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新人・若手のオンボーディング

Vol.03 オンボーディングのプロセスを捉えるモデル ―オンボーディングの結果指標、プロセス指標、促進要素―

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HR Analytics & Technology Lab の研究テーマ
Vol.03 オンボーディングのプロセスを捉えるモデル ―オンボーディングの結果指標、プロセス指標、促進要素―

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
HR Analytics & Technology Lab.
主任研究員

内藤 淳(ないとう じゅん)
プロフィールを⾒る

モデルを用いてオンボーディングを捉えるメリット

Vol.01とVol.02では、昨今の環境変化や新人・若手の価値観の変化により、オンボーディングが企業組織における大きな課題となってきていることを述べた。ここでは、新人・若手がどのようなプロセスを経て組織に適応していくのか、オンボーディングの結果や達成度はどういった指標を用いて捉えるのか、またオンボーディングの促進要因としてどのような要素を考慮すべきかについて、弊社が作成した一般的なモデルをご紹介する。

オンボーディングのプロセスに関するモデルを理解しておけば、新人・若手がどの時期にどのような壁にぶつかりやすいかということが分かるため、人事部門のスタッフや現場の上司・OJTリーダーが、オンボーディングの支援に向けてタイミングよく有効な手を打ったり、課題を抱えているメンバーに対してサポートを行ったりするうえで有効である。また、当事者である新人・若手本人にとっても「誰もがこのような壁にぶつかる」ということを事前に知っておけば、組織適応の過程でつまずくのは自分だけではないことを理解できるため、本人の適応にとってもプラスに働くというメリットがある。

オンボーディングのプロセスモデル ~5つの壁

弊社では、新卒で入社した若手従業員が、さまざまな壁を乗り越えながら組織に適応していくオンボーディングのプロセスを、図表1のような形でモデル化している。これは、人材サービス業と情報サービス業の若年就業者を対象にしたインタビュー調査を基に構築したもので、その後のデータ分析により一般性が確認されているものである。このモデルでは、「職場適応の壁」「基本行動の壁」「意味理解の壁」「経験サイクルの壁」「主体性・視座の壁」という形で、新人・若手が組織に適応していくうえで直面する5つの壁が一連のプロセスとして表現されており、おおよそこの順序で乗り越えるべき課題に直面していくことが仮定されている。

新人・若手が組織に適応するまでに要する期間や壁にぶつかる時期は企業によって差があり、「ある会社ではこの時期にこういった壁につまずきやすい」という傾向の違いが各社ごとに見られる。そのため、図表2のような「新人・若手のジャーニーマップ」を作成し、自社のオンボーディングの特徴を事前に整理しておくことが望ましい。新人・若手の組織適応の進行状況を曲線で表したこの図を見れば、「どのタイミングで、どのような支援が必要になるか」ということが予測できるため、オンボーディングに関わる施策の内容や時期を検討する際の有効な手がかりとなる。

<図表1>オンボーディングのプロセスモデル ~5つの壁

オンボーディングのプロセスモデル ~5つの壁

<図表2>新人・若手のジャーニーマップ

新人・若手のジャーニーマップ

オンボーディングの状況を3つの側面から把握する

新人・若手のオンボーディングが順調に進行しているかを把握するためには、(1)適応の全体状況を捉える指標(結果指標)、(2)適応の過程である壁の乗り越え状況を捉える指標(プロセス指標)、(3)適応を促進する環境(促進要素)の3つに分けて、それぞれの状態を把握することが大切である(図表3)。オンボーディングの状況を定点観測し、何か問題が生じているようであれば機動的に対策を講じることで、新人・若手の組織適応を効果的に支援していくことが可能となる。

<図表3>オンボーディングの結果指標、プロセス指標、促進要素

オンボーディングの結果指標、プロセス指標、促進要素

(1)オンボーディングの全体的な結果を捉える ~結果指標

オンボーディングの全体状況を捉えるための指標としては、「成長実感」が中心に置かれている。近年の新人・若年にとって、「成長」は仕事に対するモチベーションや組織に対するコミットメントへとつながる重要な鍵となっており、担当している仕事を通じて達成感や成長の手ごたえを感じられること、また、今後も成果をあげながら成長していけると思えることは、本人のモチベーションや勤続意思を高めるうえで非常に大事な要素である。

加えて結果指標は、「職務遂行への自信」「認められている実感」「役割の明確さ」の3つを併せて捉える形となっている。任された仕事を期待通りにやり遂げることができると思える自己効力感(職務遂行への自信)、自分の努力や仕事に対する姿勢が周囲に認められているという受容感(認められている実感)、そして自分が仕事上で担う責任や役割を明確に自認している程度(役割の明確さ)は、新人・若手が順調に組織に適応しているかどうかを示す有効な指標となる。「成長実感」に加えてこれら3つの観点を把握することで、オンボーディングが全体としてうまく機能しているか、概況の判断を行うことができる。

