらも明らかにすべく、分析を進めた。

調査概要は図表1のとおりである。今回は、「職場」において「メンバー」の立場にある、20~50代の一般社員を調査対象とした。職種は、「営業系」「事務系」「技術系」がおよそ均等になるように割り付けた。

<図表1>調査概要「職場のシェアド・リーダーシップに関する実態調査」

<図表1>調査概要「職場のシェアド・リーダーシップに関する実態調査」

「職場」は、「課・グループ・チームなど、普段一緒に仕事をする集団」とし、複数ある場合には、一緒に仕事をする時間が相対的に長いものを1つ決めて、その職場について回答してもらった。職場で働いた期間が1カ月未満の場合は対象から除いた。また、職場人数が5名未満もしくは31名以上の場合と、公式のリーダーが決まっていない、あるいは複数いる場合も対象から除いた。

回答者が想定した「職場」の形態は、「公式な評価権限のある管理職とそれ以外のメンバーからなる組織」が63.1%、「公式な組織のなかにある、より小規模な実務的な組織」が30.0%、「組織横断的に設けられた、特定テーマを扱うプロジェクトチームなどの組織」が6.9%となった。職場人数は平均13.0名で、最頻値は10名である。

シェアド・リーダーシップ 重要との回答は8割以上

まず、職場でのシェアド・リーダーシップの重要性について、考えを尋ねた(図表2)。シェアド・リーダーシップの説明として「リーダーだけでなくメンバーも、役割やポジションにかかわらず他のメンバーに影響力を発揮すること」を用い、その重要性を尋ねたところ、「6.とてもあてはまる(9.7%)」「5.あてはまる(37.5%)」「4.ややあてはまる(36.9%)」の合計は84.2%で、8割以上がシェアド・リーダーシップを重要だと答えた。メンバーが他のメンバーに対して水平的な影響力を発揮していくという考えは、広く受け入れられ、重要だと考えられていることが分かる。

<図表2>シェアド・リーダーシップの重要性についての考え

<図表2>シェアド・リーダーシップの重要性についての考え

職務特性によってはポジティブ回答は9割以上

シェアド・リーダーシップを重要だと考える傾向は、回答者の年代、職場の形態、職場人数の違いによって、分布に有意な差は見られなかったが、職務の特徴により差が見られた(図表3)。

<図表3>シェアド・リーダーシップの重要性についての考えと職務特性

<図表3>シェアド・リーダーシップの重要性についての考えと職務特性

職場で主に行われる職務の特徴として、「自律性(創意工夫の余地)」「相互依存性(協働の必要)」「多様性要求(多様な意見の必要)」が高いと回答(6段階中「6.とてもあてはまる」「5.あてはまる」「4.ややあてはまる」を選択)した高群は、そうでない低群と比べて、シェアド・リーダーシップが重要だと考える割合が有意に高く、「6.とてもあてはまる」+「5.あてはまる」+「4.ややあてはまる」が、実に9割を上回った。

メンバーそれぞれが仕事にアイディアを生かしたり新鮮な試みをしたりする余地がある職務や、メンバーがお互いに力を合わせる必要がある職務、多様な意見を生かす必要がある職務は、メンバーによる積極的なリーダーシップの発揮が特に求められると考えられる。

統制の必要が高い職場では否定的な意見も

上記より、シェアド・リーダーシップに対する考えが職務の特徴によって異なることが分かったが、回答者自身は、その理由をどのように認識しているのだろうか。シェアド・リーダーシップの重要性を高いと考える、あるいは低いと考える理由を、具体的に記述してもらった。主なものを抜粋したのが図表4である。

<図表4>シェアド・リーダーシップについての考えに対する理由

<図表4>シェアド・リーダーシップについての考えに対する理由

シェアド・リーダーシップの重要性_高群の理由として、1つには『多様な知見の重要性』がある。「普段発言しない人が驚くほどある業務の専門知識をもっていた」「身近に問題解決につながる材料をもっている人がいた」「リーダーが知らないことをメンバーが知っていることがある」など、メンバーがもつ多様な知見を生かした影響力が、職場の成果につながった経験がいくつも見られた。2つ目として『環境の複雑さへの対応』である。「リーダー1人では対応できることに限界がある」「現場をよく知る者の影響力は大きい」などが挙げられた。3つ目は、『ミス・不正・暴走・滞りの防止』である。「全員が責任をもって取り組む」「他のメンバーと情報を共有し合う」ことが必要だから、などのコメントが見られた。現場で生じる予測外の出来事に対し、素早く対応するのに、メンバー全員のリーダーシップは有効だということだろう。

一方、シェアド・リーダーシップの重要性_低群の理由としては、「分業されているのでメンバーの影響力は不必要」「流れ作業なので勝手に動くとうまくいかない」などがあった。『統制の必要』が高い職場、職務では、メンバー相互の影響力は、必要ない、トラブルの元になりリスクがある、など否定的に捉えられていた。他には、『メンバーの力量不足』『組織の硬直』のため実現が難しいというコメントも見られた。このような阻害要因が、取り除かれる見通しがない場合、シェアド・リーダーシップは不要と考えられるようである。

