研究レポート

指示による管理から自律的な経験学習の促進へ

メンバーのリフレクションの質を高める対話の在り方

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メンバーのリフレクションの質を高める対話の在り方
対話と称しながら、メンバーに一方的な指示出しや、細かく報連相を求める管理中心の現場は多いだろう。ここで紹介する研究は、リーダーによる指示・命令による管理ではなく、問いかけを中心とする対話を通じて、メンバーの自律的な経験からの学びが促されることをフィールド実験を用いて検証したものである*1

*1 本研究の詳細は、今城志保・藤村直子・佐藤裕子(2023)「対話による経験学習の促進可能性―フィールド実験による検討―」産業・組織心理学会 第38回大会発表論文をご参照ください。

執筆者情報

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研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保(いましろ しほ)
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自律的な経験学習を促進するリフレクション・イン・アクション

経験学習の要となる概念であるリフレクションというと、仕事から離れて経験を俯瞰的に振り返る「リフレクション・オン・アクション」(Schön,1983/1991)*2を思い浮かべることが多いだろう。しかしこれまでの研究で、経験からの学びを促進する上で、行動の後ではなく、行動中の「リフレクション・イン・アクション」(Schön,1983/1991;以降RIA)も重要であることが分かっている(今城・藤村・佐藤,2019/2020)*3

また、人は自己に関連した情報を優先的に処理する傾向があることから(例えば、Schäfer & Frings & Wentura, 2016)*4、主体的に取り組むような介入を行えば、仕事の自己関連性が高まり、それが経験を通じて取得した情報への注意を高めると考えた。そこで、2020年にフィールド実験を行い、仮説をもって仕事をすることの効果を確認した(今城・藤村・佐藤, 2021)*5

一方で、仮説の質によって学びの程度が異なること、仮説をもった経験を数回積んでも仮説の質には変化が見られなかったことから、対話による仮説の質向上の効果を検討することとした。仮説モデルは図表1のとおりである。

<図表1>本研究の仮説モデル

本研究の仮説モデル

本稿では自律的な経験学習につながるメンバーのRIAが、指示ではなく問いかけを中心としたリーダーとの対話によって高まったという実験結果を紹介したい。

フィールド実験の概要

2022年にサービス業A社で法人営業に従事する入社半年~1年半の社員(以下メンバー)22名とメンバーを指導するリーダー8名を対象に5週間の介入実験を行った(図表2)。

<図表2>フィールド実験のフロー

フィールド実験のフロー

参加者はランダムに、リーダーとの対話がある「実験群」12名と対話がない「統制群」10名に分けた。実験群メンバーは、毎週火曜日に、翌日の大事だと思う仕事についての計画(「うまくいった状態」「そうなる確率」「確率を100%に近づけるために重要なこと」)について記述したものを持ち込んでリーダーと15分間の対話を行った。リーダーには事前のガイダンスで、「不足している視点に自ら気づかせる」「より具体性の高い計画が作れるようになる」などを目的に、問いかけを中心とした会話を行うよう依頼した。対話の翌日、メンバーは業務を遂行した。統制群メンバーは、毎週火曜日に翌日の仕事について同様の計画を記述するが、リーダーとの対話は行わずに、翌日業務を遂行した。これらを5週にわたり実施した。

各フェーズで実施したアンケートによって取得したデータと使用変数は図表3のとおりである。

<図表3>取得データと使用変数

取得データと使用変数

使用変数:介入前・介入後アンケート
・「RIA」(6件法8項目、例「仕事中に、さまざまな発見がある」)
・「メタ認知」*6(6件法8項目、例「仕事に取り組むときは、目的や背景を意識している」)

使用変数:就業後アンケート
・「計画役立ち度」(6件法1項目、「『明日の仕事について考えたこと』は、今日の仕事をうまく進める上で、どの程度役に立ちましたか」)
・「日ごとのRIA」(4件法7項目、例「仕事中に、さまざまな発見があった」)

結果と考察

結果:RIAの介入前後の変化

図表4は介入前後のRIAの平均値を、実験群と統制群別に表したものである。介入後は、実験群が統制群よりも高い値となった。ただし、どちらの群も介入前後での有意な差はなかった。

<図表4>介入前後のRIA の変化(平均値を用いた分析)

