導入事例
2020年に女性管理職比率5割 へ グループ65社と進めるダイバーシティ
イオン株式会社
- 公開日:2015/02/09
- 更新日:2024/05/14
事例概要
背景・課題
女性管理職比率5割という目標を掲げていますが、現状、管理職は1割程度です。女性活躍推進に向け、入社時は6割いる女性の退職をいかに減らし、「管理職に就きたい」というモチベーションを引き出すかが課題です。
検討プロセス・実行施策
女性登用を含むダイバーシティ活動について、情報共有・連携を行い、事業会社の現場からアクションを起こすために四半期ごとに「ダイ満足サミット」を開催。優れたプランを実現させるために事業会社をフォローしています。
成果・今後の取り組み
「お客さまが相手の商売だから働き方を変えられない」という固定概念を排除し、経営陣や各事業会社のトップに理解を仰ぎ、徐々に意識が変わりつつあります。育児や介護などさまざまな切り口でアプローチし、いち早くダイバーシティを実現します。
背景・課題
イオンの歴史は合併の歴史
女性管理職比率を2016年に 3割、2020年には5割へ――
2013年5月、グループCEOの岡田が株主総会で女性管理職の比率を引き上げると決意表明し、世間から大きな注目を浴びています。しかし、イオンにおける女性活躍推進をはじめとした多様性を受け入れる企業づくりは、約半世紀前にスタートしていることなのです。イオンの歴史は、合併の歴史。前身のジャスコ(JUSCO)も、「Japan United Stores Company」の頭文字をとった社名であり、「心と心の合併」により生まれた会社です。その後も多くの地域法人と合併を進めてきましたが、どちらかの企業のやり方や文化にあわせてしまうのでなく、相互の多様な文化や声を尊重しつつ、全く新しい会社としてスタートしてきました。
採用や配置、登用 、教育についても同じく、国籍、性別、年齢、学歴、障がいの有無に関わらず差別しないことを原則としています。イオンの理念の1つでもありますが、小売業は「人間産業」です。労働集約型のビジネスを核とするイオンにとって「人」は最大の経営資源ですから、さまざまなバックグラウンドを持った従業員がいきいきと力を発揮して活躍できる環境が不可欠。単に会社を大きくしていくだけでは持続的成長は果たせないのです。
入社する6割は女性、管理職はわずか1割
海外企業では女性が管理職のほぼ半数を占めているのに対し、女性の管理職比率が1割程度にとどまっているのは日本だけです。極端な言い方をすれば、ほとんど男性の考え方・価値観だけで物事を決めてきたこれまでのやり方が、グローバル視点で見れば異質なのです。イオングループに入社する社員の約6割は女性ですが、転職したり、結婚出産を機に退職したり、会社を離れていくケースが少なくありません。加えて、「管理職へキャリアアップしたい」という志向の女性従業員が少なく、むしろ「やりたくない」という人のほうが多い。だから現在のような 結果になっているのです。働き続けるための制度は十分に整っているはずなのですが、制度があっても伝わっていない、使いづらい雰囲気があるなど、何らか の阻害要因があったのかもしれません。
スピードを上げて改革する必要があると、2013年7月にグループCEO直轄組織としてダイバーシティ推進室が設置されました。メンバーは私を含めて3名。顔ぶれとしては、全員女性で育児中、しかも2名は時短勤務中ということで、これまで最も管理職から遠いと思われていた条件のメンバーです。「この3名の視点から、女性が管理職として働ける環境や風土をつくっていけば、女性が管理職になる阻害要因がなくなるだろう」という会社の期待があったようです。
コンサルタントの声
企業の生き残りをかけて、背水の陣で挑む
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ シニアコンサルタント 武藤 久美子
イオン様のダイバーシティ施策の驚くべき点は、圧倒的に高い目標を掲げて世の中に宣言することで、退路を断っていることです。国内女性管理職比率約1割という現状で、2020年5割という数字を掲げられる企業は他ではなかなか例がありません。また、世の中の流れでダイバーシティ推進活動に取り組んでいるのではなく、「イオンを強くするために実施している」という点も大きな特長です。「生活者のライフスタイルや価値観の変化、多様性に対応しなければ、イオングループの未来はない」、という強烈な危機感を持っていらっしゃるので、本気度、集中力が違います。
