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知見
新人・若手のオンボーディング
技術開発統括部 研究本部 HR Analytics & Technology Lab アナリスト
目次
Vol.01では、新卒1年目~5年目のキャリア自律にはPDSのサイクルが存在し、PDSサイクルが勤続意向と関連する傾向を紹介した。以下では、キャリア自律におけるPDSと呼ぶ。
Vol.01で紹介したキャリア自律におけるPDSの概要
※ *は有意水準5%で、係数の推定値が有意であることを示している
詳細はVol.01のリンク先をご確認ください。Vol.01 若手~中堅社員のキャリア自律におけるプロセスと会社への定着の関係
若手から中堅に向けて年次が上がるにつれて、経験内容や業務内容が変わり、キャリアに対する視座も変わってくることが想定される。本人が、キャリア自律をもとに会社へより定着を感じていけるよう、人事や上司からフォローを行ううえでは、年次ごとのキャリア自律の傾向や課題をつかむ必要がある。ここではVol.01と同様のモデルで、年次ごとにキャリア自律におけるPDSをもとに分析を行った。
※ *は有意水準5%、†は有意水準10%で、係数の推定値が有意であることを示している
年次を通じて共通している傾向として、「キャリアの目標設定(P)」ができていると「専門性向上の努力と実感(D)」に繋がっている実感を持て、「専門性向上の努力と実感(D)」ができていると「キャリアの振り返りと自己理解(S)」ができていると感じるようだ。一方で、キャリア自律におけるPDSのどのフェーズができていると実感した場合に、勤続意向が高まりやすいかには年次別に違いが見られた。
1年目では、キャリア自律におけるPDSの各フェーズができていると感じるかと勤続意向にはほとんど関係性が見られなかった。
2年目では「専門性向上の努力と実感(D)」から「勤続意向」へのパスの係数が0.179であり有意性が認められ、逆に「キャリアの振り返りと自己理解(S)」から「勤続意向」へのパスの係数は0.076であり有意性が認められなかった。2年目(データ取得時期を踏まえると、特に2年目終盤)になると、計画をもとに実際にキャリア自律を促進させる行動を起こし、専門性向上を実感できていると、今の会社でこのままキャリアを築いていこうという思いが高まるようだ。
「キャリアの振り返りと自己理解(S)」から「勤続意向」へのパスの係数は、3年目0.204、4年目0.172、5年目0.152であり、いずれも有意性が認められた。また、係数の大きさより、3年目(データ取得時期を踏まえると、特に3年目終盤)で「キャリアの振り返りと自己理解(S)」から「勤続意向」への影響はとりわけ大きいことが分かる。一方で、「専門性向上の努力と実感(D)」から「勤続意向」へのパスの係数は、3年目0.055、4年目0.129、5年目0.086であり、いずれも有意性は認められなかった。3年目以降(データ取得時期を踏まえると、特に3年目終盤以降)になると、実際にキャリア自律のための行動を起こして振り返りを行い、自分のキャリア形成の拠り所となる強みの把握にまで至り、今の会社でこのままキャリアを築いていこうという思いが高まるようである。
このように、会社への定着を感じるうえで、2年目以降で重要となるキャリア自律におけるPDSのフェーズは推移していくことが分かる。
年次を重ねるごとに、本人にとって変化していく職場環境の違いとして、異動の有無や役割変化が考えられる。これらの変化の起こる時期や有無、スピード感は、会社や業種、業界によっても一般的に異なる。ここでは、異動の有無、役割別に、キャリア自律におけるPDSのモデルの違いを見ていく。
異動経験の有無にかかわらず共通している傾向として、「キャリアの目標設定(P)」ができていると「専門性向上の努力と実感(D)」に繋がっている実感を持て、「専門性向上の努力と実感(D)」ができていると「キャリアの振り返りと自己理解(S)」ができていると感じるようだ。
