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インタビュー

社会を変えるリーダー

株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 CEO 吉田浩一郎氏

  • 公開日:2021/11/08
  • 更新日:2024/05/17
株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 CEO 吉田浩一郎氏

インターネットを使い、不特定多数の個人に仕事を発注するクラウドソーシングという仕組みに注目が集まり、市場も拡大している。その背景にはもちろんDXという潮流があるが、深刻な労働力不足もある。それを回避するため、雇用関係によらないフリーランスや副業者の活用が国家的課題になっているのだ。
市場を牽引するプラットフォーマーの1つ、クラウドワークスの吉田社長に最前線の動きについて伺った。

目次
業務委託発注ニーズの広がり
ライバルが思わぬところから現れる
雇用労働が割に合わない時代
ベーシックインカムが不可欠に

業務委託発注ニーズの広がり

クラウドワークスは、個人、法人問わず、業務委託の仕事をインターネット上で受発注できる日本最大規模の仕事マッチングサイトを運営する。発注側は委託費以外無料で利用でき、働き手である受注側から徴収する手数料が同社の収益となる。

サービス開始は2012年3月で、働き手は今や日本だけではなく世界に443万人と大きく広がり、発注側の企業も政府や自治体、大企業を含む国内72万組織、仕事の種類は200を超える(いずれも2021年7月現在)。

初期はエンジニアやデザイナー関連の仕事が中心だったが、現在は事務作業含め、「会社で行われているあらゆる仕事」をカバーする。

働き手は副業者やフリーランスなどの在宅ワーカーで、年齢層は18歳から84歳までと幅広い。

同社創業社長の吉田浩一郎氏が最近の傾向を語る。「5年ほど前までは、発注側の明確なニーズに基づくネット関連の仕事がほとんどでした。代表例がホームページの作成です。ところが昨今は、建築のCAD(コンピュータ支援設計)関連など、非ネット系の働き手を探す案件や、発注側が委託内容を明確に規定せず、とにかくユニークなタレントを見つけたいといった案件など、われわれの想定外のニーズが顕著になっています」

そうした潮流を見越して2020年1月、同社はクラウドリンクスという副業マッチングのサイトを立ち上げた。

名だたる大企業の社員を含め、副業を希望する人材1万5000名が、社名や経歴も明かし、実名で登録する。「ホームページを50万円で作れる人は『答えを出す人』です。最近はそれに飽き足らず、『問いを立てる人』を探したいというニーズが高まっている。この人に副業という形で関わってもらえれば、社内では思いつかない新しい事業を立ち上げられるかもしれないと。一方の働き手側の事情としては、副業を解禁する企業が増えると共に、リモートワークが普及して家での時間が生まれていることが大きい」

ライバルが思わぬところから現れる

目に見える成果物から不可視の知恵へ、そうした副業案件を含め、業務委託の内容が様変わりしつつあるのだ。「以前の契約は、成果物を納入した上で、その瑕疵担保責任を負う、という内容でした。でも、その2つを同時にかなえる場合、受け手側が自己規制し、リスクの低い成果物しか納入しようとしなくなる可能性が高い」

それに代わり、最近主流になっているのが、準委任契約というやり方だ。企業の顧問弁護士のように、毎月顧問料をもらい、適宜、助言を行うが、内容に対する瑕疵担保責任は負わない。「外注ではなく、パートナーシップです。目的を共有し、共にゴールを目指そうというわけです」

答えではなく問いを欲しがる企業が増える背景には、経営環境の変化の激しさがある。IT企業が電気自動車の製造に乗り出すなど、事業や産業の垣根がどんどん低くなり、思わぬライバルが、ある日突然現れるのが日常茶飯事なのだ。

「当社もその例に漏れません。在宅ワークに従事する主婦のブログを読んでいたらびっくりしました。クラウドワークスで稼いだお金と、不用品を売買する著名アプリで手にしたお金が同列に扱われていたんです。自分たちがそのアプリと競合状態にあるとはまったく考えていませんでした」

かくして、吉田氏は働き方を、上に仕事、下に生活という縦軸、右に物、左に役務という横軸による四象限で考えるようになった。

クラウドワークスを通じて行う業務は「仕事×役務」象限、フリマアプリのそれは「生活×物」象限にある。趣味の延長で作った物を売れば「仕事×物」象限、アプリによる出前サービスに従事した場合は「生活×役務」象限の仕事となる。事業者側は互いに別と考えていても、ユーザーにとってはどれも同じ「お金を稼ぐ手段」なのだ。

「クラウドワークスを立ち上げた時点では、報酬とはもっぱら仕事を通じて得るものでした。今では違います。フリマアプリを使えば生活そのものが報酬を得る手段になる。われわれIT業界は特に経営環境の変化が激しく、それに応じて経営もすばやく変えていかなければならない。われわれは『Be Agile』(すばやく試し、学ぼう)というバリューを掲げています」

