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マネジャーの役割に関する理論的系譜

先行研究から見るマネジャーの役割100年史

  • 公開日:2020/06/22
  • 更新日:2024/03/25
先行研究から見るマネジャーの役割100年史

マネジャーの役割とは何か。100年前からマネジャーの役割は議論されてきた。本稿では、マネジャーの役割に関する過去の先行研究を俯瞰し、マネジャーはどのような役割を担っているべきなのか、今後のあり得る姿を考える材料を提供していく。

経営学黎明期におけるマネジャーの役割
リーダーシップ研究からの知見
管理者行動論からの展開
日本での研究
プレイヤー業務を行うマネジャー
最低限に必要なこと、そして環境という視点

経営学黎明期におけるマネジャーの役割

経営学の黎明期から、マネジャーの役割は議論されている。その代表がファヨールの管理の5つの要素である。ファヨールは、マネジャーの仕事を「計画」「組織」「命令」「調整」「統制」と置いた*1。何をするのかを決め(計画)、そのための組織化を行い(組織)、その組織を動かし(命令)、関連する業務と折り合いをつけ(調整)、結果としてどうだったのかと振り返る(統制)ことがマネジャーの仕事とした。この5つの要素は、現代にも通じる考え方であり、マネジャーの役割を考える原点になる。

ファヨールの概念は、その後、バーナードやドラッカーなどの経営学の始祖に影響を与えた。日本の経営者に多大な影響を与えたドラッカーは、その著作の随所でマネジャーの役割や仕事に言及をしている。例えば、日本でベストセラーになった『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』においては、マネジャーには5つの仕事があると説いている。「目標を設定する」「組織する」「動機づけとコミュニケーションを図る」「評価測定をする」「人材を開発する」の5つである*2。ファヨールの影響を受けているが、時代に応じてアップデートされていることが分かる。

リーダーシップ研究からの知見

リーダーシップの研究も経営学と共に発達していったが、マネジャーの役割を考える際におおいに参考になる。

リーダーの行動特性の研究は、1950年代ごろから行われ始めた。代表的な研究として、オハイオ州立大学の研究が挙げられるが、リーダーの行動特性として、そこで明らかになったのが「構造づくり」と「配慮」であった*3。「構造づくり」とは課題達成に向けての動きであり、「配慮」とはメンバーと良好な人間関係を構築する動きである。「構造づくり」と「配慮」両方が高いレベルで行動できていることが、成果を上げるリーダーであることが、その後の研究で支持されている*4。

ミシガン大学の研究者による研究も、リーダー行動に注目した研究の代表である。高業績リーダーと低業績リーダーの行動を比較して、以下のような知見が得られている。低業績リーダーは、決められた方法で、詳細な指示を出し、メンバーをコントロールし、処罰的な態度で接する傾向がある。一方で、高業績リーダーは、メンバーの自主性を重んじ、目標は明らかにするものの、やり方はメンバーに任せ、支援的な態度で接する傾向があった*5。ただし、メンバーに対する支援的な態度は、リーダーの上方影響力が高いときにはポジティブな効果をもつが、上方影響力が欠如している場合にはマイナス効果を生む*6。つまり、メンバーの意見や不満をちゃんと聞くのだが、その解決に向けて、リーダーの上司(リーダーが課長の場合は部長)に対して訴え、上司からのサポートが得られないとしたら、メンバーは「いろいろと聞いてくれるけど、解決できない」と、かえって不満を募らせることになる。

その後、リーダー行動の有効性は、メンバーの習熟度や主体性、あるいは置かれている環境に依存することが明らかになっていった。例えば、ハイフェッツは、「技術的挑戦」と「適応的挑戦」の2つの状況を設定した*7。「技術的挑戦」の場合、リーダーは解決方法を知っており、メンバーに対して適切な指示をすることで問題解決を図ることができる。一方で、「適応的挑戦」の場合、リーダーも解決方法が分からないという状況である。そのような状況では、リーダーはメンバーと共に課題に対応していく必要がある。メンバーからのアイディアを積極的に引き出し、メンバーとの相互作用で課題に対処していく行動が求められる。

