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インタビュー

立教大学 石川 淳氏

共通のゴールに向けてチーム全員でリーダーシップを発揮しよう

  • 公開日:2022/12/19
  • 更新日:2024/05/16
共通のゴールに向けてチーム全員でリーダーシップを発揮しよう

立教大学 経営学部 教授 統括副総長の石川淳氏は日本にシェアド・リーダーシップを紹介した1人で、『シェアド・リーダーシップ』(中央経済社)の著者だ。石川氏は、「リーダーシップは誤解だらけ」だと言う。では、シェアド・リーダーシップとはどのようなもので、私たちはいったい何を誤解しているのだろうか。

「リーダーシップ」とは周囲に及ぼす影響力
訓練を積めば誰でもリーダーシップを発揮できる
シェアド・リーダーシップは職場・チームの創造性も高める
リーダーシップをシェアしたマネジャーは尊敬される

「リーダーシップ」とは周囲に及ぼす影響力

「リーダーシップ」と聞いて、何をイメージしますか。これまでの典型的なイメージは「職場・チームに1人の優れたリーダーの力」ではないでしょうか。優れたリーダーが全体を引っ張り、メンバーはそれについていく、という関係性を思い浮かべる方が多いはずです。

しかし実は、リーダーシップの定義は世界的に大きく変わっています。現代のリーダーシップの定義とは、「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーに及ぼす影響力」です。

つまり、職場やチームに良い影響を与える言動のすべてがリーダーシップなのです。例えば、悩みを抱えるメンバーにそっと寄り添うことも、何か言いたそうにしているメンバーに耳を傾けることも、目標達成のために必要と思われるアイディアについて何気なく放った一言も、どれも立派なリーダーシップです。ですから、「リーダー的なポジションにいない人は、リーダーシップを発揮できない」というのは誤解です。訓練さえすれば、誰でもリーダーシップを発揮できるのです。

いかがでしょう。従来のリーダーシップのイメージとはかなり違うのではないでしょうか。しかし10年後には、誰もがこの意味でリーダーシップという言葉を使うようになるはずです。

なお、リーダーシップを発揮する際には、特に誰かの真似をしたり、書籍などで「○○型リーダーシップ」を学んだりする必要はありません。それよりも、自分の性格や能力上の強みを生かしたリーダーシップを発揮すればよいのです。また、マネジャーはマネジャーならではの経験や見方を、新人は新人らしさを駆使すればよいのです。このことを「パーソナリティ・ベース・リーダーシップ」といいます。

訓練を積めば誰でもリーダーシップを発揮できる

このリーダーシップの定義の延長線上に、「シェアド・リーダーシップ」があります。

シェアド・リーダーシップの定義は、「職場のメンバーが必要なときに必要なリーダーシップを発揮し、誰かがリーダーシップを発揮しているときには、他のメンバーはフォロワーシップに徹するような職場の状態」です。職場やチームの共通のゴールに向けて、全員がお互いにリーダーシップを発揮し合う関係を指します。

例えば、新入社員が「なぜこの業務をやっているのですか? 必要がありますか?」と先輩に素朴な疑問を投げかけて、周囲が「言われてみれば確かにそのとおりだ」と思い、最終的にその業務をやめることになったとしましょう。この場合は、新入社員がリーダーシップを発揮したわけです。時と場合に応じて、このようにさまざまなメンバーがリーダーシップを発揮するのが、シェアド・リーダーシップです。 

シェアド・リーダーシップを実現している企業の実例として、「JR東日本テクノハートTESSEI」を紹介します。TESSEIは、東京・小山エリアにおいて新幹線車両の清掃を行う会社で、ハーバード大学経営大学院に注目されるほど、高品質の掃除サービスをモチベーション高く行っていることで知られています。TESSEIは現場への権限委譲を徹底的に進めており、現場スタッフの意見をもとに制服を季節ごとに変えたり、現場スタッフ同士のノウハウ共有の仕組みを作ったりしています。シェアド・リーダーシップを実現することで仕事のやりがいを高め、サービス品質の向上につなげているのです。

ところで、よくある誤解の1つに「シェアド・リーダーシップだと、現場が混乱するのではないか?」というものがあります。そんなことはありません。適切なリーダーシップはすべて同じ目標を見据え、お互いをフォローする意識のもとで行われますから、シェアド・リーダーシップによって、現場が混乱することはありません。反対に、シェアド・リーダーシップであろうとなかろうと、チーム目標を踏まえない勝手で不適切なリーダーシップは現場を混乱させます。ですから、チーム全員が目標を共有し、適切なリーダーシップを発揮できるようにしていくことが大切です。

