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【特別座談会】SELF SHIFT ideas 〜学びは「自己」の時代へ〜

若者と大人の関係性を探究する 若者を生かす「学び」と「スキル」を考える

  • 公開日:2020/03/09
  • 更新日:2024/04/04
若者と大人の関係性を探究する若者を生かす「学び」と「スキル」を考える

ついつい、お互い分かったつもりのまま、知らず知らずにズレてしまいがちな、若者と大人のコミュニケーション。正解がないビジネス環境のなかで、それぞれがどのような能力開発を進めていけば、より良いコミュニケーションが生まれ、職場活性化につながるのか、悩まれる方も多いのではないでしょうか。
今回は「若者」を研究する識者として、電通若者研究部(電通ワカモン) プロジェクトディレクターである吉田将英氏をお迎えし、若者と大人の価値観の違いやこれからの「学び」についてお話を伺ってきました。対談相手は、弊社で新人・若手育成のトレーニング商品開発に取り組み、リクルートマネジメントスクールにて「セルフリーダーシップ入門 ~自分らしさを生かし、仕事をより良い状況にしていくメソッド~」「今の時代の新人・若手育成のポイント ~育て方を変えればここまで変わる~」といった人気コースの講師を務める桑原正義です。

対談メンバー
●吉田 将英氏(電通若者研究部〈電通ワカモン〉プロジェクトディレクター)
●桑原 正義(リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員)

若者を動かしたいなら まず大人サイドが変わらなくちゃ
「ONE TEAM」に見られる若者の価値観の変化
意思決定の機会を持ち、勇気を高める
心の内側を探り、勇気の源泉になる「Will」を持つ 自分が何に夢中になれるのかを探し続けよう

若者を動かしたいなら まず大人サイドが変わらなくちゃ

桑原:電通若者研究部(電通ワカモン)について教えてください。

吉田:電通ワカモンは、2010年末に正式に発足された、電通最古参のラボの1つです。部署横断組織で、メンバーは全員電通内で別に主業務を持っており、例えば僕は電通ビジネスデザインスクエアという企業のイノベーション創出を支援するチームに参加しています。

電通ワカモンのキャッチフレーズは、「若者から未来をデザインする」で、そのために若者と大人がより良い関係性を築けるようなヒントを探るプランニング&クリエーティブユニットとして活動しています。

僕たちは「Withアプローチ」と名付けたやり方をしています。簡単にいうと、僕たちは「若者サイド」と「大人サイド」の両方の言語や動向が分かる翻訳家で、両サイドをつなぎながらさまざまなことを企画・実行しているんです。分かりやすい事例だと、大学のお笑いサークル同士が競い合う新たな賞レース「NOROSHI」をプロデュースしていますが、これはいま関東の大学生の間で盛り上がっているお笑いサークルと、次世代のお笑いの才能を探すという吉本興業を結びつけたものです。

電通ワカモンの「Withアプローチ」

桑原:どんな問題意識から集まっているのですか?

吉田:そもそもの問題意識は、「若者と大人の関係性に違和感がある」ということです。日本の大人は若者とどう関わっていいか分からず、日本の若者は大人が怖かったり、関わるのをめんどくさく思っていたり、こちらもうまく向き合えていない。お互いにお互いをよく理解できていないんです。理解できないから、大人たちは若者に「ゆとり世代」みたいなレッテル貼りをするわけですが、レッテル貼りは相互理解を阻害してしまいます。それから、大人はどうしても若者より立場が強くなりがちです。例えば、大人が若者に「オレが若いときは……」と言ったら、若者は「オレが大人だったときは」と言い返せません。途端に、若者の立場が弱くなってしまう。こうやって「大人=強者/若者=弱者」という関係になってしまうことが多い。特に現代日本は、若者が人口で見てもマイノリティですから、「大人=強者/若者=弱者」の関係性が根深いんです。僕らはそうした問題を解消して、若者と大人の相互理解を深め、対等な関係性にしたい。その想いが強いですね。

このとき重要なのは、「大人が変わること」です。本当に若者を動かしたいと思うなら、まず大人サイドが変わらなくちゃいけない。僕たちは、このことを理解していただけないクライアントとは仕事をしないことにしています。決してうまくいきませんから。

