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研究レポート
教育プログラム実施状況による傾向比較
経営人材育成の成果を高める要因を検討するために、「経営人材育成実態調査」のデータを分析しました。その結果、経営人材候補への教育プログラムが行われている企業群では、事業戦略と経営人材育成戦略とが一致していること、経営人材育成に経営者が高くコミットしていること、そして経営人材育成に満足していることが確認されました。
本レポートでは、経営行動科学学会での発表論文をもとに、その結果の一部についてご紹介します。
※詳細の研究成果についてご覧になりたい方は、発表論文をご参照ください。経営行動科学学会第15回大会発表論文「経営人材育成の効果に影響を与える要因の検討」※その他の発表論文もこちらに掲載しています。
技術開発統括部 研究本部 HR Analytics & Technology Lab 所長
次世代経営人材育成、次世代リーダー育成は、企業人事における中心的課題の1つです。
弊社で実施した「人材マネジメント実態調査2013」では、現在の人材マネジメント課題として、「次世代経営人材の育成・登用」を選択した割合は、3年前に実施した前回調査(2010年)での82.9%を上回り87.9%でした。5年後の課題を想定した回答についても76.5%であり、現在の課題、5年後の課題いずれにおいても、最も多く選択されていました。また、会社で表出している問題として、「次世代の経営を担う人材が育っていない」という項目について、「よくあてはまる」を選択した割合は38.6%であり、前回調査の26.7%に対し11.9ポイント向上していました。「ややあてはまる」も加えた肯定回答率は8割を超え、「次世代の経営人材が育っていない」と考えている企業が多いことを示す結果でした。経営人材育成、次世代経営人材育成については、これまでもさまざまな調査、研究、事例、効果的な方法の報告がなされているものの、依然として経営人材育成に課題や問題を抱え、打ち手に悩む企業の数は少なくないといえるでしょう。
そこで本研究では、経営人材育成の成果を高める要因を検討すべく、先行調査・研究で指摘されている要因のうち「事業戦略と経営人材育成戦略の連動性」と「経営者の経営人材育成へのコミットメント」に着目して、●事業戦略と経営人材育成戦略が連動していると、経営人材育成は促進されるのか●経営者の経営人材育成へのコミットメントが高いと、経営人材育成は促進されるのかさらには、●経営人材育成の満足度と経営人材育成の状況には関係があるのかについて、予備的な定量分析を行います。
本研究では、経営人材育成の実態を把握するために2012年5月から6月に弊社で実施した「経営人材育成実態調査」のデータを用いました。調査対象企業は、主に従業員数1000名以上の企業で、回答者は主に、経営人材育成の取り組みの実態を把握しているミドルマネジャー以上です。調査方法は郵送法を中心とし、一部直接持参をしました。最終的に回収された有効回答数は263件(従業員数1000名以上の企業が97.7%)であり、有効回答率は23.1%でした。
調査は、経営環境、経営人材と経営人材候補に関する課題、経営人材候補への教育プログラムの実態、経営人材候補の選抜の実態、経営人材候補の育成を目的とした異動・配置の実態などに関する設問から構成されています。そのうち本研究においては、以下の変数を分析に用いました。
<施策に関するもの>・経営人材候補を対象とした教育プログラムの実施状況 14項目「(1)実施しており、成果に満足している」「(2)実施しているが、成果に満足していない」「(3)実施していないが、今後行う予定がある」「(4)実施しておらず、今後も行う予定がない」の4肢選択(なお、後の分散分析では、(1)=「実施・満足」、(2)=「実施・不満足」、(3)+(4)=「未実施」として分析)<要因・成果に関するもの>・「事業戦略と経営人材育成戦略とが連動している」・「経営人材育成に経営者が高くコミットしている」・「経営人材育成に満足している」「あてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の4肢選択
なお、経営行動科学学会での発表論文では、施策に関する項目として、「教育プログラムに関わる問題」「選抜の実施状況」「選抜に関わる問題」「異動・配置の実施状況」「異動・配置に関わる問題」についても分析を行っていますが、本レポートでは、「経営人材候補を対象とした教育プログラムの実施状況」に絞って報告いたします。
※その他の分析結果は発表論文をご参照ください。
