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研究レポート
人事アセスメントの分類と概要
人事(人材)アセスメントは、経営・人事に関わる方であれば身近な存在かと思います。しかし扱われる領域や種類が広いため、自身の業務に関連しない領域については知らないことも多いのではないでしょうか。人的資本経営における人材の量的・質的把握や、HRデータのアナリティクス活用などで、人事アセスメントは重要度を増しています。本記事では人事アセスメントの全体像を俯瞰したうえで、近年の変化についても述べていきます。
技術開発統括部 研究本部 測定技術研究所 主任研究員
目次
人事アセスメントは、文字通り人事場面で用いられるアセスメントのことを指しますが、その定義には諸説あり、幅広い概念として捉えられています。例えば、『人事アセスメントハンドブック』によると、狭義の定義としては、「標準化されたツールによって、組織的な観察を通して、一定の訓練を受けた専門家によって科学的、客観的に行われるアプローチ」と表現されています。一方、広義の定義としては、「経営人事において扱われる人的資源管理を目的とするアセスメント」と表現されています。本稿では、人事アセスメントの全体像や概要を整理するという目的から、後者の“広義”の定義をベースに考察します。
人事アセスメントは目的、対象、手法などによって分類することができます。ここでは対象と測定内容を中心に、代表的なものについて整理しています。
<図表>人事アセスメントの分類
主に職務や組織に対する適性を見るために行うアセスメントです。代表的な利用場面は採用選考ですが、配置・配属での活用、上司によるマネジメントの参考材料、受検者自身のキャリア開発など、多様な用途に使用できるものもありますし、昇進・昇格選考に特化した適性検査も存在します。
職務に対する適性検査は、1908年にフランスで路面電車の運転手を選考するために用いられたのが最初といわれています。大規模に実施するものの始まりとしては、第一次世界大戦下のアメリカで兵士の選抜に使用される「陸軍アルファ検査」「陸軍ベータ検査」があり、1920年代以降膨大な研究が蓄積されてきました。
測定内容は性格、一般知的能力、コンピテンシーなど検査により異なります。測定手法も進化しており、受検者に合わせた難易度の出題により測定時間を短縮しながら測定精度を高めるIRTを使用したテストがWEB化の進展にともない普及しました。近年ではIAT(Implicit Association Test)により固定観念や偏見など自分でも意識しにくいバイアスを測定できるとされているものや、より実践場面に近い形での意思決定や行動傾向を測定するSJT(Situational Judgement Test)などもあります。
回答時の楽しさなど心理的負担を考慮したゲームベースドのアセスメントも登場していますが、利用する場面で求められる品質(信頼性や妥当性)が担保できているか、受検者からみた公平性に問題ないかを考慮する必要があります。
希望する職種や働くうえで大切にしたい価値観などを明らかにする検査です。職業的に成功する鍵の1つがその職業に対する興味の有無である、という考えに基づき1920年頃から主にアメリカで研究が進められてきました。ホランドの六角形モデルは特に有名で、多くの職業興味検査・価値観検査で採用されています。受検者が自己理解を行い、進路決定やキャリア開発のために使用するのが一般的ですが、管理職などの特定職務への指向がある従業員を発見する用途で使われる場合もあります。いずれの目的の場合でも、適性検査と一緒に使われるケースが多くあります。
仕事のストレスにより精神障害の労災認定者が増加したことを背景に、2015年に50人以上の労働者を抱える事業場では、年に1回のストレスチェックが義務化されました。ストレスチェックは従業員個人が確認し、必要に応じて医師と面談などを行うためのものですので、個人の結果は人事(事業者側)では確認できません。職場単位で集計した結果は、人事でも職場環境改善のための活用が可能となっています。
個人のストレス状況やモチベーションなどのコンディションを測定する手法の1つです。WEBでの回答が浸透したことにより登場したパルスサーベイでは、比較的少ない項目のサーベイを短期間で繰り返し実施することにより、従業員の回答負荷を抑えつつ、コンディションの変化をリアルに把握することを目的としています。実施回数が多いために結果を活用する機会も増えますが、機会を生かせないと個人の意欲を削ぐおそれがある点は留意が必要です。
多面評価は上司・同僚・部下など異なる立場の人からの評価を得るアセスメントです。自己評価とのギャップ、立場による評価の違いなど多様な情報を得ることができる手法です。一方で人事評価や処遇に利用する場合に他者評価の回答が偏る可能性など、留意すべき点も多々あります。
日本では1970年に神戸製鋼所にて、管理者と管理職候補者の能力開発を目的として、「適性観察調査」が実施されたという記録があります。多面評価の導入率は2007年には5.2%でしたが、2020年のリクルートマネジメントソリューションズの調査では31.4%となっており、急速に導入が進んでいるサービスの1つです。