異動経験がある場合には、「専門性向上の努力と実感(D)」から「勤続意向」へのパスの係数が0.090であり有意性は認められず、逆に「キャリアの振り返りと自己理解(S)」から「勤続意向」へのパスの係数は0.172であり有意性が認められた。異動を経験している場合には、異動を経験していない場合と比べて、異なる職務内容を経験する度合いが通常は高くなることが想定される。これまでの多角的な経験内容に対して、十分な振り返りを行い、自分のキャリア形成の拠り所となる強みまで把握できる段階に至り、今の会社でこのままキャリアを築きながら定着していける実感を持てるのかもしれない。
一方で異動経験がない場合には、「専門性向上の努力と実感(D)」から「勤続意向」へのパスの係数が0.144であり有意性が認められ、「キャリアの振り返りと自己理解(S)」から「勤続意向」へのパスの係数は0.118であり、こちらも有意性が認められた。新卒で入社した会社の同じ組織で働き続けている場合には、近い職務内容の延長線上で専門性を高め続けている実感を持ちやすく、計画を実行に移す段階であっても、今の会社でこのままキャリアを築きながら定着していける実感を持てるのかもしれない。
ここでは役割の違いを、担当業務におけるメイン担当(主担当)、サブ担当(副担当)とおいている。
担当業務がメイン担当であるかサブ担当であるかにかかわらず、「キャリアの目標設定(P)」ができていると「専門性向上の努力と実感(D)」に繋がっている実感を持て、「専門性向上の努力と実感(D)」ができていると「キャリアの振り返りと自己理解(S)」ができていると感じるようだ。一方で、キャリア自律におけるPDSのどのフェーズができていると実感した場合に、勤続意向が高まりやすいかには、担っている業務がメイン担当の場合とサブ担当の場合で違いが見られた。
担っている業務がメイン担当である場合には、「専門性向上の努力と実感(D)」から「勤続意向」へのパスの係数が0.174であり有意性が認められ、逆に「キャリアの振り返りと自己理解(S)」から「勤続意向」へのパスの係数は0.077であり有意性は認められなかった。通常はサブ担当を経てメイン担当を担うようになる順序が、役割の変化(トランディション)として想定される。このようなトランディションを経験することで、専門性向上の実感を持ちやすく、今現在の行動を通じて、会社でこのままキャリアを築きながら定着していける実感を持てるのかもしれない。
一方で担っている業務がサブ担当である場合には、「専門性向上の努力と実感(D)」から「勤続意向」へのパスの係数が0.077であり有意性は認められず、逆に「キャリアの振り返りと自己理解(S)」から「勤続意向」へのパスの係数は0.209であり有意性が認められた。サブ担当からメイン担当へのトランディションを経験する前の段階では、近い役割の範囲内のまま業務を行うこととなり、キャリア開発が進んでいる実感を持ちにくいケースも想定される。近い役割の範囲内での業務であったとしても、取り組みを十分に振り返り、自分のキャリア形成の拠り所となる強みまで把握できていると、今の会社でこのままキャリアを築きながら定着していける実感を持てるのかもしれない。
本記事では、キャリア自律におけるPDSのモデルには、年次、異動経験の有無、役割によって違いのあることを紹介した。年次によって、勤続意向を高めるうえで重要となるキャリア自律におけるPDSのフェーズは「専門性向上の努力と実感(D)」から「キャリアの振り返りと自己理解(S)」へ推移していく傾向にあることが分かった。さらに、異動経験の有無によって同じ業務の延長線上で専門性を高めるか、多角的な経験を積むかの違いがあること、また役割によってもキャリア開発に対する感じ方が異なることが想定され、キャリア自律におけるPDSと勤続意向の関係性は異なることが分かった。若手~中堅社員がキャリア自律におけるPDSを回せるよう、人事や現場が支援するうえでも、年次や異動経験の有無、役割を個別で把握しつつ、フォローを行っていくことの重要性がうかがえる。
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