介入前後のRIA の変化(平均値を用いた分析)

RIAはその人の普段のRIAの程度を見ているが、この程度がすでに高い人は、介入の効果が出にくいなど、介入効果に違いが出る可能性がある。そのため、構造方程式モデル*7で、介入前のRIAを個人差として見立て、それを統制した介入後の得点上昇を検討した(図表5)。比較のために、同様に前後で測定したメタ認知を入れた。適合は十分な水準であった。

<図表5>介入前後のRIAとメタ認知の変化(個人差を統制した分析)

介入前後のRIAとメタ認知の変化(個人差を統制した分析)

介入後の上昇は、RIAが1.56、メタ認知が1.37といずれも有意なプラスの値となった。また、実験条件(統制群を1、実験群を2とした)からRIAの上昇へのパスが0.35と有意なプラスの値となった。これは統制群に比べて実験群の上昇幅が大きいことを意味する。他方、メタ認知については2群間で上昇の程度に違いは見られなかった。ちなみに、個人差から上昇へのパスがマイナスの値になっているのは、1度目の測定値が高い場合、2度目の測定値が平均値に近づく、平均への回帰と呼ばれる統計学的現象によるものと考えられる。

結果:日ごとのRIAの5週間の推移

次に、就業後アンケートで測定した日ごとのRIAが実験群で上昇しているかを見た。(図表6-1)。実験群と統制群の間に有意差がなく、またいずれの群でも上昇するトレンドはなかった。2021年の研究では上昇トレンドが見られたが、日ごとのRIAの測定を5日間連続で行っていたのに対し、今回は1週間ごとであったことが、変化が見られなかった理由かもしれない。

<図表6-1>就業後アンケートの5週間の推移 日ごとのRIA

就業後アンケートの5週間の推移 日ごとのRIA

あわせて5週間の変化を確認した計画役立ち度については、上昇のトレンドはなかったものの、実験群が統制群よりも有意に高い値を示した(図表6-2)。対話によって、計画の有効性が増したとメンバーが認知したと考えられる。

<図表6-2>就業後アンケートの5週間の推移 計画役立ち度

就業後アンケートの5週間の推移 計画役立ち度

実務へのインプリケーション

最後に本研究の実務へのインプリケーションを考える。対話において、一方的な指示や報連相を求めることは、メンバーの自律性を阻害するだけでなく、彼らが経験から学ぶチャンスを奪っているかもしれない。特にメンバーが若手の場合は、よかれと思ってつい指示を出すこともあるだろう。しかし、経験が浅いからこそ、日々の経験から多くのことを学べるともいえる。また、経験からの学びのコツを取得すれば、長期にわたる成長が見込める。少し対話の仕方を変えることで、その実現が支援できるとしたら、試してみる価値はあるのではないだろうか。

 

*2 Schön, D. (1991). The reflective practitioner. How professionals think in action. Aldershot, UK: Arena. (Original, 1983)
*3 今城志保・藤村直子・佐藤裕子(2019)「持論形成プロセスの検討-グラウンデッド・セオリーを用いて-」産業・組織心理学会 第35回年次大会
   今城志保・藤村直子・佐藤裕子(2020)「仕事の経験学習における主体性とメタ認知の役割とは ホワイトカラーの『仕事の面白さ』を高めるための持論を題材として」日本心理学会 第84回大会
*4 Schäfer, S., Frings, C., & Wentura, D. (2016). About the composition of self-relevance: Conjunctions not features are bound to the self. Psychonomic Bulletin & Review, 23, 887-892.
*5 今城志保・藤村直子・佐藤裕子(2021)「就業前の行動の意識化は経験学習を促進するか」日本社会心理学会 第62回大会
*6 俯瞰した視点からものごとを意味づけたり、抽象度を上げて共通性を見出したり、物事の本質を捉えたりする、ものの見方や認知する傾向。
*7 構造方程式モデルとは、変数間の関係を表すモデルを構築し、手元データのモデルへのあてはまりの程度を確認すると共に、関係性の程度について推定を行う統計的方法。 図表5では構造方程式モデルを活用した「潜在差得点モデル」と呼ばれる手法を用いて複数回データの差を抽出する分析を行っている。

 

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