各項目の回答を単純集計した結果は、図表2のとおりです。経営人材候補への教育プログラムの実施状況としては、総じて、「実施しており、成果に満足している」との回答は、「実施しているが、成果に満足していない」に比べて少数となっています(図表2-1)。また、要因・成果に関する項目の肯定的な回答は、戦略の連動性が半数弱、経営者のコミットメントは6割強に対して、経営人材育成への満足度は2割未満でした(図表2-2)。グラフ横に併記した平均点(「あてはまる」4点~「あてはまらない」1点の平均値)を見ても、2点未満となっています。
「事業戦略と経営人材育成戦略とが連動している」「経営人材育成に経営者が高くコミットしている」「経営人材育成に満足している」について、経営人材候補への教育プログラムの実施状況による傾向の違いを検証しました。統計的に差が有意であるかを確認するにあたり、「実施・満足」「実施・不満足」「未実施」の3グループ間での比較のため、分散分析およびTukeyの多重比較を用いています。
まず、分散分析については、ほぼすべての結果が統計的に有意でした(図表3のp値)。「実施・満足」「実施・不満足」「未実施」のいずれかの間に、統計的に有意な差があることが確認されました。
つぎに、「実施・満足」「実施・不満足」「未実施」のどこに差があるのかを確認するために、多重比較を行いました。発表論文では割愛しましたが、結果は図表4のとおりです。3種類の比較対象ごとに、統計的に有意な得点差があるかどうかを示したものになります。
概して、事業戦略と経営人材育成戦略の連動性、経営人材育成に対する経営者のコミットメント、経営人材育成の満足度の得点差は、「実施・満足」群の得点>「実施・不満足」群の得点>「未実施」群の得点という傾向でした。つまり、経営人材育成候補への教育プログラムを行っている企業ほど、またその結果に満足している企業ほど、戦略の連動性が高く、経営者のコミットメントが高く、また経営人材育成に満足していると考えられます。
図表5は、多重比較の結果をもとに、「実施・満足」「実施・不満足」「未実施」の3群の得点差のパターンごとに、該当する項目をまとめたものです。例えば「経営人材として必要な知識付与のための研修」や「経営人材としての役割認識、自覚や覚悟を促すための研修」については、「実施・不満足」群の方が「未実施」群より「経営人材育成に満足している」の得点が有意に高いことが確認できました。このことから、プログラムによっては、そもそも行わないこと自体が経営人材育成における問題となり得ることが示唆されました。
本研究より、経営人材候補への教育プログラムが行われている企業群では、事業戦略と経営人材育成戦略とが一致していること、経営人材育成に経営者が高くコミットしていること、そして経営人材育成に満足していることが一部で確認されました。
すなわち、これまで経営人材育成において必要だと考えられてきた教育プログラムが一定の効果をもつ施策であること、また戦略の連動性や経営者のコミットメントがそれを促進する要因たり得ることが示唆される結果であったといえるでしょう。
一方で、「事業戦略と経営人材育成戦略とが連動している」と「経営人材育成に経営者が高くコミットしている」の肯定回答率は約6割、そして「経営人材育成に満足している」の肯定回答率は約2割にとどまっていました。このことから、先行研究で示されてきたプラクティスが十分に実現されていない、または実現のためのハードルがさまざまある現状もあらためて示唆されたといえます。
本研究で用いたデータは、すべて企業の人事部による回答でした。今後は、本調査の検討課題をより客観性を高めて検証すべく、経営者のコミットメントについては経営者、経営人材育成の成果については受講者本人からデータを得るなど、より適切なデザインでの研究が必要だと考えられます。また、経営人材育成の教育プログラムについて、その成否を捉えるより客観的な指標を用いることによっても、経営人材育成に影響を及ぼす要因の定量的な検証の精度が向上すると考えられます。
加えて、本研究では教育プログラム間、また教育プログラム以外の選抜と異動・配置について、それぞれどの程度経営人材育成にインパクトを与えるかの検証は行っていません。今後は、これらのこともより具体的に検討していきたいと考えています。
※本レポートは、経営行動科学学会第15回大会発表論文「経営人材育成の効果に影響を与える要因の検討」の一部を加筆・修正しています。
※分散分析・多重比較について詳しく知りたい方は、「人事データ活用入門 第7回 「『分散分析』で職種別の仕事満足度を比較する」をご覧ください。
研究レポート 2024/09/30
―能力適性検査にまつわる疑問― 受検者によって出題される問題が変わるのは不公平か?(前編)
―能力適性検査にまつわる疑問― 受検者によって出題される問題が変わるのは不公平か?(後編)
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