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「顧客接点強化」を主領域としているトレーナーの想い

どうすれば現場の伴走者になれるのか?

  • 公開日:2014/03/03
  • 更新日:2024/03/26
どうすれば現場の伴走者になれるのか?

どのような環境下でも顧客接点を強化して業績向上を実現させたいというのは、多くの企業に共通する想いではないでしょうか。そのために、顧客接点を担う人材の能力・意欲を最大限に引き出す努力は欠かせません。今回は「顧客接点強化」を主領域としているトレーナーの渡辺が、どのような想いで課題と向き合い、受講者に関わってきたのかをご紹介いたします。

凍える現場で思うこと
研修は万能薬ではない
「何のために」で人はやる気になる
やらないことを決めない

凍える現場で思うこと

週末に降った大雪が、日陰にはまだたくさん残っている。私は足下を気にしながら、静かな住宅街を歩いていた。この日、私は顧客企業の現場社員に同行をさせていただいていた。

しばらくすると、同行者が住所を確認してお客様宅のインターホンを押した。9時30分に約束していたはずなのだが、応答がない。しかたなく、私たちは軒先に立って震えていた。いくら重ね着をしようが、寒風が吹く中でじっとしているのは辛いものがある。

凍える現場で思うこと

ようやくお客様がインターホンに応答してくださった。もうこの時点で私たちに与えられた時間は、ほとんど残っていない。午前中にあと4件訪問しなければならないからである。

「この状況でお客様と話す時間をさらに増やそうなんて、ちょっと無茶だよなぁ……」とつくづく感じた。冬は寒いし、夏は暑い。お客様と話す時間は限られている。そもそも、訪問の目的はアフターサービスなのだ。それをこなすだけでタイムオーバーになることも多い。聞いていたよりもずっと現場は大変だった。

私の同行の目的は、顧客企業の現場を深く理解することだ。顧客接点を担う社員向けに、日々の対応の質を高めて、先々の営業活動につなげることを促す施策のお手伝いすることになっていたのだ。

現場の実態を理解しないまま、研修の場で軽々しく「もっとお客様と会話をしましょう」などと言ったら、社員には「余計な仕事が一つ増える」というネガティブな気持ちしかわかない場合もある。その場で、反発を受けることも珍しくない。

ここで重要になるのが、トレーナーである私が、実際に現場を体験していることだ。同じことを伝えるにしても、彼・彼女らへの言葉の重みが変わってくる。

「夏は暑いし、冬は寒いし、本当に大変だと思う。あの短い時間の中でお客様と会話するのは難しいと僕も思った。でも、移り変わりが激しい社会で、同じことばかり続けているわけにもいかない。自分たちの未来のためにお客様との会話を変えていこうよ」

極寒の中、軒先で凍えそうになった経験を踏まえた言葉だからこそ、受講者は日常の仕事と研修の内容のつながりを感じやすくなると考えている。お仕着せの研修をいきなり始めても、決して上手くいかないだろう。

研修は万能薬ではない

そもそも私は「研修」というものがあまり好きではない。

新卒で入社した自動車メーカーでさまざまな研修を受けたことがあるし、その会社で3年目からはトレーナーとして販売店の営業力強化のための研修に携わってきた。しかし、一般化されたノウハウを研修で教えても、「自分の仕事に直結する内容ではない」と受講者が感じた時点で、行動も意識も変わらない。成果に結びつかない研修はやっても虚しいだけである。何より、自分が研修を受けたときもそのように感じていた。

研修は万能薬ではない

当時、手応えを感じられたのは、研修そのものではなく、販売店に入り込んで指導育成するプロジェクトを行っていたときだった。

「展示会の成果はどうでした? 来週からはどういうアクションをしましょうか?」
「集客を増やすためにはどんなチラシが効果的なのか、一緒に考えてみませんか?」
など、営業スタッフと一体となって知恵を絞るのだ。すると、多くの場合は、それがダイレクトに成果として戻ってくる。自動車の販売台数や売上が目に見えて増え、営業スタッフが喜ぶ姿を見るのが、嬉しくてしかたがなかった。ひょっとすると自分の仕事の楽しさを感じられたのは、このときが初めてだったのかもしれない。現場と一体になって取り組めたことだけでなく、目的を見定めて、知恵を絞って、成果に到達できたからである。

一方で、トレーナーをしていると、研修が「万能薬」のように捉えられている場面に出くわすことが多い。例えば、「とにかくすぐに研修をしたい」という相談を受けることがある。このような場合、まず担当者に「研修の目的は何ですか?」と確認し、もし目的が定まっていない場合には、「じゃあ、経営陣と目的を合意するところから一緒に考えてみませんか?」と担当者に伴走する。目的なしで研修を行うのは、行先を決めずに電車に乗るのと同じようなものだ。

だからこそ私は、現場を理解することを大切にしているし、そこで感じたことをもとに「本当の課題は別のところにあるのではないでしょうか?」と経営陣と意見を交わすこともある。ときには、改善の意志が感じられない経営陣やマネジャーに「やる気がないならやめますか?」と迫ることさえある。トレーナーの役割は、「研修の場で教える人」だけではない。少なくとも私はそう思っている。

「研修を通じて、目の前がクリアになり迷いがなくなった。人事評価とか、そういうことにまで、自分が働きかけていいんだ、というのは発見でした」という感想もあった。受講者は一回り大きくなった自分を、おのおの実感しているそうだ。

話を元に戻そう。「苦手なのでやりたくない」「これ以上仕事を増やしたくない」と言っていた彼・彼女たちも、「具体的に何をすべきか」が分かれば、目の前の霧が晴れ、行動が変わるはずだ。その“機会”をつくってあげるのが私たちの仕事なのだ。