管理者行動論からの展開

リーダーの行動特性の研究と同様に、1950年代から管理者の行動についても調査研究が行われていた。初期の代表的な研究は、管理者の実態に関してデータ収集を行った、カールソンの研究*8とスチュワートの研究*9 である。そこでは、以下のことを明らかにした。「管理者は、多くの人々との接触で時間を費やし、対面でのコミュニケーションを好み、自部署メンバーばかりではなく他部署の人や他社の人や経営の上層部との接触にも多くの時間を割き、活動は小刻みで断片的である」と。

ここでの驚きは、50年以上も前から、マネジャーは忙しかったということである。業績を上げるためには、新しい情報を獲得する行動を好み、より多くの仕事を引き受ける。マネジャーの仕事は、職務がはっきりしたものではなく、責任を果たすためには、なんでもやってしまうという事実である。

その後、管理者行動の研究は、ミンツバーグに受け継がれていく。ミンツバーグは、5人の経営者に密着して観察し、その特徴を捉えていった。その特徴は、初期の研究と同様、活動は多様で断片的、口頭でのコミュニケーションが多く、他部署や社外、経営上層部との接触が多いことであった。このような研究成果をもとに、マネジャーの仕事を3領域10の役割(図表1)にまとめた*10。

図表1 マネジャーの役割(1993年)

日本での研究

日本でもリーダー研究、マネジャー研究は進められていった。米国のリーダー研究を引き継ぎ、1970年代には、三隅によるPM理論が展開された*11。業績達成行動であるP行動、集団を維持・管理するためのM行動。リーダーとしての有効性を発揮するためには、どちらの行動も必要である。日米問わず、リーダー行動として、業績の側面と人間的な側面、どちらも重要であることが示された。

金井は、リーダーシップ論と管理者行動論を融合して、戦略・革新指向のマネジャーの研究を進めた。47社1231名のマネジャーの行動調査をもとに、因子分析を行い、3つの上位次元と下位の11次元を導き出した*12(図表2)。最初の2つの上位次元は、リーダー行動のPM理論と共通する。注目すべきところは、3つめの上位次元「対外的活動」である。マネジャーの役割は、単に自部署に閉じているものではなく、自部署を超えて活動していることを、日本の調査でも明らかにした。

図表2 管理者行動の上位次元と下位次元

白石は、1030名の課長、691名の部長、1545名の部下のデータを用いて、マネジャーの役割に関して、因子分析を行った結果、6因子を確認した*13。「部下マネジメント」「組織マネジメント」「例外処理」「資源マネジメント」「情報マネジメント」「その他」である。最初の2つは、リーダーシップの二次元と共通するものであり、3つめから6つめを白石は付帯的役割として扱った。また、因子分析の要素として除外したのだが、マネジャーが実務を行う「プレイヤー」という役割を、研究材料として扱った。

プレイヤー業務を行うマネジャー

マネジャーの役割を再考する上で、「プレイングマネジャー」に関して、触れておく必要がある。プレイングマネジャーについては、2000年代の初めから扱われるようになった*14。近年、プレイング比率は増えており、現在、ほとんどのマネジャーはプレイヤーの役割を担っている*15。その現象は、日本だけではなく、米国や中国でも同様であり*16、マネジャーが実務を行うことが万国共通になってきたといえる。問題は、実務の比重が高くなれば、本来行うはずの管理業務が疎かになっていくことにある。

プレイヤー業務を行う理由は、「業務量が多い」「メンバーの力量が不足」という理由が多い*15。業績の責任を負う現場のマネジャーの苦悩がうかがえるが、本来、マネジャーが行う業務なのかと疑問が残る。メンバーを動かすためのパワーの源泉としての「実務ができる」という理由が背後にあると推測できる。一方で、現場感覚を失わないことや社外の顔として動かなければならないことなど、必要なプレイヤー業務もあると考えられる。