言い換えると、僕らは若者研究だけでなく、「大人研究」も一緒にやっているんです。そうしないと、Withアプローチはできません。

桑原:私も基本的な想いは一緒ですね。私は1992年に人事測定研究所(現・リクルートマネジメントソリューションズ)に入社して、しばらくは営業やコンサルタントなどをしていましたが、2005年頃から、日本の人事の皆さんから「採用はうまくいくのですが、育成がうまくいきません」という声をよく聞くようになりました。エクセレントカンパニーといわれるような企業の人事の方も、そうおっしゃるようになったのです。調べるうちに分かってきたのは、「日本企業が若者を生かしきれていない」現実でした。それで私は新人・若手育成とリーダー・上司のトレーニングの両方を手がけるようになった。2015年から、両者を組み合わせたトレーニング商品の開発を行っています。新人・若手育成だけでなく、リーダー・上司のトレーニングにも力を入れているのは、吉田さんの言うとおり、どちらかではなくて、お互いが理解し合い学習していくことが大事だと思うからです。

その問題意識のもと、リクルートマネジメントソリューションズでは、ラグビー20歳以下(U20)日本代表元監督である中竹竜二さんと共にオトマナプロジェクトを始めたり、新しい教育に挑戦しているNPO法人青春基地や立教大学BLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)にも関わったり、これからのラーニングを探究しています。

吉田:出世に魅力を感じない若手を大人たちが理解できずに、組織内で世代分断が起きるなど、相互理解不足が企業にいろいろな問題をもたらしていますよね。大人が変わることで解決できる問題がいくつもあると思います。

正直な話、日本は世代分断なんてしている場合じゃないと思うんですよ。そんなことをしていたら世界に負けるわけで、若者と大人は力を合わせなくちゃダメでしょう。その力になりたいと思っています。

「ONE TEAM」に見られる若者の価値観の変化

桑原:同感です。そのためには、大人が若者に偏見を持たずフラットに見て、良い面や今後の社会では生きてくる面も理解できるといいと思っています。吉田さんはいまの若者たちをどのように見ているのですか?

吉田:今年、ラグビー日本代表の「ONE TEAM」が流行りましたよね。あれが1つの象徴ですが、多様な人が力を合わせるのがいいというのが、いまの若者の考え方です。マンガのストーリーでいえば、いまの若者たちは、昔のよくあるストーリーのように主人公だけが強くなっていくヒーロー型のストーリーに共感しません。「みんな違っていい」という世界観が当たり前で、主人公以外の登場人物も活躍するストーリーが増えてきているように思います。登場人物同士の人間関係に目を向ける傾向が強まっています。企業にあてはめていえば、強いリーダーやトップダウンには抵抗感があり、それがうまくいくとも思っていません。

「ONE TEAM」に見られる若者の価値観の変化

桑原:よく分かります。そして、大人がそれに違和感を持つ気持ちも分かるんです。経済大国になるために、日本の大人たちは個を犠牲にして組織中心に働き、強くなることを目指してきました。その結果として日本は豊かになり、最初からその環境で生まれ育ったからこそ、若者たちは個性や多様性を尊重するなど、これまでとは異なる価値観を自然と持つようになったのだと思います。でも、大人はその環境で育っていませんから、すぐにそうした新しい価値観を受容しづらいです。相互理解の大切さは頭では分かっていても、アンラーニングは自己否定も伴うので大変なんです。そこに、分断が起こっている大きな理由があると思います。吉田さんは、どうすれば分断を乗り越え、力を合わせる関係になっていけると思いますか?

吉田:大人が若者に関わる上で、個人的に重要だと思っているのが「対話」や「ディスカッション」の技術です。「ディスカッション」はアイディアや考え方を活発に議論する技術が必要で、感情を切り離さなくてはうまくできません。でも、日本人は全体的に、感情と考えを切り離すのが苦手なんです。若者を理解する際、大人たちはできるだけ自分の感情を横に置くことが大切だと思います。そのための方法の1つとして、「ディスカッション」の技術を磨くことをお勧めします。

桑原:なるほど、仕事のダメ出しはしても、人として否定するなというのも似ていますね。さて、強いリーダーやトップダウンについて若者は抵抗感があり、うまくいくとも思っていないという話が出ましたが、それは若者の好き嫌いというよりも、現代が不安定(Volatility)・不確実(Uncertainty)・複雑(Complexity)・不明確(Ambiguity)な「VUCA」的な環境になっていることも密接に関係していると考えています。つまり、若者は時代の変化を敏感に捉え、その環境でより良く生きていく術として価値観を変化させてきているともいえるのではと。その点はどう見ていますか?

