青山学院大学 山本 寛氏 リテンション施策は対象者を絞ってセットで実行すべし

少子化が進む日本では、採用難と人材不足が企業の恒常的な悩みとなりつつある。そこで重要度が増しているのが、「リテンションマネジメント」だ。『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(日経プレミアシリーズ)の著書がある山本 寛氏に、若手優秀人材のリテンション施策について伺った。


2つ以上の理由が重なったとき離職を決意するケースが多い

私はこれまで、さまざまな離職者にインタビューしてきました。それらのインタビューや調査データを通して、若手優秀人材の離職の分かれ目について、いくつかのことが分かってきました。まずはそこから説明していきたいと思います。

最初に、若手人材の離職の理由ですが、彼らの本音を探ると、結局は「労働条件」「給与」「人間関係」が三大要因でした。優秀人材の場合は、そこに「働きがい」「自己実現」「成長実感」が加わります。私たちは、この6つの理由に注目する必要があります。特に労働条件は、働き方改革の影響があって、若手人材の要求がとみに高まっています。大半の若手が、夜遅くまでの残業や休日出勤に拒否反応を抱くようになっているのです。

とはいえ、労働条件が悪いという理由だけで辞める方は決して多くありません。これは他の理由にもいえることですが、離職者の皆さんにインタビューすると、「2つ以上の理由」が重なったときに離職を決意するケースが多いのです。

例えば、最近は、多くの会社で新卒社員数が減っています。そのため、配置ローテーションがうまく回らず、後輩が入らないまま何年も1部署にとどまるケースが増えています。そうして入社4、5年目になっても1年目のように雑用が多く、働きがいや成長実感を得られない優秀人材が少なくないのです。そこに労働時間が長い、給与が少ない、人間関係が悪いといった状況が加わると、彼らは本気で転職を考えるようになります。

さらに今は、SNSが離職を後押ししています。SNSを通して、大学時代の友達などが仕事や生活を楽しむ姿を見て、「アイツはあんなに成長しているのに……」「あの人は休日を楽しんでいるのに……」などと感じやすい環境があるのです。そうした気持ちで転職サイトを調べるうちに、自分にはもっとふさわしい会社がある、といった思いが強くなり、転職活動を本格化させるのです。

離職を思いとどまるのは 風土や人間関係が良好なとき

私は離職者だけでなく、一度は離職を考えた上で踏みとどまった方にも多数インタビューしてきました。彼らの多くに共通していたのは、職場の「風土」と「人間関係」の良さでした。他に問題があったとしても、風土や人間関係が良好だと、離職を思いとどまることがあるのです。

その具体的なポイントは、4つほどあります。1つ目は、「人を大切にする風土」です。若手人材は、基本的には仕事を任せてくれるけれど、ピンチのときには上司・先輩がさっと助け舟を出してくれるような環境を望んでいます。これは、「面倒見が良い」「人に優しい」といった表現で語られることもあります。こうした風土の職場では、離職を思いとどまるケースが多く見られます。

2つ目は、「ボトムアップ重視の風土」です。上層部が社員の声に耳を傾け、その意見を積極的に反映する会社は、多くの場合、風通しの良い社風だとポジティブな評価を受けます。3つ目は「多様な価値観を許容する風土」で、例えば若手がドラスティックな考えをもっているとき、それを排除せず、上司や上層部が一度は耳を傾けて、一定の理解を示す会社です。なかでも優秀人材は、こうした環境を求める傾向があります。

4つ目は「縦のコミュニケーション」です。縦のコミュニケーションとは、会社の長期ビジョンや中期経営計画といった上層部の考えが現場に伝わることです。これらが分かると、特に若手優秀人材は将来の見通しを立てやすくなるのです。そして、会社の考えと自分のキャリア設計図が合えば、長く働こうと考えるわけです。優秀人材のリテンションには徹底した情報公開も重要なのです。

社員の給与を上げる一方でマルチタスクを奨励した事例

では、どのようなリテンションマネジメントが効果的なのでしょうか。私は、次の2つのポイントが極めて大切だと考えています。

1つは、特に離職を防ぎたい「リテンションの対象者」を絞ることです。これは若手優秀人材だけでなく、新入社員や育休明け女性社員などの場合も同様です。もう1つは、「施策をセットで実行する」ことです。いくつかの施策を連携させれば、効果のバランスをとることができますし、いくつかの離職理由を一度に解消することも可能になるからです。特に若手優秀層は、働きがいや成長実感の向上を絡めた施策が有効でしょう。

この2つを重視して成果を出したリテンションマネジメント事例を2つご紹介します。

1つ目は、ある旅館の事例です。この旅館は、その地域の平均以上の給与になるよう、中堅社員を中心に給与をアップしました。当然、これは離職減にかなりの効果がありました。中堅社員を重視したのは、若手社員が気にするのが、数年後の自分の姿である中堅社員だからです。つまり、この施策の主な対象者は若手社員です。ただ、給与を上げると、当然コスト増になります。そこでこの旅館では、一人ひとりにマルチタスクを奨励し、自分の生産性を常に意識してほしいと打ち出しました。こうしてコスト増を防ぐと共に、働きがいや成長実感の増進につなげたのです。

2つ目は、携帯電話販売会社の事例です。この会社は、優秀な若手女性社員の離職を以前から漠然と問題に思っていたのですが、どうしたらよいか分かりませんでした。そこで、まず離職率低下を目指す部署を新設し、その皆さんが徹底的にデータを分析して経営層に見せました。その結果、経営層の理解が進み、彼らがあらゆる場面で「我が社は、社員の定着を重視する」と話すようになったのです。こうして縦のコミュニケーションが生まれました。並行して「短時間正社員制度」を導入し、出産・育児・介護などにまつわる女性社員の離職を防ごうとしました。また、この施策の成功要因の1つは、離職相談を受けるミドルマネジャーに研修を実施し、若手女性社員にどのように短時間正社員制度を勧めればよいかを教えたことです。ミドルマネジャーを前面に立てたことで、人間関係の改善も目指したのです。

最後に、「退職時面接」に触れます。退職時面接で離職が撤回されることは、ほとんどありません。しかし、退職時面接には「将来に向けてのリテンション効果」があります。ある程度離職理由が分かれば、同じ理由で辞める社員を減らせる可能性があるからです。例えば、あるマネジャーのもとで辞める人材が多く、面接でそのマネジャーが原因だと分かれば、マネジャーを異動させれば離職を減らせるでしょう。また、退職時面接には出戻り社員を増やす効果も期待できます。人事による退職時面接は特にお勧めしたい施策の1つです。

【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.52 特集1「リテンションマネジメントをこえて― 若手・中堅の離職が意味すること ―」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
山本 寛(やまもと ひろし)氏
青山学院大学 経営学部 教授

1979年早稲田大学政治経済学部卒業。銀行などに勤務した後、青山学院大学経営学部助教授などを経て、2003年より現職。専門は人的資源管理論、キャリアデザイン論。『なぜ、御社は若手が辞めるのか』『「中だるみ社員」の罠』(いずれも日経プレミアシリーズ)など著書・共著書多数。

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