雇用労働が割に合わない時代

一方で、最近ある公的データを見て愕然とした。「日本の貨幣流通量は2011年以来、6倍になっているのに対し、労働者の平均給与額はほぼ横ばいです。この10年間で、雇用労働という仕組みがまったく割に合わないものになっている。給与に回らない他のお金は投資に振り向けられています。こうなると、個人で可能な不動産や株の投資、さらに副業もせず、会社に忠誠を尽くして働くことは割に合わないと考える人が増えて当然です」

しかも、ネットの世界ではユーチューバーなる、動画の投稿で年に数十億円稼ぐ人も現れている。「会社で働くことが人生そのものだったのが20世紀だとするならば、会社で過ごす時間は人生の一部でしかないと考える人が21世紀は主流になるでしょう。個人が会社より強くなる。働く世界が個人を中心に大きく再編されていくでしょう」

個人を軸に働き方が再編されていくとしたら、会社もその動きに合わせなければならない。「うちも働き方の自由度を高め、2016年7月に副業を解禁し、現社員の半数がすでに副業を経験しています。コロナ前の2019年4月には上限なしの在宅勤務をチーム単位で解禁しました。男性社員の育児休暇取得も推進しています。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する社内アンケートを行い、結果を社外に公表するなど、性別に関係なく存分に働ける環境を整備しようとしています」

そうしたなか、先のクラウドリンクスの例が示すように、副業マーケットは質量ともに広がっている。しかも副業先は企業ばかりではない。

2020年9月、神戸市が、広報業務に従事する副業人材40名を、クラウドワークスを通じて公募したところ、10日間で1000名を超す応募が寄せられた。「コロナ禍で、リモートワークでの業務が可能な人ということもあり、これだけの数が集まったようです。雇用でも外注でもない、緩くつながったプロ人材の助けを借り、仕事を回していく。これが人材活用の新しい形になるでしょう」

そのリモートワークも個人力の強化を促進させる。つい最近、吉田氏は社員の1人に「オフィスで話そうか」と伝えたところ、「合理的な理由があれば、出社しますけど」と言われ、大いに驚いたそうだ。「リモートワークは働き手の個人主義、合理主義を加速させます。これによって、各自の自分自身に対する内面理解が進む一方で、他者への理解不足が亢進するでしょう」

その結果、何が起こるのか。人間の究極的価値である真・善・美に依拠し、吉田氏はこう語る。「真は事実そのものなので、リモートでも理解の齟齬は生じにくいのですが、何を善いとするのか、何を美とおくのかは違います。そうした抽象度の高い議論は対面でないと深まらないし、そもそも話題にしにくい。そうなると、社内はもとより世間においても、善や美についての議論が減り、それぞれが劣化していく可能性が高い」

ベーシックインカムが不可欠に

副業や投資に勤しみ、会社よりも強い個人が続々と生まれる時代、そこから落ちこぼれてしまう人はどうしたらいいのだろうか。吉田氏は2つの方面での解決を考えている。

1つは教育機会の提供だ。「稼げる人は稼げるけれど、稼げない人は稼げないのが業務委託の世界です。その差を少しでも縮めるため、稼げるようになる教育プログラムを整備し提供しています」

もう1つは社会のインフラ整備である。「教育機会の提供だけでは限界があり、落ちこぼれてしまう人が必ず出てきます。そういう人に向けて、日本でも食料や住居、仕事など、ベーシックインカムにつながる物やサービスの無償提供がいずれ必要になると思います」

この問題は企業単体での対応が難しく、行政も含めた複数の組織がNPOや社団法人を立ち上げ、対応するべきだ、と吉田氏は考えている。

吉田氏の語り口は、いつしか企業家のそれから研究者あるいは政治家のそれに近づいているように思えた。IT企業が中心となった一般社団法人新経済連盟の理事もつとめ、『後漢書』にある「志ある者は事竟(つい)に成る」を座右の銘とする。

「私は、日本で最も人々の働き方に関する問題意識を強くもち、新しい付加価値とは何かを考え続けているという自負があります。働き方に関する社会課題は短期での解決は難しい。最近は、正社員や派遣など制度の歴史を振り返る大切さを痛感しています。これからも働き方の変化に直結する事業の拡大を通じて社会にインパクトを与えながら、働き方に関する社会課題も解決していきたい」

【text :荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.63 連載「Message from TOP 経営者が語る人と組織の戦略と持論」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
吉田浩一郎(よしだこういちろう)氏
株式会社クラウドワークス
代表取締役社長 CEO

1974年兵庫県神戸市生まれ。東京学芸大学卒業。パイオニア、リード エグジビション ジャパンを経て、ドリコム 執行役員として東証マザーズ上場を経験した後、独立。2011年11月、クラウドワークスを創業し現在に至る。

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