最低限に必要なこと、そして環境という視点

ミンツバーグは、その後、2000年代に入って、再度、マネジャーの研究を始めた。29人のマネジャーに密着し、観察し、話を聞き、日誌に目を通して、マネジャーの活動実態を把握した。また、同時に過去の文献のレビューを行い、マネジャーの役割を再設定した(図表3)*17。

図表3 マネジャーの役割(2011年)

このリストを見ると、マネジャーの役割は多岐にわたっており、このような活動をすべて行おうとすれば、忙しいのは当然になる。実際、マネジャーは、裁量が大きく、自分の業績を上げるための仕事をなんでも取り込もうとしているように見える。そういう熱心な人であるからこそ、マネジャーに昇進したともいえる。

マネジャーの役割は、際限がない。部下育成ひとつとっても、「信頼構築」「部下の特徴理解」「仕事のアサイン」「期待の通知」「進捗管理」「フィードバック」「リフレクション」「Off-JT機会の提供」などと領域は広い(図表4)*18。以上のようなことを考えると、際限がないマネジャーの仕事のうち、最低限何が必要かという視点が必要になる。単にマネジャーが何をやっているのかという視点ではなく、優秀なマネジャーが何をやっているのかという視点が、重要である。

図表4 部下育成行動に関するマネジャーの役割

そういう観点で見ていくと、ルーサンズらが行った、248名のマネジャーを観察した研究が参考になる*19。マネジャーの仕事は、「計画・コントロール関連」「ルーティン・コミュニケーション」「チーム内の対人関連」「ネットワーキング」の4つのカテゴリーに分けられるのだが、成果を上げるマネジャーとそうでないマネジャーの行動の差は、「ネットワーキング」にあった。リーダーの上方影響力の話とつながる。

最近では、アマビールらが行った、3業界、7企業、238人に対する1万2000の日誌調査による研究が参考になる*20。アマビールらは、メンバーの生産性ならびに創造性が、メンバーのインナーワークライフと相関があることを発見した。インナーワークライフとは、ポジティブな感情、内発的モチベーション、そして仲間や仕事内容に対する認識の高まりである。インナーワークライフを高めるためのマネジャーの仕事で、最も重要なことは「進捗のサポート」である。日々の小さな仕事の進捗がインナーワークライフを高め、業績を高めることになる。「進捗のサポート」は、マネジャーの役割の「人間指向」と「タスク指向」の接点にあたる。つまり、タスクの管理でもあるが、メンバーの心情に寄り添う行動でもある。

加えて、マネジャーの役割を考えるにあたって、今後の環境を考慮すべきである。「他部署との連携(タスク依存性)」と業務遂行上の「不十分な情報(タスク不確実性)」はより高まると考えられる。

「タスク依存性」が高い職場では、マネジャーの「対外活動」がキーになる。自部署だけではなく、上司や他部署や社外の関係者を巻き込む動きが役割として求められる*12。そして、「タスク不確実性」が高い職場は、ハイフェッツが言うところの「適応的挑戦」という状況にあたり、心理的安全性を確保し、メンバーの積極性を促すリーダーシップが必要とされるだろう*7。

繰り返しになるが、マネジャーができることは際限なくある。そしてなんとか組織に貢献したいマネジャーは、つい多くの活動を行ってしまう。プレイヤー業務を削減しようというのは、1つの方向としてあるが、プレイヤー業務の内容を精査しなければ、安易に削減できるものではない。それゆえ、マネジャーとして、何が最低限求められているのかという視点は、役割を考える上で重要である。働き方改革の流れのなかで、際限がない役割に対して、本気で優先順位を考え、行動することが求められているといえよう。

*1 アンリ・ファィヨール(1985)『産業ならびに一般の管理』山本安次郎訳 ダイヤモンド社 ※本文中の記載はファヨールとしている

*2 ピーター・ドラッカー(2001)『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』上田惇生編訳 ダイヤモンド社

*3 Halpin, A. W. & Winer, B. J. (1957) A factorial study of the leader behavior descriptions. Leader behavior: Its description and measurement, 39-51.