会社からの期待と、今自分が置かれている状況を照らし合わせつつ、職場の課題を深く考えて真の原因を見つけるサポートを続ける。すると、「理不尽に仕事を押し付けてくる上司が悪い」と思っていたことが、実は自分の中にも原因があると受講者たちは気がつくのだ。

研修が終わるころには、「これが自分の役割だと線引きして仕事をして、成長のチャンスを逃していました」という感想も聞こえてくる。2ヵ月後のフォローアップ研修では、「上司からミーティングの司会を任されるようになったんです」と、役割や期待の変化に対する喜びを、目を輝かせながら話してくれる人もいた。

周囲に働きかけることに抵抗を感じていた彼・彼女たちは、今の状況のままで働き続けるのはもっと嫌だったのである。彼・彼女らの中にあるいろいろなモヤモヤが晴れて、現場で何をすべきかが具体的になれば元気になるし、組織もイキイキとしてくるものなのだ。

「何のために」で人はやる気になる

顧客接点強化の領域の特徴は、良くも悪くもお手伝いした後の成果が分かりやすいことだ。また、そのプロセスでは、一度きりの研修ではなく、研修と研修の間に現場実践期間を置き、PDSサイクルを回すことで成果を出しやすくすることも少なくない。

例えば、お客様の気持ちや状況を聞くことに主眼を置いたコミュニケーション向上研修の事例だ。それまでお客様との会話が上手くいかなかったといっていた受講者が、研修を終えてわずか2週間の現場実践期間に、売るのが難しいとされる高額機器を受注したというのだ。

「何のために」で人はやる気になる

「特別なことをしたつもりはないのですが、研修で学んだ通りにやってみたら、お客様が『じゃあ、その機械を持ってきてよ』と仰ったんです」と本人は語っていた。このような成果を感じられたときは、素直に嬉しい。

もちろん、異なる状況の現場や研修全てでこのように成果が出るとは言いきれない。しかし、そのようなときでも仕事のプロセスに意味や価値を感じてくれると嬉しい。象徴的なのは、「自分のやっていることの意味が分かりました」という受講者の声である。

「自分の会社はどのような顧客に対して、どのような価値を提供しようとしているのか」を理解することは、目先の行動が変わる以上に大きな変化だと考えるからだ。それは、「日々の仕事が会社や事業の戦略とどうつながっているか」を理解することだともいえる。

タスクに追われて忙しく過ごしているときには気づきにくいが、自分の仕事の意味や価値を実感できれば受講者はやる気になる。「何のために」という目的がしっかり見えていれば、自ら行動を見直して軌道修正することも可能だ。この状態までたどり着けば、おのずと成果も出やすくなる。

反対に、「お客様の話にもっと耳を傾けろ」「もっとチラシをまく時間を増やせ」「お前は行動量が足りない」と、ただ活動タスクを命令するだけでは、社員はやる気にならない。その活動にどのような意味があるのか分からなければ、やっても面白さを感じられないからだ。

会社がどのような戦略を持っていて、だから自分たちがどのように活動していくのか。顧客接点に立つ方々に伴走し、戦略と現場をつないでいくことが、私の目指すトレーナー像なのだ。

やらないことを決めない

トレーナーといっても、さまざまなタイプがいる。研修の場で受講者を一気に引き込むパフォーマンスを強みにしている人がいれば、見事な報告書で次のアクションを提言することを強みにしている人もいる。

一方で、私には明確に強みがないことに気づいた。悩み抜いた結果、戦略と現場をつなげてお客様と伴走することにトレーナーとしての存在意義を見出したのだ。だからこそ、提案からアフターフォローまでの流れを全体俯瞰して連動させていくこと、あるいはお客様の経営戦略から人事戦略と顧客接点の最前線の現場をつなげていくことを重視している。

やらないことを決めない

したがって、頼まれたことは断らないのが、私のポリシーだ。その一方で、研修の提案からその後のフォローまで全てのプロセスに深く関わっている分、大きな責任も感じている。ときにはプレッシャーに押しつぶされそうになって、出張先のホテルで涙が止まらないこともあるほどだ。

「現場理解が大切って言ったけど、自分は本当に理解できているんだろうか」
「自分はお客様の戦略の方向性をきちんとのみ込めているんだろうか」
「明日の研修の組み立ては問題ないか。他の方法もあったんじゃないか」
と、考え出したらキリがない。現場に行ったり経営陣に提案をしたりと、自分で逃げ道を絶っている以上、このような不安や悩みは尽きない。

でも、私は自分にできることを徹底的にやりたい。売れないことがいかに辛いかを知っているからだ。
売れなくなる悪循環に陥って慌てる前に、お客様に接する目的を理解し、必要なスキルを身につけて、上昇気流に乗っていくほうがはるかに効率的だ。悪い状況になる前にできるだけ早めに手を打つべきだし、悪循環に陥りかけているのを見逃さずにすぐに対策を考えるべきだと思う。何より、売れているときに「なぜ自分が売れているのか」を明らかにしておけば、上手くいかないときも自分で軌道修正できるようになる。これができるか、できないかの違いは大きい。

より多くの人に仕事の意味や自分の存在意義を感じながら、前向きに顧客接点に立ってほしい。そのために自分にできる限りのことをしたいと願っている。だからこそ私は、足下の悪い大雪の後でも、喜んで現場に同行するのだ。

執筆者

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人材開発トレーナー

渡辺 拓二

大学卒業後、自動車メーカーに入社。販売会社出向を経て国内販売会社の営業推進や支援、能力開発に携わる。 その後、外資系通信会社に転職。トレーニング担当として孤軍奮闘しつつ、代理店担当営業を兼務する。 33歳の時にトレーナーとなり、現在に至る。

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