しかもその取り組みを進めるために、田中様はホールディングスという立場から、業種や規模も多様な多くの事業会社を動かしていかなければなりません。一般的にホールディングスと事業会社の良好な関係性構築は難しい面があります。イオン様では、各事業会社の自律的な活動を支援するという姿勢を明確にし、ホールディングスではグループ全体で推進した方が効果的な共通課題や施策に取り組んでいることが奏功しています。そして、何よりもダイバーシティ推進室の皆さんが、本気で熱意を持って取り組んでいらっしゃることが、事業会社の皆さんの心を動かしているようです。
私はこれからもイオン様のダイバーシティ推進活動の伴走を続けるわけですが、お客様以上にお客様の会社を思い、社外の人間という立場も利用して、成果にコミットしていきたいと思っています。
私たちも本気で取り組むほど、渾身のアイディアや意見がダイバーシティ推進室と食い違うことも出てくるでしょう。そんなときも、どちらの妥協でもない「素晴らしい第三案」を見出す努力を怠らず、コンサルタントとしての価値を発揮していきたいですね。
検討プロセス・実行施策
花を植えるのは人事、土を変えるのが私たち
社長直轄のダイバーシティ推進室が設置されたものの、人事部とは別組織でもあり、最初は自分たちの役割を定義するために議論を重ねる日々が続きました。「社長が言ったからやる」では絶対にうまくいかない。「なぜ女性管理職比率5割なの?」「推進室の存在意義って何?」など、自分たちで考え抜いて答えを出すことが、目標を実現するためには欠かせないプロセスだと考えました。そうして、出てきた一つの方向性が、「花を植えるのは人事、土を変えるのが私たち」という考え方です。女性という花を、管理職という畑に植え替える(登用・任用していく)のは人事ですが、その社員たちがこれまでと同じように、そして継続的に花を咲かせることができる土壌(企業風土、労働環境等)をつくっていくことこそが、私たちのやるべきことだと考えたのです。「とにかく働き方を変えていかないといけない」という方向性も見えてきました。
ちょうどそのころ、グループの中核企業であるイオンリテール株式会社で女性活躍推進の取り組みを行っており、リクルート がその活動を支援されていました。コンサルタントの方はイオンの社風や店舗の現状をよく理解されていましたし、ホールディングスの立場から現場をどのように巻き込むかなどのノウハウもお持ちだったので、協力をお願いすることにしました。
イオンは事業内容も規模も違う会社が集まるグループです。女性活躍推進における状況も個社別に違うこともあり、それぞれに合った方法が必要です。そこで、グループ主要65社にダイバーシティ推進責任者・リーダーを任命しました。
具体的な活動としては、4半期に1回、ダイバーシティリーダー責任者・リーダー が集まる「ダイ満足サミット」という会議を行っています。ダイバーシティ推進活動の情報共有や、事業会社共通のテーマへの取り組みが主な目的です。例えば情報共有としては、各社の進捗共有のほかに有識者の講演などを行っています。また事業会社共通の取り組みでは、全員で共通課題について話し合いアウトプットまで進める「分科会」を設けています。「分科会」は「育児」「介護」「女性のキャリアアップ」「PB(プライベートブランド=トップバリュ)を考える」という4つのテーマで、参加者が議論を交わしています。仕事と育児・介護を両立できるかという不安を解消するにはどうしたらいいか、管理職になりたいという女性を増やすにはどうしたらいいか、さらには自分たちのPB商品で男性の家事参画を応援するものを作ろうなど、各社の参加者がそれぞれ関心のある分野で話し合い、アウトプットを作成することになっています。
個人的には、男女の役割分担意識も女性の活躍推進の大きな阻害要因であると考えています。イオン なら、商品や売場提案を通じて、男性が家事や育児に参加しやすい環境を整えるなど、日本のワークライフバランスに影響を与えられる可能性があると信じています。これこそ私たちにしかできない取り組みと捉え、アイディアを大切に育てていきたいと考えています。
成果・今後の取り組み
これまで当たり前とされてきた働き方を覆す
また、「ダイ満足アワード」と称し、ダイバーシティ推進活動に積極的に取り組んだ事業会社を表彰する制度も創設しました。第1回となる2014年は、事業会社各社が策定した2020年に向けてのアクションプランを表彰の対象としました。まさに今、昨年グランプリを受賞した会社とダイバーシティ推進室が一緒になって具体的な取り組みを進めているところです。