*4 Stogdill, R. M. (1974) Handbook of leadership: A survey of theory and research. Free Press.

*5 Likert, R. (1961) New patterns of management. McGraw-Hill.

*6 Pelz, D. C. (1952) Influence: a key to effective leadership in the first-line supervisor. Personnel, 29.

*7 Heifetz, R. A., & Laurie, D. L. (1997) The work of leadership. Harvard business review, 75, 124-134.

*8 Carlsson, S. (1951) Executive behaviour: a study of the work load and the working methods of managing directors. Stockholm: Strömbergs.

*9 Stewart, R. (1967) Managers and their jobs. Macmillan.

*10 ヘンリー・ミンツバー(1993)『マネジャーの仕事』奥村哲史・須貝栄訳 白桃書房

*11 三隅二不二(1978)『リーダーシップ行動の科学』有斐閣

*12 金井壽宏(1991)『変革型ミドルの探求─戦略・革新指向の管理者行動』白桃書房

*13 白石久喜(2008)ミドルマネジャーの役割再設計─ 役割コンフリクトの解消と役割分割の要諦(ミドル人材のブレイクスルーを考える). Works Review, 3, 74-87.

*14 佐藤厚(2004)中間管理職は不要になるのか.(特集 ここが知りたい・労働研究;人材の活用)日本労働研究雑誌, 525, 30-33.

*15 リクルートワークス研究所(2020)プレイングマネジャーの時代;リクルートマネジメントソリューションズ(2014)RMS Message vol.35

*16 久米功一 (2015)マネジャーの仕事配分は何で決まるのかー日本・アメリカ・中国の比較から Works Review, 10, 76-87.

*17 ヘンリー・ミンツバーグ(2011)『マネジャーの実像─「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』池村千秋訳 日経BP社

*18 Heslin, P. A., Vandewalle, D. O. N. & Latham, G. P. (2006) KEEN TO HELP? MANAGERS'IMPLICIT PERSON THEORIES AND THEIR SUBSEQUENT EMPLOYEE COACHING. Personnel psychology, 59(4), 871-902.;
毛呂准子・松井豊(2009)上司による部下育成行動─研究動向と探索的検討─筑波大学心理学研究,37,59-67.;
毛呂准子(2010) 上司の部下育成行動とその影響要因. 産業・組織心理学研究, 23(2), 103-115.;
松尾睦(2013)育て上手のマネジャーの指導方法─若手社員の問題行動と OJT (特集 人材育成とキャリア開発). 日本労働研究雑誌, 55(10), 40-53.;
松尾睦(2014)経験から学ぶ能力を高める指導方法. 名古屋高等教育研究, (14), 257-276.;
中竹竜二(2014)『自分で動ける 部下の育て方─期待マネジメント入門─耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』ディスカヴァー・トゥエンティワン;
中原淳(2017)『フィードバック入門』PHP 研究所

*19 Luthans, F., Hodgetts, R. M. & Rosenkrantz, S. A. (1988) Real managers. Ballinger.

*20 テレサ・アマビール、スティーブン・クレイマー(2017)『マネジャーの最も大切な仕事─ 95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』中竹竜二監訳 樋口武志訳 英治出版

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.58 特集1「マネジャーの役割再考 「あれもこれも」からの脱却」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

執筆者

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

古野 庸一

1987年東京大学工学部卒業後、株式会社リクルートに入社 南カリフォルニア大学でMBA取得 キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事
2009年より組織行動研究所所長、2024年より現職

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