吉田:ある人が「世界はずっとVUCAなんじゃないか。明治維新もVUCAだっただろう」と言っていました。明治維新もVUCAだというのは、そのとおりだと思うんです。現代は大変化の時代ではありますが、別に過去とことさら違うわけではありません。ただ、だからといって、僕は現代に必ずしも坂本龍馬のような存在が必要だとは思わない。というのは、歴史では偉人の足跡だけがフォーカスされるからです。明治維新も別に龍馬だけが1人で世の中を変えたわけじゃない。いろんな人が関わり、外圧などもあった結果として明治維新が起こったわけで、強力なリーダーシップだけが起こしたわけではないんです。強いリーダーやトップダウンに頼ろうとすると危ないと思います。

桑原:いずれにしろ変化の大きな環境では、1人に頼るのはリスクが大きいということはいえそうですね。そういう意味では、生まれたときから変化の時代だった若者の方が今の時代の現実を分かっているのかもしれませんね。大人が若者に学ぶべきことも多いと思います。

意思決定の機会を持ち、勇気を高める

桑原:一方、若者にとっては、これからの時代で何が大切になってきますか?

吉田:僕が強く感じているのは、これからは「勇気の差」がますます目立つようになってくるだろうということです。なぜなら、いまは情報に満ち溢れているからです。若者が何かに挑戦しようと思ったとき、ネットで少し調べれば、すでに挑戦した先人たちの情報がすぐに出てくる。それが現代です。だから、無邪気に「やってみよう!」となりにくいんですね。もう誰かがやっているなら、自分がやる意味なんてない。これだけの人たちが失敗しているんだから、自分たちもうまくいくはずがない。そうなってしまいがちです。僕の言葉でいえば、「無邪気係数」が下がっている。あるいは、「頭でっかちの知識」が増えているといってもいいでしょう。これは、情報リテラシーが高まった「賢い若者」たちの弱点です。

意思決定の機会を持ち、勇気を高める

勇気を高めるには、自分で意思決定する習慣が必要だと思います。小さなことでかまわないので、いろんなことを自分で決める習慣をつけた方がいい。それが後々、大きな差となって表れてくるはずです。

そういう意味で、日本人は全般的に意思決定経験が足りていないと思います。例えば、英語には「社会人」という言葉がありません。欧米では生まれたときから社会人であり、1人の自立した人間だと見るからです。彼・彼女らは小さなころから、自分で選ぶことを求められます。例えばフィンランドでは、中学生のときに職場体験をして、高校進学の際には、大学進学のための高校か職業高校か、どちらに進むかを決めます。この時点で一度、職業選択をするんです。フィンランドと日本では、意思決定の数が違います。いまの日本人に必要なのは、意思決定をする機会だと思います。

そうした考えのもと、私たちは2018年から、「電通ワカモンインターンシップ」を開催しています。2019年の「電通ワカモンインターンシップ」はCAMPFIREとタッグを組み、若者の「ほうっておけないこと」をアイディアだけで終わらせず、アイディアのその後を一緒に試行錯誤するプロジェクトとして行いました。初期衝動を持っている若者たちを選抜し、クラウドファンディングを使って、彼・彼女らのアイディアを実現することを目指したんです。若者たちはそれぞれ19のプロジェクトを生み出し、結果的には半数以上がサクセスしました。

やはりビジネスの創造は、意思決定の連続です。どのくらいの価格にするか。製品・サービス名をどうするか。今回、勇気を持って行動に起こすことで、彼・彼女らは貴重な意思決定機会をものにしました。

桑原:まさに。私たちも新人・若手時代で最も重要な力として「Try&Learn」を置いています。自分で考えて行動する自律性の重要性がいわれていますが、そこに「自分がいいと思ったことは、不安や葛藤があってもやってみる」というTryのスタンスがセットで育まれる経験学習が重要だと思っています。大人も若者も、これまでの価値観をアンラーニングするには、自らの実体験で上塗りしていくのが効果的だと感じています。若者の成長機会として、大人が意思決定の場をうまく用意することは重要ですね。