半数以上がリーダーシップをとる職場は約5~6割

では、実際の職場において、メンバーのリーダーシップはどのくらい発揮されているのだろうか。シェアド・リーダーシップの測定方法はいくつかあるが、今回は、先行研究*1を参考に、3種類のリーダーシップについての項目を、それぞれどのくらいのメンバーがシェアしているかを次のような選択肢で尋ねた。変革型リーダーシップ(目的や高い理想を掲げて行動し、周囲の挑戦を喚起する)、支援型リーダーシップ(周囲の自主的行動やチームワーク、自己啓発を促す)、統率型リーダーシップ(目標や指示命令を出す)の3項目について、それぞれ4段階(「4.多くのメンバーが行っている」「3.半分くらいのメンバーが行っている」「2.特定のメンバーが行っている」「1.ほとんどのメンバーは行っていない」)で回答を得た(図表5)。

<図表5>シェアド・リーダーシップの実態

<図表5>シェアド・リーダーシップの実態

9項目のうち、自職場の半分以上の人が行っている(「4.多くのメンバーが行っている」 「3.半分くらいのメンバーが行っている」)割合が高かったのは支援型リーダーシップの「5.職場内でコミュニケーションが活発に行われるよう促している(62.3%)」、次いで変革型リーダーシップの「1.職場の目的について積極的に意見を述べる(57.4%)」、統率型リーダーシップの「9.他のメンバーの仕事にミスや誤りがないかチェックする(56.0%)」だった。上位3つが、3種類のリーダーシップそれぞれに該当し、メンバーのリーダーシップにも、さまざまなタイプがあることが分かる。

少なかったのは、統率型リーダーシップの「8.他のメンバーの仕事の目標を決定して伝える(47.3%)」「7.他のメンバーの仕事のやり方について指示を行う(49.3%)」と、支援型リーダーシップの「4.他のメンバーが新しいことを学ぶよう促している(48.5%)」であり、特に「8.他のメンバーの仕事の目標を決定して伝える」は、「1.ほとんどのメンバーは行っていない」が約2割見られた。これらは公式のリーダーが行うことが多いようである。

このように項目別に多少の差はあるものの、9項目総じて見ると、メンバーの半分以上が他のメンバーに影響力を発揮している職場は約5~6割であるといえる。この割合が、各職場にとって十分なのか、そうでないかは、一概にはいえないところだが、8割以上が「シェアド・リーダーシップは重要」だと考えている(図表2)という結果からすれば、実際にはそれが十分に実現できていない職場も少なくないといえるだろう。

シェアド・リーダーシップに影響する条件とは

シェアド・リーダーシップの発揮に影響するのはどのような条件だろうか。シェアド・リーダーシップの発揮を示す値として、メンバーのリーダーシップ行動9項目を平均して1つの尺度として用い、リーダー、メンバー、風土の特徴との関係を確認したところ、図表6のとおり「リーダーのリーダーシップ(変革型、支援型、統率型)」「メンバーの知識・スキルの高さ」「企業の包摂的風土」において、シェアド・リーダーシップの発揮との関係が見られた。

<図表6>シェアド・リーダーシップとリーダー、メンバー、風土の特徴

<図表6>シェアド・リーダーシップとリーダー、メンバー、風土の特徴

リーダーのリーダーシップは、メンバーのリーダーシップ項目(図表5)をリーダー向けの表現に調整したものを用いて測定し、「変革型リーダーシップ(3項目6件法)」「支援型リーダーシップ(同)」「統率型リーダーシップ(同)」とリーダーシップタイプごとに尺度化して用いた。その結果、いずれのリーダーシップにおいても、高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られた。どのタイプのリーダーシップも、職場や状況に応じてうまく発揮されれば、メンバーのリーダーシップを促すといえるだろう。

一方、メンバーにおいては、「保有している知識・スキルが総じて高い(単項目6件法)」の高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られた。それぞれのメンバーが知識・スキルを高めることは、シェアド・リーダーシップの発揮につながると考えられる。

「異なる視点を大事にする文化がある」「従業員の意見を積極的に取り入れる」といった「企業の包摂的風土(6項目6件法)」も、高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られた。企業全体として、多様な視点や意見を取り入れようとする文化が育まれていることは、各職場におけるメンバーのリーダーシップ発揮を促進することが示唆された。

リーダーに求めるのは明確な指示と意見の傾聴

シェアド・リーダーシップの発揮とリーダーのリーダーシップの関係については、別の観点からも見てみた。今回の調査では、「一般にリーダーに望むこと」について、12項目から上位3つまで選択してもらった(図表7)。

<図表7>一般にリーダーに望むこと

<図表7>一般にリーダーに望むこと

結果としては、シェアド・リーダーシップ高群、低群ともに、「2.指示が明確である(高群49.4%、低群57.5%)」「12.メンバーの話に耳を傾ける(高群50.2%、低群55.5%)」の項目が高かった。シェアド・リーダーシップの発揮が高い職場でも、そうでない職場と同様、リーダーに対して、「明確な指示を出すこと」と「メンバーの話を傾聴すること」の両方が望まれているという結果は、先の『変革型』『支援型』『統率型』リーダーシップがいずれもシェアド・リーダーシップを促進する、との結果と呼応する。

