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新人・若手のオンボーディング

Vol.05 オンボーディングのプロセスモデルをベースにした定量化・測定ツールの紹介

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HR Analytics & Technology Lab の研究テーマ
Vol.05 オンボーディングのプロセスモデルをベースにした定量化・測定ツールの紹介

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
HR Analytics & Technology Lab.
主任研究員

小路 純寛(こうじ まさひろ)
プロフィールを⾒る

定量化・測定ツールの概要

Vol.04では、Vol.03で紹介されたオンボーディングに関するプロセスモデル(HAT-Labが提唱しているもので、新人・若手が組織に適応する際に直面しがちな「5つの壁」と心理的な状況を表したモデルのことを指す)に対して、アカデミックの見地からそのモデルの一般性を検証した分析結果を紹介した。本記事ではVol.03で定義されたオンボーディングに関する一般的なプロセスモデルをベースに、オンボーディングの状況を可視化するための測定ツール(以降、「オンボーディングサーベイ」)を活用することによる、測定方法や測定結果から傾向を読み取る際のポイントについて紹介する。

オンボーディングサーベイは、新人・若手の主観的な立ち上がり状況を把握するために「結果指標」「プロセス指標」「促進要素」の3側面で構成されており(図表01参照)、それぞれの側面に対応する調査項目を「現時点のあなたの行動や考えにあてはまるもの」「日頃の考え方や姿勢に近いもの」、あるいは「あなたの上司が日頃取っている行動」などについて「あてはまらない」「どちらかというとあてはまらない」「どちらともいえない」「どちらかというとあてはまる」「あてはまる」の5件法で新人・若手本人に回答をしてもらう。

<図表01>オンボーディングサーベイの結果指標、プロセス指標、促進要素

オンボーディングサーベイの結果指標、プロセス指標、促進要素

新人・若手本人の回答結果から尺度得点を算出し、結果として本人が成長実感を持てているか、プロセスとして望ましい行動が取れているかを中心に確認し、加えてそれらを促進するものとして上司・職場の支援や本人のスタンスの状態、成長に繋がった経験内容を明らかにすることで、新人・若手のオンボーディングが順調に進行しているかを包括的に調査することが可能になる。

リファレンスデータの重要性について

さて、オンボーディングサーベイの回答結果から新人・若手の傾向を捉えていくわけだが、ここでは傾向を捉える際の注意点について見ていこう。

意外と知られていないことだが、図表02のように一般的に組織社会化の達成度(従業員の満足度など)は「J字カーブ」を描くといわれている。つまり、一定の入社年次(3~5年目)までは、組織社会化の達成度は下がり続けていくことが先行研究で分かっている。

<図表02>組織社会化の「J字カーブ」

組織社会化の「J字カーブ」

これは、新人・若手の傾向を捉える際には気をつけなければならないポイントである。なぜなら、先行研究によって新人・若手の満足度が下がることが自然である、ということが分かっているなかで、サーベイ結果の傾向のよしあし、特に「得点が悪くなっていること」を、どう捉えればよいのかを検討する必要があるためだ。

「J字カーブ」の現象をオンボーディングサーベイにあてはめて考えてみよう。「成長実感」などの結果指標は一定の入社年次まで次第に低下することが自然である(※注)、と捉えたときに、新人・若手の得点低下傾向に対してその状態は「一般的な低下傾向と比べて自社はどうなのか」という疑問が生じるのが当然であろう。
※注:実際、HAT-Labが毎年モニター会社を通して入社1~5年目を対象にオンボーディングの状態を調査しているが、年次が高くなるにつれて成長実感は次第に低下していることが確認されている。

この疑問に対して1つの示唆を与えてくれるのが、「リファレンスデータの活用」である。リファレンスデータとの比較により一般的な傾向との差分を確認することで、その時期の新人・若手の傾向を見極めることができる。

具体例を見ていこう。例えばある会社Xの新人のオンボーディングサーベイの全体傾向が図表03だとすると(値はすべてサンプル)、9月、11月、2月と時期が経過するごとに、結果指標である「成長実感」の得点が徐々に低下していることが分かる。一方で、2月時点でのリファレンスデータ(赤い凡例)と比較すると、青い凡例(会社Xの2月〈3回目〉)は高い得点傾向を示していることから、一般的な傾向よりも得点の低下幅は狭く、オンボーディングの状態は、(リファレンスデータと比較すると)よい状態を維持しながら進んでいることが読み取れる。

<図表03>ある会社Xの新人の全体傾向とリファレンスデータとの比較(例)

ある会社Xの新人の全体傾向とリファレンスデータとの比較(例)

また、上記の傾向がどのような要因で起こっているのかを見るために、促進要素の「上司・OJTリーダーの関わり(青枠部分)」の得点に着目してみよう。2月(3回目)の得点が上昇していることから、仮説として新人受け入れ側の上司・同僚が手厚くフォローした結果、「成長実感」の下降が食い止められているのではないか、という示唆が得られる。

いかがだろうか。結果指標(成長実感など)の得点が時系列で下がることに対して、組織社会化の「J字カーブ」現象を踏まえつつリファレンスデータと比較、また促進要素の変化を併せて確認することで、ただ悪化しているという単純な解釈ではなく、「周囲が手厚くメンバーをフォローしていることで悪化を抑えられている」という解釈に変容することを実感していただけたかと思う。このように、リファレンスデータを活用することで、オンボーディングの状態を正しく把握でき、オンボーディグ施策における成否を正しく判断することが可能となる。

オンボーディングサーベイの3つの特徴

以上を踏まえて、オンボーディングサーベイの特徴は大きく3つに集約される。
1つ目は、Vol.03とVol.04の記事でお伝えしたように新人・若手のオンボーディングに最適化され、科学的に立証された構造・フレームをベースにしているため、立ち上がり状況を精密に把握できることである。
2つ目は、オンボーディングの促進要素である「本人のプロアクティブな姿勢」「上司や周囲の支援」「成長を促す経験」の情報を複合的に確認することで、要因分析を行えることである。
3つ目は、現状のオンボーディングの状態をリファレンスデータと比較することで、一般傾向との差分を確認し、正しい解釈を行えることである。

まとめ

本記事では、HAT-Labが提唱しているプロセスモデルをもとに構築したオンボーディングサーベイの構造や解釈例について紹介した。また、サーベイをもとに新人・若手の傾向を捉えるうえでは、「J字カーブ」の先行知見や、リファレンスデータの活用に価値があることを実感いただけたかと思う。

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