(2)オンボーディングの過程の状況を捉える ~プロセス指標

オンボーディングのプロセスの状況を把握する際には、前述した「5つの壁」がポイントになる。それぞれの壁について本人たちが適応できていると感じる程度を、「壁の乗り越え」を表す指標として用いるが、新人・若手の適応状況は時期によって上下に変動するため、現状が一定水準の高さにあるかという視点だけでなく、それがどう変化したかという視点も踏まえて状況を判断していく必要がある。

新人・若手が最初に乗り越えるべき課題である「職場適応の壁」は、自らが所属する職場の上司や同僚を信頼し、必要な場合には相談や質問を気兼ねなく行える関係性を築いていくことであり、組織適応のための出発点となる。次の「基本行動の壁」は、企業人として求められる基本の行動や考え方を身に付けることであり、その中心となるものは、失敗を恐れて立ち止まることなく挑戦心をもって仕事を前に進めていく姿勢の獲得である。続く「意味理解の壁」と「経験サイクルの壁」の二つは、新人・若手が周りから手取り足取りのサポートを受ける導入期間(立ち上がり期の前期)を終え、本格的に自分で仕事を担当するようになる時期にぶつかりやすい壁である。「意味理解の壁」とは、自分が担当する仕事にどのような意味があるのかについて自分自身で適切に意味付けを行うことであり、「自分のやりたかったこと(入社動機)」と現実の仕事との間のギャップに折り合いをつけるという課題もこの壁のなかに含まれる。一方「経験サイクルの壁」とは、任された仕事を進めていくうえで、自身で適切な目標を設定し、それに向けて実際に行動し、結果を振り返ってまた次に向かうという一連のサイクルを自分で回せるようになることである。この壁の乗り越えは、経験から得た学びが自分のなかに積みあがっているという感覚、自分は「成長している」という感覚に直結する。最後の「主体性・視座の壁」とは、自分で主体的に仕事を動かせるようになり、仕事のなかで自分らしさ・強みを発揮できるようになることである。この最後の壁は他に比べて難度が高く、乗り越えたという状態に至るまでには一般に数年の時間を要する。

(3)オンボーディングを促進する環境の状況を捉える ~促進要素

適応を促進する要因として、ここでは「本人のプロアクティブな姿勢」「上司やOJTリーダーの関わり/職場風土」「成長を促す経験」の3つを設定している。新人・若手のオンボーディングのプロセスに何か問題や障害が生じていると感じる時には、「本人たちの姿勢」「上司やOJTリーダー/職場」「本人たちの仕事経験の内容」に目を向けると、その原因が推察できることが多い。

会社や仕事になじんでいくうえでは、「こういうスタンスで仕事に臨むと適応しやすくなる」という考え方やスタンスが経験的に存在するが、それらを「人と関わる勇気」や「前進指向」など9つの枠組に整理したのが「本人のプロアクティブな姿勢」である。本人たちが壁にぶつかり適切な行動が取れないでいるような時、その理由が何かを推し測るうえで、このフレームを用いた現状の把握が有効である。

新人・若手を指導育成する立場にある上司・OJTリーダーの関わりの状況や職場の風土について把握しておくことも、オンボーディングを適切に支援するうえで重要である。上司とOJTリーダーに関しては「仕事の意義と期待の伝達」「内省支援」など7つのフレーム、職場については「チームワーク」「モデルとなる同僚」など6つのフレームを用いて捉えることで、本人たちが現状をどのように受け止めているか、どういった点に違和を感じているかなどを知るための手がかりとなる。

また、新人・若手が仕事を通じてどのような経験をし、自分の成長につながったと感じられているかを把握することが、オンボーディングの状況をモニタリングするうえで有効である。弊社では長年の教育研修事業における実践に基づき、新人・若手の成長を促すうえで重要な経験を、「仕事を最初から最後までやり遂げる」「自分の企画・アイディアを提案し実行する」など22のフレームに整理している。必要な経験を適切な時期に積むことができているか、ある時期に経験が急に広がり負荷が過剰になっていないか、本人が経験したことを適切に自らの学びにつなげられているかなど、さまざまな観点から適応の過程を振り返ることができるメリットがある。

まとめ

本記事では、新人・若手がどのようなプロセスで組織に適応していくのか、オンボーディングの結果や適応の過程をどのような指標で捉えるのか、また適応を促進する環境要素としてどのような側面を考慮すべきかについて、弊社が作成したモデルをご紹介しつつ説明した。人事、上司・OJTリーダー、職場のメンバーにとって、新人・若手がぶつかりやすい壁を事前に理解しておくことは大きなメリットがあることを実感いただけたと思う。

Vol.04では、アカデミックの見地からモデルの一般性を検証した研究結果を取り上げ、オンボーディングに関する仮説の確からしさを明らかにしていく。

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