2次審査に残った13社については、プレゼン審査に加え、社長へのヒアリングも行いました。各社社長のダイバーシティ推進に対する本気度を確かめたかったですし、プランを立てた担当者たちの思いをトップにも知ってもらいたかったからです。なかには、「このままの働き方では絶対にダメだ」「もっと従業員が誇れる会社にしたいんだ」と、強い危機感を持っているトップもいて、私たち以上に各社の推進リーダーが勇気とやる気をもらったと思います。
とはいえ、「長時間労働やむなし」など、ダイバーシティ推進の障害になるような考え方はまだまだ残っており、このままにしておく訳にはいきません。例えば、家事や育児の問題が心に響かない人に対しては、誰にでも突然襲ってくる介護の問題について話したりして、働き方を変えることを「自分ごと」と捉えてもらうようにしています。「この働き方のままじゃ立ち行かなくなる」と心から理解しないと、行動は変わらないのではないでしょうか。
やると決めたら、一番先にやらなくてはならない
現在は、まだまだ目標にはほど遠い状況です。小売業は365日・長時間にわたって店舗を開けており、働き方の変革が難しい業界とされています。しかし、そんな小売業で実現するからこそ、他の業界の活動にも弾みをつけることができると思っています。イオンの店舗で働く数十万人が理想のワークライフバランスを実現し、誰もが管理職に挑戦するようになれば、それは日本の多くの企業でも実現できるはずです。私たちは、これまでの日本の常識を変えるくらいの気概を持って、風土改革を進めています。
女性活躍推進といって、女性にだけ働きかけていても取り組みは進みません。これまでの常識を作り上げてきた現管理職、その中の大半を占める男性にも働きかけ、意識を変えてもらうことが必要です。「残業せず早く帰ったら会社が弱くなる」なんてことはありません。むしろ早く帰って家事や育児に参加することで生活者視点が生まれ、売場や商品づくりにいい変革が生まれると思います。
ただし、社員の理解が広がるのをじっくりと待っている時間はありません。2020年はもうすぐそこ。なにより女性管理職比率5割を「やる」と決めたらイオンが一番先にやらなくてはならない。常に最先端を行く会社でないとしたら、それはお客さまを裏切ることになるからです。「5割は難しいのでは?」と誰もが言います。だからこそイオンが取り組む価値があるのです。
対象組織の声
「小売業では無理」と思われていた働き方が
実現しつつあります
イオンスーパーセンター株式会社 管理部 次長
江浜 政江 様
当社は東北エリアに21店舗を展開する地域密着型の小売業です。かつて、厳しい営業数値の時期がありました。「このままではいけない」という思いから、正社員だけでなくパート社員も含めた全従業員が一丸となって業績回復に奮起した結果、わずか2年半で黒字化を達成。その直後、東日本大震災に見舞われ大変な被害を受けましたが、一人ひとりが被災地のライフラインとしての使命感を持ち、必死に地域の暮らしを支えてきました。
ですから、多様性のある組織が生み出す力のすごさというのは、身をもって知っています。イオングループの「ダイ満足アワード」というダイバーシティ推進活動プランを評価する賞をもらえたのも、そうした土台があったからかもしれません。
私たちがめざすのは、従業員が家族に自慢できるような会社を作ることです。そのために、「ダイバーシティ推進活動に向けた本気度の周知徹底」「仕事における団体での勝利体験」「家族の協力の確保」を進めていくこと。実現の条件として「脱長時間労働」「新たな運用ルール作成と整備」「心身の健康維持」「生活向上意欲」を掲げて、職場や社員の問題に向き合っています。
まさに今、長時間労働を減らすために報告書やメールを減らす取り組みを行なったり、優秀な人材を確保するために小売りの常識では考えられなかった「土日休みのパート社員」を採用したり、育児や介護などを支援する取り組みを検討したりしているところです。どれもこれも「小売業では無理」と考えられてきた働き方ですが、やればできることが分かってきました。
当社の店舗展開エリアでも待機児童の課題を抱えるエリアもあり、「自分たちで託児所をつくろう」という話も出てきており、実現に向けグループ会社を巻き込み調整している最中です。こうした取り組みが進んでいけば、イオンスーパーセンターで働き続けられる人がもっと増えるでしょう。小売業の常識にとらわれず、革新的で強い会社をつくっていきたいですね。
取材日:2015/02/09
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