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新人・若手のオンボーディング

Vol.04オンボーディングのモデルに関する実証的研究 ―人材育成学会第20回年次大会の発表論文から―

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HR Analytics & Technology Lab の研究テーマ
Vol.04オンボーディングのモデルに関する実証的研究 ―人材育成学会第20回年次大会の発表論文から―

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技術開発統括部
研究本部
HR Analytics & Technology Lab.
主任研究員

内藤 淳(ないとう じゅん)
プロフィールを⾒る

「5つの壁」を組み込んだモデルの検証

Vol.03では、インタビュー調査に基づいて弊社が作成したオンボーディングに関するモデルを取り上げ、新人・若手がどのようなプロセスを経て組織に適応していくのか、適応の過程でぶつかりやすい「5つの壁」に関する仮説についてご紹介した。

ここでは、2022年12月の人材育成学会第20回年次大会で発表を行った研究論文を基に、アカデミックの見地からオンボーディングに関するモデルの一般性を検証した分析結果を紹介する。

検証したい仮説 ~骨格となる因果の流れ

ここでは、新人・若手が「5つの壁」を乗り越えていくことによって「成長実感」が高まり、組織適応が促されるという仮定が、幅広いデータを用いた場合にも一般的に成り立つかどうかの検証を行う。オンボーディングの目標となる組織適応については、「短期の適応指標」と「中長期の適応指標」とに分けて捉えており、「短期の組織適応」を表す指標は、Vol.3で結果指標として紹介した「成長実感」と「仕事に対する自信と承認」(「職務遂行への自信」と「認められている実感」に対応する)を用いている。また、「中長期の組織適応」を表す指標としては、「組織推奨意向」「ワーク・エンゲージメント」「勤続意向」の3つを用いており、組織に対するコミットメントである「組織推奨意向」と仕事に対するコミットメントである「ワーク・エンゲージメント」の2つが、「勤続意向」を高めることに結び付くという因果関係を想定している。

新人・若手が「5つの壁」を乗り越えることで「短期の組織適応」が促され、それが最終的に「中長期の組織適応」につながるという大きな因果の流れを検証していくことがこの研究のねらいである。

<図表1>検証の目標となる大きな因果の流れ

検証の目標となる大きな因果の流れ

分析に使用したデータ

従業員500名以上の企業に新卒で入社した1~3年目の企業人1153名に対して、2022年2月にインターネット調査を実施した。データの内訳は、男性:372名/女性:781名、
1年目:386名/2年目:371名/3年目:396名、大学卒:917名/大学院卒:236名、営業職:425名/エンジニア(技術、開発、研究職):316名/エンジニア(IT・システム関連):138名/スタッフ(企画、人事、総務、経理など):274名、従業員規模500~999人:223名/1000~2999人:293名/3000~4999人:161名/5000~9999人:143名/10000人以上:333名 となっている。

分析結果と検証されたモデルの詳細

図表2は、各要素間に仮定した因果関係が実際のデータに適合しているかどうか統計的に検証する手法である共分散構造分析を用いて分析を行った結果である。因果関係を表すパス係数の値がすべて有意となり、またモデルの適合度が一定以上の水準を示したことから(GFI=.893, CFI=.916, RMSEA=.066)、図表2のような因果関係の想定が妥当であることがデータによって確認された。

モデルのなかで5つの壁は、「職場適応」→「基本行動」→「意味理解」→「経験サイクル」→「主体性・視座」という順序でパスがつながっている。一方で、「職場適応」から「意味理解」へと直接パスが引かれているのは、職場との関係や職場からの支援により本人の意味理解が深まるという関係があるからである。また同様に、「基本行動」から「経験サイクル」に直接パスが引かれているのは、企業人としてのベースとなる基本行動の習得が仕事上の経験サイクルを回すことに直結するからである。

「経験サイクル」をうまく回せるようになることによって、「仕事に対する自信」や「周囲からの承認」が生じ、その結果として本人の「成長実感」が高まる。一方でまた、「主体性・視座」の壁を乗り越えて仕事で自分らしさ・強みを発揮することも、「成長実感」を高めることにつながり、結果として短期の組織適応が促されることになる。そして「短期の組織適応」(成長実感)は、組織に対するコミットメントである「組織推奨意向」と仕事に対するコミットメントである「ワーク・エンゲージメント」を経由して最終的に「勤続意向」を高めるというのが、このモデルの意味するところである。

<図表2>検証されたモデル(共分散構造分析:標準化解)

検証されたモデル(共分散構造分析:標準化解)

年次による違いの分析

担当業務や職責、職場内の役割などの状況は、入社後に年次を経ることで変化していく。図表2で示された組織適応の一連の流れが、入社年次によって異なるということはないだろうか。それを調べるために、多母集団同時分析と呼ばれる分析手法を用いて、因果モデル中のパス係数の値に入社年次による違いが存在するかどうかを検証した結果が、図表3である。

図表中の「係数の値に差が見られたパス」の4つ中3つは、「意味理解」に関連するパスである。入社1年目から3年目にかけて、「職場適応」→「意味理解」というパスは影響が弱まる一方で、「基本行動」→「意味理解」というパスは影響を強めている。このことは、新人・若手が自分の仕事の意味についての理解を深めるうえで、早期の段階では職場との関わりの影響が優勢であるのに対し、年次が上がると失敗を恐れず自ら仕事に挑戦するという行動の影響がより優勢になっていくということを示している。また、「意味理解」→「経験サイクル」というパスの影響が入社1年目から3年目にかけて低下していることから、「意味理解」の壁を乗り越えることは、とりわけ早期の段階において重要であることを意味している。

モデル中で統計的に有意な差が見られたもう1つのパスは、「ワーク・エンゲージメント」→「勤続意向」のつながりであり、2年目における比較的大きな値のパス係数が3年目になると低下している。他方で「組織推奨意向」→「勤続意向」のパス係数の値は1年目から3年目を通じて変化せず大きな値を維持していることと併せて考えると、入社3年目においては、若手の関心が将来の展望やワークライフバランスの問題など仕事以外のさまざまな事柄に対しても広がることにより、相対的に仕事そのものが与える影響が低下することが1つの原因ではないかと推測される。

<図表3>年次別の分析結果(多母集団同時分析:非標準化解)

年次別の分析結果(多母集団同時分析:非標準化解)

まとめ

本記事では、弊社が作成したオンボーディングに関するモデルの一般性を検証した実証研究である、2022年12月の人材育成学会第20回年次大会の発表論文を紹介した。分析結果が一定水準の適合を示したことから、「5つの壁」を用いたオンボーディングのプロセスモデルが、幅広いデータを用いた際にもあてはまりが良いものであることが示された。

Vol.05では、オンボーディングのモデルを踏まえた実際の定量化の方法や具体的な測定ツールについてご紹介する。

※本研究の詳細は、内藤淳・湯浅大輔(2022)「若年就業者の組織適応に関するモデル化の試み~入社年次による多母集団同時分析を用いた検証~」人材育成学会第20回年次大会発表論文をご参照ください。

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