近年では、通常の多面評価では測定しにくい組織への影響力やネガティブな要素などを検出しやすくしたプロブスト法による多面評価も開発されています。
実際にさまざまな課題に取り組ませ、その結果やプロセスをアセッサー(評価者)が測定するというものです。第二次世界大戦中、アメリカ陸軍でスパイを選抜するために行われたものが端緒とされています。民間企業においては、AT&Tが企業内における管理能力評価の技法として導入したのが普及のきっかけとなりました。
課題の準備や所要時間、アセッサーの育成など手間がかかる手法ですが、現実に近い場面での発揮能力を評価しやすいというメリットがあります。近年では、PCやタブレットなどを使用した課題が用意されるケースも出てきています。
業務で使用するスキルの評定の総称です。タイピング速度を測るものから、機器の操作・運転に必要な能力を測るもの、プログラミングの技術を測るものまでさまざまな種類があります。プログラミングについてはAIによる採点が普及しつつあり、ITエンジニアのスキルを測る有力なアセスメントになりつつあります。
面接は主に採用時におけるアセスメントです。面接には、応募者への情報提供や、ぜひ採用したい応募者への動機付けなどの機能もありますが、採用の可否につながる情報を収集し判定するアセスメントとしての機能は特に重要であるといえるでしょう。
前述のとおりさまざまな機能があり、手法も個人面接・グループ面接・グループディスカッションなどがある他、各社・面接者ごとに進め方が異なる場合が多いのが特徴です。
アセスメントとしての機能を高めるためには、面接者のトレーニングの他、予め質問項目や順番を揃えることで、受検者間で評価を比較しやすくする構造化面接などの手法があります。近年ではオンライン面接との親和性も高いAIによる評定も登場しています。
人材を配置・処遇するにあたっては、人材を配置する職務を評価・分析する必要があります。さまざまな手法がありますが、人事アセスメントとしては職務を測定するサーベイや、職務に合った人材の要件を明確にするサーベイが存在します。
近年では、求人票をAIにより分析して、職務を評価するサービスが登場しています。
組織の全体、または一部についてコンディションとその要因を調査するのが組織サーベイです。発展したのはアメリカで、20世紀初頭までの科学的管理法に代わり、1950~60年代には働く人の意欲や人間関係が注目されるようになりました。1960年代には従業員満足度の研究がピークに達しますが、従業員満足度とパフォーマンスには直接的な関係がないことが見えてきて、よりパフォーマンスにつながる要因の探索がなされるようになっていきます。そこから誕生した概念の1つである「エンゲージメント」は、近年組織サーベイの測定内容として日本でも人気を見せています。結果となる指標だけでなく、そこに至るまでのプロセスの指標についてもさまざまな種類・構成が存在しますし、組織風土などを重点的に測定するものもあります。
組織サーベイは組織全体で行う場合もありますが、対象の組織や対象を絞って実施する場合もあります。後者の例でいうと、人材の流動化を背景に、若年層や中途採用者を対象に適応状態を測るサーベイなどがあります。
組織の構成員の特徴や関係性を可視化することで、個人と個人の組み合わせやコミュニケーションのあり方を検討するといった手法です。
一例として、個人の適性検査の結果等をマッピングして、どこに位置づけられるのか、他の個人とどのような関係にあるのかを図示する方法があります。ITの発達により、軸を変えたり条件を変えたりしてさまざまなパターンを表示できるツールが登場しています。
関係性の分析という観点では、メールのやり取りを分析するといった手法の他、ウェアラブルセンサーを用いて、組織内のコミュニケーションの状況や、その際の個人の活性度等を測定する手法も登場しています。
人事アセスメントは100年以上の歴史を有しています。その間、さまざまな目的に合わせて活用の幅は広がってきました。これからも社会の変化や技術的な進化により、新たな測定領域や測定手法は増えていくと思います。
一方、時代が進んでさまざまな人事アセスメントが出てきたとしても、目的に照らし役に立つか、妥当な内容が正しく測定されているか、ということは外してはいけないポイントだと考えます。(参考:人事アセスメントの品質とは)また、AIの進化等によりアセスメントの算出ロジックが複雑になるケースも出てきていますが、人が人・組織を捉えるためのツールとして使う以上、ロジックや結果に納得感が必要となります。
人事が扱うツールや活用場面が変わりゆくなかで、自社での導入・活用を検討するシーンが増えていくと思いますが、測定の精度と納得感という観点に留意して考える必要があるでしょう。
【参考文献】
大沢武志・芝祐順・二村英幸(編)『人事アセスメントハンドブック』 金子書房,2000.高橋潔『多面評価法(360度フィードバック法)に関する多特性多評価者行列分析』経営行動科学第14巻第2号,2001,67-85.繁桝算男(編)『心理・教育・人事のためのテスト学入門』 誠信書房,2023.高橋潔『人事評価の総合科学:努力と能力と行動の評価』白桃書房,2010.今城志保『採用面接評価の科学:何が評価されているのか』白桃書房,2016.
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