リクルートマネジメントソリューションズの取り組みや「Try&Learnサイクル」

心の内側を探り、勇気の源泉になる「Will」を持つ 自分が何に夢中になれるのかを探し続けよう

桑原:リクルートでは「Will」という言葉をよく使うのですが、おそらく勇気の源泉になるのはWillですよね。

吉田:ただ問題は、「やりたいことがないシンドローム」「好きなことがないシンドローム」も起こっていることです。若者に「勇気を持って、何かやりたいこと、好きなことをしよう」と声をかけると、追い詰めることにもなりかねません。僕は、その代わりに「自分が夢中になれることを探す努力を惜しまぬようにね」と提案するのがいいんじゃないかと思っています。いまはやりたいことや好きなことがなくても、探し続けていればそのうち突然できるかもしれない。人生は往々にして、そういうものなんじゃないでしょうか。

心の内側を探り、勇気の源泉になる「Will」を持つ 自分が何に夢中になれるのかを探し続けよう

桑原:やりたいことが外に見つからないときは、自分のなかの感情や気持ちに目を向けてみるんですね。それ、プロボノで参加しているNPO青春基地のアプローチにとても近いです。高校生向けの探究授業を届けているのですが、最初の1カ月くらいは徹底的に自分の好きを見つけるワークなんです。過去の経験を思い出したり、友だちと相互インタビューしたり、街に出て自分が何に感情が動くかを探ったり。そうするうちに、何もないと言っていた生徒が「これやってみたい!」と、自分からプロジェクトを動かし始める光景をたくさん見てきました。この授業は大学生インターンたちが創っていて、大人たちにはない発想で見事にTryを生み出していて、いつも学ばせてもらってます。
それともう1つ、自分と異質な人と接することも、自分のWillに気づく機会だったりしませんか? 社会人でこの授業に参加している人たちには、高校生や他社の社会人と接して、自分らしさやWillに気づく人がいるなと。勇気やWillを大事にするという観点では、「異質なものとのコラボレーション」が大切だと思うのですが、その点はいかがですか?

吉田:おっしゃるとおりだと思います。最近、僕が考えているのは、好奇心や勇気を持つ上で重要なのは、自分の内面を見つめること、特に「自分のなかにあるネガティブな面を見つめること」ではないかということです。マインドフルネスが流行っているのも、自分の心の内側を探れるからでしょう。自分がなぜそれをしたいのか、理由は自分のなかにあるはずで、その中心にはネガティブなことがあることも少なくありません。そういうネガティブな面も直視することが、実はポイントではないかと思っています。その方法の1つとして、異質なものとの出会いやコラボレーションも役に立つはずです。

「大切なのは、自分のしたいことを自分で知ることだよ」。僕の大好きなスナフキンの名言です。本当にスナフキンの言うとおりです。自分が何をしたいのか、それはなぜなのか。それさえ分かっていれば、僕らは勇気を持って行動できるはずです。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
吉田 将英(よしだ まさひで)氏
株式会社電通
電通ビジネスデザインスクエア コンセプター
電通若者研究部(電通ワカモン) プロジェクトディレクター

大学卒業後、前職を経て電通入社。 戦略プランナー・営業を経て、現在は経営全般をアイディアで活性化する電通ビジネスデザインスクエアに所属し、さまざまな企業と共同プロジェクトを実施。 また、10~20代の若者を対象にしたプロジェクト「電通若者研究部」(電通ワカモン)を兼務し 消費心理・動向分析と、それに基づくコンサルティング/コミュニケーションプラン立案に従事。 2009年JAAA広告論文・新人部門入賞。単著に『仕事と人生がうまく回りだすアンテナ力』(三笠書房・2019年)、共書に『若者離れ』(エムディエヌコーポレーション・2016年)、『なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。』(宣伝会議・2014年)。 PARC CERTIFIED FIELDWORKER(認定エスノグラファ)。

企業紹介

電通若者研究部(電通ワカモン)
電通ワカモンは、高校生・大学生を中心に10~20代の若者の実態にとことん迫り、若者と社会がより良い関係性を築けるようなヒントを探るプランニング&クリエーティブユニット。若者と社会の間に立ち、双方とフラットに向き合いながら企業のビジネス創造や日本社会の活性化までも目指します。若者と社会が分かり合える未来は、きっと明るい。若者の力と世のなかをむすび、新しい未来をつくるのが、電通ワカモンの使命です。

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