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企業事例バーチャルオフィスでの信頼関係 ソニックガーデン

社員の信頼関係は、やり取りの小口化でじっくり醸成する

社員の信頼関係は、やり取りの小口化でじっくり醸成する

リアルな場で対面してじっくり会話し、互いに共感し合えなければ、信頼関係は生まれない。こう主張する人は多い。では、物理的なオフィスというものがなく、社員が全国に散らばり、しかも全員がリモートワークという会社ではどうしているのだろうか。株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 倉貫義人氏にお話を伺った。

ソニックガーデンの仮想オフィス

PC画面のなかに無数の顔写真が並び、下には名前が記載されている。特定の人の写真をクリックすると、その人のその日の予定が分かる。「これがうちのオフィスなんです。各自の写真がそれぞれの“席”を表しています」とソニックガーデンの創業社長、倉貫義人氏が話す。写真は2分間隔で自動撮影され更新される。なかには姿が見えない人もいる。何かの用事で離席中なのだという。

会話はチャットで行い、ひとり言もつぶやける。込み入った相談や打ち合わせが必要な場合、テレビ会議をすぐに設定できる。

「今、取材を受けています」と倉貫氏がつぶやくと、倉貫氏の席に顔写真がいくつも集まってきた。倉貫氏の「皆さんどこにいますか?」という問いかけに、「愛媛」「岡山」「横浜」という書き込みが現れた。同社の社員は約50名で、居住地は全国20都道府県に散らばっている。本社は東京・世田谷にあるが、登記上の住所に過ぎない。

同社は2つの事業を手掛けている。まず1つはシステムの受託開発だ。それも、月額定額制で料金を支払ってもらうユニークなビジネスモデルを採用している。納品という行為がなく、システムの変更や保守点検にいつでも応じる。顧問弁護士ならぬ顧問エンジニアというわけだ。

もう1つは自社での経験を生かしたリモートワーク関連のサービス事業で、冒頭で紹介した仮想オフィスシステム「Remotty(リモティ)」が主力商品だ。

オフィスはツールでありオンラインに移管可能

大手システム会社に在籍していた倉貫氏ら5名が立ち上げた社内ベンチャーが母体で、設立は2011年7月。翌年、新しいメンバーの採用に踏み切るが、エンジニアの獲得競争が激しさを増していた。採用条件を緩めるため、募集要項に「勤務地不問」と記した。

最初の応募者が兵庫県在住者で、採用。社員第一号が在宅勤務者となった。以後も勤務地不問採用を続けていくと、オフィスに通えるメンバーと地方のメンバーの数が拮抗してきた。コミュニケーション円滑化のため、テレビ会議システムを常時稼働にしたところ、数が多いため、混線で音が乱れてしまう。そこで開発されたのがRemottyで、2015年4月から外販も始めた。

最後、郵便物と会社宛ての電話の管理という問題が残ったが、届いた郵便物を開封しスキャンして共有する仕組みと、外部の電話会社に委託し着電の内容をチャットで伝えてもらう仕組みを、それぞれ作ることで解決。2016年6月には世田谷のオフィスを解約してしまい、今に至る。

「オフィスは協働のためのコミュニケーションツールだというのが私の持論です。手紙はツールの一種ですが、現在、その多くがメールやチャットに置き換わってしまったように、オフィスというツールも工夫次第でバーチャルへの置き換えが可能だと思ったんです」

オンラインでは各自の居場所が分からず、つながりが稀薄になってしまう。そこで、席を定め、在席か否かがすぐに分かるようにした。話しかけはチャットで、深い話はテレビ会議でと、リアルと同じく、コミュニケーション手段も分けた。

「仕事以外のつながりも重要で、Remottyには『日記』という機能をつけました。プライベートな話を書き込め、他の人の内容も読むことができます。さらに、返信不要の不特定多数相手のつぶやきもできるようにしました。リアルな場での雑談にあたるでしょうか。いずれも新たな人間関係を構築する際のきっかけになっています」

入社後に信頼構築ではなく信頼関係を築いてから採用

良い人間関係を構築するには相手を信頼できていなければならない。その信頼関係は一気に出来上がるものではなく、具体的な仕事を通じ、時間をかけ、一つひとつ積み上げていくものだと倉貫氏は考えている。「チーム単位で仕事をし、1週間に1回、必ず打ち合わせを行います。チームによっては毎朝10分の朝会を励行しています。そうした場に必ず出席しつつ、出された課題に対し、次の場で適切な返答をすれば、その人が築いた信頼の蓄積、いわば“信頼残高”が上がる。信頼関係は仕事上の約束を一つひとつクリアすることを通じて、築かれます」

さらに信頼関係を築く上で、倉貫氏が心がけているのが、関わる頻度の多さだ。

「月に1回、1時間の会議よりも、1日5分毎日しゃべった方が信頼関係が生まれやすい。あらゆるコミュニケーションを“小口化”すること。これがお互いの信頼を高め合う鍵です」

同社は採用もユニークだ。最初にトライアウト(適性検査)として、WEB試験やオンライン面接がある。その後は、「その人をよく知るには一緒に仕事をするのが一番」という考えのもと、トライアルという形で、社内業務を担当してもらう。中途採用の場合、応募から入社までに1年から1年半を要する。「採用は会社が社員を選ぶと共に、社員にとっても会社を選ぶプロセスです。お互いが信頼し、合意した結果、取り交わす契約であり、結婚と同じでしょう」

仕事上の横の信頼関係はそうやって築かれるとして、上司部下といった縦の信頼関係はどうか。

実は同社には上司部下関係がない、肩書も役職もない。部署もない。究極のフラット組織なのだ。

「うちには評価も目標管理もありません。職種ごとに給与は一律で、上限水準までは、毎年全員が少しずつ上がっていきます。賞与は山分け、休暇はとり放題、経費も承認不要です」

仕事のアサインは倉貫氏が各社員と話して決める。本人がやりたいことと会社の期待をすり合わせするのだ。

通勤、オフィス、評価、階層、部署……ないない尽くしのユニークな会社だ。「『この仕事をやりたい』という内発的動機づけだけで回る管理不要の会社を作りたかったのです。互いの信頼関係さえしっかり築くことができれば、管理しなくても、誰もが高い意欲で働いてくれます」

働くとは何か。会社はどうあるべきか。ソニックガーデンのあり方はそうした原点を考えさせる。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.60 特集1「リモート時代の職場の信頼」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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