シェアド・リーダーシップ高群が低群に対して有意に高かった項目は1つあり、「10.多様性を重んじる(高群19.2%、低群9.4%)」だった。こちらも先に述べた、シェアド・リーダーシップの発揮と企業の包摂的風土の関係と通じるものがある。

職場パフォーマンスに効くリーダーシップとは

シェアド・リーダーシップは職場パフォーマンスを高めるのだろうか(図表8)。「会社が期待する以上の成果をあげている」「会社に重要な貢献をしている」など3項目による『成果/貢献』、「変化にうまく対応している」「決定事項が、すぐに実行に移される」など3項目による『変革/実行』、「メンバーは、職場の仕事にやりがいを感じている」「メンバーは、現在の職場で働くことを通して成長できると感じている」など3項目による『やりがい/成長』の値は、いずれも、シェアド・リーダーシップ高群と低群間に、有意な差が見られた。

<図表8>シェアド・リーダーシップと職場のパフォーマンス

<図表8>シェアド・リーダーシップと職場のパフォーマンス

さらに、リーダーのリーダーシップの程度も加味して確認したところ(図表9)、リーダー、メンバーともにリーダーシップが発揮された群(リーダー高/シェアド・リーダーシップ高)は、『成果/貢献』『変革/実行』『やりがい/成長』のいずれにおいても、他群と比べ最も高い値を示した。シェアド・リーダーシップは職場のパフォーマンスを高める効果があるが、それは、リーダーのメンバーに対する十分な影響力と合わさったときに最大になるといえる。

<図表9>リーダーとメンバー双方のリーダーシップとパフォーマンス

<図表9>リーダーとメンバー双方のリーダーシップとパフォーマンス

リーダーとメンバーが相互に影響し合う職場を

今回の調査を通して、「シェアド・リーダーシップが求められる程度は、職務の特性により異なるが、多くの職場で重要視されている」「シェアド・リーダーシップが発揮される職場を作るにも、それを職場パフォーマンスにつなげるにも、公式のリーダーのメンバーに対するリーダーシップが鍵となる」ことが分かった。

図表10は、リーダーの重要性に関する2項目について「6.とてもあてはまる」から「1.まったくあてはまらない」の6段階で回答を得た結果である。シェアド・リーダーシップの重要性についての回答の高群(「6.とてもあてはまる」「5.あてはまる」「4.ややあてはまる」)と低群(「3.あまりあてはまらない」「2.あてはまらない」「1.まったくあてはまらない」)別に平均を見ると、「組織業績はリーダーの良し悪しで決まる」「難しい状況では、リーダーが明確な方針を出すことが大事だ」のいずれも、シェアド・リーダーシップの重要性_高群の方が有意に高い。シェアド・リーダーシップが重要だという人は、同時にリーダーの重要性を認識している。

<図表10>リーダーの重要性についての考え

今回の調査を通して、「シェアド・リーダーシップが求められる程度は、職務の特性により異なるが、多くの職場で重要視されている」「シェアド・リーダーシップが発揮される職場を作るにも、それを職場パフォーマンスにつなげるにも、公式のリーダーのメンバーに対するリーダーシップが鍵となる」ことが分かった。  図表10は、リーダーの重要性に関する2項目について「6.とてもあてはまる」から「1.まったくあてはまらない」の6段階で回答を得た結果である。シェアド・リーダーシップの重要性についての回答の高群(「6.とてもあてはまる」「5.あてはまる」「4.ややあてはまる」)と低群(「3.あまりあてはまらない」「2.あてはまらない」「1.まったくあてはまらない」)別に平均を見ると、「組織業績はリーダーの良し悪しで決まる」「難しい状況では、リーダーが明確な方針を出すことが大事だ」のいずれも、シェアド・リーダーシップの重要性_高群の方が有意に高い。シェアド・リーダーシップが重要だという人は、同時にリーダーの重要性を認識している。    <図表10>リーダーの重要性についての考え

1人のリーダーが方向を示すことの限界があるといわれる今日だが、それはリーダーが不要だということではない。職場メンバーがそれぞれリーダーシップを発揮するには、明確な方向性を示しつつ、多様な意見に耳を傾け、メンバーの知識・スキルを生かし、自律的な工夫や協働が生まれる職務を設計するリーダーのリーダーシップが必要である。それに応じて、メンバーの一部ではなく多くが、職場内で相互作用的に影響力を発揮し合うシェアド・リーダーシップが実現すれば、職場の変化対応力を高め、職場を強くしていくのに役立つだろう。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol. 68 特集1「自律型組織を育むシェアド・リーダーシップ」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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技術開発統括部
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組織行動研究所
研究員

佐藤 裕子

リクルートにて、法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)、社会人の自律的な学び/リスキリング、経験学習と持論形成、などに関する研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集などに携わる。

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