そのためには訓練が必要です。特に、「視座を高める」ことが効果的です。メンバーなら課長の立場で、課長なら部長の立場で物事を考えられるようにするのです。理想は、全員が経営視点で考えられるようになることです。現代は情報が溢れており、例えば新人がSDGsについて経営者並みの知識と関心をもっていることも珍しくありません。そう考えれば、誰もが高い視座をもつことは決して不可能ではないはずです。

シェアド・リーダーシップは職場・チームの創造性も高める

シェアド・リーダーシップが注目されるようになった背景には、いくつかの要因がある、と私は考えています。

1つ目に、社会やビジネス環境の変化が速く、部長や課長の成功体験が簡単に通用しなくなったことがあります。特に最近は、業績をあげるための道筋が明らかになっていない(タスク不確実性が高い)ビジネスが多くあります。その場合、1人の優れたリーダーだけに任せても、まずうまくいきません。いかに優れたリーダーでも、1人のリーダーの判断だけでは成功できない時代になったのです。これからの世界では、シェアド・リーダーシップで全員が協力して成功への道筋を見つけていく必要があります。

2つ目に、専門スキル・知識の必要性がさらに高まっています。一例を挙げると、我が立教大学大学院には、人材開発・組織開発を専門で研究する「リーダーシップ開発コース」があります。以前は、ローテーションで他部署から人事部にやってきて、いきなり人材開発を担当するケースも珍しくなかったはずです。ところが今は、大学院で人材開発を専門的に研究した後、人材開発の実務に就いて実践する、という兆しが生まれています。このように各業務の専門性が高まるほど、一人ひとりが自らの専門領域でリーダーシップを発揮する必要が出てきます。

3つ目に、組織コミットメント(エンゲージメント)向上の必要性が高まっています。メンバーが自らリーダーシップを発揮すると、組織コミットメントが高まることが分かっています。シェアド・リーダーシップは、メンバーの意欲向上や離職防止にもつながるのです。

4つ目に、創造的なアウトプットの必要性が高まっています。クリエイティブなアイディアは、既存の知識と知識を今までなかった形で新結合させることによって生まれます。そのためには多様な人たちがリーダーシップを発揮し、意見をぶつけ合うことが欠かせません。シェアド・リーダーシップは職場・チームの創造性も高めるのです。

リーダーシップをシェアしたマネジャーは尊敬される

「マネジャーは、シェアド・リーダーシップの職場・チームでいったい何をしたらよいのでしょうか?」と質問されることがよくあります。その裏側には、「部下がリーダーシップを発揮すると、マネジャーとしての自身の立場がなくなってしまうのではないか?」という不安があるわけですが、それは誤解です。当然ながら、マネジャーがすべきことはいくつもあります。

第一に、メンバー育成です。メンバーの視座を高めるために、マネジャーができることはいろいろとあります。例えば、組織のミッションについてメンバーと対話を重ねたり、SDGsのような経営視点の情報を積極的に伝えたりできるはずです。

第二に、職場の心理的安全性を高めたり、オープンな職場づくりをしたりするのもマネジャーの仕事です。メンバーの失敗の責任をとり、チャレンジしやすい環境を作ることも効果的です。

第三に、意思決定はマネジャーの役割です。リーダーシップと意思決定は違います。シェアド・リーダーシップでは皆がリーダーシップを発揮して多様な意見を出しますが、最終的に決めるのは今までどおりマネジャーでよいのです。組織・チームの方向性や最低限のルールを決めるのも、やはりマネジャーの仕事です。

第四に、課長や部長や経営陣が、職場をシェアド・リーダーシップに変える「覚悟」をもつことに大きな意味があります。マネジャー自身がアンラーニング(価値観の転換)をしたり、「マネジャーはこうあるべき」「新人はこうあるべき」といったアンコンシャス・バイアスを排除したりして、率先して意識改革を進めるのです。マネジャーが変われば、自ずと組織も変わります。

最終的には、シェアド・リーダーシップのチームを作りきったマネジャーこそ、最も尊敬され、評価されるはずです。シェアド・リーダーシップにしたら自分の存在意義がなくなる、などと恐れる必要はまったくありません。

今、世の中では「ダイバーシティ&インクルージョン」が盛んに言われていますが、私はそれだけでは足りない、と考えています。もう一歩先に進んで、「ダイバーシティ&インクルージョン&シェアド・リーダーシップ」を実現すれば、素晴らしく創造的で働きがいがあり、愛着のもてるチームができ上がるはずです。

【text:米川 青馬 photo:平山 諭】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.68 特集1「自律型組織を育むシェアド・リーダーシップ」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
石川 淳(いしかわ じゅん)氏
立教大学 経営学部 教授 統括副総長

2001年慶應義塾大学経営管理研究科博士課程修了。2003年立教大学社会学部助教授。経営学部准教授などを経て、2009年より経営学部教授。2021年より統括副総長。『シェアド・リーダーシップ』『リーダーシップの理論』(ともに中央経済社)など、著書・共著書多数。

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